昔々。ヨーロッパの辺り。カオスが全盛期ちょっとすぎた辺りの頃でした。
そこに、シンデレラと言う娘がいました。
彼女は継母と姉たちに虐められながら日々を過ごしていました。
そんなとある日のお話――
「シンデレラ、ここがまだ汚れていますよ!」
と言うのは美知恵さん、シンデレラの継母です。窓枠にしゅっと指を走らせるなんて、素晴らしいまでに前時代的姑さんです。
「ハイ…」
弱々しげに答えたのはGS1と言える清純派我らがおキヌちゃん。バケツと雑巾を持って、ボロボロの服を身に纏っています。
「私の靴も磨いておきなさいよ!」
「アタシのドレスも繕っておくワケ」
二人の姉が、シンデレラおキヌちゃんをさらに虐めます。それぞれ令子姉さんとエミ姉さん。4人ともどう考えても日本名です。
シンデレラおキヌちゃんは心の中で――時には実際に泣きながらも、いつかはきっと何とかなる、と信じていました。
…信じながら、たまーに嫌がらせをしたりとかもしてましたが。
そんなある日の事でした。
家に一通の招待状が届きました。
どうやら家全体――つまりは、家族全員に対する招待状らしく。
シンデレラおキヌちゃん、とりあえず継母美知恵さんに見せに行きます。
継母美知恵さん、それを届けたシンデレラおキヌちゃんに一瞥すらくれず、犬でも追い払うかのように部屋から追い出しました。
後には、必死でそれを読みふける継母美知恵さんだけが残されました。
その日の夜です。
「シンデレラ」
継母美知恵さんが言いました。
「1週間後舞踏会があるから、ドレスを出しておいて頂戴」
「ハイ…」
どうせ私は出られないんだろうな――諦めに似た絶望を感じながらも、彼女は頷くのでした。
いつもより数段明るいお城。青白い月が、煌々と彼女を照らしていました。
「いいなぁ…私も舞踏会に出たいなぁ…」
ついつい本音がこぼれます。
お父さんお母さんが生きていた頃には、彼女にもドレスがあったのです。
でも今は、残っていてもサイズは合わず、他は全て質で流されてしまいました。
「はぁ〜あ…」
「ふむ、どうしたのかねお嬢さん」
大変です。空中に変態が浮かんでいました。
具体的に言えば、土色のマント、その下にランニングにスパッツ(肌に直)、ソレでいて膝より高い位置に来る蝶長靴。ブーツではありません。長靴。そしてその手にヒノキの棒を持っています。あ、よく見ると額に肉と書いてあります。
シンデレラおキヌちゃん、愛用の箒で彼の股間を強打しました。彼はそこを押さえて落下していきます。
ちなみにここは3階屋根裏部屋。結構高めです――あ、色んな骨が折れた音。
しかし変態は再び浮いてきます。
「痛いではないか」
普通の人ならこんなリアクション起こしますよ、と言う言葉をシンデレラおキヌちゃんは飲み込みました。賢明です。
とにかく彼、魔法使いアシュタロスは言います。
「君は舞踏会に出たいのだね?」
シンデレラおキヌちゃんは、言っていいものか少し迷いましたが、言わないと話が進まないとばかりに言いました。
「はい」
いつもの、ハイ…とは違い、はっきりとした口調です。目線は魔法使いから微妙にずれていましたが。さすがに直視できないのでしょう。
それならば、と魔法使いは頷き、呪文を唱えました。
「スゲーナスゴイデガシャアアアッ!!!
どこからともなく著作憲法違反天罰が下ります。
魔法使いアシュタロス、地面にヒトガタにめり込みましたが、彼はめげません。
「着せ替えガメランーッ!!!」
部下(長女)の作ったやつです。魔法使いアシュタロス、とうとう堕ちる所まで堕ちてしまったようです。せめてオリジナルの呪文くらい考えましょう。
〜簡単 着せ替えガメランの使い方 始まり〜
ジョニー:ヘイボブ!!!こいつはどうやって使うんだい?
