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▽レス始

「新世界極楽大作戦!! 第三話(GS+エヴァ+α)」

おびわん (2005-01-08 02:50)


助けてくれったって。

横島は困惑した。初対面の少女から、いきなり大層な願いをされるとは思わなかったのだ。

しかし元よりそのつもりで自分と小竜姫はサイコダイブしたのである。
俺はあの少年を助けたい。絶対に。

たとえ僅かな縁の相手であっても本気を出せる。それが横島の数少ない美点の一つだ。

それよりも、今気になるのは制服姿の蒼い少女の事だった。
正体が夢魔やその類ではないのなら一体何者なのだろうか?

「もとからアイツの事は助けるつもりでここに来た。キミもそれを望んでいるのなら、俺たちは絶対に応える。安心してくれ。」

ちら、と小竜姫と視線を合わせる横島。彼女はコクリと頷くと神剣を収めた。
女子供限定だが、人外の存在に好かれる性質の横島にこの場を任せる事にしたようだ。

横島は話を再開した。

「だけど一つ聞かせてくれ。俺達はアイツが目覚めない原因は、夢魔に取り憑かれたせいだと思ってここに来たんだ。でもどうやらそうじゃなかった。夢魔の姿どころか魔力の匂いすらしない。」

少女の表情は変わらない。
後悔と寂しさを併せ持った哀しい顔のままだった。

「なら、ここにいるキミは何者なんだ?」

学校の女子制服のようないでたちの少女からは、神気や魔力はおろか霊気すら微塵も感じない。

それはあり得ない事の筈だった。以前、美神が言っていたように全ての生物は程度の差はあるが、霊気、もしくはそれに準じる気を発している。幽霊の時のおキヌですら数マイト程はあったのだ。

しかし眼前の少女からはそれらの力は一片も感じられない。
2マイトや3マイトではない。0なのだ。

もしかしたらこの子はこの心の世界に棲む、アイツの想像の産物なのかもな。
横島はそうとも考える。

だが少女の言葉がその考えを否定した。

「・・・私の名前は綾波レイ。・・・滅びを迎えた異界における、母なる女神、リリスの欠片・・・。」

「なっ!? 貴方が夜の女王リリスなのですか!?」

思わず叫んでしまう小竜姫。
無理もない。魔界に居るはずの六大魔王の一人の名を出されたのだから。

しかし、またも少女は否定した。

「・・・それは貴方たちの世界での事。・・・私達の世界では、リリスはアダムより生まれし生命の可能性の一つ。・・・もう一つのヒトの形。」

「あ、貴方は異世界から来たというのですか?」

「・・・ええ。」

小竜姫は聞いたことがあった。数百年に一度程の割合で、偶然別の世界から迷い込んでくる神がいるという。

大抵は神族や魔族がまた別の世界に送り返すのだが、たまにこの世界に居つく者もいたらしい。

有名所で言うと、サン・ジェルマン伯爵や加藤保憲、キース・ロイヤルなどがそうだったという。

彼らは『異邦神』と呼ばれた。

「・・・もっとも、時間逆行までするつもりは無かったけれど。」

少し不機嫌そうな声で、何故か小竜姫に向けて少女は小さく呟いた。

「なぁレイちゃん、ここって一体何なんだ。」

「・・・ここ?」

ずっと気になっていた事を問う横島。
あの年頃の少年なら普通は異性への憧れや、未来への希望などで一杯でも良い筈である。

なのにここまで彼の心を深く支配するこの異様な世界。

「・・・ここは私達が生きていた世界。・・・その末路の姿。それが永遠を超えても未だに碇君を捕らえて話さない。」

「君らの世界がこうなったてぇのか?」

だが今度は答えずに、少女は身を翻して廊下の一本を歩き出した。

「・・・ついてきて。」

残された横島達は顔を見合わせると、少女を見失わないよう急いでついて行った。


               新世界極楽大作戦!!               

