ハッ・・・いつの間に・・ 私は不意に眠りから覚めた。 満足感に満たされててから知らぬ間に眠っていたようだ。 さて・・どうしたものか・・ 重い体を起こし、腹の膨らみに手を当てた。 まだ、温もりを感じられる。 どうやら、消化しきってはいないようだ。だが、消化途中でもないとは言い切れない。もしかすると体の一部はもうないかもしれない。 「・・・吐き出すか・・」 溜息を一つ。私はこの人間を吐き出すことにした。 この近くには小さな村がある。そこを襲えば、何十人もの人間を味わうことができるが、その全員がこの人間のように美味いとは限らない。 それなら、この人間を飽きるまで好きなだけ味わうほうがいいと考えたのだ。 (・・・どうやって・・・吐き出すのだ?) しかし、困った事に食べたものを意図的に吐き出す方法を私は知らなかった。体調不良の時のように吐き出せばよいのだろうが今はそうもいかない。 「ん・・・・んぐっ・・・っ・・」 使いなれていない胃と喉の筋肉をぎこちなく動かし、手も使ってどうにか押し上げようとするも・・・ ゴクリッ・・ すこしでも油断すると再び呑み下してしまう。 このまま、この人間を消化してしまえばこの極上の美味を味わう事が二度とできなくなるかもしれない・・・・ そうはいかない。 呑み込んだ人間を吐き出そうと、試行錯誤すること数十分。一度呑み込まれてから何度も胃袋と食道を行き来したのはこの人間が初めてだろう。 「んぐっ・・・おぅ・・・」 人間が胃袋から噴門をこじ開け、食道、喉を戻ってきているのを確かに感じられる。 もうすぐ、人間を吐き出せる。 んぐっ・・・ゴプッ・・・ドチャァッ・・ 大量の胃液、粘液、唾液と共に意識のない人間がクシャルダオラの体内から吐き出された。 「ハッ・・・ハッ・・ハッ・・何とか間に合ったようだな・・・クフフ・・・」 服の大半がドロドロに溶かされ、粘つく糸を地に引いているが体に胃液がかかり、溶かされた様子はなく。 ただ意識を失っているだけだ。 とりあえず、この食い物の命の無事は確認できた。 「この人間が目覚めるまでもう一眠りするとしよう。」 人間に巻き付くように体を寄せ、目覚めたら向き合う形になるように眠りついた。 * * * 冷たい・・・体がひんやりと冷える。 そうか・・僕は死んだんだ。 クシャルダオラの胃液にドロドロに何一つ残されずに消化されて、糧となって死んだのか。 ここはこの世ではない。目を開けたくない。 開けたらそれは自分の死を肯定する事になる。 空気は冷たい。目を開けたくない。 だけど、目を開けない事には始まらない。 恐る恐る目を開けた。 「わっ!?」 目を開けるとすぐ目前にクシャルダオラの顔がある。 「む・・目が覚めたか?」 「え・・あ、あれ・・・僕っ・・・っ!?」 何故、現実にいるのかを確かめようとしてすぐに気付いた。 服の大半が胃液で溶けて恥ずかしい部位がちらりと見えそうである。 だから僕は頬を赤らめてクシャルダオラを見た。 「私はそういう趣味はないぞ。」 「えへへ・・・そうだよね・・」 「・・全く・・村に帰って仕度をして戻ってこい。」 「えっ・・ど、どうして・・?」 冷たく、潜められたその声に嫌な予感が・・ 「お前の味が気に入ってしまってな。私は人間を喰うことにしたのだ。次の人間が見つかるまではお前が私に喰われ続けるのだ。」 「そ、そんなの約束にないよっ・・・」 「別に構わないぞ?その時は、お前に村に行って全員丸呑みにして私の腹の中で皆に逢わせてやることもできるのだぞ?」 「・・・っ・・そ、それはっ・・・・」 「なに、次の人間が見つかるまでは丸呑みにしても殺しはしない。まぁ、苦しい思いはしてもらうがな。」 クシャルダオラがにやりと笑い顔を近づけてきた。 ベロリッ・・・ 「う・・・ひぁ・・・」 「早く私の舌を・・腹を・・胃袋を満たさせてくれ・・」 頬に生暖かいねっとりとした唾液が塗り込まれる。 早く味わいたいが為に愛おしそうにじっくりと舌が首から頬を這っていった。 あぁ・・どんな未来が待っているんだろう・・・ ・・どんな未来だって、暗いものなんだろうな・・ * * * ボタタッ・・・ボタッ・・・ドロォッ・・グチュァッ 今日も僕の頭上にスコールが降る。 でも、いつもとは違う。 生暖かくて、生臭くて、ねっとりと粘性の強い雨。 僕を喰らいたくて待ちわびるクシャルダオラの唾液のスコール。 「クフフ・・今日もお前をたっぷりと味わって丸呑みするとしよう。」 ジュルリッ・・・ベロ・・ 口内にたまる唾液を飲み込みながら舌舐めずりして、じっくりと舌を這わせ、唾液を擦り込み、その間に唾液が無数に糸を引く。 「クフフ・・まだお前を味わえる。なんと幸せな事だ。それではまたせたな。頂くとしよう。」 バクッ・・ムグッ・・アグッ・・ジュルルッ ・・・ズリュッ・・・・ ーゴクンッー ー人間は美味い。ー |
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