私の名は横島忠夫。
17歳の男子高校生である。
小さなときから夢はGS。
双子の妹と共に、それは見習いという形ながら成就したのである――みしっ
「兄さん、どこ見てるの?」
と聞いてくるのは私の双子の妹、横島蛍である。
美人ではあるが、内面は全く可愛くない。
どこを見ているのかと問われれば、当然真っ直ぐ未来を、と――べきっ
「め・せ・ん・の・先!!」
…彼女は私よりも優秀である。
総合的な出力のほうは私が上だが、収束などは比べ物にならない。
私たちの憧れるあの人には、遠く及ばないが、あの霊波刀など――がきっ
「モノローグで誤魔化すなーっ!!!」
「痛てててててて美神さんの尻ですゴメンナサイー!!!」
とにかく、私のGSとしての第一歩は、こうして踏まれたのである!
今回の仕事は、美神除霊事務所として初仕事。
幽霊屋敷の除霊。GSの仕事としてはよくある方の仕事だった。
そして私はビデオカメラの録画ボタンを押しているわけだ。
馬鹿兄貴――忠夫は後ろで寝ているが。殴られて。
「じゃ、始めるわよ…」
美神さんも若干緊張しているようだ(美神さんならこんなことしなくても憑依させられると思うが)
蝋燭を立てて、呪文を唱える。
「我が名は美神令子。この館に棲む者よ、何故死してなお現に彷徨うのか?降り来たりて我に告げよ――」
美神さんが震える。
兄貴が0,12秒で起き上がろうと四肢に力を込めるが、私の影から飛び出た物で額を突かれ、再度昏倒した。
私の箒、【白き疾風】。ヨーロッパに旅行に行ったとき10歳ぐらいの女の子に貰った、微弱ながら意思を持つ箒だ。
「ン…あ!」
ビデオカメラが引かれて上を向いた。
私はそれから目を離し、美神さんの上を見る。
『んぐおーっ!!なめとったらあかんどー!』
兄が眠っていて幸いだ。絶対ビビって騒いでうるさい。
『帰ーれっちゅっとんのにズカズカ上がりこみゃがって、どたまカチ割って――「「うるさい」」
私と美神さんのツープラントンアタック。
私は箒で上から、美神さんは伸びる途中の神通昆を使って。
『ぎゃーっ!?』
美神さんが横に流した。私は悲鳴を上げる何とか塚をそのまま床に叩きつける。
その叩き落した風に煽られたのか、兄さんが目を覚ました。
「うぐ、いつつ…って、ぎゃーっ!?」
ほらうるさい。
「ほら兄さん、静かにして――美神さん、このままヤっちゃいますか?」
「ん、いいわよ」
『何でじゃーっ!!』
あ、逃げた。事後承諾にしておけばよかったか…。
「に、逃げたんですか?」
一目瞭然でしょうがこの糞兄貴――なんて事はおくびにも出さず、私は言った。
「そうみたいですね。美神さん、どうしますか?」
「結界を張って、出方を見るとしましょうか…横島クン、寝袋を1つだけ出してもらえるかしら?」
兄さんが驚愕、喜色と表情を変えた後ジト目でこっちを見てきた。
間違いなく、私を邪魔だと思っている目だろう。そんな事あるわけが無い(美神さんだし)
兄さんが動きそうも無いので私が出した。
「どうぞ、美神さん」
「ん、ありがとう蛍ちゃん」
美神さんは、妄想暴走機関搭載型万能丁稚兄貴――言いたい事は、助平だということだが――をジト目で見る。
まるで、役立たず、とでも言うように。そしてそれは正しいと思う。
美神さんはカバンから筆ペンを取り出すと結界を書き、隣の部屋に寝袋を持っていった。
こういう風に結界をスラスラ書けて効力もすごいというのは珍しいと思う。書けるだけで効力が無いGSだって居るわけだし。
やはり美神さんは一流なのだろう。
…ついて行った兄貴が殴られてこっちの部屋に戻ってきた。ああ、やっぱり馬鹿だ。
私は馬鹿兄貴と背中合わせに座っている。
兄貴はポテトチップス、私はチョコレートを食べながらの待機だ。
――霊波。
私は振り返った。兄もそちらを見ている。
女の幽霊だ。しくしくしく、と泣いている。
兄貴はひっ、とばかりに固まっている。
「静かに。この結界の中に居れば大丈夫だから」
『助けて…助けて下さい…』
…中々に美人だが、悲しいかな――
『聞いてくれます!?私って可哀想な幽霊なんですううっ!!』
――男だ。
「えい」
べし、と結界から出した箒の先が幽霊を潰す。
『な、なにをなさるんです――「えい」
『なにをなさるん――「えいえい」
『なにを――「えいえいえい」
『なに――「えいえいえいえい」
『な――「えいえいえいえいえいえいえい」
『――「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」
幽霊がどんどん縮んでいく。
「兄さん、美神さんを呼んで」
「お、おい、何やってるんだ」
「この人、何だっけ…とにかく、今回の除霊対象、つまり男。兄さんの欲情の対象にしてもいいけど推奨しないよ?」
「う…応っ!」
兄さんが結界から飛び出て、美神さんを呼ぶ。
私では、こいつを完璧に除霊するのは難しい。こいつを一撃で倒せる切り札はタメが必要で、こいつは一応強いから。
美神さんはちょっとだけ拍子抜けしながらも、神通昆を伸ばして叫んだのだ。
「それじゃ、極楽へ――行かせてあげるわ!!」
ズバァアッ!!
小気味いい音と共に、除霊対象は消滅した。
――後日――
プルルルル、プルルル――ガチャ
「ハイ、こちら美神除霊事務所」
[もしもし、丸閥不動産なんだが――]
この前の、この事務所初仕事の依頼主だ。
[実は、建物を取り壊すときはなんも無かったんですが]
「建物を壊すときは何も無かった?」
[ええ、それで、出てきた大量の本を燃やそうとしたら、それらが合体して暴れているんです――]
「本が合体して暴れている?」
美神さんに視線でどうするか、と聞く。
彼女は頷いた。どうやら、兄は今回も役立たなさそうな気配。
――結局。美神さんは違約金を取られたものの、その額の三倍で九十九神退治を請け負い。
悪魔や、と呟いたうっかり者の阿呆兄貴がアッパーカット(櫨○昇龍破、と叫びながらの)で吹き飛ばされて、最初の仕事は完全に終了したのだった。