                   第三話


少女、綾波レイについて暫く歩いていくと、やがて大きな扉の前に出た。
その前に立ち、綾波レイは振り返らないまま、後ろに立つ二人に話しかけた。


「・・・この扉の向こうに彼がいるわ。」

「アイツ、やっぱ寝てんのか?」

「・・・ええ、しもべに抱かれて。」

「「しもべ?」」

「・・・・・開けるわ。」


ピッ   ヴィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーー


二人の問いに答えないまま、大きな音を立てて扉が開いていく。

扉の向こうには、横島の見たあの赤い海が広がっていた。


そこは、この精神世界の悪夢の象徴とも言える異様な空間だった。

壁には大小様々な太さのパイプがひしめきあい、赤い海の向こうには、何に合わせて作ったのか高さ100m程もある巨大な十字架が、杭を打たれたまま立っている。

しかし一番の異様は、波打ち際に片膝を着いて座り、地に着いた両手の平を覗き込んでいる、ヒトの形を模したモノ。

「きょ、巨大ロボット・・・。」

魂が抜けたような表情で横島が呟く。
・・・小竜姫に至っては声も出ないようだ。

鬼。悪魔。そう形容するに相応しい顔。
額の角は鋭く、紫色のしなやかな体躯は圧倒的な力を感じさせる。

究極の魔体にも劣ることは無い。横島がそう思う程のその悪魔はこちらに気付いていないのか?
ただ一心に手の平を見続けている。

「な、何ですかアレは?」

やっとのこと声を出した小竜姫が、綾波レイに問い掛ける。
彼女は横島の様に「すっげぇ燃えるなぁ!」などという感想は持てない。


「・・・・・汎用人型決戦兵器・人造人間エヴァンゲリオン。・・・その初号機。」

「人間なのか!? アレって!?」

「そんなまさかっ!?」

驚く横島と小竜姫。
そんな二人の前に、中空より新たな人影が二つ現れた。

「やっと来たみたいねっ!」

「やれやれ。わざわざ来て貰ったのに、その言い方は無いんじゃないのかい?」

何事かと驚く横島達の前に着地したのは、活発そうな赤毛の美少女と妖しい微笑を浮かべる美少年だった。

(おおっ、この子もレイちゃんと同じく十年後が楽しみじゃぁ。もう片っぽは敵認定。)

彼女らがどうやら敵ではないと知り、安堵とともに煩悩を膨らませる横島。
緊張感の続かない男である。

「ホラ見なさいよレイ、アタシの言った通りに向こうから来たじゃない。」

「・・・それは偶々この人達がその力を持っていただけ。貴方の計画は杜撰。」

「なんですってぇっ!?」

現れるや否や、いきなり喧嘩をし始めた綾波レイと赤毛の少女。
尤も、赤毛の少女が一方的に綾波レイに食って掛かっているようだが。
銀髪の少年は苦笑して見ているだけである。

訳が判らないと顔を見合わせる横島と小竜姫。
しかし此の侭では埒があかないと小竜姫が二人の少女に話し掛けた。

「あの、貴方達は?」

遠慮気味に問うたためかなり小さな小竜姫の声だったが、銀髪の少年は耳聡く聞きつけ、その端正な顔を彼女に向けて微笑んだ。

「これは失礼したね、美しい人。彼女らはいつもああなんだ。まぁコミュニケーションの一種だね。」

にこやかにズレた事を言う少年。

「いえ、貴方達も綾波さんと同じく・・・?」

ギャアギャアと喧嘩を続ける二人を横目に、小竜姫は辛抱強く問い直した。

「そういう事になるね。僕はカヲル、渚カヲル。元自由を司る使徒タブリスにして現アダムの分身。」

「タブリス・・・アダム!」

自分よりも遥かに古い天使達の名を出され呆然と呟く小竜姫。
どうやら自分達の物とは似ているようで遥かに違う世界から彼らは来た様である。
(ところで横島は自分のキャラをわきまえ、ここは出番ではないと一歩引いて聞いている。)

