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▽レス始

「夢幻抱影 〜もう一度君を抱きたい〜(GS)」

tohoo (2005-01-02 00:25)

かつてアシュタロス戦役と呼ばれた戦いがあった。

魔神アシュタロスが、自らの存在意義をかけて三界を舞台に繰り広げられた大戦(おおいくさ)。

その最中、戦の鍵となった出会いがあった。

一人は人間の少年、一人は魔族の乙女。

種族を超えた出会い、苦しい戦いの中で互いに惹かれあう心。

ままごとの様な幼い睦言。

乙女は少年を救い、その命を捧げ

少年は乙女の命を代価に世界を救い、英雄となった。

それは世界と人々にとっての幸福。

そして少年と乙女にとっては悲劇以外の何ものでもなかった・・・・・・・・・


眠り忘れて
閉じた瞳の中
哀しい顔の君が微笑んで
約束はまだ
思い出に変わらず
心震え続けてる・・・・・


夢幻抱影 〜もう一度君を抱きたい〜


光があるから影がある 影があるから光は映える
もしもこの世に影がなかったら
光は光、ただそれだけのまぶしいもの
いいえ、影がなければ光は光とわからない
光は影を必要とする 影は光を必要とする

――だから私は、影が好き


「魂魄解離症?」

「便宜的な名じゃがな」

「あ、あのどういう事なんでしょうか?」

「そうじゃな・・・・このままいけば確実に小僧は死ぬということじゃよ」

「・・・・・・・・・・・」


美神除霊事務所


多くの物語の中心であったこの場所に数人の人物が集まっていた。

美神令子

氷室キヌ

ドクター・カオス

そしてルシオラ

そう、かの大戦で死んだはずのルシオラがここに居るのだ。

しかしここには彼が居ない、ルシオラの想い人である横島忠夫が。

そして、彼女たちを包む雰囲気は決して明るいものではなかった。


「説明して、ドクター・カオス」

「ふむ、さてどう言ったものかな?」

「カオス!」

「慌てるな・・・・・・・まあ呼んで字の如くじゃな」

「・・・・・・・・・・・・」

「二つで一つである魂が、小僧と嬢ちゃんの二つに分かれようとしておる。美神令子、お主と小僧の[合体]とは違ってのこちらはほぼ完全に融合しておる」

ゴクリとドクラー・カオスは水を一口のみ話を続ける。

「この融合というのが厄介じゃ、魂とは繊細なものじゃ早々簡単に、くっ付けたり分けたり出来る物ではない。しかも小僧は人間じゃ、魔族である嬢ちゃんならともかく、人の魂には大きなダメージを与えるじゃろう」


私が自己を認識したのは、横島のボロアパートだった。

硬い布団の上で目を覚まし、辺りを見回したとき、私は茫然自失としていた。

あの戦いの中で自身の霊基構造をヨコシマに捧げ、彼の魂の底で眠りについた筈なのに、何故ここに。

どれほどの時間我を失っていただろう、数秒、数分、数時間?

