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▽レス始

「Silent the ninth tale.(GS)」

zokuto (2004-12-25 12:07)


     silent the ninth tale.


 私は彼を見ていた。

 ずっと、ずっと見ていた。

 美神さんやルシオラさんがいても、私は横島さんを見ていた。

 幽霊だったときも、生き返ったときも、ネクロマンサーの笛で霊を慰めているときも。

 ずっとずっと見てきた。


 けど、横島さんは私のことを見てくれなかった。

 たしかに目では見てくれたけれども、心では見てくれなかった。


 美神さんのように体格がいいわけじゃない。

 ルシオラさんのように命を投げ捨てようとしたことはある。


 けど、横島さんの心にはルシオラさんと美神さんの二人が共存しているだけ。

 耐え難い苦痛、こらえられない苦悩。


 最近の美神さんは横島さんに心を開いてきた。

 二人が結ばれるのも時間の問題。

 それが嫌だというわけじゃないけど、私の気持ちはどうなってしまうのか。

 今まで感じた事のない理不尽極まりない怒り、それが止められない。

 いくら今から横島さんに積極的になってモーションをかけたとしても、もうダメ。

 彼の心の中に入る余地なんてない、私のことはもう女として見てくれない。

 彼は私を妹のような感情しか持っていなくて、それで安心していた過去の自分が憎い。

 横島さんを兄のように思うという間違った感情なんて要らなかった。


 もう幸せは訪れない。


 私はゆっくりと身を引くしかない。

 

 傷ついた心を癒やすため、ネクロマンサーの笛を吹く。

 その音色に呼ばれて、集まってくる近所の幽霊さん達。

 一層高らかに笛を吹くと、幽霊さん達は踊る、歌う、回る。

 今、この世界に留まれていることの嬉しさ、楽しさを体で、声で、動きで表す。

 楽しい、嬉しい。

 その声が私のキズを癒して、そして新しいキズを作り出す。

 いたちごっこは終わらない。

 終わらないいたちごっこ。


 未だ嘗てない高揚、熱心に笛を吹くだけに心を傾ける。

 息が切れ、顔が火照り、精神が昂ぶり。

 ついに最高潮になったとき、幽霊さんの全てが……私を包み込んだ。

 

 ふっ、と重力がなくなったような感覚。

 私と周りの世界との無くなった間隔。

 私の制御無しで音を鳴らす管楽。

 
 心地よくも、気持ち悪くもない浮遊感。

 何がいいのか、何が悪いのか、不鮮明になった価値観。


 そんな世界に、私はいた。

 知り合いの幽霊のおじいさんの声、ジェームズ伝次郎さんの声。

 そのほかにもたくさんの幽霊さん達の声。

 色々な意識と、色々な感情を触れる。

 それが一体何を意味するのか、わからない。

 そもそも意味という意味があるのかすらわからない。

 すべての物と私の心が融和した瞬間、目の前の世界が晴れ渡った。


 まず最初に見えた光景は、私の部屋とは似ても似つかない部屋。


「欲望に焼かれしものよ、我が部屋にようこそ」

 赤い塊が言った。

「色欲に溺れしものよ、我が部屋にようこそ」

 青い塊が言った。

「憎悪に飲み込まれしものよ、我が部屋にようこそ」

 黒い塊が言った。

「嫉妬に狂いしものよ、我が部屋にようこそ」

 白い塊が言った。

「邪悪なるものよ、我が部屋にようこそ」

 透明の塊が言った。


「汝は何故、欲を望むか。 欲は業、欲は罪。 なぜ汝が望む物は欲か?」

 答えることはできない。

「我が炎で汝を焼こう。 我は汝の業・罪の炎なり。 汝を焦がし、崩すものなり」


「汝は何故、色を求むるか。 色は罪、色は悪。 なぜ汝が求むる物は色か?」

 答えることはできない。

「我が力で汝を流そう。 我は汝の罪・悪の流れなり。 汝を飲み込み、崩すものなり」


「汝は何故、憎を嗜むのか。 憎は悪、憎は死。 なぜ汝が嗜む物は憎か?」

 答えることはできない。

「我が力で汝を染めよう。 我は汝の悪・死の染め具なり。 汝を汚し、崩すものなり」


「汝は何故、………………。 ………、………。 …………………………?」

 ……ることはでき……。

「……………で辱めよう。 我は汝…………………………。 ……………………、…すものなり」


「汝は何故、邪なるものであるか! 邪は毒、邪は壊。 なぜ汝は邪なるものか?」

 答えることはできない。

「我が力で汝を滅ぼそう。 我は汝の毒・壊の庫なり。 汝を殺し、崩すものなり」


 すべての塊が床に落ち、ベトベトと這いずりまわる。

 苦悶の踊りを踊り、苦しみの歌を歌い、自らを讃美する。

 それぞれが混じりあい、独特の色合いを作りだし、己を殺す。


 そして最後に私を飲み込んだ。

 耳を閉ざしたくなる感情。

 エモーション。


 散文的な内容。

 