「できればカヲルと呼んで貰えると好意に値しますよ。そして彼女がイ「アタシ惣流アスカ・ラングレーよっ!」です。」

唐突に口を挟むアスカ。
綾波レイも慣れた物なのか既にこちらに向き直っている。

「特別にアスカって呼んでもいいわよっ。」

腰に手を当て、無暗に偉そうな態度のアスカに、横島は奇妙な概覗感を覚えた。

「・・・彼女はイヴ・アスカ。碇君の対を成す最初の女神。・・・成り立てだけど。」

ポツリポツリと呟きアスカを紹介する綾波レイ。
最後の言葉に「一言多いわよっ」とアスカが口を尖らすが、綾波レイに訂正する気は無いようだった。

「なあ、じゃあ俺達を呼んだのはあんた等なんだよな。」

三人に向けて問う横島。

「そうですよ。厳密に言えば、貴方だけですが。」

答える渚カヲル。

「何で俺なんだ?」

なぜ自分なのか、横島には判らなかったのだ。
世界を越えてまでなぜ自分に助けを求めてきたのか。

「それはアンタ、・・・アンタ名前は?」

渚カヲルの後を継いで答えようとしたアスカだったが、まだ横島たちの名を尋ねていなかったのに気付き、話を変えた。

「俺は横島忠夫。で、この人が・・・。」

「竜神、小竜姫です。」

新ためて自己紹介する二人。
アスカは竜神と名乗った小竜姫を珍しげに見たが、話の先を続けることを選んだ。

「で、横島とアイツは同位存在なのよ。」

「よ、よく判らねえんだが。」

「え〜と、私もです。」

頭の上に「?」を浮かべる横島達に、「つまりね。」とアスカは続けた。

「アタシ達の世界における横島の立場がアイツ、碇シンジなわけ。まぁ、育った環境とかが違えば性格や考え方も全然違ってくるけどね。」

「アイツは異世界の俺なのか・・・。」

「そんなトコね。宇宙の意思とも言える大きなシステムに定められた世界を越えての同位存在。アンタじゃ、横島じゃないとアイツの覚醒を促せないのよ。」

そう言ってアスカは手を上げて水際に跪く巨人を指し示した。

「あそこよ。」

「「?」」

彼女が指し示す、あの初号機の巨大な手の平。その上にあの少年、碇シンジが胎児の様に丸くなって眠っていた。

赤いレオタードのようなものを大事そうに握り締め、その目からは涙が流れ続けている。

「君らじゃ無理だったのか?」

「無理ね。何度も起こそうとしたんだけど、存在としての位と力が違いすぎたわ。」

「ヤロウ、女の子待たして何やってんだ。」

拳を握る横島。

「・・・お願い横島さん。碇君を助けて。」

今にも泣き出しそうな声で、綾波レイが呟く。

「僕からもお願いするよ、横島さん。もうあんなシンジ君は見たくは無いのさ。」

微笑では無く、真に少年の身を案じる者の表情で渚カヲルも頭を下げた。

「横島・・・さん。お願い、あの馬鹿起こしてやって・・・。」

先程までの勝気な態度とは打って変わり、哀切に満ちた顔でアスカが横島のシャツの裾をつまむ。

「アイツがああなった原因の一端は確かに私達にもあるの。でもこんなのもういやなのっ。もう後悔なんてしなくていいんだよってアイツを抱き締めてあげたいのよぉっ!!」

少女達の心からの願い。

横島は無言で頷くと、巨人の方に向き直った。

「私も行きます。」

横島の隣に並ぶ小竜姫。少女達は、ほんの少しだが微笑を浮かべる。

「ありがと、横島。」

「シンジ君を頼むよ。」

「お願いします、横島さん・・・。」

横島は綾波レイの頭に手を置き、ワシャワシャと掻き回した。

「俺達に任せとけ!」

乱れた髪形のまま、キョトンとした顔で横島を見上げる綾波レイ。
なんだ、この子もちゃんと可愛い顔を出来るじゃないか。横島はそう思った。


「・・・今から貴方達に、私達の世界の記憶を体験してもらうわ。・・・そして知って。碇君がどのように時を過してきたのかを。何故ああなったのかを。そしてその後悔と絶望を・・・。」