我に返って全身を駆け抜けたのは、震える様な歓喜と、耐え難い飢え。


逢える。


自身の内から溢れ出た想いに急き立てられ、駆け出した、彼がいるであろう美神除霊事務所へ。


「それじゃあ横島さんは・・・・」

「うむ、唯でさえ失った霊基構造を嬢ちゃんので代用しとるんじゃ、それを失えば魂は形質を保てず肉体とのつながりを断たれるじゃろう」

「つまり・・・・・・」

「待っているのは確実な死じゃよ」

「そんな!」

「・・・・・・・何とかならないの?」

「そうさな――――――――――――」


事務所に来てもヨコシマは居なかった。

それでも良かった、逢いたいという気持ちは強くなる一方だったが、ここに居れば確実にヨコシマに逢えるそう想っていたから。

私が突然現れたことに美神さん達は驚き、矢継ぎ早に疑問を投げかけてきたけど、私をやさしく迎えてくれた。

彼女達との会話を楽しみながら、私はヨコシマとの再会に胸躍らせていた。

でも、ヨコシマは現れなかった。

何時間たってもヨコシマは現れなかった。

アパートに電話をしても不在、友人達に連絡をしても誰も知らないという、強い不安に晒されて―――――――――

私は意識を失った。


「原因がどこにあるかじゃな」

「原因?」

「うむ、魂というものは勝手に変質するものではない、内因的なものか外因的なものか、何らかの理由があるはずじゃよ」

「恐らく内因的、つまり小僧と嬢ちゃんに原因があるんじゃろう」

「二人に?」

「何らかの理由で二人が、もしくはどちらかが分離を望んだ、無意識の内にな」

「そんな・・・・・・・・・」


目を覚ましたとき、俺は美神さんの事務所に居た。

訳が分からない、確かに自分お部屋で寝たはずなのに。

目の前には美神さんとおキヌちゃんがいる、二人とも驚いた顔をしてこっちを見ている。

いったいなんなんだ?


「・・・・・・どうすればいいの?」

「何らかの方法で互いに意思の疎通をし、互いを受け入れさせる。そうすれば魂は安定し元の状態に戻るじゃろう」

「それじゃあルシオラさんは・・・・・・・・・・」

「再び小僧の中に消える」

「そんな!」

「―――――私は構いません、ヨコシマが生きていることが私の望みですから」


ルシオラが居た。

そう聞いたときは信じられなかった。

俺に命をくれたルシオラ、彼女は俺の中で眠っているはずだから。

だが二人は言う、確かにルシオラは居たのだと、ルシオラが俺になったのだと。

ルシオラは俺の部屋で目覚めこの事務所にやってきたのだと。

正直、俺の理解の範疇を超えていた。

でも、俺はルシオラの気配を――――――とても近いところに感じていた。

そして


影は光を必要とする 光は影を必要とする
いいえ、影がなければ光は光とわからない
光は光、ただそれだけのまぶしいもの  
もしもこの世に影がなかったら
影があるから光は映える 光があるから影がある

――だから私は、光が好き・・・


俺は意識を失い、目が覚めたときにはカオスの爺さんが居た。

診察を受けているらしい。

いくつかの質問をされ、怪しげな機械にかけられた。

診察の結果は衝撃的だった。

魂の不安定化、それに伴うパーソナルの入れ替わり。

俺と、俺の中のルシオラが入れ替わりに現れるのだと言う。

頭をハンマーで叩かれた様な衝撃だった、だってそれじゃあ俺達は「逢えない」じゃないか・・・・・


文通が始まった。

互いが表に表れているとき、手紙を書く。

想いを文章につづり自分の中の相手に託す。

文通はすぐに録音した言葉に変わり、映像になった。

笑い、動き、話す彼女を見たとき、涙が出た。

喜びよりも苦しさが勝った・・・・・・


生きている。

ヨコシマが私に向かって微笑んでくれる。

その悲しそうな笑顔は、きっと私と同じ苦しみを味わっているからだろう。

こんなに近くに居るのに、どうしても届かない。

自分の求める全てがそこに在るのに・・・・・・・・・

愛しさより切なさが、喜びよりも哀しさが、充足感よりも飢えが私を苛んだ。


そして―――――――――


二人が逢う為の方法が見つかった。

小竜姫からの連絡が入ったとき、事務所の中は静まり、一瞬の後に爆発した。

皆が喜んだ、むろん横島忠夫も。

そして・・・・・・・彼は姿を消した。


「あのバカはみつかった?!!」

「まだです・・・・・・」

事務所の中に怒声が響く。

「落ち着け、美神令子」

「カオス!落ち着けるわけないでしょ!!」

「やれやれ・・・・・しかし小僧が逃げ出すとは・・・・・なるほど原因は小僧の方にあったか」

「?・・・・どういうこと?」

「小僧はな二つの魂のうち、片方を憎んだんじゃろうよ」

「!!」

「むろん嬢ちゃんの方じゃない、もう片方、小僧は小僧自身を憎んだんじゃよ」

「なっ?!!」

「理由は小僧に聞かんと分からんがな・・・・・・さて、行くとするか」

「ちょっとカオス!!」

「なに、小僧を連れ戻すだけじゃよ」

「てっ?!居場所知ってるの?!!」

「マリアに監視させてある」

「・・・・・・・・・・・・・・さっさと言え〜〜〜〜〜!!!」


ファウスト      


時よ止まれ お前は美しい

救われるなら それは甘美な恐怖

他に何を捨てても 得がたい旋律


時よ止まれ お前は美しい

まみえるなら それは甘美な狂宴

他に何を捨てても 得がたい戦慄


時よ止まれ お前は美しい

天の使いの御名は“悪魔”

