…りんりんりん。

薄暗く、広い部屋で電話が鳴っています。

…りんりんりん。

ここの主である、ちょっと暗めの秋色をした…
大きな「翼竜」が、小さな受話器を手に取りました。

「はぁい もしもし♪」

少し高めの、気楽そうな声で会話をしています。





「……じゃぁ 例の場所で待っててね♪」

暫く話した後、嬉しそうに受話器を置きました。



…彼女はドラゴン。秋色のドラゴン。
ドコからかふらっと現れ、電話のかけ主の元へ今日も行きます。

会話が終わると、彼女は微笑を浮かべて外へ飛んで行きました。


          *


足取りも軽やかに例の場所…
街はずれの、誰も来ないような寂れた森にやって来ました。


木々が自由に生い茂っています。


森のざわめきに引き寄せられるように歩いていたドラゴンは、
ぴたりと足を止めました。

目に映ったのは丸まって泣きじゃくる小さな小さな子ども。
桃色の鮮やかな頬を、透き通った涙がこぼれ落ちています。


「えぐっ…ぐしゅん… おかあさん…どこー…?」


…どうやら迷子になっているようです。
一向に泣きやむ気配がありません。


「仕方ないなぁ♪」


そう言ってドラゴンはそっと子どもを抱きかかえました。

すると子どもは驚くほど早く泣きやみ、グッスリと眠りにつきました。


……彼女には、ココロを安定させる不思議なちからがあるのです。
落ち着かずにはいられない、甘い甘い蜜なのです。


「さてさて…♪」


子どもを抱いたまま、森の奥へと進みます。

そこには青髪の少女が一人、誰かを待つようにうずうずしながら立っていました。
電話の依頼主です。


「いたいた♪」


高ぶる気持ちを何とか抑え、それでも口角が引きつってきます。 …じゅるり…

木陰にそっと、子どもを置いて、背後から少女に近づきます。
少女は気づきません。


がばっ! っと両手で少女を捕まえました。


当然気づいていなかった少女はキャッ、と甲高い声を上げました。


「も、もう…ビックリさせないでよ〜」

頬を赤らめて少女は言いました。

ドラゴンは笑って言い返します。

「こういう仔はイタズラしたくなっちゃうの♪
 ところで今回が3回目だったカナ?

 まあいいや♪」


はむっ!


ドラゴンは返答を待たず、問答無用に少女を口にくわえ込みました。

「ちょ、ちょっと!あなたは何でもいきなりなんだからぁ!」

「えへへ♪」

有無を言わさず、れろれろと大きな舌で舐め回します。
まるで飴玉でも舐めているかのような、甘い一時です。



電話の本命…

それは「食べてもらう」こと。
好きな人にはたまらない、魅惑的な砂糖なのです。


…直にドラゴンは少女の全身を口内に収めました。

そして

ゴクン!

と生々しい音を立て、
少女の嬉しそうな(?)悲鳴ごと呑み込みました。


少女の分だけお腹が膨らみます。
それでも彼女にとっては小さなおやつ。



軽くお腹を撫でながら、すやすや眠っているあの子どもを見ました。
…本当に気持ち良さそうです。

「あ…だめだよね♪私ったら…♪」

どこか危険な言葉を呟き、お腹の中の少女に話しかけます。


「じゃぁ そろそろ出してあげるね♪」


ぐぱぁ と優しく少女を吐き出しました。

森は静まりかえっています。


「今日はアリガトね もっと中にいたかったけど…」

少女は残念そうに言います。

「ゴメンね… まだ予約が入ってて… また電話してね♪」


2人は挨拶をし、少女は持参のタオルを持って、街に帰って行きました。

ドラゴンもまた、寝ている子どもを起こさないようにそっと抱き、
飛び立って行きました。


          *


ドラゴンはちょっとお疲れ?

向かったのはこの世にあって存在しない、ドラゴンのお家。
ドアを開けるとまるでおもちゃ箱を連想させる部屋。


そこに人ほどの大きさの仔竜が座っていました。
ドラゴンと同じ、鮮やかな秋色をしています。

動かないと本当にお人形のよう。

仔竜の目が光ります。


「その仔だれぇー?」

「知らない仔♪」

「その仔食べちゃうのー?」

「んーん♪」

「じゃぁ 僕が食べちゃおうカナぁー」

「だぁんめ♪」


表には出していないつもりです。
今すぐにでもこの子どもを食べたい、包容したいということを。

「ねぇー それより遊ぼうよー」

「忙しいの♪」

「その仔のせいでぇー?」

「また今度ね♪」

話を反らし、ドラゴンはメモを手にすると、また旅立ちます。


          *


次に向かったのは東洋の国の北の大地。所々に雪が残っています。
もうすぐ春なのです。


ドラゴンは、身の丈ほどの崖で落ち着きます。
もちろん人はいません。


「まぁだカナ〜♪」


ちょっとばかり張り切りすぎて、早く来てしまいました。
何せ今度はドラゴンお気に入りの常連さんが来るのです。

心なしか、いつも異常にワクワクしているようです。


さくさくと残り少ない雪を踏みしめる音がしました。


「あ♪ きたきた♪」


ビー玉のように透き通った瞳。
北の大地の青い服。

「ごめん 待ったかな(にゃっ!」


ペロッっと柔らかい頬を一舐めしました。
彼女流の挨拶なのです。

「じゃぁ 早速♪」

両手で少年を抱え、唾液が滴る大きな口を開けます。

ハグッ!

一気に全身を口に含みました。
思わずドラゴンの頬が薄紅に染まります。


舌を器用に使い、弄び、少年はされるがままの状態です。


「そろそろいいカナ♪」

「うん・・・///」


ゴックン!

少女を呑み込んだように、優しく喉を通しました。
この満足感がたまらない…



「あはは♪ くすぐったい♪」

お腹の中で遊んでいるようです。


何か閃いたように、ドラゴンの目が光ります。

徐に少し膨らんだお腹を揉み始めました。
胃壁から消化液がこぼれ、彼女のイタズラ心が灯ります。


「あわあ 溶けちゃう溶けちゃう!」


中で慌てふためいているのが分かります。

柔和な笑みを浮かべながら、少年を吐き出しました。


「んふふ♪ビックリした?」

「べ、べつにぃ…」

「んもぅ…かぁわい♪」


子どもは目をごしごしこすっています。


          *


何か思い出したように向かったのは、この子どもと出会った森。

彼女は目を閉じ、瞬く間に人に擬人化しました。

ベージュの真っ直ぐな髪に女の子らしい優しい目。
子どもをおんぶして、街中へ入っていきます。



賑やかな音楽が聞こえてきます。
そして軽快な足取りの人々。

どうやらお祭りの様です。



てくてく彼女は歩きます。
子どもを背負って歩きます。


何かを察知し、一軒家を覗くと、泣いている婦人が一人。


「おかあさん!」


背中から弾む、元気な声。
一目散に母の元へ走ります。


仔に輝く憂いの木種。
それが芽吹くのはいつの日でしょうか。


「あなたが連れてきてくれたんですか?ありがとうございます!」

母親がペコッと頭を下げました。

「早く大きくなって、好きなことを沢山作ってね♪」

彼女は背を向けて歩き出しました。



「…そして私の所に電話してきてね♪待ってるよ♪」


そのささやきは誰の耳にも届かず、一陣の風と、人のざわめきが
かき消していきました。




彼女はドラゴン。秋色のドラゴン。
ドコからかふらっと現れ、電話のかけ主の元へ今日も行きます。


              〜終しまい〜           
                    …と思います。


あとがき


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