髪を直そうともせず綾波レイは横島達へと、その白い両腕を広げた。
再び中空に浮かび上がった彼女の体が赤い光を放ち、横島と小竜姫を包み込んだ。

小竜姫は無意識に横島の手を握っていた。
横島も無言でその手を握り返す。

手を繋いだ二人の視界を、赤い光が完全に支配する。

瞬間、二人の思考はスパークし、異界の記憶と融合した。


そこは『自分』という認識が全く役に立たない世界だった。
横島と小竜姫は碇シンジであり、綾波レイでもあり、その他諸々の人間でもあった。

シンジの視点。惣流アスカ・ラングレーの視点。綾波レイの視点。渚カヲルやその他の人間の視点。世界からの視点。

二人はそれらの視点を通して、異界の記憶をなぞっていった。


巨人の中に消える母。伯父の家。小さくなっていく父の背。孤独。数年後。
父からの手紙。期待。『来い』
無人の街。少女。爆音。ルノー。『私は葛城ミサト。ミサト、で良いわよ』。姉。
ネルフ。ジオフロント。紫の巨人。父との再会。出撃命令。拒否。包帯に包まれた少女。『逃げちゃ駄目だ。』
恐怖。恐怖。激痛。沈黙。暴走。『勝ったな。』

学校。教室。『・・・その頃私は利根川に居ましてねぇ。』
機密の発覚。校舎裏。『ワシはお前を殴らなあかん!』
警報。敵。使徒。居てはいけない筈の級友。特攻。涙。

監督日誌。雨。家出。映画館。テント。『いいなぁ。エヴァに乗れて。』
黒服。連行。穴の開いたID.駅。爆走するルノー。発車した列車。見送る少年。
『お帰りなさい。』『ただいま。』
級友二人。親友二人。

カレー。カレーラーメン。少女の写ったID。『不器用なのよ・・・、生きることが。』
廃墟のようなマンション。暗い部屋。レンズの割れたメガネ。裸の少女。手に残る柔らかい感触。ネルフ。『私が信じるのは司令だけ。』
警報。パターン青。空中要塞。荷電粒子砲。ヤシマ作戦。乾坤一擲。
月。 
貴方は死なないわ。私が護るもの。』
光。衝撃。爆音。『笑えばいいと思うよ。』

人の作りしモノ。JA。農協。『奇跡は用意されていたのよ。』

海。オーヴァー・ザ・レインボー。『すごい、すごい、すっご〜〜いぃっ!!』
セカンドチルドレン。風。ビンタ。三足草鞋のスパイ。兄。
警報。海の使徒。『チャーンス。』
赤い巨人。0距離射撃。『開け、開け、開け、開け、開けぇー!!』
転校生。『惣流・アスカ・ラングレーです!』
最初の人間。アダム。

音楽の天使。初の敗北。赤い少女との同居。ユニゾン。0点。
夕日の公園。会話。『アタシは負けるわけにはいかないのよ!』。接近する心。
舞踏会前夜。ジェリコの壁。唇。『・・・ママ。』
決戦。音楽。瞬間、心、重ねて。着地失敗。『無様ね。』


横島達は次々と異界の記憶を体験してゆく。
余りにも激しい戦い、十四歳の少年達の戦争。

非日常の記録は続く。


空からの使徒。落ちてくる恐怖。奇跡の価値。ニンニクラーメンチャーシュー抜き。

母の命日。母のいない墓。『全ては心の中。・・・今はそれでいい。』
チェロ。拍手。初めてのキス。うがい。

影。ディラックの海。閉塞感。孤独。血まみれの帰還。
『アタシ、あんなのに乗ってるの?』

エヴァンゲリオン三号機。四人目の適格者。公園の少女二人。『やさしいところ・・・』
起動実験。爆発。寄生された黒い巨人。攻撃命令。拒否。『人を殺すよりはいいっ!』
ダミープラグ。使徒殲滅。握り潰されたエントリープラグ。救助されたパイロット。
片足を失った親友。絶叫。

初めての意思。明確な反抗。『僕はもう、エヴァには乗りません。』
襲来する最強の使徒。敗れる弐号機。自爆する零号機。
スイカ畑。兄の言葉。『自分で考え、自分で決めるんだ。ま、後悔の無いようにな。』
迫る使徒。走る少年。
『ボクはエヴァンゲリオン初号機パイロット、碇シンジです!』
死闘。激闘。時間切れ。絶望。
『今やらなきゃ皆死んじゃうんだ。・・・もうそんなのイヤなんだよぉ。だから動け! 動いてよぉっ!!!』
覚醒。シンクロ率400%。使徒を瞬殺。食事。

