そこは一面真っ白に光り輝く雪が積もった森... 白銀に光る木々が美しい... シンシンと音無く降る雪の中、2つの影が見えてきた。 片方は青い身体で、顔に黒いマスクをつけたようなポケモン、ルカリオ。 そしてもう片方は、ルカリオよりも小柄で、なにやら大きな袋をもっている、デリバード。 はしゃいでいるのか、雪でうもれた道を小走りしている。 「おい、あまりオレから離れるな。道に迷うぞ。」と、ルカリオ。 「あ、ご、ごめん...つい...」 「ま、今日が初仕事なんだろ?その気持ちわかるぜ。」 ...そうだ... 今日はボクの... この森を抜けたところにある、小さな村の子ども達に プレゼントを届ける仕事... 「サンタプロジェクト」に任された初仕事だ... 「デリバ、今度は何突っ立てんだ。考えごとか?」 「あ、何でもないよ。 それより日が暮れるまでに村に着かないとまずいんでしょ? はやくいこうよ。」 「...そうだな...」 「でも、ルカリオくんなら、暗くても村までの道、わかるんでしょ?」 「波導でな。まあ、その時のための護衛兼案内役だしな...」 ・・・ピューーー・・・ ...この森に入ってもう1時間... 今まで気づかないくらいしか降っていなかった雪がすこし強くなってきた。 「...寒くなってきたな...」 「うん...」 この寒さで無意識のうちに、2人の会話は減っていた... さらに数時間... 森の中林に着いたところで、いっそう雪が強くなってきた。 「...止まれ、デリバ...」 「 ? どうしたの?」 「静かに...! オレらとは別の...波導を感じる...!」 「...え?」 静寂... そして ゴォォォォーーーーー!! 「うわっ!!すごい吹雪だ!前が見えないよ!」 「くそ...こんな時に! デリバ!オレから離れるな!」 ものすごい吹雪だ。目を開けるのも困難なほどだ。 「ルカリオく...うわーーーーー!!」 「! デリバ!」 ここいちばんの強風で、体の軽いボクは、簡単に飛ばされた。 「デリバ! ...そう遠くへは飛んでいないようだな...いそがないと...」 いそいで走りだそうとすると、さっきの波導がルカリオの目の前に現れた。 「お、お前は...」 ...ルカリオの何倍もの白銀の身体、手のような大きなつばさ... そして、獲物として自分を見つめる、黒い瞳... 「クフフ...久しぶりですね、ルカリオ。」 「...ルギア...」 「ほう、覚えていたとは光栄ですね。」 「どうしてお前がここに...」 「もちろん、あなたをいただきに、ですよ。心の準備はできてますか?」 質問しながら、少し怪しげににやけるルギア。 「...何のことだ...」 「おやおや?2年前のこと、わすれたんですか?」 シュッ! 「うわっ!」 気づかれないようにルカリオの背後に回り込んだルギアの尻尾が、素早くルカリオを まきつけ、つかまえた。 「う...ぐ...」 「さあ、どうなんですか?」 追い打ちをかけるように、徐々に尻尾の力を強めていく... 「う...ぐ...くそ...」 「クフフ... ...!!」 コオォー... 「...喰らえ!」 かけ声と同時に手のひらから、青白い光球をはなつ。 「はどうだん!!」 最大限溜めた波動を、ルギアの顔面にぶち込んだ。 ドゴォォーーン!! ..... 「クフフ... 効きませんねぇ」 「そんな...」 この至近距離で当てたのに、傷一つ負っていない。 唖然とするルカリオに、ルギアは軽くペロッと舐めつけた。 「ぐっ...」 こうまきつけられていては、抵抗の一つもろくにできない。 しかも、この吹雪... ルギアは楽しげに、ルカリオを舐め回している。 (ダメだ... 感覚がマヒしてきた...) 「クフフ...」 その頃、デリバは... 「ぅ、う〜ん...いてて... はっ! に、荷物...プレゼントがない!ルカリオくんもいない... ど、どうしよう...」 辺りを見渡しても一面の銀世界... 初仕事、吹雪、辺りは暗くなりかけ、そして1人... さまざまな恐れが、さらに心をあせらせる。 