12月も半ばにさしかかったある日。彼、横島忠夫君は悩んでいた。もうそろそろクリスマス、自分が所属する美神令子除霊事務所のメンバーに渡すプレゼントをどうしたものか・・・・・
ちょっと前までとは違いおキヌちゃんが人間になりシロとタマモが加わった。都合四人の美女、美少女達にあげなくてはいけない。しかし彼は相変わらず貧乏だった。
金はないが男として皆が喜び感心するようなものをプレゼントしたい。しかしなまじ実力がついてきたせいでいつかの織姫の服のときのような労力を犠牲にするような暇もなかったりする。
「こまったなー。しょうがない、ちょっと情けないけど本人に聞いてみるか」
それでも一応『サンタクロースにプレゼントをもらえるとしたらどんな物が良い?』という間接的な質問をすることにした。
<シロの場合>
「さんたくろーす?それは一体なんでござるか?」
まだまだ人間社会の風習に疎いシロにクリスマスやらサンタクロースについて簡単に説明する。
「それならプレゼントはさんぽが良いでござる!」
「いやそうじゃなくて・・・散歩はプレゼントできんだろうが」
「さんたくろーすのプレゼントが先生とのさんぽなら大丈夫でござる!」
(だめだ・・根本的に何か間違えとる。参考にはならないなー)
横島はとりあえずシロを言いくるめて次の聞きこみに向かった。
<タマモの場合>
「プレゼント?何かくれるの?」
シロと同様クリスマスを知らないタマモにも同様の説明をしてあげる。ただし相手の方はやる気なさげでマンガ本から目を離すことなく聞いていたりする。
タマモは少しばかり考えて答えをだした。
「あぶらあげ」
「え、えーと他には?」
「じゃあきつねうどん」
「あの・・もっとクリスマスっぽいのはないかな?」
「うるさいわねー。それじゃいなり寿司でいいわ」
確かに横島にはありがたいぐらいお手軽な金額のプレゼントではあるが、朝起きたら枕元に湯気の立つきつねうどんが置いてあったって・・・・・・何か違うのではなかろうか?
(だめだ、タマモも参考にならん!)
苦悩する横島は次なるターゲットの所へ向かった。
<おキヌちゃんの場合>
(美神令子除霊事務所の良心、おキヌちゃんなら大丈夫だろう♪)
「え?サンタさんからのプレゼントですか?」
「そうそう。貰えるとしたら何が良い?」
「あのぉー私はサンタさんからプレゼントは貰えませんから別に・・・」
「え!何で?」
「だってあのお爺さん子供にしかプレゼントは配らないんでしょう?忙しそうだしそう何度もここにはこないと思いますし・・・」
一瞬なんの事か分からなかったが大変なことを思い出してしまった。
(そうだった!おキヌちゃんと美神さんは本物のサンタクロースに会ったことがあるんだった!)
そう、横島と美神と幽霊だった頃のおキヌちゃんは事務所の結界に衝突したサンタクロースと遭遇し、そのお手伝いをしたことがあったのだ。
普通なら夢を与えるような(?)この質問も、あのイメージぶち壊しのじーさんと会っていればまったくの無意味である。
(あのくそジジィ余計な事を・・・・)
「私は別にどんなものでもかまいませんよ?横島さんもお財布の方大変だろうし・・・・」
(し、しかも見透かされとる!でもおキヌちゃん、優しさにあふれた言葉だけどどんなものでもかまわないってのが今一番しんどいだよ〜)
横島はおキヌちゃんに一言お礼を言うと、敗残兵のように重い体を引きずってその場を立ち去った。
体が重いのは他にも理由がある。最後に残ったのが”あの”美神令子だからである。
<美神令子の場合>
(はぁー気が重いなぁ。でも美神さんだけに聞かない訳にはいかないし・・。もしかするとあれでも最年長者だ、何か気のきいた事言ってくれるかもしれないしな)
「現金!」
(やっぱりこれか!俺が甘かった・・・)
「じゃなかったら宝石か株券か、不動産は今あんまりお勧めではないわねー」
「あのもうちょっと普通の実現可能そうなものは・・・・」
ガックリと肩を落としてそうお願いする横島に、美神はニヤリと悪そうな笑みを浮かべると逆に質問してきた。
「横島君。あんた他の連中にも同じような事を聞いてまわっているそうじゃない?」
「え!?あのぉーその・・・なんと言うか・・・・」
「そうねー実現可能そうで私が喜ぶプレゼントって言うんなら・・・・一年間タダ働きしてくれる助手なんて良いわねぇ?」
(ちくしょー、見透かされてるどころじゃなく全部知っててそうゆー事言うか普通!このねーちゃんいつか地獄へ落ちるぞ!)