初号機のコア。母の胎内。生命のスープ。現世への帰還。『もう一度、会いたかったんだ・・・。』

雨。宇宙に浮かぶ、光の翼。届かない攻撃。心を覗く光線。悲鳴。
『いやぁっ! 私の中に入ってこないでっ!!』
少年の焦燥。下されない出撃命令。
零号機の掲げる槍。ロンギヌスの槍。消滅する使徒。
ビルの屋上。『キライ、キライキライッ! 皆大ッキライ!!』

16番目の使徒。光の蛇。侵食される零号機。起動しない弐号機。『動かない・・・。動かないのよぉ・・・。』
初号機に向け、触手を伸ばす蛇。『あれは碇君を求める私の心・・・。』
涙。自爆。轟音。
無傷の綾波レイ。『たぶん、私は三人目だから・・・。』

無人の街を彷徨う、敗れ、心を壊した少女。
ジオフロント最下層。明かされる綾波レイの秘密。水槽の中で笑う、無数の彼女。原罪なき人形。
『・・・だから壊すの・・・、憎いから・・・。』

『歌はいいね』
第九。フィフスチルドレン。最後のシ者。『好きって事さ。』
交じ合う心。束の間の蜜月。『僕はキミと出会うために、生まれて来たのかもしれない。』
警報。パターン青。下降する赤い巨人。追う紫の巨人。
リリスの目前。手の中のシ者。『さあ、僕を消してくれ。』
沈黙。沈黙。沈黙。沈黙。沈黙。
・・・水音。
『ありがとう。君に会えてよかった。』

『死は君達に与えよう。』
訪れる終局。戦略自衛隊。無数の死。死。死。死。『ねぇっ! なんでそんなにエヴァが欲しいのっ!?』
絶望し、己の内に篭る少年。母を感じ復活する少女。
舞い降りる死の天使達。少年の前に現れた姉。『確り生きて、それから死になさいっ!!』
荒れ狂う赤い巨人。孤軍奮闘。再生。S2器官。嘲笑う白い死神。
エレベーター前。永遠の別れ。大人のキス。最後のキス。『帰ったら、続きをしましょう・・・。』
ダミーロンギヌス。陵辱される赤い巨人。少年の絶叫。
『ダメ、碇君が呼んでる・・・。』覚醒するリリス。人類補完計画。
空に輝く光の樹。リリスとの対話。
LCLと化してゆく人々。『すまなかったな、シンジ・・・。』
終わる世界。

『もう一度、皆に会いたい。その気持ちは本当だと思うから・・・。』
母との対話。

地球を覆う、無数の十字架。崩れ落ちるリリス。
赤い世界。

少年と少女。

『気持ち悪い・・・。』

消える少女。残された少年。

絶望。永遠の孤独。

無。


「こ・・・、こんな事って・・・。」

横島達は、気が付くと元の場所に戻っていた。
シンジの絶望を知り、涙する小竜姫。噛み締めた唇から少量の血が流れる。

「・・・シンジ、お前は今までずっと・・・皆を想って泣き続けていたのか。」

フラフラとシンジへ近づいて行く横島。
と、シンジの体が赤い光を放つ。それは無数の厚みの無い刃となって横島に襲いかかってきた。

体を傷付けられる横島。しかしその歩みは止まらない。

「横島さんっ!?」

横島の血を見た小竜姫が飛び出そうとするが、それを手で遮り首を振る横島によって止められた。

「任せてください。」

横島の目はそう語っていた。

「・・・自分に絶望し、他人を拒絶する。・・・でもやっぱり人恋しくて・・・。」

赤い刃が横島を切り刻んでいく。
頬を、腕を、体を血が赤く染めてゆく。右腕の感覚は既に無い。
・・・知ったことかよ。俺はシンジを助ける。その涙を止めてみせる。

「・・・おまえは俺だ。俺なんだよ・・・。俺は『アイツ』との思い出に浸る事で罪の意識から逃れた。
そして心に仮面を被せる事で他人との心の接触をも避けた。・・・俺もいつも逃げてばかりだった。」

