今日は1年に一度の日。
ドライクリーニング不可の耐熱耐冷気耐衝撃性の優れた特別の服を着て、それと同じ色の帽子をかぶる。
長い長い紫色の髪を束ね、邪魔にならないように帽子の中にいれる。
懐には中身が詰まった白い袋を持ち、土偶型ナビゲーションを座席元に設置。
しっかりとした木の座席に腰をかけ、この乗り物の動力源と直結したたずなを掴む。
初運転だというのに、マシンは快調。
三日連続で徹夜した疲れも、これから起きることを想像すれば苦痛ではない。
スピードの調整をするたずなを握る力を強くする。
すると、このマシンがグオンと音を立て加速度が急激に上昇した。
人間が作るいかな機械でさえ、このマシンより速く走れるものはない。
勿論、小回りも遥か優れている。
180°スピンだろうがなんだろうが行おうと思えば、ちょっとしたハンドル操作だけで自由自在。
まったく、私の愛車は素晴らしい。
山を越え、やがて人家の明かりが見えてくる。
みんな幸せそうに光り輝いている。
それをじっと上空から見つめる私。
その光景を見ていたら、ふと愛しのあの人のことを思い出した。
「……あいつは今、一体何をしているのだろうか」
行き場の無い気持ちが、溜息とともに口から溢れてくる。
切ない気持ちが排出され、かわりに念願の再会が果たせることの喜びが沸きあがった。
たずなを引き絞ると、スピードと強烈なGが私を襲う。
だが、血を吐くほどの訓練を毎日怠ってきていなかった私にはその感覚すら心地よい。
「風が気持ちいいな……」
かけていたサングラスが風圧に耐え切れなくなって吹き飛ぶ。
まあいい、予備はたくさん持ってきている。
アシュファルトで固められた地面を、私と私を載せたソリとソリの動力源である高速移動用魔造生物『TONAKAI』が駆けて行く。
対向車なるものは全て、ソリのパワーで弾き飛ばした。
ちんたらちんたら走っているちんけなものなど、存在する必要など無い。
全ての魔族や神族達に追われる私は、深い深い山奥に篭もり、今日という日を待ちわびていた。
追っ手から察知されぬように自己の力を封印し、ただ黙々とあの人への想いを深める日々。
辛かった、辛かった。
辛くて、泣き出しそうになった日もあった。
そして、限界が来た。
限界まで来て導かれた解答は、クリスマスという今日の日にあいつにこの胸の想いを遂げる。
……神に謀判した私が、宗教上に存在するクリスマスなる祭りに恋を告げることなんてなんて愚かしいことだと思う。
そして思いを告げられた後、私は間違い無く八つ裂きにされてしまうだろう。
だけどこの辛い思いが無くならないのなら、気が狂ってしまう。
「どうか、彼に会えるまで死ぬことはありませんように」
別のシチュエーションであればつまらないジョークであるその台詞が、とてもイヤな現実味を出し、知らず知らずに祈らざるを得なくなった。
今にも手を組み合わせ懺悔をしかねないのを必死に思いとどまり、代わりに思いっきり足元のペダルを思いっきり踏みつける。
「……超加速ブースト、オンッ!!」
韋駄天一族にしか使えないという秘技、『超加速』
実際には人間とは関係を持たず修行に明け暮れる神魔か、格別に力の強い者は使える技。
私は、修行と知識を持ってその実現化に成功した。
機械音と少しのブレがソリを揺らす。
それに呼応するかのように、魔力が私の体の中から抜けていった。
マシンが保存していた魔力と私の魔力を吸い上げ、超加速モードに入ったのだ。
誰も入れない全てのものがゆっくり動く世界へと、私達は侵入した。
超加速空間にいる間では、私達は外に居る時間と同じ時間を鋭敏化した感覚で受け取る。
実質、私があの人に会える時間は絶対的に見れば変わらない。
けど、神や魔達の目はほんの少しだけれど誤魔化すことができる。
超加速モード突入前の地点はちょうど神と魔との勢力圏の狭間に開いた空白地帯。
そこの山に住んでいた間は見つかったりする心配はなかったが、ここからはもう違う。
超加速が切れた直後に、神族か魔族の介入が行われる。
迅速に敵を殲滅することを主とした精鋭部隊が両軍営から派遣されるのだ。
いくら私だとは言え、それらを相手にして勝つことは出来ない。
万が一勝ったとしても、息付く間もなく新手が現れる。
どうせ思いを伝えるのは一瞬だ、ならば彼に会って殺されることにしよう。
「く……もう少し距離を稼いでおかなければ……」
