注:とある都合(名前が他の方の作品と被った)で空牙は晃牙と名前を変更させていただきました。以降は、晃牙で統一させていただきます。ご了承ください
Side:イシュタル
話は前回から少し遡る
「うーん、成分表を見る限り、もし原因があるとしたら・・・・・やっぱりこれか」
手元に出した紫の珠を見る
“魔界適合薬・プロトタイプα”には何を隠そう“力の方向性を100%コントロールする”力を持つこの珠を極小にしたものが入っている
この珠は文字をこめて発動をすると消えるが、逆に発動しない限りは消えないことに目をつけてこの試験薬を作ったのだ
「しかも飲んじゃったのが、あの子だしねえ」
記憶を覗いて見て、横島忠夫という人物が誰の“可能性”であるかは検討がついていた
見た時は、こんな人生もあったのかと驚いたものだが
恐らくは、自分の霊波が彼の霊波を狂わせて、結果女性化が起こったと見るべきであろう
「しっかしもう体内に入って影響がでてるとなると“中和”も難しいわよねえ」
かといって諦めるわけにはいかない。少なくとも、貧乏神の試練空間に繋がる宇宙の卵を閉じていなかったのはこちらの落ち度なのである
「となると、あたしの影響も消し去れるくらい本人に強くなってもらうしかないか・・・それでも確率は半々だけど、他にいい方法もなさそうだしね」
結論を出すと、次は具体的な修行計画を練る
「記憶を見る限り、素質はあたしと同じくらいあるけど、修行がね・・・。あたしの場合はメドにいに戦闘、父さんに知識は、教えてもらってるからなあ」
どちらも、これ以上は望めないほどの教師である
そんな彼らに教わってきた自分と、ずっと素人で霊能力に目覚めてまもない彼とを一緒にするのは酷と言うものだろう
「美神さんは、霊能力者としては優秀なんだけど、師匠にむいているかと言われれば、ねえ」
明らかに向いていないだろう
それでも、まだ美神と同じ除霊スタイルで、なおかつ向学心があれば違ったかもしれないが
「あの子は、元々GSになる気はなかったようだし。能力も特殊だわ」
それでも結果的には良かったのかもしれない
彼女の元で命の危機にさらされ続けることで、彼は伸びたのだから
「こうなってくると、下手に型を教えるよりも、実践系統の修行が有効か」
自分が習ったような武術の型は一朝一夕で見につくものではない
むしろ生半可にかじっているほうが危険だ
それよりも、頭の柔軟さを活かした状況判断と駆け引きの仕方
そして、イメージを現実にする力
「霊波刀にしろ、これから見につけるであろう能力にしろ、大事なのはイメージですもの」
単純に武器のレンジを変えるだけでも、戦闘には役に立つのだ
それに、破魔札や神通棍などの基本の道具でも、霊力をイメージどうりに収束させるのは重要なのである
「あの子達に伝えなきゃ。訓練メニューも相談して練らなきゃね♪」
望月にもたとえられる、妖しさと清冽さがない混ぜになった美貌が、喜色に染まる
実は彼女、人にものを教えるということを一度やって見たかったのだ
我が子の場合は自分も継いだばかりでばたばたしていたので、結局人任せにしてしまったし
「強くおなりなさい、横島忠夫。このあたしを超えられるくらいに……父さんを、解放できるくらいに」
Side:横島
「あ~ちくしょ、厄介だな、森ってのは」
何せ障害物が多いから、全力で走るには適していない
また、風景が変わらないので迷いやすい
「う~、確かにこれはいい訓練になるかも」
がさがさと草を踏み分けながら進む
ふっと自分の胸元が目に入ってしまって微妙に落ち込む
「何でご丁寧にリボン付」
セーラー服には外せないオプションだからだろう
「はっ、おちこんどったら向こうの思う壺!とっとと捕まえて、着替えを出させんと!ん?」
気合を入れて晃牙の姿を探して周りを見渡すと何かが目に入った
「……これは!」
近づいてみると、男が倒れていた