ゆっくり、だが確実に横島はシンジへと近づいていく。

「・・・哀しかったんだよな。・・・悔しかったんだよなぁ。
・・・好きな女も護れなかった。未来さえ・・・失ってしまった。・・・無力だった自分が憎かった。」

いつしか横島は泣いていた。
ハラハラと零れ落ちる涙。無意識の涙。

耐える様に沈黙を守り、見守る小竜姫。握り締めた拳は白く、震えている。
隣に立つアスカ達も同様で、その目は横島を捕らえたまま、瞬きを忘れたかのように動かない。

「だけど、よ。・・・そんな風にドンドン自分の暗い所に沈んでいく俺を、引っ張り上げてくれた人がいたんだ。」

ポッと赤くなった小竜姫が唐突に床に「の」の字を描き始める。

「泣かれてなぁ、殴られてなぁ。そんで気付かされたよ。
・・・ああ、俺はまだ生きていて良いんだ。誰かに想われて良いんだ。
顔を上げて、笑ってても良いんだ・・・ってな。」

眠るシンジの閉じたまぶたがピクリと動く。

「・・・シンジィ、おまえだってそうだぜ。ずっとおまえの傍にいて、おまえを見てくれている子達がいるじゃねぇか。
アスカちゃんやレイちゃんだけじゃねえ。・・・気付かねぇか? ここにはおまえを想う、沢山の人たちがいる事を。」

横島の言葉と同時に、四人しかいなかったこの空間に次々と人影が現れた。


「シンちゃん起きて。」最後、本当の家族になれた姉が。

「ク・クワァッ!!」温泉ペンギンが。

「起きなさい、シンジ君。」義母になったかもしれない女性が。

「女性を待たせてはいけないぜ? シンジ君。」大人への憧れそのものだった兄が。

「シンジ、え〜かげん起きんと、パチキ喰らわすで!!」年中ジャージ姿の大親友が。

「起きろよシンジ、秘密の写真やるからさ。」色々と面倒をみてくれた、もう一人の大親友が。

「起きないなんて不潔よ、碇君。」クラスの鉄腕委員長が。

「シ〜ンジ、早く起きてヨ!」初恋の相手のあの子が。

「起きてください、シンジ君。」本が好きだったあの娘が。

「起きて、シンジ君。」童顔のオペレーターが。

「そろそろ起きなよ、シンジ君。」ロンゲのオペレーターが。

「起きるんだ、シンジ君。」叶わぬ恋を続ける、メガネのオペレーターが。

「シンジ君、まだ起きんのかね?」電柱のようだった老人が。

「シンジ、起きろ。でなければ帰れ。」そして父と、

「起きなさいシンジ。」母が。


彼らに加わり、アスカ達も魂の叫びをあげる。

「こぉの馬鹿シンジィ〜!! とっとと起きなさいよぉっ!!」

「起きなさいシンジさんっ!!」

「シンジ君、まだ目覚めないのかい? 哀しいよ、悲劇ってことさ。」 

「碇君っ、お願い起きてっ!」

綾波レイすら大声でシンジの覚醒を願い叫んだ。

「・・・な? 皆の想いはお前が気付かなかっただけで、確かにお前の心に届いてたんだよ。おまえの事を想ってくれているんだよ。だからおまえも笑って生きて良いんだ。幸せになっても良いんだよ・・・シンジ。だから・・・。」

ザシュンッ!!

一際大きな赤い光が、横島の胸を大きく切り裂いた。
ヒッ、と小竜姫が小さく悲鳴をあげる。
だが・・・横島は倒れない。

一歩。

また一歩。


「・・・だからもう泣くな。・・・碇シンジ。」


横島の左手が、シンジの体を抱き寄せた。


強く。強く。抱き締めた。


あとがき

皆様お久しぶりです。おびわんでございます。

昨年末第二話をUPした後、いきなりPCが極楽に逝かれてしまわれまして、
最近漸くネット環境が復活しました。

続きを待たれていた方、大変遅くなり申し訳ありませんでした

またよろしくお願いしますね。

レス返しです。


>極楽鳥様

もちろん彼女達とは似たようで少し違った出会いをします。
登場の順番もバラバラになります。

ネタ、別に大した物では無いですが、一風変わった所から出ます。お楽しみに。


>九尾様

そうですねぇ。
その時はアスカ達から何らかのアプローチがあったと思われます。


では次回もよろしくお願いします。


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