(プロローグ)


―― 医療と薬草の町 ミルナイト ――

周辺の町や都市に比べ、遙かに医療施設や技術が突出した町。

高名な医師達が集い作り上げた医師会と呼ばれる組織が、実質この町の運営をになっており、
小さな町役場も存在するが、ほぼ形だけの存在となっていた。

この町がどうして、ここまで極端に医療に長けた発展をしたかというと、
少々特別な事情が複雑に絡んでくる。
その中でも特に医療の発達に貢献したものをあげるのなら……薬草の森とまで呼ばれた大森林の存在である。

貴重な薬草がこの森の中では豊富に採取可能で、作られた医薬品は総じて格安、高品質。
コレだけの条件が揃えば噂は流れ、町の外から薬を買い求めに来るもの達が殺到した。
中には町で直接医療を受けるものも現れ、その数に比例して医院も次第に数を増やしていき、医師の数も増える。

こういった連鎖が繋がり、高度の医療技術が発展してきたのである。


そんな『ミルナイト』が、いま深刻な問題に直面していた。


いかに薬草の森が広大で豊富な薬草が採れると言っても、数は有限なのだ。
町が発展するにつれ、採取される薬草の数が劇的に増加の一途をたどっていた。

このままでは薬草が枯渇し、数年後には今の体制が維持できなくなる。

危機感を抱いた町の医師会が、それを打開するためにとある条例を制定した。
年に採取できる量を制限し、森へ立ち入る者も医師会が認めた一部の者のみと定めたのである。


……その結果どうなったか?


供給過不足により薬の値段が倍増、それを見越して無断で森に入り、
高価な薬草を手に入れようとする輩が後を絶たなくなってしまったのである。

更に不幸は重なり、今年は近年まれに見る不作で、森の薬草の数が激減していた。

たとえどれだけ技術があろうとも、薬がなければまともな医療が出来るはずもない。


そんな折であった。
とても目立つ奇妙な一行が、町を訪れたのは……


「此処がシャンクの言っていた町なの? 確かに薬臭いわ……」
「ええ、此処なら貴重な薬草も手に入りやすい筈なのですが……少し様子がおかしいですねぇ……」
「何でも良いから早く宿で休もうぜぇ……」
「僕はこの町を色々と見て回りたいです〜♪」

町の雑多な物音に紛れて響いた声は四つ。
どれもが特徴のある声をしており、ほぼ皆がバラバラなことを呟いている。

そんな一行は、町の人々の好奇な視線に晒されながらも、道行く人の波に紛れていった。



それから数日後……とある宿屋の中。

「シャンク、私に用って何なの?」
「ええ、ティナの力を見込んで折り入って頼みたいことが……」

部屋の中でひそひそと二人のささやく声が、暫くして中でバタンと大きな音が響き、

「ふふふ、任せて♪ それじゃ、行ってくるから」
「ええ……お任せしました。ですが……次からは窓から出入りするのは止めて欲しいモノですねぇ」

開け放たれた窓……すでに其処には誰もいない。
部屋に残された者は、まるで其処に会話の主がいるかのように語りかけ、静かに扉を閉める。



その日の深夜……夜の闇にまぎれ何者かが町を飛び出していった。

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