みれば、刀傷を負っている
僅かに、呼吸音が聞こえる
「まだ生きてる!」
“スカートと胸ポケットには治療用の札が一枚ずつ入っている”
脳裏にうかんだ晃牙の言葉を頼りに、服を探す
「あった!」
二つを重ねあわせ、傷口にかざす
「効いてくれ!」
思い出す、夢の中の特訓
イメージを現実にする感覚を、再現する
「……あっ!」
ぼうっと、札が青白い光をまとう
“治”癒の力が、男をおおう
傷が、徐々に塞がっていった
「母上!っ、これは」
いつまでたっても追ってくる気配がないことを、不審に思って様子を身に来た晃牙が息を呑む
「見てのとおりだ!お前も手伝ってくれ!」
横島の叫びに、晃牙は首を振る
「拙者の霊力は極端に低い、治療には役に立たぬ。代わりと言ってはなんだが、そこの御仁に手傷を負わせた犯人がまだ近くにいるはず。そちらを何とかしよう。それと、札の力で持ち直したようだから、これ以降はなるべく密着して、直接傷口に霊波を送り込んだほうが効果的だ」
言うなり、駆け出して行った
呼びとめようとした瞬間、件の男が目を覚ました
「う・・・シロ・・・」
うわごとを呟く
まだ意識がはっきりしていないらしい
「まだ怪我は治っていないんだ。じっとしてろ」
だいぶ顔色が戻った事にほっと一息つくと、言われたとおりに体を寄せる
男の頭をそっと抱え上げ、自分の膝の上に乗せる――いわゆる膝枕である――と、傷口に手を当てて霊波を注ぎ込む
「よっと、密着するってこんなもんかな?とにかく、酷い傷なんだ。無茶はするな」
囁きかけると、男はゆっくりと頷いた
隻眼の、時代錯誤な服装をした男だった
Side:晃牙
「まずいな」
横島からなるべく離れた場所に行きながら、晃牙は考える
「あの御仁はおそらく人狼。位置から考えても、あの傷を負わせたのは同じ人狼とみて間違いはないな」
この森の中には、人狼の里がある
幼いころから師に連れてこられ、馴れしたしんだ場所を修行場に選んだのだから間違いはない
地形の把握や地形を使った奇襲の仕方といった、ここで師から学んだことを、彼は教えるつもりだった
「参ったな。普段は里から出てこぬから問題はないと踏んだのだが、よりによって仲間内で争いが起きているとは」
彼は身体能力こそ兄妹のうちで一番高いが、霊力は横島に言ったとおり極端に低い
マイトにして、10マイト。一般人となんら代わらぬその霊力量は、魔人の息子としては致命的なものであった
故に、彼は一振りの霊刀だけを相棒として戦う
「“村雨”、久々にお前の出番のようだ」
鞘から引き抜き、語りかける
すべきことは、この身を囮として敵をひきつけること
準備を済ませ刀身を鞘に収めると、彼は自身の気を体外に放った
敵はすぐに現れた
「かような場所に人間の小僧がいるとはな。丁度良い、この“八房”の試し斬りをしてくれようぞ!」
すらりと抜かれる刀
禍々しい妖気が満ちる
「妖刀の類か。刀に頼らねば人間一人殺せんとは、人狼も落ちたものよな」
嘲りをにじませて相手を挑発しつつ、敵を見極める
(ああは言ったものの、この妖気ただごとではない。使い手の腕も、刀の力を殺さぬ程度にはあるようだな。厄介なことに)
「ふん、貴様ごとき我が牙と爪で十分なのだがな、この“八房”は血に飢えているゆえ、馳走してやらねばならん」
(“八房”!師匠が仰っていた、一振りで八度切りつけるという妖刀か!)
腰を低く落とし、柄に手をかける
「ほう、貴様も刀を使うか。しかもその構え、抜刀術の使い手か」
「語る言葉を持たぬ。互いに得物をもって対峙した以上、相手を知る手段は死合い以外になかろう」
殺気が目に見えるほどに高まっていく
「人間の小僧にしては、分かっておるではないか。そこまで言うのなら、この一撃受けてみよ!」
抜いたのは、相手が先だった
八つの斬撃が迫る
抜くは一度
ただ一撃を、敵の身に届かせる!