その所業は破滅と恐怖

狂気に見せられた人は呟く

甘美に毒された人は叫ぶ


――――――――――「時よ止まれ お前は美しい!」


「なあ小僧、いったい何を悩んでおる」

「・・・・・何だっていいだろ、それと小僧ってのはやめてくれ」

ドクター・カオス、横島忠夫

年齢も人種も価値観も異なる二人の男。

その二人が深い夜の闇の中、高い塔の上で向かい合っている。

「ふむ、まあ大方の見当はつくがな」

「っつ!・・・・なんだと・・・・」

「救う手立てがあったのに、恋人を見殺しに―――――――」

カオスの言葉は本人の意思に反してさえぎられた、老賢人の頬に叩き込まれた拳によって。

「ああそうだ!俺は!俺はあいつよりも世界を選んだんだ!!・・・・・・・・その俺がどの面下げてルシオラに会えっていうんだ・・・・・・・・・・」

「若いな、小僧・・・・・しかし世界と恋人とを天秤に掛けたか・・・・・・・」

世のロマンチスト共が小僧の決断を聞けば、非難の大合唱をするだろうな・・・だが・・・

ドクター・カオスの顔にほろ苦い笑みが浮かぶ、それは老いた教師が手の掛かる生徒に向けるような、そんな笑みだ。

「・・・・・・誇れ、横島忠夫」

「な、んだと・・・」

「誇れといった。世界を救ったことを、残酷な決断をしたことを」

「ふざけ―――「誇れ!お前が愛し、お前を愛した女は世界と等価であったのだから!!」

「世界を敵に回しても君を愛する―――――小説やドラマ等でよく使われる台詞だが、なんとも無意味な言葉だとは思わんか?」

「・・・・・・・・・・・・・」

「そうじゃろ?有史以来、世界と等価であった者などおらず、世界と恋人とを天秤に掛けるような決断を迫られる立場に立たされた者もおらん」

「だがな小僧、お前はただ一人その立場に立った。あの時お前の恋人は世界と等価であり、お前は自由に天秤を傾けることができたのだから。」

「それでも・・・・それでも俺がルシオラを見殺しにしたことには変わりない!!」

「ああ、そうじゃな・・・・・横島忠夫、お前は恋人と引き換えに世界を救った、それは紛れもない事実。ゆえに儂はお前を尊敬し軽蔑する」

「尊敬し軽蔑する?」

「そうじゃ小僧、お前は最も苦しいときに最大の責任を負わされ、その責任から逃げなかった。だが今のお前はその事を悔やみそして恐れている」

「くっ・・・・・・・恐れ・・・・・ている・・・・・・・?」

「違うか小僧?お前は恐れている、彼女と再会したとき罵られ、恨み言を言われることを!!」

「なんと情けない!!それでも一度世界の命運をその手に握った男か?!それが今は恐れ怯えて、挙句の果てに逃げ出しおった!!あの時の勇気と決断力はどこに行った?!!!」

「それでも!!・・・・・・それでも俺はあいつを、ルシオラを愛しているんだ・・・・・もう一度あの夕日を黄昏の時を、一緒にって・・・・・」

「ならば足掻け」

「な・・・・に?」

「惨めに、無様に、足掻き抜いて許しを請え。彼女の前に跪いて思いの内をぶちまけろ!・・・・・・・・世界を掛けて戦うより遥かに難しいだろうがな」

ドクター・カオスは再びあの笑みを浮かべた。

昼と夜との一瞬の狭間、黄昏の時、全てを飲み込むような黄金の輝き、それに人は滅びの美しさを感じ惹き込まれていく。

だがその先にあるのは、唯々深く暗い夜の闇。

「なあ小僧知っておるか?闇が最も深くなるのは、夜明けが近いからだという事を」

「永遠に続く夜などない、必ず夜明けは訪れる。小僧、過去ではなく現在を見つめ未来を目指せ、お主は人生を悔やむには若すぎる」

夜の空は去り、朝が来る。

「さあ、目を見開いてよおく見ろ。夜明けの時だ」

夜と朝の境、薄紫に染まった空の情景。

「全てを癒し包み込む、再生の時、唯貪欲に現在と未来とを求める陽の光。そうじゃな[渇望の朝]といったところか」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

