「チョコ?」

一匹の竜が、手渡された包みを見てそう言う。

ああ、そうだ。 と、その竜に包みを渡した人間が頷いた。

「そうか、有り難く受け取ろう。」

後で感想を教えろよ?

「分かった。」



これが、数時間前の出来事。
今、俺とその竜がお互い会話しながら隙を狙っている。


「ああ、だから美味かったと言っているだろう。」

じゃあどうして襲いかかろうとしてんだよ!

「これが我々の礼のしかt」

嘘だッ! と、どこかの誰かさんのように叫ぶ。

「お前が人を疑うとは、見損なったぞ。」

人とかどうとか以前に、お前は竜だろう。 それに、そのヨダレはどう説明つけるんだ。

「これか?これはどうでもいいだろう。だからその銃を降ろせ。」

ヨダレを手で拭うとか・・・人みてぇな仕草しやがって、いい加減諦めたらどうだ。

「断る。そちらが折れるまで、一日でも一週間でも一ヶ月でも一年でm」

言葉を遮るように、持っていた銃の引き金を躊躇わず引く。 鉛弾がその額に打ち込まれた。
が、それは竜の持つ堅固な鱗によって弾かれ、無傷のまま話し始める。

「危ないだろう。目に当たったらうんぬんかんぬん」


っと。自己紹介が遅れたな。 俺の名前は蛍。 アイツが一人語りしてる間に、色々済ませちまおう。
で、俺の名はホタルって読むんだが、決して虫じゃない。人間だ。 ・・・で、俺の育ての親でもあるこの竜が付けた名前だ。
その親の名は葵(あおい)って言う。 それまでは自分の名を忘れて、いい機会だと俺と出会った時に付けたらしい。普段の立ち姿なんてのは想像にお任せする。

そんな男二人の気ままな暮らしの最中。 俺が偶には甘いモノでも、って思い立ったのが数日前。
それから街に降りて、耳にしたのがチョコレートなるお菓子を作り、渡すってイベントがあるのを知って、それに乗ろうと思った。
そして今日、それとなく渡したチョコレートのお礼をって言い出したコイツが、突然襲い掛かってきやがった。

そんで、今はこんな状況だ。 一応、義理ながら親子の縁があるので遠慮してるのか、普段見せる凶暴な一面は現れな・・・

「・・・そう思っているんだろうが、甘いぞ、蛍。」

は?・・・うぉわっ!

「宙吊りにされては何も出来まい、いい加減観念したらどうだ。」

何時の間にやら尻尾で足を絡め取られていて、その言葉と同時に顔の前に吊り下げられる。
不意打ちと言うこともあり、両手に持っていた銃の内、先程銃弾を発射した片方を落としてしまう。 大失態だ。

「その様な顔をするな、お前も知っているだろう。」

ああ、知ってるよ。 魂を喚び戻し、身体組織を再生させる術の事だろう?

「身も蓋もない言い方をするな。 ・・・そうだな、蘇生術と言えば大多数の人間が分かるだろう、なあ?」

どこに顔向けて誰に喋ってんだこの野郎。 いいからさっさと解放しやがれ。

「断る。」

もう片方の銃を、その顔に向ける。 だが、余裕の笑みを浮かべている葵。
撃っても無駄弾にしかならないが、引き金をその指で引く。
その瞬間だった。 ヤツの目が光ると、銃を持つ手に衝撃が走り、引き終える前に衝撃で滑り落としてしまう。 魔法を使うとは、予想外だった。
外傷はないものの、落としてしまった二丁の銃をただ見つめるだけ。 抵抗手段は、無くなった。

「クックック・・・玩具で俺に勝とうなど、百年早い。」

悪人笑い&語りすんな、嫌われるぞ。

「このテの笑い方も好きなヤツが居るからな。 だろう?」

だからどこに向かって喋ってるんだ。

「さあ、お前は残すところ一つの選択肢しかない。 分かるな。」

俺の質問スルーっすか。 ・・・ああ。分かってるよ・・・。

「それじゃあ、今日は安心して寝るといい。 小さき人間よ。」

どうしてソコだけ名前で呼んでくれないかなぁ。 それが葵らしいけど。
そう思いつつ、目の前にある葵の口が開いていく様を見る。
ピンクに近い口内に、蠢く赤色の舌。 白い牙は綺麗に並び、暗い喉奥が見えている。

