「そう。じゃあまず、その怪物とやらの居場所を掴まないといけな
いね」


「あ、そうでした」


 ルルが食べられてから随分と経ちますから、何処にいるかの特定
は困難です。餌を求めて、遙か遠くに行ってしまったかも知れませ
ん。


「大丈夫だよ。君の記憶の中のイメージから、そいつの今の居場所
が調べられるから」

「そんなことも出来るんですか!?」

「うん。大抵のことはできるよ。――残念ながら、死んだポケモン
を生き返らせることは出来ないんだけど」


 そう言うと、アスター君は私の額の辺りに寄ってきて、手をピト
リと当てました。するとその周りにだけ、小さな光が一瞬現れまし
た。


「――うん、分かったよ。付いてきて」

「は、はい」


 何だかあっという間だったので、本当に分かったのか半信半疑な
がらも、私は歩き出しました。

 途端に足下が騒がしくなります。時折、悲鳴のような声も聞こえ
ます。
巨大な怪物に自分たちの頭上を闊歩されれば、それは相当な恐怖で
しょう。一応、なるべく木やポケモンを踏み潰さないように、細心
の注意を払ってはいるのですが……。

 それにしても、恥ずかしいです。体の大きさが大きさであるだけ
に、あらゆる方向からの視線が痛いほどに刺さります。段々と顔が
火照ってきました。


「ここだよ」


 アスター君は空中で止まると、森の一部を指さしました。

 思ったほど時間はかかりませんでした。尤も、元の小さな体で歩
いたらどれほどかかるのか、分かったものではありませんが。

 私は蔓を伸ばして、そこの木々を軽く退けます。


「あ!」


 改めて私は、アスター君の特別な能力を思い知らされました。彼
の言葉通り、あの怪物がそこに居たのです。


「バンギラスだね。こいつは」


 横からアスター君が囁きました。

 バンギラス。私からルルを奪ったポケモンは、そういう種族名だ
ったようです。

 薄めの緑色をした硬い体。後頭部から背中、尻尾にかけて何本も
突き出た太い棘。見るからに邪悪な目つき。その出で立ちは、ルル
を喰らった怪物そのものでした。

 ただ、以前と一つ違うのは、そのバンギラスが私より遥かに小さ
いという点です。

 バンギラスは口をあんぐりと開けたまま、私のことを見上げてい
ました。驚きのあまりに固まっているのでしょうか、逃げ出す気配
もなく立ち尽くしています。


「――ほら、リム、捕まえないと」


 アスター君に促されてハッとすると、私は蔓をシュルシュルと慎
重に伸ばしていきました。ここで漸く正気に戻った様子のバンギラ
スは、逃げ出そうとします。しかし直後には、私の蔓が彼の体を容
易く捕らえました。

 激しく抵抗するバンギラスですが、蔓を何重にか巻き付けている
のでびくともしません。この抵抗も、本来物凄い力であるのでしょ
う。

 私はバンギラスを持ち上げました。高くなるにつれ、雄叫びが次
第に情けなくなっていきます。高いのが恐いのかも知れません。実
際、今の私の目の高さから落ちてしまえば、死んでしまうでしょう。

 目線の高さにまで持っていくと、私はバンギラスをまじまじと観
察し始めました。彼はすっかり怯えきって青醒めており、捕食者と
しての面影を無くしていました。ここまで一方的に怯えられると、
寧ろ戸惑ってしまいます。

 さて、捕まえてはみたものの、何を言おうか特別考えもしていま
せんでした。

 言うべきことを考え倦ねていると、バンギラスが思い切ったよう
に口を開きました。


「た、助けてくれ! お願いだ!」


 その一言さえなければ、私は相応の言葉を述べて、バンギラスを
放したかもしれません。しかし、彼の発言は私の怒りを呼び起こす
こととなったのです。


「――あの」


 沈んだ口調で、私は切り出しました。


「貴方が昔、私と同じロゼリアを襲って食べたのを覚えていますか?」


 バンギラスの顔から血の気が引きました。覚えているかどうかは
知りませんが、この状況で自分の悪事を問い詰められるのは、生き
た心地がしないでしょう。

 私は続けます。


「あの子は私の親友だったんですよ。それを貴方が奪ったんです。
私がその後、どれほど辛く悲しく寂しい日々を送ったか、貴方に分
かりますか?」


 ばつが悪そうに、バンギラスは俯きました。


「貴方に食べられる直前、彼女は貴方にこう言いました。『お願い
。助けてください』と。とても必死に。貴方が先程言ったように、
です」


 新たに蔓を伸ばすと、バンギラスの顔を無理矢理前に向けます。


「どうして彼女を食べたのですか?」


 さして大声を出したつもりはないのに、声が辺りに響き渡りまし
た。バンギラスは無言のままです。しかし、蔓を通して、ガタガタ
と小刻みに震えているのを感じ取ることができました。


「答えられないのなら、私が答えます。快楽のためですよね。自分
が楽しむために、ルルを痛めつけて……」

「ち、違う」

「何が違うんですか?」

 口答えをするので、キツめに握りました。バンギラスは殆ど泣き
出しそうに悲鳴を上げます。


「私も貴方で遊んでみたくなりました」


 私はバンギラスを口元へと運びます。

 嫌な予感を察知して、彼は喚きます。


「ちょっと待ってくれ! 済まなかった! この通りだ!!」


 そんな声には耳を貸さず、私はバンギラスを叫び声ごと口に押
し込みました。


 硬くゴツゴツとした体なので、まるで石を舐め転がしているよう
でした。別に美味しくもありません。

 しかし、彼の必死の叫び声は私の口内で殺されてしまいます。も
がく彼を、舌で思い通りに操ることもできます。それは圧倒的な力
の差であり、快感でした。唾液がどんどん湧き上がります。

 抵抗が少なくなると、奥歯でそっと甘噛みをしてみます。バンギ
ラスの頑丈さでは到底体が潰れるはずはありません。それでも、目
を覚ましたようにまた抵抗を始めるのです。

 それを繰り返して、暫くはバンギラスを口内で弄んでいました。

 やがて、舌に抵抗が感じられなくなりました。甘噛みしても、反
応があまりありません。彼の体力に限界が来たのか、それとも恐怖
に心が折れたのか――どちらにしても、私にはつまらなく思えまし
た。

 試しに一度、口から出してみると、バンギラスは譫言ばかり呟い
て震えていました。涙を流しながら呆けており、私の唾液にまみれ
た様子は本当に無様でした。

 もはや、捕食者として地上に君臨することは不可能でしょう。

 私はバンギラスを舌で絡め取り、口内に引き戻すと、奥の方へと
流し込みました。若干、喉に毬っぽい感触があった後――


ごくん


 小さな体は、下へと墜ちました。お腹の中に、微かな重みが確認
できます。


「ふふふ、ゆっくり反省してくださいね」


 お腹をさすりながら、中のバンギラスに語りかけます。自然と笑
みが零れていました。



 私の“復讐”は呆気なく完了したのでした。

 

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