すこしでもおちつこうと深呼吸をすると... ...視界はほぼ吹雪で真っ白だが、よく見るとうっすらと影がみえてきた。 「もしかして、ルカリオくん...?」 自分の恐れから逃げようと、無我夢中で影へと走っていく。 これから何が起こるかも知らずに... 「ルカリオくん!!」 荒い息づかいで叫ぶ。 「...!」 そこにいたのはルカリオだけではなかった。 「おや?連れがいたんですか?」 「あっ!ルカリオくん!」 「ぅ..デリ...バ... に...げ...」 そこにいたのは尻尾をまきつけられ、完全によわっていたルカリオと、ルギア...だった。 「クフフ...さて、お連れさんの顔も見られたことですし、そろそろ... いっちゃいましょうか。」 バクッ!! 一方的にルカリオの身体が、ルギアの口の中へ... そして... ...ゴクン... 何ともなまなましい音をたて、ルギアの太く長い首をふくらみが通っていく。 「クフフ... とってもおいしかったですよ... じゅる... さて、デザートといきましょうか。」 「あ...あ... ル、ルカリオくん...」 「おや... 逃げないんですか?クフフフフ...」 (に、逃げるったって... あ、足がすくんじゃって...動けない...よ...) ひるんでいる間にルカリオと同じようにルギアの尻尾がボクを捕らえた。 「うわ...あ...」 (だめだ... もう...食べられちゃ...う...) ルギアの大きな口が目の前に迫っている。 「...クフフ.....クハハハハ!」 「な、何がおかしいんだ!?」 とっさに出たことばだったが、その声は心の底から震えていた。 「クフフ...あなたを見てると、思い出しますよ。2年前の... 哀れなデリバードをね!」 「!?」 「クフフ...何も知らない、ってカオですね。教えてあげましょう。 ...あれは2年前... さっきのルカリオとあなたとは別のデリバード... 私と遭遇し、私はデリバードを捕まえましたが... ルカリオ...彼はかなわないと察知したのか、仲間を見捨て、逃げましたよ。 クフフ...」 「...うそ...うそだ!そんなの全部うそに決まってる! ...ルカリオくんが...そんなこと...」 「...続きは...私のお腹の中でごゆっくり...クフフ」 ルギアが口を開いた... 自分をさそいこむ、大きな口... その奥へとつながる、漆黒の闇... ルギアがあじみと言わんばかりにボクを舐め回す... 「ひゃう!」 唾液... 背筋がこおりつきそうだ... 「クフフ...それでは...いただきます...」 パクッ! ... ........ ...なんだ... 急に目の前が真っ暗に...少しだけ...小さな光が見える... 暖かい... ダメだ...眠っちゃダメだ... ...何とか...脱出...を... 残った力で懸命に光の方へ進む。 でもほとんど進んでいない気がする... グラッ! 「うわ!」 柔らかいルギアの舌が、上手にデリバードを転がす。 「クフフ...とってもおいしいですよ...」 ...もう... ボクも...終わり...か...な... 唾液で身体はベトベト... 目も重くなってきた... まだ...まだだ... 残った力で... すうー... 「れいとうビーム!」 デリバードの放ったこおり柱がルギアの口内を凍らしていく。 しかしそれも無駄な抵抗だった。 たちまちこおりはとけ、液体化していく。 「抵抗が無くなりましたね...」 「.....」 「では、さようなら、デリバード... クフフ...」 ゴクン! .....ゆっくりと、ルカリオよりも小さなふくらみが、ルギアのお腹へとおちていった... 「クフフ、ごちそうさま。」 と、まんぞく気に舌なめずりをする。 「さて、次はどこにいきましょうか...クフフ...」 怪しいことばを残し、白銀の巨大な虚影は、はるか空へと飛び立つ。 そしてそこには、雪にうもれた白い袋だけが... 残っていた... ・END・ |