吊り下げた俺を口の中に降ろすと、その尻尾は早々に口の中から退場。
そして、ゆっくりと閉じられていく顎。 牙の影と共に、外の風景が狭くなっていき、そして真っ暗になる。

ぬちゃぁ と舌が動き出し、俺の体をゆっくりと嘗め回していく。
最初はその臭気と動きで気絶してしまったが、回数を重ねる毎に快感を感じるようになってしまった。
俺としては気絶したいのだが、寸前まで行くとクールダウン。 落ち着くと舌の動きがヒートアップしていく。 絶対何かを狙ってる。
そして今回も案の定、今の今まで声を抑えていたのだが、舌が足の間から腹部を通り、首を回って枕のように舌先が頭を抱え、と言う状態になった時、俺は思わず

はぅ、ぅっ・・・!

と、声を出してしまった。 葵はそれを聞いて、じっくりと舌先を俺の身体に這わせ、味を確かめるのと俺に喘ぎ声を出させる為の行為だろう。
っ・・・ひぅう・・・ と、情けない声を出しながら、俺のこの気持ちと裏腹に身体が熱くなってくる。
今の俺は身を捩る度に、ぐちゃっ、くちゃっ と、唾液が擦れる音がする。 その音が耳から入ってくる音すら、身を焼く程の興奮を覚えてしまう。

・・・ハァ・・・・ッ・・・ハァッ、ハァッ・・・

体力もかなり消耗し、その口内で荒く息をして、気持ちと身体を落ち着かせようとしている俺を、そっと舌が受け止めている。
くそう、この竜め。 この気遣いが無ければ・・・ってのに・・・。

少し落ち着いた所に、甘噛み。 牙が食い込む感触が気持ちいい。 ついつい、 あぁっ! って声を出しちまった。
もう理性なんて要らない。 その考えが脳裏をよぎった瞬間、本能に従うだけの声が漏れ、止め処無く流れ出ていく。

っ、んぅうっ! ぁ、あああっ・・・ ひぁ、あぁああん・・・!!

大体、何時もはこの調子。 どこかで俺は快感に屈し、今のような状態になってしまう。




そして、どれくらい時間が経ったかも分からぬ時。 ズルリと自分の足が沼に嵌ったような反応を見せる。
抜け出そうとすると、更に引き込まれていく。 底なし沼のような一面を見せるも、それはどこか暖かく、そして柔らかだ。
いつも感じるこの不思議な感触。 ただ、俺がそれを理解しようとはしない。 いや、出来ないのだ。
脱力した身体を引きずり込む、俺はそれすらも快感に変換してしまう。

いつしか、全身がその中に収まる。 そこは、狭いながらも俺をゆっくりと下へ、下へと運ぶ。



外では、葵が満足そうに喉を撫でている。
蛍が、自分のモノになる。 本能が感じている、好きなモノを支配した時の悦び。
彼は住処へと戻り、自分の寝床で眠りに就く。 我が子、そして最愛の人間をその体内に抱きながら。


蛍は、その終着点へと着いた。 既に意識も朦朧とし、倒れたまま動かない。
そんな彼の隣にあったのは、数刻前に渡した、チョコレート。

そんな中、消化液が彼の身体とチョコレートを溶かしていく。
甘く、包み込むような消化活動。 何時もは苦しそうに溶かされていく、なのだが。

ぅ、ぅぅん・・・んんっ・・・

喘ぎ声のような、呻き声のような、不思議な声を出しつつ、その身体が緩慢に蕩けていく。
きっと蛍は、甘い夢を見ているのだろう。 何時か、実現する夢を見て。


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オマケ

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