今、一人の男性が三十九年と言う短い生涯を閉じ様としている。
その男性の生涯は、彼が青年時代に愛した女性の様に儚く輝きながら、
生涯の伴侶だった女性の様に強く生きる物だった。
床に臥せる男性の周りには色んな種族の人達が佇んでいる。
人はもちろん、神族、魔族、妖怪と言った人では無い者達が。
集まった人達の数は軽く二十人を超えていた。
男性は知らせてなどいないと言うのにだ。
これだけで彼の人柄が分かるだろう。
男性は床に臥せながら、自分の生涯を思い返していた。
それは、死の直前に人が見ると言われている走馬灯なのだろう。
そして、極最近の出来事の所まで思い出を振り返った所で男性は、
閉じていた瞼をゆっくりと開き辺りを見回した。
男性の瞳には、自分の為に集まってくれた親しい者達の顔が代わる代わる映って行く。
その者達は全員が涙を我慢しながら、男性に微笑を向けていた。
集まった者達は、
自分がこの業界に入る切っ掛けになった女性。
その女性にそっくりな女性と少女。
その頃から一緒にいる女性。
自分を師と仰いでくれる女性。
何時の頃からか、自分を慕っていてくれたナインテールの女性。
生涯の親友だった三人。親友達の妻達。
自分の力を最初に見出し見守り続けてくれた女性。
その女性の付き人。
自分を戦士と認めてくれた姉弟。
何かに付けては衝突していた男性。
青年時代に格安で食事を食べさせてくれた女性。
アパート時代、隣に住んでいた女性。
何回も暴走に巻き込んでくれたが、何処か憎めない女性。
千年以上生きる老人と老人が創った魂を持ったアンドロイド。
高校の時に知り合った学校妖怪の女性。
親友の一人の師匠である神父。
そして、自分が嘗て愛した女性が転生した愛娘。
集まってくれた全員の微笑を見た男性も笑みを浮かべると、
もう喋る事すら辛いだろう。だが、短くも男性の全ての想いを含んだ言葉を紡いだ。
「皆、今までありがとう。最後に質問させて欲しい。なあ、皆は―――だったか?
俺は―――――だったよ。」
男性がその命の灯火を消す間際に言った言葉は、その一言と質問だけだった。
男性が言った言葉を聞いた全員が、今まで必死に我慢していた涙を流しながら頷く。
しかし、それを男性が見る事は無かった。
何故ならその時には既に男性の瞼は再び閉じられ、二度と開く事は無かったのだから。
その優しい眼差しは二度と人に向けられる事は無く。
何処か人に安らぎを感じさせる言の葉は聞かれる事は無く。
人の心を暖かくしてくれる微笑を浮かべる事も向ける事も無い。
男性はもう動かない。動いてくれない。
だが、男性はその場の全員に一つの言葉と、数々の思い出を残して旅立った。
男性が微笑みを浮かべながら全員に残した言葉。
それは・・・・・・
『なあ、皆は今幸せか?俺は皆のお蔭で本当に幸せだったよ』
あとがき
どうも、読んでくれた皆様ありがとうございます。
クリスマスと言う事で暖かい話では無いのですが、世間は幸せの絶頂です。
そんな街を夜空を見上げながら歩いていている時に、
『人の幸せって何だろう?』と思ったのが今回の話を書いた理由です。
人が浮かべる幸せって色々あると思います。
愛した女性と共に過ごす幸せや友人と馬鹿をやって笑い合う幸せ等。
それを書き表せたかは正直分かりません。
ただ、横島の幸せな最後は皆に見守られながら微笑んで旅立って行く事なんじゃ?
と、私は思ったんです。
最後に私から皆さんに質問です。
皆さんは幸せですか?
私は色んな人のお蔭で笑顔を浮かべる事が出来るので幸せです。