しかし横島は考えるのをやめた。
頭の中で地獄へ行っても閻魔大王に成り代わり地獄の女王として君臨する美神の姿を思い浮かべてしまったからである。
なんと恐ろしい想像だ!絶対にありえないと言えない所が恐ろしい・・・・。
あわれ横島君は泣きながらその場から逃げ出した。
(あーあ、とんだ無駄足だったなぁ。どうしようプレゼント・・・・・)
四人に聞きに行っても結局何の参考にもならず、むしろ精神的なダメージをおってしまった。
そしてなーんにも決まらないまま時間だけが過ぎ、ついにクリスマスパーティー前日になってしまったのである。
「あーもうどうする!?あれだけ色々聞きに行ってかえって適当なものは贈れなくなったきがするぞ?」
自分のボロアパートで独り悩む横島だったがそもそも女性の好みなど知らない男である。良い考えなど自力ではまったく思いつかない。
全部投げ出してしまいたくなり体を大の字にして寝転がると、ふと今までつけっぱなしにしていたテレビの音が耳に入ってきた。
『やっぱり暖冬の影響でしょうか、明日のクルスマスイブは快晴で気温も10月下旬並みの暖かさとなりそうです。屋外でデートする人達には嬉しい天候かもしれませんね♪』
テレビでは今人気のお天気キャスターが明るい声で天気予報を伝えていた。
それを聞いた横島はふいにとインスピレーションが浮かんだ。
「クリスマス・・・・・天気・・・・・・・そうだ!よーしこれでいけるぞ!」
クリスマスイブ当日の夜、美神令子除霊事務所はクリスマスツリーが飾られて華やかなパーティー会場と変わっていた。
テーブルの上にはおキヌちゃんの力作クリスマス料理が並べられその間にはキャビアやドンペリなど高級品が置かれている。
今回の料理の食材や飲み物、大きなクリスマスツリー、それら全ては美神がスポンサーである。
美神令子という女性は自分からはとびきり素直じゃないので決してクリスマスパーティーをやりたいなどとは言わない(むしろ面倒くさい、自分は関係ないと表面上は言う可能性大)が、実はこういうお祭りが大スキなのである。
守銭奴とか冷血女になりきれないこのあたりが彼女の憎めないところである。
子供のように(実際子供なのだが)好奇心旺盛なシロも、デジャブーランドのように無意味に楽しいものが好きなタマモも素直に楽しんでいた。
二人ともイエス・キリストの誕生日などとはまったく気にしていないが、それは多くの日本人が同じなのでまあいいだろう。
さて、宴もたけなわとなりいよいよプレゼント交換となった。
それぞれ自分なりに考えたプレゼントを交換していく中、横島一人が何も持っていない。
「何よ横島君、あれだけ皆に聞きに来て用意していないわけ?」
不機嫌さを隠さず美神が問うと、横島は待ってましたとばかりに立ち上がる。
「ちょっと待っててください、今これぞクリスマス!ってプレゼントを出しますので」
そう言うと彼はおもむろに今日着てきたダウンジャケットを身につけ、突然事務所の窓から飛び降りたのだ。
「「「「あっ!」」」」
驚いて他の四人が窓のそばまで駆け寄ると、横島は地面に激突する直前に文珠を発動して空高く舞い上がった。
横島は垂直にぐんぐん上昇していき、まさに雲の上の世界というぐらいの高度まで達していた。
