さて、新年。事務所始めの1月4日です。
物凄い初夢を見てしまった所長の美神令子。
現在色々と恐ろしい拷問道具をしまっている最中です。
その足元には紅いナニカが転がっています。彼は一応横島忠夫。単純戦闘能力だけならGSでも5指に入ってしまう半分魔族の人間です。
現在、華の18歳。高校も無事卒業できそうな感じです。
この話の横島君は、ペルソナをかぶってはいません。確かに悲しいとは思っていますが、とにかく強く生きようと半年前にGガン最終回の台詞と同じくらい恥ずかしい台詞で決めたのです。なんと美神の胸で。
ま、ぶっちゃけこの辺は筆者には書けません。誰か書いてと他力本願です。
さてさて。横島が何とか動けるようになった頃、何故か色んな所に包帯を巻いたヒャクメがやってきました。
「横島さん、ちょっと…」
ヒャクメはニヤニヤと笑いながら横島を手招きします。
彼女は懲りません。横島のセクハラが直るのと同じくらい彼女が更生するのは難しいでしょう。
人工幽霊1号を通して、それを見る事務所メンバー。
――小竜姫が、初夢を見たらしいのね~
――ほうほう。
――それの夢でね~…小竜姫、かくかくしかじか(GS的昔話~三匹の子豚~参照)という夢を見たらしいのねー。
――え゛
ヒャクメ、おまけと夢の終わりの間までしっかり話しています。つまりやあーんな事やこーんな事の描写も。
さらに――
――つまり、アナタが好きらしいのね~
爆弾投下。横島君、考えもしなかった可能性にオドロキです。
――それに、ワルキューレもなんだけど~
原爆落下。現在ワルキューレは妙神山に住んでたりします。
――というか、美神さん達もなのね~
ギャラクティカエクスプロージョン!!!(バックに一直線に並んだ太陽系の星々が一斉に砕ける幻影ッ!)
横島のコスモ浪漫器官が激しく燃え滾ります。今なら某天馬の○ガサ○彗星拳だってマトリックス避けが出来るでしょう。
――い、いや、さすがに何言ってるんだヒャクメ
しかし横島君、必死にそれを否定しようと頑張ります。そーなってたらいいなーとは思いつつ、絶対なるはずが無いと魔体のバリア並みに強固な自己暗示があるからです。コンプレックスの山は火星のオリンポス山並みで、谷はマリアナ海溝並みなのですから。
――じゃぁ、文珠[模]でも使ってわたしの頭を読んでみればいいのね~
彼女は自信満々です。
横島も、おいそれと女性の思考を読むなんてことはしません。
諸手を上げて降参です。
もちろん、顔は緩んでいましたが。
と、そこに事務所メンバーが駆けて来ました。
電話を持ってです。
美神さん、いっそ哀れみの表情すら浮かべて電話をヒャクメに渡しました。
『――ヒャクメですか?』
不気味に低い声。ですが、きちんと小竜姫の声でした。
『今、妙神山を出たところなんです――ブツ…ツー、ツー、ツー…
と、突然切れてしまいました。
なんなのねー、と思いつつ。
ヒャクメは、横島相手に小竜姫の寝顔ビデオの商談を始めたのです。
出て行った美神たちの視線が、妙に気がかりでした。
1時間後。
「それじゃ高い、せめて6円削って1万3124,42円/一本!」
「駄目なのね――プルルル、プルルル
横島がそれを取りました。さっきから置きっ放しになっていたのです。
『――ヒャクメですか?』
横島は、多少ビクつきながらも、横島です、と早口で言い、さらに早口でヒャクメに変わりますと言いました。
まるでトカゲを使ったバケツリレーのバケツを渡すかのように、受話器をヒャクメに渡します。
『今、やっと電車に乗れたところなんです――ブツ…ツー、ツー、ツー…
横島もヒャクメも、なんとなく嫌な予感はしてきましたが。
商談は、まだ続けられたのです。
2時間後。
また、電話が鳴り始めました。
ヒャクメも劣勢を立て直す良い機会だとばかり横島にそれを渡します。
「はい、こちら美神除霊――小竜姫様?」
『横島さん…ヒャクメに代わって下さい…』
電話口の向こうから瘴気があふれてきそうです。
横島、美神の切れたときよりもビクついた表情でヒャクメにそれを渡します。
『今、やっと東京に着いたんですよ・・・ブツ…ツー、ツー、ツー…
ヒャクメの顔が、はっきりと恐怖に歪みます。
横島も同じような顔。
と、その時。どたどたーっ、と言う音が聞こえてきました。
3分立たない内に、美神が部屋に入ってきました。両手にボストンバッグを持っています。
「横島君、お留守番お願いねッ!!もしも生きてたらキスでも何でもしてあげるから――とりあえず、事務所を死守して!!!」
「なんですかその命令はー!!」
美神がキスでも何でもしてあげるからなんて言うのは当然恐ろしく珍しいのです。
――つまり、そのくらい切羽詰っている。
…=死?
横島君の計算<ロジック>は極めて正確でした。実は先ほど、鈴女が東京駅から発される瘴気で落ちたのです。
それを見た美神は、とにかく最近買った除霊用車ノアで逃げ出すことに決めたのです。当然横島君はお留守番。
10分後には、横島・ヒャクメ・人工幽霊一号しか事務所内には居なくなっていました。
耐え難い恐怖。
いつ電話が来るかわからない。
まさに極限状態。
ヒャクメの目も、大体この辺に居るという目星は付けられるものの、正確な場所は見えなかったのです。
――ぷるるるっ、ぶるるる…
横島が、震える指で通話ボタンを押しました。
『ヒャクメは居ますね…?』
はい、と答えざるを得ない。横島にそう確信を抱かせるには十分すぎる声音です。
『…今、事務所の近所に居るんですよね…』
横島がヒャクメを見ます。
ヒャクメの目は、確かに居る、と伝えてきました。
『もうすぐ、ですよ…ブツ…ツー、ツー、ツー…
さぁ、大変です。
ヒャクメは、もはや横島の腕に抱きついています。
がちがちがちと歯の根も合っていません。
横島と言えば、腕に触れる柔らかい感触に現実逃避をしていました。
――ぷるる
横島は、すぐにそれの通話ボタンを押しました。
『今、玄関前に居るんですよ…今から入りますね…ブツ…ツー、ツー、ツー…
ガチャ…
ああ、事務所入り口のドアが開く音です!!!
内線コールが横島の持つ電話にかかって来ました。
横島、もう取らない勇気すらなく、通話ボタンを押しました。
『…今、貴方たちの部屋の前に居るんです…ブツ…ツー、ツー、ツー…
ああ、なんと言う恐怖!!
普段は優しいおねえさんの雰囲気を醸し出す彼女がやるだけあって余計に怖い!!
横島もヒャクメも、ただ入り口のドアを見るだけです。
――ぷるるる、ぷるるる、ぷるるる…
横島君、手に持ったそれをただただ見るだけです。
しかし、何もしていないのにそれの通話ボタンが押されてしまいました。
「『今、貴方たちの後ろにいるんです――』」
END