一応ヨーロッパ。カオスが顔の皺を気にしはじめた頃です。
とある国がありました。
その国は現在女王によって治められ、一応の平穏を見せていました。
そして、亡くなった王様の、前のお后様の子供がこのお話の一応の主人公です――
――ある日の事でした――?
女王・美神令子は、鏡の前で叫びました。神通鞭を持ったら違う女王様になってしまいますが。
「人工幽霊一号鏡、人工幽霊一号鏡。三千世界で一番美しいのは誰っ!?」
普通の状態では、さすがの美神さんもこんな事は言わないでしょうが、いつもの如く夢なんでその辺スルーして下さい。
『…それはご主人様と思われます』
「もう一回っ!」
『…それはご主人様です』
凄まじい迫力に、人工幽霊一号鏡も断定形にしなければヤられると思ったのでしょう。訂正しました。
さて。女王美神には、一人の娘がいました――とは言っても、血が繋がっている訳ではありません。彼女は継母なのです。
その子が10歳になったある日。
いつもの如く、女王美神は人工幽霊一号鏡に聞いたのです。
「人工幽霊一号鏡、人工幽霊一号鏡。この世もあの世も全部ひっくるめて、世界で一番美しいのは誰っ!?」
人工幽霊一号鏡は、聞かれたことに嘘をつく能力はありません。
『あなたは美しい。でも、(将来的には)娘の白雪姫おキヌちゃんのほうがもっと美しい』
それを聞いた女王美神、怒りのあまり人工幽霊一号鏡を割る事すら忘れ、猟師タマモに命じました。
「白雪おキヌちゃんを、山の奥に捨てて来てしまいなさい!!」
猟師タマモ、ここで断っては彼女の首が物理的にすっ飛ぶでしょう。
仕方なしに、白雪おキヌちゃんを連れて、山に行きました。
さて、山です。現在季節は春。しかし、子供の足では、間違いなく人里までは行けません。
しかし猟師タマモは、どうにかして彼女を助けたいと思っていました。
そこで呼ぶのです、相棒を。
取り出だしたるは犬笛。
それを猟師タマモ、思いっきり吹きました。
さて、10分が経ちました。
白雪おキヌちゃん、無邪気に猟師タマモにじゃれついています。
その顔が、物音に刺激され、好奇心一杯の顔になりました。
振り向けば、そこには白銀の狼が居たのです。額に紅いポチが在るのがポイントです。
「シロ。この子を、小人たちの元に連れて行ってあげて」
「わかったでござるよグルルルル」
狼シロ、白雪おキヌちゃんを背中にくくりつけ、7人の小人の下に走ったのです。
山奥には、7人の小人――それぞれ、小人の中でも小さいほうの小人1雪之丞、かっこつけの小人2西条、影が薄い小人3タイガー、美形の小人4ピート、努力家だけどなんか運悪い小人5鬼道、マッドの小人6カオス、オカマの小人7勘九郎と言う名前です――が住んでいました。
彼らはたまにタマモやシロから獲物を分けてもらっているので仲良しです。
今回の申し出も、快く受け入れました。
彼らは料理が全然出来なかったのです。
白雪おキヌちゃんは、料理をすることと引き換えに、ここに置いてもらえる事になったのでした。
さて。暫くして、猟師タマモは、女王美神に子供の骨一式を見せました。
女王美神、それを白雪おキヌちゃんの骨だと言われて信じました。
それまでの間、女王美神は自分よりも白雪おキヌちゃんが美しいと言われるのが恐ろしく、人工幽霊一号鏡に日課のあの言葉を聞いていなかったのです。
さぁ、安心して鏡に日課の言葉を聞けるんだ。
女王美神、立ち上がって鏡の間へと歩いていきました。
鏡の間。そこには、狼シロが居たのです。
器用に鏡を外し、それとそっくりな鏡をつけています。
その名も狐工幽霊1号。またの名を人工幽霊一号鏡。白雪おキヌちゃん以外をサーチするスグレモノです。
狼シロの耳に、女王美神の声が聞こえてきました。もちろん狼シロの耳はヒトとは比べ物になりません。
いくら女王美神がヘルイヤーを持っていても、それには敵いませんでした。
