伊達雪之丞と弓かおりの二人は去年のクリスマスに横島の友人グループとおキヌちゃんの友人グループとで合コンをした時に生まれたカップルである。
その後喧嘩(はたから見れば痴話喧嘩であるが)をしながらも順調に交際を重ね、今日の交際一周年、つまりクリスマスの日を迎えたわけである。
人間と言うものは元来薄情な生き物なのか、つがいの相手を見つけてしまえば悪友達と一緒に過ごす気になどならないものである。
つまり今年は二人っきりでこの聖なる日を満喫しようという事だ。
雪之丞とかおりは基本的に趣味も考え方も生活習慣もまったく合わないカップルである。
自分と正反対だからこそひかれ合うという事なのかもしれないが、おかげでデートのたびに見たい映画や食べたいもので喧嘩をしているのだ。
今日は年に一度のクリスマスである。今日ぐらいは喧嘩もせずにラブラブ(死語?)な一日を過ごしたい、と言う事でお互いが妥協案を示した。
すなわち
『昼食を含む昼間の行動は雪之丞が、夕食を含む夕方以降の行動はかおりが計画を立てる』
というものであった。
待ち合わせ以外は当日までお互いのプランを知らないと言うのはサプライズパーティーのようで思ったよりもドキドキするものである。楽しみと不安がごちゃ混ぜになりいつもとは違った気分にさせてくれるのだ。
さて、昼間のデートは雪之丞のプラン。
弓はこの男に任せきったらとんでもないものになるのではと危惧していたが、意外にも今話題のラブストーリー映画を見て、クリスマス一色に染まった町の中をウインドウショッピング。昼食もリーズナブルな値段だがおしゃれな雰囲気の創作料理のお店、という完全にかおり好みのものであった。
こういう特別なイベントで彼女の”ツボ”をはずさず、さりげなくやってのける所が雪之丞の良いところである。友人のもてるくせに鈍感な男や優しいけれど空回りする大男とは一味違う。
美味しい食事を堪能し、プレゼントも交換して ―雪之丞からはネックレス。かおりからはちょっと見た目は悪いが心のこもった手編みのマフラーだった― 雪之丞はどうやら自分のプランがお気に召してもらえたとほっと胸をなで下ろしていた。
後半戦のかおりプランはイルミネーションで彩られた町の夜景を高台から堪能する。というこれまたありきたりな高校生のデートであった。そしていよいよ夕食、という時間になって
「ちょっと距離があるからタクシーで行きましょう。私がお金をだすから」
かおりはそう切り出してきた。まあクリスマスぐらいは普段行かないような所で食事も良いだろうと快く了承する雪之丞。
タクシーは20分ほど走りかおりが指定した場所に止まる。
暗がりに見えるシルエットからして純和風な建物である。かなり大きな敷地だ。
(もしかして料亭ってやつか?いやそれにしては・・・・)
などと考えていると
「さあどうぞ、お入りになって」
と声をかけられる。大きな門をくぐって中に入ろうかと思った瞬間。ある看板が目に入った。
『闘龍寺』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?」
頭の中の整理がつかない雪之丞はかおりに手を引っ張られて家の中に入っていく。そして広い家の中を進んでいくとある一室にたどり着いた。ふすまを開けると・・・・・・・
「ようこそいらっしゃいました雪之丞さん♪」
「・・・・・・・・・・・」
そこには中年の男性と女性がすっかりご馳走の準備をして座っていた。もっとも女性の方は楽しそうに。男性の方は明らかに不機嫌そうであったが。
「え?あの・・・・あれ?」
「雪之丞。私の父と母よ♪」
雪之丞はようやく気がついた。これはいわゆる『彼女の家でご両親にご挨拶』のシチュエーションである。
後ろを振り向くと退路をふさぐように閉じられたふすまと、目を光らせて微笑むかおりの姿が・・・・・・
(は、はめられた!?)
とてつもないサプライズパーティーである。小○首相の組閣人事より驚きだ!(笑)
しかも今目の前で自分にはまったく覚えのない『雪之丞から』というお土産までかおりの手から母親に手渡されている。
『かおりの婿養子大作戦』の発動だ!(笑)
その後雪之丞は楽しそうに二人のなれそめを聞いてくるかおりママと、殺意のこもった目でにらみながら質問、と言うより尋問をしてくるかおりパパに数時間に及ぶ拘束を受ける事となった。
一生分の冷や汗を流す雪之丞に比べてご満悦のかおりは終始笑顔が絶えなかった。それは『婿養子大作戦』の第一弾が成功したという事だけでなく、自慢の彼氏を正式に両親に紹介できたという純粋な心も含まれていると推察する。っていうかそう思いたい(笑)
恋人達の聖夜はこうして幸せに過ぎていくのであった・・・・・・
おしまい♪