それは野生のポケモンにしては美しすぎた。
まるで一流のトレーナーに育てられたかのうような…
大きく。強く。タフで。賢く…全てにおいて完璧だった。

なぜ、こんなヤツがエイチ湖に。
キッサキシティへ向かう途中。珍しいポケモンが居るかどうかと思い立ち、このエイチ湖へ寄り道したのが間違いだった。
確かに珍しいポケモンは居た。
今、自分のこの眼の前に…優雅に、そしてしなやかな体で他の者を見下して。
自信に溢れたその姿を晒すのはミロカロスだった。


勿論、自分はそのミロカロスをゲットするべく、こうして対峙していた訳だが。
手持ちの道具はほぼ全て底をつき。。
ポケモン達も…大半が既にアイツの腹の中。。。


自分はトレーナーとして判断を見誤った。
それはあまりに開きすぎた戦力差であった故に。
だが、それを悟った時には既に遅かった。
仲間を見殺しにできるものだろうか。

全滅か。
自分達と他が助かるために逃げるべきだったのか。

敵は狡猾で…ずる賢く。
ゲットする…などという考えをしていたのがそもそもの間違いだった。


  *   *   *


まず最初に間違いだと分かったのは何時だったか…
自分はまずそいつを弱らせる為にブラッキーを当てる事にした。

止めをささない程度に『かみつき』を命令。
相手はひるみ…2度、3度と続けるうちに相手は弱っていくようなそぶりを見せる。

そして頃合いを見計らい、続けてサンダースを出そうと試みた。
ブラッキーは手元に戻り、サンダースが場に現れる。
だが、何かが妙だった。
何もする訳では無く、ただ攻撃を受け続けるだけ。

確かに傷も…ダメージも見受けられた。
だが…しかし、ミロカロスのその様子はどこか、今にして思えば演技のような。

しかし自分はミロカロスをゲットするという事に捉われ、そういう類の思考はこの時点では無かったのだろう。
自分は続けてサンダースに続けて『でんじは』を命令する。

ミロカロスを麻痺させ。続けて、『でんこうせっか』を命令。
徐々に、相手の体力を奪い。
頃合いを見計らい。自分はミロカロスを捕まえる為、とっておきのゴージャスボールを投げつけようと試みた。

だが―――


ほんの数秒だった。
目を離したのはバックからそのボールを取り出す為の…それだけの時間。

サンダースが居なかった。
一瞬見失い…その姿を見つけるまでに時間はそうかからなかった。

ただ一撃。尻尾で叩き伏せられたのだろう。
ぴくりとも動かないサンダースのその姿がミロカロスの下敷きとなっていた。

ミロカロスはニヤリと…笑ったような気がした。


―――リーフィア!『くさむすび』


なぜ自分はこの時。
ミロカロスを倒す為にこの技を選んだのか。
この時はまだ捕まえる為に戦っていた筈だった。
思えば…もう既に。心のどこかでコイツは危険だと感じていたのかもしれない。


結果でいえば。
全くダメージがなかったのだろう。

相性でいえばこうかはばつぐんの筈だった。
リーフィアの『くさむすび』をものともせずに、ミロカロスが繰り出したのは『ふぶき』…だった。
いや、『こごえるかぜ』だったのかもしれない。

どちらにしろ、その一撃でリーフィアは倒れた。

自分は意地になった。
たかが野生のポケモンに。なぜ負けなければならないのか。
自分は今の今まで負けを知らないトレーナーだった所為もあるのだろう。
最早、後には引けなくなっていた。


そして、自分が続けて繰り出したのはシャワーズ。

命令する技は、『めざめるパワー』

シャワーズのめざめるパワーはでんきタイプ。
威力もそこそこで。シャワーズと同じ水タイプ相手には持ち前のとくせい。ちょすいと合わせて負け知らず。

これで勝つる!
そう思ったのも束の間。

相手のミロカロスも同じだった。
同じタイプの…でんきタイプの威力を持つ『めざめるパワー』を相手も使ってきたのだ。

互いにぶつかり合うわざとわざ。。
同じ水タイプが放つでんきタイプの技と技。

勝負にもならなかった。
一方的に攻撃を受け。
一方的に技を潰され。
そしてシャワーズもミロカロスの前に倒れた。


茫然と立ち尽くす自分の前で、ついにミロカロスはその本性を現し始めた。
倒したシャワーズの前に立つと…おもむろに舐めまわし始めたのだ。
体を転がし、舐めて、頭を加え、すでに倒れているサンダースの上へ重ねる。


ふと、手持ちのモンスターボールが動く。
ポンと音をたて、現れたのはブースター。


命令すら受けていないままに。
ミロカロスへと向かい『すてみタックル』を放つ。

…止める事は出来なかった。
シャワーズがあんな目に合されているのを前にしてブースターに、お前には無理だ…なんて自分には言えなかった。
あわよくば、そのままミロカロスに致命的な一撃を与えてくれればと祈ったが…


結果は悲惨なものだった。
現われて1秒とも立たずに『ハイドロポンプ』の前にその姿を晒し…
地面に小規模なクレーターを穿ち、その中心にはブースターが倒れている。
息はあるものの。あの状態では自力で動くこともかなうまい。

もはや手持ちは、戦闘メンバーとしては心もとないイーブイだけ。
そもそもここへ来た目的の一つとして、イーブイをグレイシアに進化させる為にやってきたのもあるが…
今となってはもうどうにもならない事だった。


そして足元にはイーブイ。
もはや打つ手も無くなり、ただ立ち尽くすだけとなってしまった。

何を命令すれば良いか。
どうすれば良いのか。


そう考えていた時間はあまりに長かった。
ついにミロカロスのお食事タイムが目の前で始まったのだから…

 

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