「・・・・・・かはっ!」
血を流して膝をついたのは晃牙の方だった
「見事なものだ。四つを避け、四つを受けながらもこの身に刀を届かせるとは」
晃牙の刀は、左肩を僅かに掠めただけだった
「しかも、まだ意識を保っているとはな。だが、これで最後だ」
男の言葉に、晃牙はくっとのどを鳴らす
「それで充分。お主こそ、悠長に喋っておってもよいのかな?」
致命傷は避けているとはいえ、かなりの重傷でありながら、晃牙の余裕は崩れない
「戯言を……くっ!おぬし、刀に何か…!」
焦るさまをみて、にやりと笑う
「ちと眠り薬をな。人狼と森で争うて勝てると思うほど、自惚れてはおらぬ。さて、はようせんと追っ手が来よう。いかにその刀が優れておっても、使い手のお主が眠りこけておれば何の意味も持たぬだろうて」
格上の相手に挑むときは、策と罠を用意しろ
これは、数少ない母の教えの一つだ
「拙者の名は犬飼ポチ!誇り高き犬神族の者だ!我が名を覚えておけ。この屈辱はきっと返す」
瞬く間に姿をけした人狼の姿を見送って、一息つく
「はっ、千夜に感謝、しなくては、な」
自分に新作の眠り薬を渡した弟を、今だけはありがたく思う
彼には、新作の薬を作ると兄妹に渡して効果を試させると言う習慣があった
本人曰く、主観を排した、客観的なデータが欲しいのだそうだ
ついでに、その眠り薬がたまたま塗り薬だったことも幸いした
「さて、この傷では、動けそうにも、ないな。助けを待つとするか」
そうして数刻後
犬神族の者達が駆けつけたとき
彼はただ静かに夕焼けを眺めていた
To be continued...
うっかり名前が被ったので、空牙君は晃牙君と名前変更に相成りました
シリーズとしては私のほうが後でしたし、シロの弟子と言うことで牙が入った名前にしたかっただけで、名前にも深い意味はありませんでしたから
混乱させるような事になってしまい、読んでくださっている皆様方には申し訳ないです
うう、今回は彼がメインなのに
バトルは辛かです。バトル書きじゃない身には
お子さん達の戦闘スタイルは、それぞれの師匠の影響が強いです
実際に親と絡んだ戦闘スタイルなのは、千夜くらいです(候補者二人)
代わりに彼は、趣味面で師匠の影響を受けていますが
後、実は親が男とは限らないんですよね。要は機能さえあればいいので、薬やら術やら何とかなりそうな気も
現在、イルだけが父親の決定しています
ヒントを言うと、人間です。他の候補者はタマモとピートでした
では、レス返しを
九尾様>次辺りでシロには会うと思います。霊能力に関しては、使えてなおかつ文珠以前が課題でした。文珠は便利すぎるので、他がおろそかになっちゃう気がするんですよね、どうしても
無貌の仮面様>おキヌちゃんに関しては、イメージよりも女性である必要性です。封印のための生贄は、やはり乙女が定番ですから
D,様>親と言うより、師匠ですね。魔界組は、親ではないとしているので
紫竜様>リッちゃんはリリスです。この呼び方は、本人(?)たっての希望らしいです
柳野雫様>あはは、狙われてるように見えますが、狙っている皆さんはどこまで本気なのやら?
思い出さなくても、夢は全て忘れてしまうわけではないので、ぼんやりとは残っているかと
彼は口調こそあんなんですが、中身は割と煩悩いっぱいの青少年なので(横島君程ではないが)
T城様>元々、この話は横島君を鍛えるというのが一つのテーマです。イシュタルは、美神さんとは相棒とか同業者とか、そんな感覚なので、師匠としての美神は知りません。ただ、向いてなさそうだなー、とは思ってます
18禁展開は、作者が書けないので、今のところその予定はありません