そして、”賽は投げられた”
獲物を狙うが如く UとYが平常を装い、Sの周りに近づいて行く。 Sはこの時、草食動物の様に気持ちをそばだて二人を警戒していた。
次の瞬間、間合いを詰めて、一斉に掴みかかるUとY。 Sの体は捕まり、椅子から引き倒される。 抵抗するS、 だが、もうこの二人には手馴れた行為だったろう。 抵抗も虚しく、Sの学生服のズボンが瞬く間にぬがされていく・・・
しかし、ここでUとYは唖然とする。 そこに現れたのは下着ではなく、 紺色をした「水泳パンツ」が履かれていたのだ。 それを見た瞬間、 Uが「あれ?なんだこれ?」と言ったのはある意味、名言だろう。 当然Uが「何でこんなもん履いているんだ?」とSに聞く。 「ホウキンをやられそうだと思ったから、何日か前から履いてきていたんだ」とS。 やはり自分達に危険が迫っていたのは分かっていたのだ。
UとYは水泳パンツの紐を解こうとしていたが、相当きつく縛ったらしい。 イライラしたUが「ハサミを持って来い!」と周りの者に命令する。 そして紐はハサミで切られ、水泳パンツもろとも、ぬがされていた。 ぜん裸にされたSは手間を取らせた分、 体を床に押さえ付けられたまま、 しばらくの間、教室中に晒し者にされていた。
この水泳パンツの一件以来、目を付けられたSは、 その後も最後までホウキンをされ続ける事になる。
I も同じようなものだった。 身長も低く小太りだった為、 ぜん裸にされた様を人中で晒し者にされ、 体を嘲笑われるのは、耐え難い屈辱だっただろう。
I は同時に、いじめのおもちゃにもされた。 Yに後ろ側から、両耳をバイクのハンドルのように持たれ、 アクセルを吹かす動作で耳をネジ上げられるという 「 I バイク」と呼ばれるいじめだ。
バイクに見立てられた I は、 その格好で教室中を走り回され、カーブに差し掛かると 握られた耳を曲がる方向に思い切り引っ張られて、痛さで顔が引きつっていた。 もしも「嫌だ」と言おうものなら、 後ろから蹴り飛ばされていたから、たまった物じゃなかっただろう。
俺にあれ程のいじめを行い、歪んだ優越感を味わいながら、 「我が世の春」を誇ったSと I の成れの果てだった。