「あら…お疲れのようね」

先に声を掛けてきたのはリヴェーヌ先生だった。そろそろとエルガの目の前に歩み寄りながら、心配そうに、声を掛けてきた。
その声にすぐさま顔を上げ、

「あ、いや…大丈夫です」

と、返してみる。彼は結構体力に自信もあるし、部活でもアメフト部に入って少ない人数でも一生懸命やっている。ちょっとやそっとでは倒れるはずがない…。
と、思っていたが、流石に今回ばかりはそんな大きな事は言えなかった。現に、自分の体は「疲れている」のだから。

「ふふ…声を聞かなくても、顔で分かっちゃうよ」

流石は保健教員…と言ったところか。優しそうな表情で疲れきっている彼を見つめ、その顔を徐々に近づけていく。閉じている筈の口から、光に当たって何かが光って見えたのは気のせいだろうか…。

「すいません…やっぱり休んだ方がいいですかね…?」
「ええ…疲れているみたいだし、エルガ君には「特別な」ベッドで休んでもらおうかしらね」
「…?」

特別…と言う単語が頭の片隅に引っかかったが、今はそんな事はどうでも良かった。早く早くと、急かすように体が休息を欲していて、体もフワフワと浮いているような錯覚まで覚えてきた。

「えと…じゃあ、休ませてもらいます…」
「ええ、ゆっくりと、ね」

その時だった。エルガが座っている長椅子から立ち上がり、仕切の向こう側にあるベッドに向かおうと、リヴェーヌ先生に背を向けた時だった。

…ペチャ…

右肩に、何か冷たい液体のような物が滴り、濡らした。
それに少しばかり遅れて気付き、左手をそれに付けてみた。…冷たく、そして少しばかり粘っこい…。
それから何かに気づいたように視線をリヴェーヌ先生に向けてみる…が、目の前にあったものは、顔は顔でも、大きく開かれた口内だった。柔軟で大きな舌の先が少しだけ口からはみ出て、それや上顎など、口内は冷ややかな唾液で湿っていたのが分かる。
そして…

…パクン…

そのまま覆いかぶさるように頭をエルガに向けて降ろし、そのまま全身を口の中へと咥えこんでしまった。
もちろん、急に起こった出来事に反応が出来る人はまずいないだろう。そのまま口内に入れられてしまった彼は何も出来ないまま、その大きく柔軟な舌の上に寝そべるようになっていた。
すると、大人しくしている内に、寝そべられている舌が動きだし、口内のエルガを舐め始めた。舐めている内も唾液は出続け、舌は彼を執拗に舐め回し、包み込みと動いているが、それらの動きはゆったりとしていて、口に入った獲物を弄ぶ様にでもなく、また、味わうようににも感じられなかった。
ひんやりとした、若干狭い口内で舌に遊ばれ、彼の体は全身唾液でベトベトになっていた。だが彼も抵抗をする気な無く、ただただ大人しく遊ばれる感覚を感じているだけだった。いくら彼女が大きな竜であれ、保健の先生たるものが無意味に入室者を食べたりはしない事は、彼も理解しているのだから。
そして、彼女による舌の洗礼が終わったころには、エルガもぐったりとしたように舌に寝そべり、ボソボソと口から言葉を漏らしながら、彼女の冷やかな口内を体感していた。
そうしている内に、体が徐々に舌の上を滑って行く。霞んだ眼の先には、早く呑み込まんとしきりに動く喉の肉壁が、暗い中でも微かに見えた。そして…。

…ゴクリ…

とうとう呑み込まれてしまった。

 

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