豊かな自然に囲まれた花いっぱいの美しい町のはずれに、
白い木造の小屋が1つ、ぽつんと建っている。

それはポケモン愛護施設だ。
街の人からは「白小屋(しろごや)」と呼ばれている。
そこには元々育て屋だった老夫婦が住んでいて、
トレーナーに捨てられたり、虐待されたりして
パートナーを失ったポケモン達を育てている。

残念ながらここにポケモンを捨てに訪れる人間も何人かいるが、
ここのポケモンに会いに来たり、ここのポケモンを育てたいと願い出る人の方がずっと多い。
ここはいわば「人間とポケモンの出会い、ふれあいの場」となっていて、ちょっとした名所にもなっている。
そしてこの花いっぱいの町や白小屋にいると、
白小屋で起きたちょっとした面白い出来事についての話がいろいろと聞けるし、
ちょっと変な出来事を目撃することもある。

今回は白小屋の話の中から、とあるシャワーズとラティアスの話をしよう。

**********

それは、ある夏の暑い日の事であった。

朝、白小屋のお爺さんが外に出ると小屋の出入り口の側に
ダンボール箱が置かれていた。

お爺さんがもしやと思い箱を開けると、
中には薄汚れた緑の毛布に包まったシャワーズがいた。
シャワーズはお爺さんを見ると、不安そうに鳴き、
身を守るように丸くなった。

お爺さんはいつものように、
シャワーズに餌を与え、シャワーズの体を洗って綺麗にする。
捨てられたポケモンがこの一連の作業だけで、
まるで生まれ変わったかのように綺麗になることもある。
このシャワーズも、いかにも野生のポケモンといったような草のカスや泥に汚れた姿から、
トレーナーと一緒にいるポケモンのような綺麗な姿に変身した。
また、シャワーズはこれでお爺さんに少し懐いたようだ。
シャワーズは安心したように白小屋の外ではしゃぎまわる。

お爺さんも、他のポケモンの面倒を見に外へ出た。
白小屋の外にも老夫婦が面倒を見ているポケモンがいる。
そして外のポケモンはお爺さんの担当なのだ。

室内ではストレスを感じることもある大きいポケモンや素早いポケモン等
手のかかるポケモンを育てている事の多いお爺さんだが、
お爺さんには強力な助っ人がいる。ラティアスだ。

ラティアスは人間とも、ポケモンとも話す事ができるので、
お爺さんはラティアスをとても頼りにしている。
ラティアス自身も白小屋での仕事を楽しんでいるようだ。
それは今も昔も変わらない事で、
町の皆はラティアスのことを尊敬し、また信頼している。

ただ、ラティアスもまた一匹のポケモン。
滅多にないが、おかしな事をしてしまうときもある。

**********

その日の夜。
確か、満月の明るい日だったと思う。

今日ここに来たばかりだというのに、シャワーズはラティアスに抱かれながら、気持ち良さそうに寝息を立てていた。
何故、シャワーズとラティアスがあっという間にこんなに仲良くなったかはよく分からない。
まあ、ラティアスがやって来たばかりのポケモンとあっという間に仲良くなるのは結構良くあることだが。
それで、私もそろそろシャワーズとラティアスの様子を見るのを止め、帰ろうとしたその時だった。
信じられない事が、目の前で起こった。

シャワーズが静かに起き上がって、眠っているラティアスの顔に近づいた。
そしてラティアスが少し口を開けたその瞬間、
シャワーズはラティアスの口の中に静かに頭を突っ込んだ。

ラティアスもこれには驚いたようだ。
さらに、驚いた時に無意識のうちにシャワーズの頭部を呑み込んでしまったらしい。
ラティアスはとりあえずシャワーズを吐き出そうと、
口を大きく開けたり顔を下に向けたりしてみるが、シャワーズはどんどんとラティアスの喉の奥に入っていく。
そして、ついには口から手が辛うじて見えるくらいの状態になってしまった。
ラティアスは呑み込んだシャワーズの重みで地面にうつ伏せになり、
まるでお食事中のヘビみたいな姿勢になってしまった。

ラティアスの喉が少しうごめいているのが分かる。
ラティアスは最初は抵抗していたが、疲れたのか、諦めたのか、じたばたするのを止めた。

それから、しばらく時間が経った。
月は、相変わらず明るい。
私も何故か、立ち尽くしてしまっていた。
ラティアスの口から唾液が滴っている。唾液が月光を反射しているからか、はっきりと見えた。
そしてラティアスの首は、シャワーズをラティアスのお腹へと送るように盛んにうごめいていた。
しかし、今まさに胴体を呑み込まれようとしているシャワーズは、
ラティアスの口から揃った両手を覗かせたまま、しばらく動く気配がなかった。
どうやら、大きな生き物を丸呑みするというのは結構時間がかかるようだ。

それから数分後。
ラティアスの首やお腹が、盛んに動くのを止めたかと思うと、
ラティアスは大きく口を開け、胴体を一息に呑み込んでしまった。
ラティアスの首がぷっくりと膨らむ。
そして、シャワーズの両足がラティアスの口からだらんと出ている状態になった。
シャワーズはその状態でしばらく止まり、ラティアスの首やお腹がまた盛んにうごめき始めた。