魔族特有の鋭い爪が掌に突き刺さり、紫色の血がポタリポタリと床に落ちる。
不安からか強く手を握り締めすぎた。
やがて、白黒の世界が再び色を取り戻した。
そして迫り来る神族の一派。
星が輝く空を埋め尽くすかのような数。
次々と空間転移を行い、毎秒毎秒無数に出現してくる。
「止まれ! 止まらないと完全滅殺することになるぞ」
ヒエラルキーの低層でありながら強い力を持つアークエンジェルの軍団。
それの中の首領が叫ぶ。
神の右手と呼ばれる者だ。
私は制止の声を無視して、TONAKAIを飛ばす。
ある程度なら対応できる。
TONAKAIとこのソリの武装は伊達じゃない。
「かかってこい、この表六玉どもめ!!」
悪態をつくと同時に、TONAKAIの頭とソリの側面から機関砲が二門ずつ露出する。
それだけではなく、ソリ後方にロケットブーストが現れすぐにイグニッション。
比較しようのないGが全身を襲う。
勿論、音速などとうの昔に突破し、衝撃波があたりの木々をなぎ倒していく。
「ファイアーっ」
掛け声とともにロケットブーストはより出力を増し、全六門の機関砲からは弾丸が。
猛り声と共に特殊な弾がアークエンジェルの壁を崩していく。
赤いソリに赤いTONAKAI、そして赤い搭乗者である私。
見る人が見れば通常の三倍の性能があるこれ。
一点集中攻撃が功を制したのか、私は壁の向こう側を見た。
「逃がすなっ! すぐに追撃に移れっ!」
背後からは天使の長の声。
もはや、私の目でも辺りの様子を見ることができないほどのスピード。
バカな天使が機関砲の射程に入って自動追尾され、撃ち落されるのがレーダーによってかろうじてわかる。
「はっはっはァ! 高機動型ソリはこちらにもあるぞ。 サンタが出張ってるからと言って、こちらにも……機体が……」
追撃にきた白いソリ。
近づいてきた所を右門の機関砲のセンサーが反応して、そのまま相手の反重力システムを打ち抜く。
ガクンと高度を落とし、グラグラと揺れるソリ。
「くっ、まだだ。 まだメインエンジンがやられただけだ!」
だが、メインエンジンがやられるとソリは落ちるものだ。
事実、落ちて爆発炎上した。
「ふっ、バカが」
一層スピードを上げ、誰も追い付くどころか発見できぬようにする。
遠くで流れ星が見えた。
天使も悪魔も、すべて振り切った。
私の通った道は死屍累々。
思ったよりかは遥かにあっけない。
だが、このことは神に感謝すべきことであろう。
ソリのスピードが落ち、目的地に近づいた事を知らせる。
目的地は、彼の家。
寒さでバリバリになった紫色の私の髪の毛を、てぐしで柔らかくする。
彼に会うのだから当然の身だしなみ。
彼の家に煙突はない。
だから私というサンタは窓をこんこんと叩いて、こちらを覗いてきたときをキスチャンスとして狙わなければならない。
そして……
コンコン
「ん? なんだ?」
ガラガラと窓が開けられる。
彼の瞳には、ソリの上に乗って彼を見つめている私の顔が。
Chu♪
驚きが隠せない、彼の顔。
それもその通り、彼の命を一度ではなく何度も奪おうとしていた私が目の前に居るのだから。
「ヨコシマ……あんたのこと、好きだよ……」
冷たい、白い息とともに出される私の心。
暖かい、白い感情で満たされた私の心。
空では星が、私の心のように輝いていた。
「アシュタローーーーーーーーーーーーーッス!!! 死ね! 俺の唇奪いやがって、死にやがれっ」
「なんでだヨコシマっ! 私は……私はこんなに君を愛しているというのにッ!!」
「ええい、死ね死ね死ね死ねーーーーっ!!!」
「あ、そうか、小学生の恋というやつか。 好きな相手にはいじわるをするという」
「誰がじゃーーーーっ!!」
ギャフン♪
後書き
でました、伝家の宝刀『ギャフン♪』
いやだからどうしたというわけではないのですが、久々の壊れアシュでした。
全盛期がちょうど1年前で、SS作家間にこの変態魔神の同盟なるものも存在しておりました。
一応、それの末席として存在していたのがボクですが、今回はいかがだったでしょう。
壊れアシュというのは内輪ネタではありますが、ボク、このバカっぽいアシュが好きなんです。
え? 最初はメドーサかと思ったって?
いやぁ、壊れアシュですよ。
え? アシュファルトってなんだって?
大丈夫、ただのサブミナルです(何
というわけで、(一日早いけど)クリスマス記念SSでした。
チャットでの宿題終えましたからね~、翔〇ん。
では。