なんでこんな事になったのか。 世の中何が起こるか分からないというものの。 このボクがこんな目にあわされるなんて。 ああ…こら、舐めるな。 かみつくな! 持ち上げるな。 宙吊りはやめっ…! 何…? 負けたらなんでも好きにしてくれと言っていたって? ……… 何から話すべきだろう。 この依頼を受けた経緯を話そうか。 まず自分はヒトカゲ。 まだ進化もしていないけれど。単純な強さでならリザードンにですら負けちゃいない。 空を飛ばれたら手が出せないとか。 地震を起こされたら体が竦んで動けないなんて事もない。 その気になれば進化だって出来る…筈なんだけど。 進化が出来る泉が最近は使えないらしく。 ボクはヒトカゲのままこうして探検隊として各地を回っている。 今は一人身で…掲示板の依頼をこなしながら運命的な出会いを求めているただのポケモンさ。 今でも随時相方…もとい伴侶を募集――― あっ…好きにしろ…とは言ったがそれは… 体中舐めまわすなんて聞いてない。。 そうそう…依頼を受けたのなんてただ掲示板から報酬の良さそうな依頼を見つけて……っ …咥えるな!しゃぶりつくなっ…! ボクの尻尾がそんなにおいしいか? ああ…そうかい? おいしいんならそうしてるといいさ。 オマエなんてボクが本気を出せば… って…なんで熱くないんの? さっきから尻尾の炎を咥えたままで… 何?やっぱりおいしくない? だったらやめ…。ないって? ―――そうだ。 依頼の内容は…ガバイトのうろこを取って来てください。 最近出された依頼で、何人もこの依頼を受けたそうなのだが。 未だに誰も成功した事がないと話を聞いていた。 それもそうだ。 今この目の前にて…ボクを玩具のように弄ぶガバイトが。 うろこが欲しければオレと戦えと。 オレが勝ったらオマエの事を好きにさせて貰うぜ。 なんて、良くある話。 腕に自信はあったボクはオマエが勝ったら好きにしなと返事をしては、考えなしに挑んでこのザマだ。 ドラゴンタイプなだけあってかなりの強さを持っているコトは分かっていたのに。 負けてからの事を考えていない愚かさが… うあ…何を…? ―――え? なんでここまでカラダを任せてるんだって? いや、好きにしろって言った手前… それにオマエにボコボコにされて…そんなに動けないんだし。 バカ…喜んでる訳ないだろう? だからそろそろ…やめて。 なんて懇願するも、ガバイトにその気は無く。 素直にやめては、もらえそうにはないみたいだった。 * * * 擬音にすると。 がぶっ! だろうか。 あむっ! なのか。 どちらにしろそれは唐突に行われた。 頭から一気に。 それでいて、やんわりと。 かみくだかれたり…牙が刺さって痛い。とかそんな事はなく。 ただ口の中に頭から…とにかく咥えこまれたんだ。 となると自分の頭は口の中。 奥から生温かい息をダイレクトに吹きかけられながら。 呼吸をすれば満足に息もできずに、尚且つ臭い。 さらには顔中をガバイトの唾液に塗れた舌が這いまわり。 合わせてどんどん荒くなる息遣いが段々と恐ろしくなっていく。 心の中で助けを求めて震えるだけの時がどのぐらい続いた事だろう。 これもまた唐突にボクは解放された。 光に反応して目を開けようとすれば眩しく感じるほどに 唾液に塗れた顔が…頭が自分の物とは思えないぐらいに働かない。 長時間拘束されていたんだなと思えば、目の前のガバイトが話しかけてくる。 「頭からが良いか?尻尾からが良いか?」 まだ…続けるのか。 この時はそのガバイトの言葉の意味するものがなんなのか。 分からなかった。 分かっていてもそれを拒否するだけの体力すら残っていなかったし。 ただその言葉に対して尻尾をふった事が尻尾から…という意味に捉えられたのだろう。 間もなく、ゆっくりとボクの尻尾が咥えこまれていく。 