「そんなこと……あるものか……!」

口では強がってみたが、身体はじんじんと痺れるような快楽を感じていた。
舌は器用に足の間に入り込むと、足を片方ずつ、しゃぶるように巻きつき、
その度に身体全体を包む巨大な舌が、ねちりと身体に絡みついたままにゅるにゅる動く。
頭がどうにかなってしまいそうだった。

「そんなこと、ありそうだけどね〜。
 素直になれないなら、もう頂いてしまおうかしら」

そういうと、巨竜は自らの尾のとぐろから舌を引き抜いた。
急速な動きに刺激され思わず嬌声をあげる俺を、
ニヤニヤと薄笑いを浮かべながら見つめている。
そのまま尾を自分の頭よりも高いところまで持ち上げると、
竜はその口を大きく開いた。

ついさっきまで俺を舐め回していたピンク色の舌がてらてらと光りながら
下あごの中央の面積全てを占めている。ぷっくりとした存在感はその小さな歯に比べて圧倒的だった。
そんな舌が喉の奥まで続き、後は暗くてよく見えない。口内の柔らかい部分がうねうねゆっくりと動いている。
ああ、このまま食べられてしまうのだろうか。
尾の内側は既に竜の唾液で満遍なくぬれていて
丁度ビニール遊具に粘液を塗ったような感触で、抵抗など一切無駄だろう。

「嘘よ、簡単には食べないわ」

そんな言葉とは裏腹に、竜が少し力を弱めただけで俺の身体はぬるりと口内に向けて落下していった。
重い粘液の音と共に布団のように巨大な舌に身体全体で着地すると、すぐに周りが暗くなった。
竜が口を閉じたのだろう。俺はうつぶせの状態で舌に半分埋まるように横たわっている。
身体中がすぐに口内の蒸し暑い空気にさらされたと思うと、舌ですぐに上あごに押し付けられる。
呼吸が苦しい。ネバネバとした唾液が全身を包むように絡みつく中、
俺は息を吸おうと必死でもがき、やっとのことで呼吸をすることが出来た。

むせ返るような甘い匂い。竜の息を大量に吸い込んでしまった。
まずい……。俺は朦朧としていく意識の中、必死で自我を保とうとする。
でも……柔らかくて暖かい……。あまくて……いい香り……。

「じゃあ、ゲームのはじまり〜」

あれ……寒い。ぼんやりと靄のかかったような頭の中で、外気に身体が触れていることに気付く。
ふと、周りを見るとはるか下方には山の裾に広がる木々が小さく見えていた。
なんだ、これ。

「しっかりしがみつかないと落ちちゃうわよ。
 もし舌の上から落ちたら、死んじゃうわね、あなたの負け。
 頑張って私の口の中まで無事上ってこれたら、あなたの勝ち。
 どう?命がけの遊びって楽しいよね〜?
 ワタシの柔らかくて気持ちい〜いベロを精々命がけで抱きしめてなさい」

「え、あ、うぁぁぁぁ!?」

竜は俺を乗せたままの舌を外に伸ばしていた。それも、落ちたら決して助からない場所で。
そのまま俺の乗った舌に角度がついていく。竜の唾液はひどく粘り気があってもぬるぬると滑りやすい。
突然のことに、身体中が頭に警告を発する。全身がずるずると足の方向、下に向かって滑っていく。
必死でしがみつく。粘液をたっぷり含んだ布団のような舌は、肩よりもはるかに幅が広く、
掴もうとしてもぶにぶにと柔らかく、なかなか身体の落下を止めるまでに充分な摩擦を得ることができない。

「やだ、落ちたくない!!!」

俺は必死で巨大な舌を抱きしめた。舌は唾液にまみれてはいるが、
それ自体はどちらかといえばべっとりとしていて、力を込めればなんとかなるはずだった。

「じゃあ、こっちにおいで」

頭の上には竜の大きな口が広がっている。
助かるには自分から口の中に入らなければならないのか。
でも、自分から食べられにいくなんて……
俺はそれでも必死で舌を捕まえると、なんとか身体の落下を抑えることができた。
助かるには、口の中……

「あら、頑張るわね。でも早くしないと、もっとつらいわよお?」

竜はさらに舌に角度をつけていくと、地面との角度はほぼ垂直になった。
まずい、落ちる!完全に足に向かって重力が働く。
口の中に、入らなきゃ……!
足を絡みつかせればなんとかなるだろうか……!
どうにかしようともがいていると、口の奥から顔に向かって唾液が直接垂れてくる。
気持ち悪い、という感情以前に唾液がだらだらと垂れてきて、前以上に摩擦を保持するのが難しくなる。

「うわっあ、あぁぁ!!!」

ついに俺の身体が勢いよくずるずると舌の上を滑っていく。
嫌だ、死にたくない、竜の、口の中に、入りたい!
俺は涙目で、死を覚悟した。その瞬間。

俺の身体は竜の舌にまたがるような格好で止まっていた。
竜は舌の先端をくるりと丸めており、俺の股は丁度舌の作るJの字の底に当たっている。

「ふふふ、怖かったろう?
 さあ、安全な口の中へお入り」

そういうと、竜は舌を口の中へ収めていく。
ああ……助かった……。俺は安堵の気持ちで一杯だった。
竜は初めからこうするつもりだったのかもしれない。
獲物の心を弄び、自分から食われたいと言うようになるまで屈服させる……。
初めから落とすつもりなんて、なかったんじゃないか?
でも、今はそんなことどうでもよかった。竜の口に入れば、助かるんだ。
牙の門をくぐり、再び竜の息に満たされた空間へ閉じ込められる。
暖かい。よかった……。

「おっと、危ない危ない、飲み込んじゃうところだったわ」

俺はいつの間にか上半身を喉の肉に包まれていた。
舌よりも柔らかく粘ついたその肉は、俺の頭のてっぺんから胸のあたりまで密着していて、
竜の体温を直接伝えてくる。不思議な安心感に、俺は既に身を任せてしまっていた。

竜の声が聞こえたとほぼ同時に、俺の身体は周囲の肉にぎゅっと圧迫されると、
勢いよく何かの上に吐き出された。
尾のような質感が仰向けになった身体の下全体に広がっている。
腹の上だろうか。俺の身体は粘液まみれで、
特にさっき飲まれかけた時に付いた喉の粘液は硬く、太い糸や膜となって絡みついている。
手や腕全体でいじっても、なかなかとれない。
それでも腹の上は軽く沈み込むようにうっとりと柔らかく、快適だった。

「あなたがとってもおいしいから、うっかり食べちゃうところだったよ。
 でもね、なんだか最近とってもお客さんが多くて、
 実はもう中に先客がいるんだよ……?ほら」

先客……いったいなんの事だろうか……
思考力の落ちた頭でぼんやりと考えていると、竜が何かを吐き出した。
べちょりと俺の横に着地したそれは、粘液のにまみれた女性の衣服だった。

「女の子の戦士なんて珍しいよね
 昨日いただいたの。まだ声が聞こえるんじゃないかな?」

そう言われて、竜の腹に耳を当てると、何かくぐもった声が聞こえてくる。

「……あ!……はぁ……だめ!!……んっ!!!」

ほとんどが腹の音に遮られて聞き取りづらいが、確かに誰かが中にいるようだった。
中でどれだけ暴れているのだろうか。嬌声にも似た声なのは気のせいだろうか。

俺がごくりと唾を飲んで竜を見上げると、竜は俺のつま先から額までをべろりと一舐めにする。
俺を見下ろす蔑むようなその視線に、いつの間にか俺は魅了されてしまっていた。

 

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