「よし、このぐらいでいいだろう!しかしさすがに寒いなぁ・・・」
寒さに体を振るわせながら文珠をポケットから取り出す。
そして・・・・・『雪』という文字を文珠にこめて空中に放り投げた。
『雪』の文珠は落下しながら雪雲へと姿を変えていく。間髪いれず次々と同様に『雪』文珠を投げ込む。
その数10個、最近レベルアップして文珠を使わなくても除霊が出来るようになってきたのでストックがいっぱいあったのだ。もっとも超霊能力である文珠をこんな事に10個も使うと言うのは贅沢な行動といえるのだが・・・。
「うわぁー雪でござる!」
「もしかしてこれが横島さんのプレゼント?」
天気予報では降る事はないと言われていた雪が、しかもこの事務所の周辺だけに限定されて降ってきた。四人の女性は驚きの声をあげた。
「はっはっは。どうですか?俺のプレゼントは」
一仕事終えて戻ってきた横島を女性人は暖かく迎えてくれた。素直じゃなく滅多に横島をほめない美神とタマモも
「横島君にしてはなかなかやるじゃない♪」
「私寒いのは嫌いだけど今日は雪も良いかもね」
とご満悦の様子である。
こうして横島は何とか面目を保つ事ができた。その後クリスマスパーティーは大いに盛り上がり朝まで続くのであった。
―翌朝―
昨日ご機嫌をとったせいか事務所に泊まっていく事を許された横島はおキヌちゃんの悲鳴で起こされる事となった。
他のメンバーも眠い目をこすりながら、何事かとやってくる。
「あ、あれ・・・・窓・・・・・・」
「?」
おキヌちゃんの指差す方向、窓の外を見るとそこには信じられない光景が・・・・・・
「な、なんじゃこりゃああ!!」
あたり一面が雪!雪!雪! 豪雪地帯顔負けの量で二階の窓に達しようかという高さまで積もっている。しかもである、良く見ると遠くの方はまったく積もっておらず美神除霊事務所の周辺”だけ”という超局地的に限定されているのである。
横島は自分の文珠という能力の凄さを甘く見ていた。有史以来で見ても能力者が数人しかいない特殊中の特殊であるだけでなく、それを10個も使ったのだから超自然的な結果になってもおかしくわない。
はっきりいってなんでもありの能力である(笑)
事務所の半径数10メートル内だけを豪雪地帯とかした珍事は、周辺住民に「こんな事を起こせるのはあいつらしかいない」との結論を出させる事となり一斉に苦情の電話が殺到する事態となった。
「このボケ!なんて事してくれたのよ!責任取りなさい!!」
「かんにんや〜悪気はなかったんやー(泣)」
忙しく苦情の電話に受け応えしているおキヌちゃんの後ろで、美神が横島を折檻している。商業店舗などからは損害賠償を求める声が出てきている。余計な出費は美神を激怒させるのに十分な理由であった。おまけに文珠10個の無駄使いがばれてさらに怒りを増大させた。
いつも通りのような気もするが、狂乱する人間達3人の悲喜劇を見て獣っこコンビのシロとタマモは呆れていた。
「くぅーん。これでは先生はメリークリスマスではなく、めりーくるしみますでござるな・・・・」
「だめよシロ!人間世界ではそういうくだらないダジャレを言う奴は”オヤジ”に分類されるのよ!」
「お、おやじはいやでござるなぁー」
今日はクリスマス、人々が幸せを願う大切な日。
世界は今日も平和であった・・・・
おしまい♪