だがその後に体ごと持ち上げられたその後は…勢いそのままに両足まで口の中に収められてしまい。 未だ覚醒しない意識の中で体も動かず、抵抗もできず。 何が起こったのか。 頭がそれを理解するのが遅れたせいで、その間にもどんどんボクの体はガバイトの体の中に。 そして、理解しながらもやっぱり…抵抗なんてできやしなかった。 なにせ、あっさりと一呑みにするかのような勢いで、ボクの頭の上にはガバイトの牙が乗ってしまっていたのだから。 視界は既に、口の中から外の景色が見えて ボクの体が呑みこまれていき やがてガバイトの口が閉じられる。 光が、牙が、視界が全て閉じられる。 ずるりっ…と、ボクの体はさらに奥に。 食べられた…なんて全てを理解した時には既に視界はまっくらで。 反射的に伸ばした手も、捕まる所などなく、助けを得る事も出来ず。 何も考えずに伸ばした手は何の意味もなさずに落ちていく…。 そして数秒後のボクは…胃袋の中。 尻尾の炎を抱え込みながら、ただまるくなり… あとはもう…消化されるだけ。 できる事なら…痛くないほうがいいな。 動かせない体。 圧迫してくる胃壁に体に纏わりついてくる胃液がぴりぴりと体に染みてくる。 もはや時間の感覚なんてある筈もなく。 このまま助かるなんて考えも思いつかず。 ボクは考える事をやめてしまった… このまま意識が覚醒しない事を願いつつ――― * * * 今日も良い朝だ。 目を覚まし、伸びをして。 朝は何を食べよう。 その前に、まずは水場で顔を洗って。 確か、バックの中にとっておきのレアな木の実があったから今日はそれをー…… 食べたかったのに。 探してみても綺麗さっぱり木の実だけが無くなっているようで、バックを暫く漁るがやっぱり目当ての物は見つからず。 振り向けば、木の実が無くなっている理由はすぐに分かった。 満足気な顔をして、爪の先には木の実の残骸を残しているソイツが居た。 悔しいので蹴りを一発、視界に入る立派に膨らませているお腹に一発ぶち込んでくれた。 しかし普通なら弱点であろうそんなお腹も、ボクの蹴り一つではびくともしないらしく。 勢いに任せて寝がえりをうっては、そのまま気にも留めずに寝ついてしまう。 なんだって、こんな事になってしまったのか。 ボクの住処にいつの間にか寝付いているのはガバイト。 このボクを。 丸呑みにしておいては、吐きだして。 意識のないボクを看病しつつ…ウロコまで貰えたりとどういう心情をしているのか。 根っこが悪い奴ではなさそうだったし… 何故かこうしてボクについて来たり。 こうしておとなしくもしている。 ただ…少し変な奴なのが困りもの。 相棒が欲しいとは常々考えてはいたが… こんな形で、しかもこんな奴が相棒で良いのか。 自問するも答えは出ずに。 中々使える奴でもある。 単純な強さでいってもガバイトの方が上でありながらも大抵の事は言う事を聞いてくれ。 尚且つ、依頼でのうけも良かったり。 お陰で依頼も多くこなせるようになり。 さらにはお尋ね者を相手どころか敵のアジトに乗り込んでしまった所でも早々負ける事も無くなった。 そう…ガバイトが来てからというものの。 一日一日が楽しい方向に向かっているというのは感じていたが。 ただ一つ。 不満な所がある。 「なあ、今日も食べていい?」 ―――どうせ断わってもオマエの事だから 「痛くするなよ……まったくボクの身も考えて……」 いつも通りに。だけど…その不満も今ではだんだん―――ボクもやっぱり…変になってきているんだろうか。 まあ死ぬような目にさえあわなければこうして付き合うのも悪くない――― ガバイト次第でボクは溶けてなくなってしまうかもしれないというのにそれも悪くない――― 何を考えているんだろう。 思い出すたたびにボクはどんどん変わっていってしまう。 食べられるっていいな………と。 |