声はなかった、ただ涙があふれた、悲しさよりも苦しさよりも、耐え難い飢えがあった。

彼女に、ルシオラに逢いたい、どうしようもなく、ただそう思った。


君と交わした約束を果たすよ
傷だらけの旅路の果てに
重ね合わせた温もりを確かめ
孤独の夜を終わらせる


妙神山 奥殿


「等しく分かつ日に合わせ鏡が映し出す、さあ、鏡よ、この者に宿る2つの魂を合わせ映したまえ・・・・・・」

大きな2枚の鏡の置かれた奥殿の中に、小竜姫の声が響く。

美神令子、ドクター・カオスをはじめとして、おおよそ美神ファミリーと言ってもいい面々が揃い、それぞれ違った表情で儀式を見守っている。

そして横島忠夫は、床に描かれた5つの印の中央に立ち、静かに目を閉じている。

左右の鏡が輝き、横島を合わせ照らし、その姿を分つ。

淡い光の中、横島の姿がだぶり、その半心を現す。

「ルシオラ!!」

「ヨコシマ・・・・ああ!・・・・ヨコシマ!!」

「ルシオラ・・・・俺はお前を・・・・守ることができなかった・・・・・・」

二人は空中で歩み寄り、そっと手を伸ばす。

光で紡がれたその手は少しづつ近寄り、互いに突き抜けてしまうのではないかと言う恐怖感の中、確かに触れ合った。

「ヨコシマ・・・・・・御免なさい、私は貴方に辛い決断をさせてい待った・・・」

触れ合った指先、そして掌。

そこから流れ込んでくるのは、甘い痺れ。

「俺は!!・・・たすけ・・・られたのに・・・・・・それなのに!・・・・」

「ヨコシマ・・・・もう言わないで、私はあなたの中にいる、愛するあなたの中に・・・・・貴方の中にいて、それが分かるの・・・・・そう分かるのよ・・・・ヨコシマ愛しているわ・・・・ヨコシマ・・・・」

手を離したら、全てが掻き消えてしまうかも知れない、そんな想いの中横島は強く手を引き、ルシオラの光の体を抱きしめた。

腕の中で、甘く息づく、その暖かさ。

互いに求め続けたものが、乾いた身体に真水が染み渡る様に、心と身体を満たす。

「俺もだ、俺にも分かる・・・・・分かっていたんだ、俺とルシオラの魂が・・・・・その想いが・・・」

「ええ・・・・形なき永遠のもの・・・そして・・・・私たちの中にあるもの」

合わせ鏡は会わせ鏡、合わせ鏡は愛会わせる

「ああルシオラ・・・・俺は君を愛している・・・・・」

「ヨコシマ・・・・・」

強く、強く互いを抱きしめあい、そっと唇を合わせた・・・・・・・・・


二つの身体は再び重なり合い、光は去った。

誰も、声は出せず、物音さえしない奥殿の中、嗚咽が漏れた。

場の中央で彼は泣いていた。

自身の身体を両の腕で抱きしめ、泣いていた。


「・・・・・・・ルシオラ・・・・・」


いつか・・・・・いつかきっと・・・・・・・・・・・・・


――――――――――――――もう一度君を抱きたい――――――――――――――


真実は問いかけることに、その意味も価値もある


あとがき

新年明けまして、おめでとうございます。
はじめまして&お久しぶりです、旧夜華組のtohooと申します。
1/1に間に合わなかった(汗)
さてお読み頂いた方の中にはピンと来た方も居るかもしれません。
元ネタというわけではありませんが某天外○○ZEROのイベントに大きく影響を受けました。
もともとGSを読んだときにいつかこれをやろうと思い、今まで暖めてきました。
まあ、なんと言いますか自分で書いてて「まとまりがない(汗)」と思いましたが・・・前々から書きたかった題材でしたの、稚拙ではありますが笑って許していただけるとありがたいです。


△記事頭

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