粘ついた唾液に引き換え、口の奥はいくぶん渇き気味だった。 舌の奥に顔をこすりつけると、べとりと張り付いたままぐにゅぐにゅと動く。 表面からは舌の匂いが至近距離で香ってきた。 心臓が早鐘のように鳴る中、バスドラムのような竜の鼓動が伝わってくる。 やがて同期していくそれは、俺が竜とひとつになっている事を感じさせた。 ぐちゅり……にちゅ…… 身体が竜の呼吸と共に上下に動くと、粘ついた液体のこすれる音が聞こえてくる。 ゆっくり蠢く舌と牙の間で唾液が泡立っているのが暗闇の中でも分かった。 粘性の高い唾液の泡は触れればその形を保ったまま、指に絡み付いてくる。 「ふぅぅ……っ」 俺はこの上ない充足感に包まれていて、思わず 自分の寝ている巨大な竜の舌を恋人にするように抱きしめる。 柔軟で弾力のあるそれは腕の形をゆっくりと受け止めた。 もちもちとした感触は、まさに上等の抱き枕だった。 そのままずっと、こうしていたい…… 力を込めると、舌はそれに答えるかのように俺に巻きついてくる。 わきの下を通って、背中を回り、左のわき腹を包んでから、 また腹側にあてがわれる。そうやって全身を包み込まれると、 竜の鼓動や体温が身体全体に直接伝わってくる。 その瞬間、頭の中に声が響いてきた。 「あれ、何でこんなところにいるのかな〜?」 ……竜が起きている。魔術の一種で頭に直接話しかけてきていた。 俺は今更になって自分の行為の恥ずかしさに気がつくと、 必死で舌のとぐろの中でもがきだした。中でにちゃにちゃと唾液の混ざる音が聞こえる。 手足が舌の弾力に押し返され、まるで抜け出すことはかなわなかった。 見られてはいけないものを見られたという感覚に冷や汗が全身から吹き出した。 「いいんだよ?無理しなくて。 それじゃあ望みどおり、食べてあげようか」 顔が見えなくても、竜はきっと満足そうな、嗜虐的な表情をしているのだろう。 まるでこちらの心を見透かしたようで、しかしそれは真に当たっていた。 |