「まさかもう降ってくるとは」

 玄関先には滴る水音だけが響いている。

 夜に降るという予報は早まり、放課後商店街を歩いていた直斗たちを突然のどしゃ降りが襲った。
 考える余裕もなく、逃げ込むように帰宅した。

「助かりましたね…いや、助かったと言っていいのか」
「予報じゃもっと後って話だったのに参ったよ」

「予報じゃ明日まで止まないそうですし、仕方ないので雨が弱まったらかえ…くしゅん!」

 直斗はくしゃみに身を震わせて、また水滴がぴちゃりと鳴った。

「…風邪引くね。風呂入っていきなさい」
「いえ! そこまでしてもらうわけ…くしゅん!」
「菜々ちゃーん、ちょっとお風呂お願いします。 あとタオルー」

 居間にいるであろう妹分に呼びかけると、すぐにはーい、という声と共に足音が響いてくる。


「…いや、流石に菜々子ちゃんのは着れないから、ね?」

 風呂からあがった直斗は部屋へと連れてこられていた。
 すっかり重くなった制服を着るわけにもいかないので、今は自分の部屋着を被せられている。
「いえ、構いませんよ。むしろ慣れてますから」

 服が乾くまではどうしようもないので、仕方なしとばかりに床に腰を下ろしてテレビを点けると、つられるように直斗も隣に腰を下ろす。
 大きめの上着がずり上がり、白い太股が覗かせてすこしドキリとした。

 流れるテレビ番組に笑うでも怒るでもなく、直斗はただじっと画面を見つめている。

「先輩は、大きいですね」

 ふと、テレビのニュースに目を向けながら、直斗は呟くように言った。

「ん?」
「強くて、優しくて…僕も、そういうカッコイイ男になりたかったんですよ」
「まだ、そんなことを?」
「以前の僕は、です」

 振り向いた直斗と目が合う。

「今の僕は……わたしは、こうして先輩と二人で居るだけで」

 胸で拳を握り、ひとつ大きく息を吸う
 そして吐き出すように言った。

「意識…してしまうんです」

 直斗は上目遣いでにじり寄ってくる
 首元から覗かせる鎖骨が艶かしい。

「直斗」

 半ば押し倒されるような格好になってようやく声が出た。
 その双眸にがっちりと捕らえられ、目を逸らすこともできない。

「ごめんなさい」

 熱をもった吐息が頬をくすぐった。

「先輩…その、寒い…んです」

 テーブルの上の腕時計は相変わらず0mを表示している…。


 結局雨は弱まることなく、直斗は帰ってきた堂島の車で送っていった…。


 翌日。
「あ、あのっ! …先輩、昨日はっ、どうもありがとうございました」
「…なんでこっち見ないの?」
「あ…あまり見ないでください。恥ずかしくて…」
「昨日のことなら俺も「その、先輩の家に忘れ物をしたかもしれなくて!」


「くつ下なんですけど…」




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