 

 最後に、幽霊さん達の声が……聞こえた。

 

 「ありがとう」

 


「――行っちゃったわよ! 会ったらナンパするんじゃなかったの?」

 栗色の髪の女性が言った。

 赤いオープンカーのドアの上に腰をかけ、大きめのサングラスで目を隠し、背後の青年に言った。

「い…いや、なんか…急に… ガソリンが目に染みて……」

 涙を浮かべる青年。

 彼は何故泣いているのか。

 ガソリンのせいではあるまい。

「幸せそうじゃない」

「そうっすね」

 今しがた通り過ぎた女子高生。

 青がかかった長髪で、黒いセーラー服を着て、自転車をこいでいった。

「……もう帰る?」

「そうっすね」

 ダム、ダムと音を立て、オープンカーのドアが閉まる。

 ゆっくりとエンジンがかかり、発車のために動き出す。

 まるで逃げるかのように。

「待ってくださいっ!!」

 猛スピードで自転車が舞い戻る。

 華奢な体からは考えられない力で走ってくる。

 途中、自転車が躓き横転するも、まるで何もなかったかのように搭乗者は動く。

「あ、あの……お、お茶で、お茶でも……」

 額を切り、血が溢れ、唇は震えている。

 そんな中、必死に紡がれた言葉。

 青年は横にいた女性にこづかれ、驚きを隠せない。

「……す、好きですっ! 付き合って下さいっ!」

 何も考えない、何も考えようとしない。

「え、いやあの。 本当に好きなんですっ! さっき横目で見ただけなんですけど、本当にッ! 今まで誰も……好きになったことなんてなかったのに。 死にそうなくらい、貴方が好きなんですっ!」


 歴史が変わる、歴史が変わる。

 新しく歴史が変わる。

 何が原因か、何が要因か、それは誰にもわからない。

 欲望に焦がされたもののせいか。

 色欲に溺れたもののせいか。

 憎悪に汚されたもののせいか。

 嫉妬に身をやつしたもののせいか。

 邪悪に殺されたもののせいか。

 何が原因か、何が要因か、それは誰にもわからない。

 新しく歴史が変わる。

 歴史が変わる、歴史が変わる。


 ただ、苦しみをつげる鐘が誰の心の中でも鳴り響いていることだけが確か。

 殺されたものが居ることが確か。


 歴史が変わったことに賞賛の声が上がり、歴史がかわったことに非難の声が上がる。

 たったひとつの奇跡、他の人に言い変えれば天災。

 

 
 ……こうして、今回も世界が救われることになる。

 

 とりあえず、私からは『幸溢れる未来へ』と祈っておくことにする。

 

 

 

 
          終わり

 

 

 

 

 

       後書き


 えーと、zokutoです。

 別名、orzokutoです。

 とりあえず、くずおれながら出来ました。

 普通に一話完結おキヌちゃん逆行SSSが書きたかったんです。

 逆行して、横島とラブラブ……前半も幸薄かったけど、後半は別の意味で幸薄かったよね、おキヌちゃんとかそんな感情から書きました。

 でも何故か、変な方向へ走ってしまった。

 ま、いっか、最後ラブだし。

 ……よかないですか、そうですか。

 この自分勝手、ざまあみろとか言わないで下さい、ボク、ひ弱なんで(何


 内容がよくわからないのは仕様です。

 一応、これこれこうなってこうなったからこうなった、ということはzokutoはちゃんと考えて書きました。

 けど、どちらかというと、読んでくださった方の解釈でこの話を補完してください。

 よく分からない部屋がなんだとか、変な塊の話だとか。

 そんでもって、その解釈は自分の心に閉まっておいてください。

 個々のものが誰にも染められぬよう、そして染めぬように。

 彼、彼女の未来、または最後の文の『私』の正体。

 これらは、誰のものでもないように……。


 沈黙の九つ目のお話でした。


△記事頭

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