どこかにある小さな小さな村・・・そこに“彼”はいた・・

 

「すいません・・・誰かいますか?」

一つの家に小さな声が響いた。

「どうかしましたか?」

家の奥の方から一人の竜人が姿を現した。

そのまま彼はカウンターの前に立った。

「これを討伐して欲しいのですが・・・・」

と、言って紙切れをカウンターの上に差し出した。

「どれどれ・・・」

その紙切れには、こう書いてあった。

 

この近くの山にドラゴンが住み着いています。ひょっとしたらこの村を襲いにくるかもしれません。だから討伐をお願いします。

 

「・・・・・・・・・・」

竜人は少しの間黙ってしまった。

「どうですか・・・・?」

少し不安そうな顔でこちらをのぞいてくる客。

「わかりました・・・やってみましょう・・・」

紙切れにハンコを押し、その客に紙切れを返した。

“ありがとう”と、言ってその客・・子供がその家を出て行った。

「子供が依頼を頼みにくるなんて・・・」

ただ、出て行く子供を見送っていた竜人・・・

“彼”はこの村で“討伐屋”と言う危険なモンスターを討伐する店をやっていた。

そして、依頼されたドラゴンを討伐すべく準備をするのだった・・・

 

 

 

 


「さてと・・・・」

村の出入り口には腰のホルダーに剣をしまって準備を整えた先ほどの竜人。

持っているのは<ロングソード>であるが、彼自身が手を加えたものだ。

「行くか・・・」

そうして一歩目を踏み出そうとした時・・・

「リュオ! 待って!」

女性の声が彼の足を止めた。

「ミオ・・・どうした?」

「私も行く!」

「私もって・・・」

“彼”の名前は「リュオ」である。緑の鱗を身に纏い、いつも右腕に包帯を巻いている。

包帯をまいているのは、怪我をしているわけではなく、ファッションの一部としているからである。

リュオは息切れをしている“彼女”の装備を見た。

腰のホルダーにしまってある二本の短剣。その他いろいろ・・・

ついて来るには充分だった。

「仕方ないな・・・・」

「えへへ・・・」

“彼女”の名前は「ミオ」で、二本の短剣<ベイオール>と<ハミルトン>を使った素早く、手数の多い攻撃が得意な狼の獣人である。

ミオはリュオに向かって可愛らしい笑みを見せた。

「・・・・ほらっ・・い、行くぞ。」

「あ〜今、照れてる?」

少しだけ頬を赤らめているリュオ。

それをからかうミオ。

「やっぱり・・・・おいてくぞ?」

「あう〜〜ごめん〜〜」

ミオをにらみながらそう言うと、リュオの手を握りながら謝った。

二人ですごせる時間がこれで最後ということを彼らは知ることはなかった・・・・


目的の山まで歩く事二日。

ドラゴンが住み着いていると言われる山にたどり着く。

「ここが・・・・」

オオオオオオオッ!

前方から凄まじい咆哮が聞こえる。

バサァッ!バサァッ!

(来た!)

翼の音と共にドラゴンが姿を現す。

「リュオ・・・ドラゴンってこんなに大きかったっけ?・・」

「エンシェントドラゴンか・・・」

スドォン・・・・

8m位の体長を持ち、黒い鱗を纏う巨大な竜がその巨体を地に降ろす。

そして、口を開く。

「・・・・ここになんの用だ?」

リュオが一歩前に出て答えた。

「単刀直入に言う・・・住む場所を変えてもらいたい」

「何故だ?」

「理由は言えない・・駄目か?」

「ああ・・・駄目だ・・」

チャキッ・・・

「ミオ・・」

「うん・・」

二人とも武器を構え、竜に向ける。

「何のつもりだ?」

竜は慌てる様子も無く、低い声で問う。

「交渉は決裂・・討伐するまでだ!」

「私を殺す気か・・・・そちらも死ぬ覚悟があるのだろうな・・」

武器を構えるリュオとミオを激しく睨み付ける。

「行くぞ!」

こうして闘いが始まった・・・・


「はあッ!」

「やあっ!」

ガツッ!

「硬いッ!」

「刃が・・・通らない・・」

二人ほぼ同時に斬りかかったのだが竜の鱗が硬くダメージを全く与えられなかった。

「私を倒そうなど・・・笑止!」

ブゥンッ!  ドゴッ!