ボブ:こいつはねジョニー。ここに服を描いた絵を入れて被写体を移すとアラ不思議!!!元着てた服が消滅して書かれた絵の服装に変わると言う機械さyhee!!
ジ:そいつはすごいなボブ!で、元着てた服はどこに行くんだい?
ボ:そいつは企業秘密さジョニー!!HAHAHAHA!!!!
ジ:HAHAHAHAHA!!!!
〜簡単 着せ替えガメランの使い方 終わり〜
「むんッ!!!」
無駄に気合を込めて魔法使いアシュタロスシャッターを切ります。
パッ、と変わりしは純白の美しきドレス。ガラスの靴も完備です。
「さらにッ!!!カマァアーンッ!マザコン号・影薄い号・かませGメン犬号・お鎌号ッ!!」
パキィイン、と素晴らしく響いた指パッチン。
小柄な目つきの悪い馬、大きな、額にVの字はあるけどなんか影薄い馬、長い鬣のなんとなくカッコいい馬、毛並みが艶々とした馬が門の前に集結します。
「そしてェエーッ!!!」
一瞬バックに幽波紋の如く現れる宇宙処理機<コスモ・プロセッサ>。
それは、4頭の後ろにカボチャ型の見事な馬車を生み出しました。当然ながらぐけけけけと笑っています。
「さぁ、逝きたまえッ!!!王子が君を待っているぞッ!?12時なったらそれらは宇宙意思の介入で解けてしまうっ!!それまでには帰るようにっ!!」
「…漢字が間違ってる気もしますが…有難う御座いました、変態さん!」
素で言っちゃうシンデレラおキヌちゃん。魔法使いアシュタロスは、サムズアップサインと凄まじくイイ笑顔のまま――落下。
「王子ピートよ…誰かと踊る気はないのか?」
公彦王様が言いました。鉄仮面をかぶったその姿は中々アレですが、ま、その辺無視で。
王子ピートは頷き、ありません、と言いました。
「何故なら僕は…」
ピートの視線は、ただ一人に向けられていました。
そう――
ウェイター陰念に。
「ってさすがに違いますよ!その後ろ!!その後ろです!」
貴族横島忠夫に。
「王子ピート」
「なんですか公彦王様」
「カミングアウトは止めておけ」
結局王子ピートは熱烈な視線を送ってくる姉エミに気付きませんでした。
さて、こちらはお城についたシンデレラおキヌちゃん。
「有難う、皆」
4頭の馬に礼を言い、彼女は走り始めます。既に10時を回っています。もう、時間は余りありません。
「急がなくっちゃ…」
シンデレラおキヌちゃん、長い階段をハイヒールのガラスの靴で上っていきます。
ガラスですので、どう考えても靴擦れを起こしそうなものなのですが。
ギィ、と大きなドアが開かれます。
シンデレラおキヌちゃん、必死で我慢してきたおキヌちゃん。
いよいよ、晴れ舞台でした。
入った途端、数人の視線がこちらに向けられ。
それにつられる様に、ほぼ全員がこちらを向いたまま動かなくなりました。無論生きてはいます。
それほどまでに、彼女は美しかったのです。
皆が動けぬ中。
一人の青年が、名乗りを上げました。
「美しい美しいおキヌちゃん。俺と一緒に踊ってくれるかな?」
貴族横島忠夫でした。
彼女はもう夢見心地で、再開した音楽に乗って彼と踊ります。
曲の終わりに、顔が近づき――
「と言う初夢を見ちゃって…その…」
所長室。美神とキヌの二人だけがここに居る。
美神はなんとなくまたかと言うような顔をしていたが、ふぅとため息をつき。
「全く、あたしは人生相談所じゃないんだけどなー…」
どうしたものかな、と思案に暮れていた。
まずは、相手に気付かせる事から始めるべきだろう――彼女は、言葉をまとめ始めた。
<おまけ>
貴族横島とシンデレラおキヌちゃんは紆余曲折の末結婚しました。
姉美神との壮絶な取り合いの末の勝利です。
そして、神父は――
サル。