月日は流れ、もはやお馴染みとなったガイル家の台所。

「カメッ! 一品あがったよ! 持って行って〜!」
「カモッ! 了解〜!」

今日も元気に張り上げる声が聞こえる。
相変わらずの喧騒の中、例の『3匹』が忙しく動き回っていた。

「カモ〜! 行ってくるっ! うぎゃっ!」
「ただいま〜 亀さん〜頼まれたモノは……あぅっ!」

出来たてホヤホヤの料理を手に持ち、カモネギが廊下に飛び出す。
丁度その時、廊下から姿を現したのがヘルカイト。
二匹は申し合わせたようにぶつかり合い、料理のお皿と買い物袋が宙を舞う。

そのまま、大惨事になるかと思われた時。
よろめいたヘルカイトが、素早く身体を立て直して。

「あっ!よっと! こっちも!」

ほぼ同時に落下したお皿と袋を同時にキャッチする。
一部始終を見届けたカメールが、無意識にパチパチと拍手をした。

「カメ〜 竜さん凄いよ〜」
「ははっ これぐらい出来ないと」
「カモ……りゅ、竜さんゴメン……」

笑いながらテーブルに料理と袋を置いていくヘルカイトに、
申し訳なさそうにカモネギが頭を下げた。

「ははは……俺の方こそゴメン。
 鳥さん……今度はお互い気をつけようね」
「カモ……竜さん……」

あの場合お互い様だった。
直ぐさまヘルカイトも頭を下げて、カモネギに謝る。
続けて頭をカモネギに寄せ……スンスンとヘルカイトはカモネギの匂いを嗅いだ。
直ぐさま、濃厚なある匂いを嗅ぎ取り……ニヤリと怪しげな笑みを浮かべる。

「グフフフ……鳥さん……」
「カモッ! 竜さん何をっ!」

激しく口調が変わったヘルカイトに、カモネギは思いっきり後ずさった。
以前あったような展開に、本能が警鐘を鳴らす。
即座にこの場から離脱しようとカモネギは身を翻した。

「カ、カモッ! カメール! 後はまかせっ!」

この場をカメールに任せ逃げだそうとするカモネギを、真っ黒な手が素早く捕獲した。

「カモネギさん……フフフ……疲れが溜まってるねぇ〜」

呟かれた言葉にカモネギの顔色が一気に青くなる。

「カモ! 離して! 竜さん!」

必死に逃げ出そうと大暴れするカモネギだが、強靱な竜の腕はそれを許さない。
ゆっくりと顔を近づける迫力のある笑顔のヘルカイトを見つめ……
ゴクリとカモネギは息を呑んだ。

「フフフ……鳥さん。怖がらなくて大丈夫♪
 ちょっと疲れの負を貰うだけだよ〜♪」
「カモ〜! その顔が怖い〜!」

涙目で悲鳴をあげるカモネギ。
助けを求めて、目を横にそらしカメールを見つめる。

「カ、カメ……ゴメン…無理」

カメールは、引きつった笑みを浮かべ首を横に振った。
最後の望みを絶たれガックリと頭を垂れたカモネギ。


ガブッ!


「カモッ〜〜〜!!!」

ひときわ大きな悲鳴がガイル家に木霊した。
噛まれる度にビクビクと身体を震わせるカモネギを、ヘルカイトが容赦なく呑み込んでいく。
ゆっくりと膨れだした喉。

……惨劇の中……カメールは部屋の隅で蹲ている。

「僕は見てない、僕は見てない」

カタカタと身体を震わし、念仏を唱えるかのように呟きながら。
そして、今まさにヘルカイトの喉が最大に膨らもうとしたその時!

「みんな、ただいま〜」

ガイルが帰ったようで玄関の方から声が響いてきた。


グバァッ! ビチャ!


途端にヘルカイトはカモネギを吐き出し、廊下に飛び出して玄関の方に駆けていく。
暫くして……

「マスターお疲れ様〜♪」

玄関の方で楽しそうな声が聞こえだした。
そんな中……残された二匹。

「うっ……カモ〜」
「カメ……」

カモネギがクラクラする頭を抱え、酷いと言いたそうな声をだし。
ポンとカメールが諦めろと言わんばかりに肩に手を乗せた。
ガックリと頭を垂れるカモネギ。

「カモ〜……それにしても竜さん…変わったなぁ……」
「カメ……うん。 言葉遣いが何か変わってきたし。
 何だか最近、遠慮が無くなってきたね……」

言いつつカメールは思っていた。

(カメ……多分、アレが本当の竜さんなんだろうな……)

そう思う理由は幾つかあったけど……
やっぱりあの事件が、一番の原因だった。
皆で一緒にヘルカイトを連れて帰った後……
沢山の事を聞かされ、沢山驚いた。

大騒ぎを起こしたヘルカイトには、『トイレ掃除を一月』と、
ガイルの一声で、ベターな罰が与えられたりもした。
しかしである……『やり遂げたら、今まで見たいに遠慮はしなくて良いぞ』などと、
罰に報酬を付け加えるのはどうだろう……?

その時は、カメール自身も賛成した。
だけど、今は賛成したことを、ちょっぴり後悔もしていた。

何せ……その結果が……

そこで、カメールは考えるのを止めた。
視線を動かすと先には、ベトベトに羽を濡らしたカモネギがいる。
カモネギが、その視線に気が付くと、ブスッと膨れた。
何となくカメールの考えが分かったのだろう。
その辺もこの二匹は息がピッタリだった。

「カモッ! だからって何で僕ばかり毎回これなの!」

ベトベトに濡れた羽をばたつかせ、カメールに訴える。
どうやら、自分ばかりがヘルカイトに、食べられそうになるのが不満のようだった。
そんなカモネギから、ゆっくりと目をそらし…横向いたカメール。

徐にフゥ〜と深いため息をついた。

「カメ……ねぇ……本当に自分だけだと思う……?」
「カモッ! ……あっ……ゴメン……」

ため息混じりに吐き出されたカメールの言葉の意味を、察したカモネギ。
暫く黙り込んだ二匹は、同時にため息を吐き出した。

それは、深く深く…そして、重たいため息だった。
続けて吐き出した言葉も……何となく重い。

「カモ……お互い頑張ろう……」
「カメ……お互い頑張ろう……」



    *   *   *



そして、夜……
ガイルの寝ている枕元に黒い影が忍び寄る。

「フフフ……マスターの負は……今日も美味しそうですね。」

呟かれる声はとても幸せそう。

「今日もいつものように負を食べてあげますから
 明日も、お仕事頑張ってくださいね……マスター♪」

黒い影はゆっくりと大口を開けて、ガイルに迫っていく。
熟睡しているガイルはそれに気が付くこともなく……

いや、むしろ信頼しているように寝顔が、とても幸せそうに笑っていた。
その顔に……黒い影が遠慮無く覆い被さる。


カプリ……ムグムグ……ゴクリ……


生々しい音が暫く響き渡った後……もうガイルの姿は何処にも無く。
大きくお腹を膨らませた、影の主の声だけが部屋に響いた。

「ご馳走様でした。マスター♪」

最近……毎夜の度に繰り返される出来事。
その度に、竜は心の中で鳴いた。

(ありがとう。 ここが…俺の……うぅん……僕の居場所…♪)

彼が掴んだモノに対する感謝の声で、今日が終わる。
また次の日、同じ事が繰り返される。
楽しくて、騒がしくて、ちょっぴり面白い。

これが、今のガイル家の一日です。


The End

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