「ぐうっ・・・」

「きゃっ・・・」

強靭な尻尾がリュオとミオを吹き飛ばす。

「所詮・・・・人間と同じか・・・非力なものよ・・・」

突如、竜が目を閉じた。

「くそっ・・・」

腹部を押さえながら体を起こす。

「リュオ!」

それに気づいたミオか走り寄る。

「動くなよ・・・」

カッと目を見開く竜その先にはミオとリュオ。

見開かれた目を見てしまった二人。

「あ・・・れ・?」

「体が・・動かない・・」

ザッ・・・ザッ・・ザッ・・

動けない二人に竜がゆっくりと迫る。

 

 

 

ガシィ!

「キャッ!」

竜がミオを鷲掴みにし、鼻先に近づける。

「ひうっ!・・・」

 ミオの目前で唾液の糸を引きながら、大きな口が開かれ、真っ赤な舌がこちらに迫ってくる。

ペロッ・・・

「うう・・・・・」

その舌がミオの頬を舐める。


舐められた後には、しっかりと唾液が残されていた。

簡単な味見をすました竜は・・・・

「私の体の一部となって生きられることを栄光と思え・・」

大口を開け、迫り・・・

バクンッ!

と、音を立て口の中に閉じ込められてしまった。

「!・・ミオを離せ!」

再び剣を構え、竜に突っ込む。

シュルルルッ! グイッ・・・

突っ込むリュオに尻尾が巻きつき動きを封じられる。

そして、顔の近くに近づける。

グニィッ・・・・アグッ・・

竜がミオを甘噛みし始めた。

「あぁ・・・・うう・・・」

牙が体に食い込む音だけでなくミオのか弱い声もリュオの耳に突き刺さるほど聞こえる。

それで心が折れそうなリュオに追い討ちをかけるように・・・・

クチュ・・・ネチャッ・・グチュウ・・ニチァッ・・・

鮮明にミオが竜の口の中で唾液と絡められる音がさらにリュオの心を攻撃する。

 

 

 

 

ミオが口の中に入れられてから三十分という時が流れた。

グチャア・・・ニチァッ・・・

竜はまだミオを口の中で舐めていた。

「はあっ・・・はぁ・・」

散々、竜に舌で唾液と絡められ、弄ばれていたミオは・・・

息も荒く、体力もほとんど唾液に奪われ、意識が朦朧としていた。

「そろそろ、頂こうか・・」

顔を少し上に向かせ、ミオを喉の入り口に誘っていく。

「はぁっ・・・・リュオ・・」

遠のいていく意識の中、リュオの名を口にした。

「もう・・・・駄目・・」

そうして、意識を失った。

竜がミオの体を喉の奥に滑り込ませ、遂に・・・

ゴクン・・・


と、丸呑みにされてしまった。

竜の喉が大きく膨らむ。

ズブッ・・・ズリュリュ・・・・ジュルル・・・・

生々しい音を立てながら、膨らみがゆっくりと胃の方へ動いていき・・・

グジュ・・・ズリュ・・・

喉の膨らみと同じように今度は腹が膨らむ。

その、始終を見ていたリュオは・・・・

「ミオ・・・・どうして・・お前が・・・」

がっくりと肩を落としながら呟いていた。

「ジュルリ・・・ご馳走様・・」

ポタポタと滴る唾液を舌舐めずりで舐め取り、膨らんだ腹を気持ちよさそうにさする。

「次は・・・・お前だ・・・」

ニヤリと不気味な笑みをうかべ、リュオを尻尾で上に持ち上げる。

その下では竜が大口を開け、待ち構えている。

「この・・喰われてたまる・・・か・・・」

カプッ!

「ぐっ・・」

咄嗟にリュオは尻尾に噛み付いた。

「足掻くな!」

ブウンッ! ドゴオッ!

「ぐあっ・・・」

尻尾がリュオを振り払い、近くの岩壁に叩きつけた。

「餌の分際で・・・つけ上がりおって・・・」

シュルルルッ・・・・

「・・うぁ・・・」

竜が舌を伸ばし、リュオに巻きつけた。

その感覚に激しい脱力感を感じた。

バクンッ!

そのまま、リュオを巻き取り口の中に入れすぐに口を閉じた。

ベロッ・・グチュ・・・ニチャッ・・・

「うう・・・ぁ・・・」

舌が全身に巻き付きながら舐めあげる。

「お前もあの獣人と仲良く私の体の一部になるがいい・・・」

ゴクン・・・・

ミオと同じようにリュオもその喉を膨らませ下っていく。

ゆっくり、ゆっくりと胃の方へ下っていく。


そして、さらに竜の腹を膨らませる。

「久しいな・・こんな上質な餌を喰らったのは・・」

バサアッ!  バサアッ!

翼をはばたかせ、その場から飛び去る竜・・・・

そこには、剣と二本の短剣が交差するように重なり、残されていた。

 

 

 

エンシェントドラゴンを討伐せよ!【完】

 

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