今になって、取るにたらないことを考えさせられるときがある。
それが悪いとは言えない。
というより、そういう取るに足り無いことが何においても、つまずきの原因になる可能性が大きい。
あのバンダナの人間、ポチでさえ今の私達にとって大きな障害に変貌してしまった。
流石に文珠使いであろうと私のアシュ様が人間如きに負けるはずはない。
勿論、アタシだって負ける気はない。
ただ、今はコスモプロセッサーの最終目的起動までほんのわずかな時間で、ヤツは脅威となりうる存在の第一人者であるのだ。
そう、コスモプロセッサーを操作しているアシュ様の後ろ姿を見て思った。
取るに足り無いこと。
それは、アタシの死期の話かも知れない。
1年でその命を閉じる、と言われ、その明示された締め切りまであと2ヶ月残っている。
けど、コスモプロセッサーが起動したらアタシは用無しになるのは必須。
間違いなく、あとほんの数時間でこの世からおさらばすることになるだろう。
今まで感じてきた事は、結構楽しかったアタシは辛いことだけど、それはしょうがないこと。
姉さんみたいに汚く、人間に頼ってまで生にしがみつこうというようなことはしたくない。
私達は所詮、アシュ様のとても大事で全く必要のないただの捨て駒。
そのことを拒否するわけじゃない。
アシュ様の為なら、捨て駒だろうがなんだろうが、死ぬほどの覚悟は出来ている。
そのはず、そのはずなのに。
今、ここで息をしていることが愛しくてたまらない。
アシュ様の為に死んだ、ではなく、必要がなくなったからで死ぬことになるだろう、ということが、悔しくてたまらない。
ああ、だけど。
それだけれども、けど。
アタシはアシュ様を愛している。
アシュ様は私を見てすらいない。
いや、見ているかもしれないけど、まるで見ていないかのような振る舞いをなされる。
悔しい、苦しい。
アシュ様の目に映っている物は、宇宙改変装置コスモプロセッサーとかつてアシュ様を裏切ったメフィストと、姉さんとポチの姿だけ。
私は、それを彩る添え物のようなものにしか映ってない。
アイが欲しい。
喉から手が出るほど、それを願った。
心にキズが出来るほど、それを叫んだ。
爪がはがれるほど、それを望んだ。
一番、欲しいもの。
それさえ貰えたら、今すぐにでも命を断つことが出来る。
けど、それは求めてはいけないもの。
もし、アタシがそれをアシュ様に言ったら、アシュ様は悲願を達成することが出来なくなる。
本当の悲願が達成することが出来なくなる。
あんな、見せ掛けの、願いなんかじゃなく。
それだけは決してしてはいけないこと。
もし、それをしてしまったら、アシュ様は未来永劫、今の苦しみを持続させるだけになるだけのこと。
死んでも、死にきれない。
アシュ様のように。
「アシュ様」
コスモプロセッサーに向うアシュ様。
この声は、聞こえない。
聞こえないように言う。
だから、アシュ様も聞こえないふりをなさっている。
「働いて、戦って、尽くして、死ぬけど。 アタシ、愛してくれとは言わないよ」
言わない。
言わない。
言わない。
求めてはいる。
言わない。
言わない。
言えない。
その言葉は、今でもアタシの頭にこびりついている。
アシュ様は、望み通り転生することなくお亡くなりになったが、今でもその言葉は忘れることが出来ない。
魔族正規軍に入隊し、差別を受けながらも、なんとか生きている。
結局、働いて、戦って、尽くして死ねなかったアタシは、今、誰のためとはわからないまま日々、どこかでだれかと戦っている。
苦しみを背負って生きることは簡単だ。
どちらかというと、その苦しみを捨てるほうが大変だ。
魔族でも、神族でも、更には人間でも、苦しみを背負って生きている人は多い。
そう言った、アタシと同じ人の為に、アタシはただひたすら眠る前に祈っている。
苦しみを緩和とか、そういったことは考えないようにしている。
苦しみは、苦しみで受け止めた方がおもったほど苦しまない。
だから、私は真っ向から苦しみを拒絶している。
この、悩みが、今のアタシと、宇宙意思によって抹消されたことにより顔すらも忘れてしまったアシュ様とを繋ぐ、唯一の絆だから。
今日も、祈る。
全世界の、全神界の、全魔界の、同志に向けて。
ただ一人。
横島 忠夫という存在だけを除いた、全同志に向けて。
今日も、魔界の夕日は、赤く赤く、黒く長かったのが印象だった。
後書き
ベスミンでした。
引っこ抜かれたら、ついていく、そんな存在。
主人の為には死すら厭わない、けど、死なないことが主人の為になってしまったベスミン。
生という苦痛を背負い込み、今日も今日とて軍隊勤め。
ご苦労様でし。
でも、八つ当たりはいけないよね。
八つ当たりしないのもどーかと思うけど。