悠々と狼シロは城を抜け出し、相棒と笑いあうのでした。
そして、そのまま7年が経過しました。
白雪おキヌちゃん――いえ、白雪おキヌ姫は、とても美しく成長していました。
肌は雪の如く、唇は血の如く、瞳は黒檀の如く。ちなみに原作初版に在った表現です。
そしてある日。
女王美神に、あるものが届けられたのです。
それは国の中で一番の力を持つ大臣の家系の一人娘、冥子からの贈り物でした。
曰く。
[聞いた事に何でも答えてくれる鏡をお送りします]
要約すれば25字にも満たない事を、日常風景も含めて延々延々延々延々と21枚。
女王美神、務めなのでしっかり読んではいますが、読み終えた後にはまるで1万mを全力疾走したような疲れ具合でした。
侍従に命じ、それを開けさせました。
――女王美神の目が見開かれます。
そこに在った物は――
――人工幽霊一号鏡だったのです。
当然女王美神は大激怒。
直ちに白雪おキヌ姫が生きているかどうかを尋ね、どこに居るかも聞き出しました。
同じように、猟師タマモ達の事も見たのですが、ジャミングされていますと鏡は答えるばかり。
とりあえず女王美神は、女王とは思えない行動力で部下の呪士エミに毒林檎を作らせ、さらには自分でそれを小人の家まで持って行ったのです。
純粋無垢な白雪おキヌ姫。やってきたお姉さん――エクトプラズムスーツを着た女王美神――を疑う事も無く、林檎を食べてしまうのです。
7人の小人達は、とても嘆き悲しみました。
ご飯は美味しかったし、彼らよりよっぽど背が高かったので色々と便利だったのです。
彼らはその異常に優れた手先の器用さでガラスの棺を作り、彼女を墓に埋めようとして。そして、気付いたのです。
まだ彼女は暖かい。
仮死状態になっているんだとタイガーが言いました。他の6人もそれに納得。
そのまま彼女は家の一室に安置され、そのまま暫しの時が流れたのです。
さて。やっぱりというべきか、現れたのは隣国の王子横島。本当はここにピートを使おうとしたのですが、勢いあまって小人に使ったのは秘密です。
小人達が棺の中の花を交換している時に、彼は従者と一緒にそこを通りすがったのです。
王子横島、必死で頼み込んで――雪之丞にはカルシウム錠剤、西条には新しいヅラ、タイガーにはちょっとした出番(上)、ピートには音楽の教科書1ねんせい、鬼道にはちょっとした幸運、カオスには実験費、勘九郎には桜庭春人限定写真集です――白雪おキヌ姫を譲り受けました。
で、キスをする段になって――従者が動いたのです。
「横島がそんなことする必要ないわ!」
と動いたのは、なんと猟師タマモ。
彼女は白雪おキヌちゃんの背中を、ちょっと強く叩きました。
ゲホ、と吐き出されたのは毒林檎。
そう、白雪姫初版では、従者が背中を叩いて吐き出すというなんだか王子様全然関係ないなーと言わざるをえない生き返り方なのです。
生き返った彼女は、王子横島とともにこの国を離れるのでした。
「う…ん…?」
タマモが目を開くと、月光が差し込んでいるのが見えました。隣には馬鹿いn…馬鹿狼が幸せそーな寝顔でせんせ〜とか言いながら寝ています。
なんて夢見ちゃったんだろう、と思いながら、また寝なおすのでした。
<おまけ>
女王美神、隣国の王子が結婚するという情報を得ました。
もちろんすぐに招待状が来ました。女王美神、まだ一人身なので、どんなヤツかと見に行ったのです。
そして、チャペルです。
女王美神、たいして目立たないドレスで見に行ったのです。
そして、王子横島と一緒に入ってきたのは――
<Ctrl+Alt+Del>
<Ctrl+Alt+Del>
女王美神、再起動です。
気を取り直してもう一度。
横島王子と。
彼の左手をとる猟師タマモと。
彼の右腕を取る白雪おキヌ姫と――
――背後霊の全身タイツアシュタロス。
完。