ちょっと生き物の気配が少なくて、
何時も静かで普段は誰も来ない……そんな森の入り口。
その道のすぐ横……何の変哲もない場所に、

今日……ある2階建ての飲食店が、新しく建てられていた。

木造の建物の雰囲気が、周囲の森の背景にとても似合って、
その綺麗な姿を周囲に晒している。
入り口の軒先には、赤い暖簾が掛かっていた……

そこには、黒く綺麗な字で、
『キツネの作る美味しい麺亭』と名前が書かれている。

「やっと……やっと、此処まで来れたコンッ!」

建てられたお店を……側で見上げている一匹のキツネが、
ポロポロと涙を流しながして、感極まった声で叫んでいた。

「……コ、コ〜ン、どうしよう。
 今日からお仕事始まるのに……、涙が止まらないコン……」

目を手で必死に擦りながら、
止まらない涙に戸惑っている一匹のキツネ……

これまで、色々な苦労、挫折、絶望を、その全てを……
乗り越えた充実感がキツネに、
……いや、今のキツネの店主に涙を流させていたのだった。

「……もう、泣いちゃダメだコン……
 これから、もっと大変だから……
 こんな所で、泣いていちゃ行けないコンッ!!」

感傷を何とか振り切ったのか、
キツネの店主は腰に付けていた前掛けを使い、
クシュ、クシュと顔を拭いて、涙を拭き取った。

そして、前掛けを戻すとそこには……
次の高い目標を目指すことを心に刻んだ、キツネの店主がいた。

「よし、まずは今日の仕込みだコンッ!
 一生懸命、美味しい麺とスープを作るんだコンッ、コ〜ンッ!!」

一度、自分の顔をパンっ!と叩いたキツネの店主。
少し、頬が真っ赤になったが気合いの入った表情を浮かべて、
自分のお店の引き戸を開いた。

お店の中で、綺麗に並べられたテーブルとイスの数々。
ちょっと横を見ると真新しい厨房の姿も見えて、
キツネの店主の表情がさらに引き締まっていき……

最後に前掛けのポケットから、真っ白な頭巾を取り出して頭にかぶり、

「さあ、頑張るコンッ!」

こうして、キツネの店主の戦いが始まったのでした。

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