シャワーズは水ポケモンだから、喉ごしはつるつるしているんだろうか、
あの膨らみをさわったら、ぷにぷにしているんだろうか、そんなことを考えながら、
ぼーっとシャワーズがラティアスの中に入っていく事に見とれてしまっていた。
そして、ラティアスの喉の膨らみをさわってみようと思ってしまった。でも、それは駄目だ。

私はラティアスから僅か5m程度の場所に立っているが、ラティアスにはそれは分からない。強力な魔術で姿を隠しているから。
私はラティアスに見つかってはいけない。もちろん、他の白小屋のポケモン達にもだ。
私は白小屋の人間やポケモン達に知られずに彼らの監視という業務を遂行しなければならない。

そんなことを考えているうちに、次の嚥下が始まった。
ラティアスが首を上に向け、大きな口を開けると、
するするとシャワーズの両足と尻尾がラティアスの中に納まっていく。
そして最後の尻尾の先のヒレが呑み込まれると、ラティアスは口を閉じ、
首をさらに上に向けてシャワーズを強く呑み込んだ。
シャワーズの入った膨らみは首の上部から下部へと移動していく。

言葉では表し難いが、不思議と魅力的な光景だった。

そしてついに、シャワーズはラティアスのお腹へと納まってしまったようだ。
ラティアスのお腹がぷっくりと膨らむ。少し、お腹の膨らみが動いていたかもしれない。

ラティアスはシャワーズを呑み込み、シャワーズがうまくお腹の中に納まるのを待った後、
体勢を仰向けに直し、お腹をさすりながら目を瞑った。子守唄も歌い始めた。
まるで、ラティアスがシャワーズを身篭ったかのようだ。

幸せそうな二匹を月が照らす。夜の闇はますます深くなる。
そういえばもうそろそろ深夜だ。私も帰らねば。

しかし……

この二匹はどうなるんだろうか?
シャワーズがラティアスに消化吸収されてしまったら……

でも、二匹にとってそれが結局幸せなら、
それはそれでいいだろう。

私は二匹を後にして、この日は帰宅した。

**********

翌日。その日も晴れた、気持ちの良い夏の日だった。

私は二匹のあの後が気になって仕方が無かったので、
いつもより一時間も早く起きてしまった。
そして、昨日の二匹の所へ魔術で急行する。

夏とはいえ、肌寒いくらいの花いっぱいの町のある山の高原の朝。
昨日の二匹は信じられないことに、仲良く遊んでいた。

白小屋に別のシャワーズはいないし、新しくシャワーズが来たわけではない。
一体全体、どうやって……
まあ、二匹とも無事だったのだし、考えるのはよしておこう。

日がさらに高くのぼり、世界がより、明るくなる。朝日が満ちる。
花いっぱいの町のすがすがしい一日が、始まった。
今日もあの二匹にとって幸せな日になると、いいな。

**********

あの出来事の後。
私があとでこっそりと事情を調べると、

元々あのシャワーズはしっかりしたポケモンで、
地元のコンテストでは結構優秀な成績を収めていたらしいが
とある事件がきっかけでトレーナーのパーティーから永久追放されてしまったらしい。
町でゴミ箱に入れられて泣いているシャワーズを、
危うくゴミ収集車にシャワーズを放り込みそうになった人間が一時保護し、
白小屋の前まで持ってきたという話も聞いている。
相当な苦労をしてきたのは想像に難くない。

そんな今までの自分の支えを全て失い、
さらに深い心の傷まで負ったシャワーズを癒したのが、
白小屋のラティアスらしい。

そのトレーナーは成績が上がったときだけポケモンに愛情を注いだが、
白小屋のラティアスはありのままの今のシャワーズを受け入れ、愛情を注いだらしい。
シャワーズは相当ラティアスに甘えたそうな。

そしてその夜、シャワーズはこんなムチャをラティアスに頼んだそうな。
「もっと美しくてバトルにも強いラティアスになりたい」と。
そしてシャワーズはラティアスのお腹の中に入ればラティアスに生まれ変われると思って
ラティアスに呑み込んでもらったらしい。

おまいは何を言ってるんだまったく……
シャワーズ、あんたは醜くない。
駄目だと酷評され、ゴミとして捨てられるために生まれてくるポケモンも人間も居ない。
もし自分の価値を見出し、自分の能力を十分に発揮できるポケモン達や人間達が少なくなれば、それは社会の損失だ。

でも、
シャワーズがどうやって出てきたのかは分からないが、
ラティアスのお腹の中はとても温かくてぷにぷにしていて、ふわふわで気持ち良くって……
とシャワーズが言っていたとラティアスが言っていたのを聞いたことがある。

もしかするとラティアスのお腹の中はとても心地よいものなのかも、
いや、何を考えているんだろう。何でもない。

とまあ、これがこんな変わった事があったなあ、くらいの
白小屋のとあるシャワーズとラティアスのお話だ。

え、……私?

この翡翠の杖を持ち紫のローブに身を纏ったいかにもあやしげな魔術師に興味がおありかな?
物好きだねえ。
名乗る程の者でもないし、身分上名乗ることはできないが、
私の存在を知っている人は私をこう呼ぶ。
「花の町のポケモンの守護者」と。

 

 

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