「・・・・・・・」
横島は対極の模様のある文珠、仮に双文珠というべきか、それを見つめていた。
これは自分が愛した人が命をかけて自分を助けてくれた証。だがそれも今、消えようとしていた。
「ルシオラ・・・」
双文珠は少しだけ光り続けている。アシュタロスとの戦いが終わり、隊長がひのめちゃんを生んだ時期ぐらいから文珠は光りだした。最初
はとても力強い光だったのが、だんだんと弱くなり、今では・・・蛍のように淡い輝きのみを残すだけになってしまった。
「大丈夫だよな・・・これがなくても、俺たち一緒だもんな・・・」
そうつぶやくと、双文珠は強く光り・・・消えていった。
横島は周りを見た、ゴミやエロ本などで散乱している自分の部屋
・・・本来なら、東京タワーとか夕方の浜辺とかもう少し雰囲気のあるところでおこないたかった・・・
「・・・せ、せめて部屋を掃除しとくべきだった・・・」
やっぱし、自分にはシリアスは似合わないのだろうかと少し落ち込み気味の横島だった。
「・・・あれ?」
違和感を感じた。
「ふんぬっ!」
気合を入れるがまったく変化ない。
「ハンズオブグローリーが出ない・・・」
サイキックソーサー、文珠・・・これまで身に着けた霊能力がまったくできない。
「な、なんでじゃ~?!」
「休眠なのねー」
あの後、横島はあわてて、美神に相談した。さすがに美神でもこの状態は分からない。なので神族の一人(柱?)である、ヒャクメに来て
もらった。
ちなみに呼ぶときが携帯というのが時代は流れてるんだなーと横島はつい感心してしまった。
「休眠、っすか?」
ヒャクメはうなづいて、その質問に答える。
「横島さんはアシュタロスの事件のときに無茶しすぎたのね~」
確かに、と美神もおキヌもそう思った。あの戦いでの彼の負担はとんでもないものだった。
「無茶な訓練、合体、死に掛ける、土壇場の成長・・・普通はこんなこと起きたら大変なのね~よく死ななかったのね~」
横島はあのときのことを思い出し、少し青くなった。確かにその通りではある。
「横島さんの魂は今、とても休息を求めているのね~。だから、今は無茶しちゃだめなのねー。霊能力がないから今は一般人くらいの力しかないのねー」
横島のあの非常識なまでの体力と回復力は霊力による影響が多いとヒャクメは言う。非常識な煩悩が源の霊力によって、非常識な体にしたという・・・恐るべしは彼の煩悩だろう。
「じゃ、じゃあ、横島君は今、本当に役立たずってこと?!」
美神はこれまで除霊や荷物持ち等で横島をかなり頼っている。
なんせ、自分のスタイルは道具を使った除霊で元手がかかるが、彼の場合は自分の霊力が元なので元手がただなのだ。
お金儲けが何よりも好きな彼女にはとても役に立つ従業員だろう。
「ひ、ひどいっすよ~美神さ~ん・・・」
その後、美神の指令により、妙神山で霊能力を取り戻すために1ヶ月ほど缶詰にされたが・・・結局は・・・
「うー死ぬー」
横島は1ヶ月の間に受けた修行というしごきに見事耐え、事務所に戻ってきた。
(横島さん、お帰りなさい)
事務所前に立つと人工幽霊一号が声で迎えてくれた。
「おー、ただいま~美神さんいる?」
(はい、いますよ。・・・しかし、どうしたんです?その格好?)
横島はいつものGパンにGジャン姿ではなく、ワルキューレたちの着ているような軍服をきていた。そして、眼鏡をつけている。
「いや、向こうの修行中に服破れたんだよ。眼鏡は無理やり勉強させられて、視力下がった・・・」
死ぬような修行だったが、勉強が一番きつかったと横島は思う
(そ、そうですか・・・大変でしたんですね・・・)
人工幽霊一号の声は憐憫にあふれていた。
「大変だったんだよ・・・」
それに答えるように横島も青ざめながら答えた。
「・・・んで?結局、元には戻らなかったと?」
「は、はい・・・」
美神のこめかみに青筋が浮かんでいるのが分かる。こ、殺される。
向こうでも死に掛けて、こっちでも死に掛けるのか!?
「・・・小龍姫様たちでもどうしようもなかったのね?」
確認するように美神は聞く
「は、はい。結局無理だとわかって、こうして帰ってきたわけっす・・・」
あ、青筋がさらに増えてる・・・し、死ぬ。殺される!
はー、と美神がため息をつきをついた。
「仕方ないわね・・・」
「み、美神さん!? ど、どういうことっすか?!」
美神は覚悟をした目で横島を見つめた。
「私もプロよ。一応、無理だったときのことを考えてたの・・・」
美神はすまなさそうな顔をしていった。
「今日を持って・・・く、クビよ!!」
「で、クビになったというわけ?」
横島は美神のクビ宣言の後、美智恵の病院に来ていた。
「令子も、説明なしで追い出すこともないのに・・・」
仕方なかった、あの後の美神さんは少し悲しそうな顔を浮かべ(これには横島も驚いた)ながら退職金といって封筒を渡された。それはかなりの額の札束が入っており、横島が高校を卒業するまでの生活する資金が軽く入っていた。
「美神さん・・・あんなんじゃ何も言え無いっすよ・・・」
美智恵は娘と横島の判断を正しいと思っていた。
「横島君、一般人の力しかないあなたが霊能関係のそばにいるのは危険すぎるのよ。私も、令子もその判断は間違ってないと思ってるわ。」
耐霊能力も一般人並、それはこの世界ではすぐに死につながること。プロとして仲間として、美神はこの世界にいさせることを辞めさせた。その判断は間違っていないと思う。
「それは、分かってます。小龍姫様やワルキューレにも言われましたから」
修行中、横島は妙神山にいるメンバー全員にこの世界から引くことを勧められた。それは彼の身を案ずることだったが、彼はそれを断り続けた。
なぜなら
「だって、この世界に入って、俺はいろんな人にあったっす。・・・引きたくないんです。」
美智恵は横島の顔を見た。ハーピーの時と違ってとてもまじめな顔だ。成長したものだと思う。
(そういえば、横島君の資料で興味深いことが書いてあったわね)
あの大戦の後、美智恵は密かに横島の資料を手に入れ、それを見ていたのだ。
そこにあった、彼の霊能力以外の優れた能力に密かに注目した。娘の手を離れてしまった今、それを確保しない手はない。
美知恵はそう思った。
「それじゃぁ・・・横島君。オカルトGメンに入らない?」
「え?」
美智恵は笑顔を浮かべながら言った・・・それは後になって、今思えば悪魔の笑みだったと横島は語っていた。
この後、横島忠雄(17歳?)はオカルトGメンの事務処理係として働くこととなった。
ちなみに、そのことを聞いて美神令子はその手があったか~!と悔しがったそうな。
美智恵は、早い者勝ちと勝者の笑みを浮かべてたそうな。
西条は事務所を離れたことでにやけたが・・・横島と部署と勤務地は違うとはいえ同じオカルトGメンとして働くことに、少し顔を歪めたのはいうまでもない。
あとがき
あけましておめでとうございます。皇月です。
今回のお話は、アシュタロス編の後の分岐物です。
僕は連載時のときに、少年漫画のお約束のごとく霊能力が使えなくなるという予想をしてたんです。まぁ、思いっきり裏切られましたけど(苦笑
一応、言っておけばこの作品は小ネタとなります。あまり深く読まずに軽い気持ちで読んでいただけたら幸いです。