「行くのか…」
傍らに美女を連れた老人が聞く。
「ああ。文珠ならどんな薬でも効力を消せる」
問われた青年は、左手に持った薬ビン――ラベルには時空消滅内服液と書いてある――を振った。
「そろそろこの星も終わりのようじゃしのお…わしも宇宙の一放浪賢者にでもなるかの」
「それが良い。アンタが一箇所に定住するなんて似合わないさ」
「それもそうじゃの」
老人と青年――そして美女は、遠くの夕日を見た。
赫い。青年は、ソレを美しいと評した。
「ま、上手く行けば、お慰み…!!」
青年は、薬ビンの中身を飲み干した。
最後にその時空で見たのは、永年の仲間と美女の、微笑。
――ヴン――
「・・・忠夫さん・・・大丈夫ですか?」
竜神だったけど、半魔の俺にも普通に接してくれた彼女――触ろうとして、消えて。
――ヴン――
「こんな事するの、アンタだけなんだからね!」
唇に柔らかい、懐かしい感触を残した、亜麻色の髪の彼女――抱きしめようとしたら、消えて。
――ヴン――
「まだありますから、落ち着いて――」
黒髪の、いつも和ませてくれた彼女――そのご飯を、本当に久しぶりに食べる前に、消えて。
――ヴン――
「タイガー、泣くなっての!幸せが逃げるぜ!」
友の結婚式(宴会と化していたが)。隣では、いいなぁ、と俺を見て呟くセーラー服の彼女――微笑みかけようとしたら、消えて。
――ヴン――
「義父さん――娘さんを俺に下さいっ!!」
友の結納(事件)。こんときは[隠]で隠れて行ったっけ――それでも、気配でばれたんだっけな。ばれるギリギリのところで、消えて。
――ヴン――
中学時代――って行きすぎたっ!?
――俺が着いたのは、母の胎内だった――そして、十七年が経過――
「…んー、ま、ポスターはこんな物かな…」
美女がビルの入り口にポスターを貼り付けている。
亜麻色の髪、数年後には見られなくなっていたボディコンスーツ。それで隠すのはグラマラスなばでぃ。
去年度GS試験首位、美神令子その人であった。
――それを、電柱の影から覗く影――
「後は、求人情報誌にでも載せておけばいいかな?」
――ゴクン、とつばを飲む音――
「やっぱモデル系の美少女か美少年が良いけど…」
――影の体制が低くなる。駆け出す構えか――
美女は振り返る。でも、やっぱり安ければそれでもいいかも、と。
――影が、大きく反応した――瞬間。
「ずっと前から、愛してましたぁあああっ!!!!!!」
影――学生服姿の少年が、飛び出した。
美神令子は、どこから取り出したのか神通昆を伸ばし、振りかぶった。
しかしその直前、声が響いたのである。
「何をやってるのよ!!!」
少年は撃墜される。空中から、何者かによって。
べしゃっ、と崩れて滑って電柱に当たって止まる少年。
その隣に、一人の美少女が箒に乗って降りてきた。
白のワンピースの上にジャンバー。黒髪を肩辺りで切りそろえ、何故か前髪から二本、触覚のように跳ねた髪が。
美神の理想のモデル系ではないが、美観判定はSSクラス。町を歩けば三分で芸能プロダクションやら何やらが飴に群がる蟻の如く集まるだろう。
「ウチの助平脳内ピンボケ能天気兄貴がお邪魔して、申し訳ございませんでした。…それと、図々しいとは思うのですが、雇っていただけませんか?」
深々、と彼女は美神に頭を下げた。
その体から感じる霊力は、常人ではありえない。
斃れた少年も、少なくとも常人以上ではある。
ちーん、と彼女の損得計算専用CPが計算結果をはじき出した。
「いいでしょ、事務所までついてきて。よければそっちのクソガキも」
美少女は、喜色満面で、少年を引き摺って行った。
ふと書いてみたくなった逆行モノ。
完結はさせられるよう頑張ります。