Re: ある女剣士とドラゴン ( No.1 ) |
- 日時: 2016/07/15 21:38
- 名前: サーや
- 「ぐっ…!」
私は尻尾で薙ぎ払われ、壁に勢いよくぶつかった。頭がガンガンとする。
「疲れたのか? 情けない。それでも剣士か?我を久々に愉しませてくれると思ったが…お前は蟻のように弱いな」
目の前にいるのは、よく物語で出てくる大きなドラゴン。 その口はとても大きく、私なんか一口で食べられてしまうだろう。
「ぐっ」
自分の弱さを感じ、唇を噛む。
そもそも、なぜ私がこんなことになったのかというと。
私はドラゴンハンターの一族の末裔で。 才能があると皆に言われて。 だから、今日初めてドラゴンを狩ってみんなに褒めてもらおうと思ったのだ。
そして、私が初めての狩りの標的に選んだのは、北の山に住むという、齢1万年を越えるという伝説の白龍。
当然皆反対した。だが、私には才能がある。そう自分の力を過信した私は反対を押し切り、一人で狩ってくるといってしまった。
…それから今に至る。
「…つまらぬ。1000年ぶりに起きたらこんな小娘がいるなんて。それも我を愉しませるほどの強さもない。さて、どうしたものか」
ドラゴンは、大きな手で私を掴み鼻ずらの前に持っていく。私にドラゴンの生温かい息が当たった。…少し甘い匂いだ。
|
Re: ある女剣士とドラゴン ( No.2 ) |
- 日時: 2016/07/15 21:52
- 名前: サーや
- ドラゴンの目は綺麗なコバルトブルーで、その瞳に睨まれ私の身体は強張る。本能的な恐怖が私の身体を動かなくさせていた。
「くっ…離せ!」
なんとか身体を動かしドラゴンの手から抜け出そうとするものの、手はびくともしなかった。先程剣を落としてしまったことが悔やまれる。
「貴様、我の遊びに暫し付き合え。お前が生き残ればお前を生かしてやろう」
「遊び?」
私が聞くと、ドラゴンは目を細めじっと私を見た。
…嫌な予感。
「貴様を我が食べて、貴様が見事我の腹から出てこれば、貴様を逃がしてやろう。なに、それだけのことだ」
「なっ! そんなの無理に決まってるだろ!?」
私は抵抗したが、ドラゴンは既に聞く耳を持たなかった。ドラゴンは上を向き、手をその口の上に持っていく。
そして、口をゆっくりと開いた。 その口の中に生えている無数の牙は、私の腕ほどの太さと長さがある。
アレに噛まれるということか?
いや、腹の中から出てこいという事は…丸呑み!?
「では、せいぜい努力しろ、小娘」
「いやぁぁぁぁ!」
ドラゴンが言うと同時に私の身体をドラゴンは離し、私の身体はドラゴンの口に向かって一直線に落ちていった。
|
Re: ある女剣士とドラゴン ( No.3 ) |
- 日時: 2016/07/15 22:03
- 名前: サーや
- ベチョっと柔らかい物に受け止められる。
これは…舌か。
それに動かされ私の身体はぐちょぐちょと丸められていく。身体が粘液でベチョベチョと濡れてしまった。不快感が私を襲う。
口の中は生温かく、甘い匂いと臭い匂いが同居していた。
そうこうしているうちにどんどん舌で弄ばれて、ついに私はベチョベチョといっていい状態になった。
「そろそろ良いか…?」
ドラゴンがモゴモゴと言った。 と、同時に舌がこれまでのように丸めて転がすのではなく、私を包んで動き始めた。
そして、私の目の前にとても大きく暗い穴が現れた。この先が食道なのだ。
私が身震いすると同時に…
私の身体は食道に放り出された。
|
Re: ある女剣士とドラゴン ( No.4 ) |
- 日時: 2016/07/15 23:11
- 名前: サーや
- 「う…あああ」
温かく湿った壁が収縮しながら私をゆっくりと胃袋に送る。ゆっくり、ゆっくりと。
そして、やがて巨大な空間に私は落ちた。
「むぎゅ」
顔から落ちて、間抜けな声が出てしまった。
「ここが胃袋」
呟き辺りを見渡す。
もっと狭いと思っていたが、その空間は思ったよりも広い。ピンクの壁が揺れ、収縮し始める。グラグラと地面、正確には胃袋が揺れ、私は座った。
ドクンドクンと、胃が脈打っている。 ここにきて、美しいと思ってしまった自分はどこか狂ってきたのだろうか。
胃の壁に耳を当ててみると、ドクンドクンと巨大な音が聞こえてきた。ドラゴンの心臓だ。ドラゴンも生きているのだ。
当たり前のことだったが、私は力試しに生き物を殺そうとしてしまったのだ。この音で私はそれを感じ、恥ずかしく思った。
「すまない、ドラゴン。私は勘違いをしていたようだ。私は強くない。それなのに、自分の力を過信し、あまつさえ他の生命である、貴方を殺そうとしてしまった。これは我が死をもって償わせて頂きたい」
聞こえているかどうかはわからなかったが私はドラゴンに謝罪をした。
すると同時に壁から胃液が出てきた。 ビチョビチョと出てくる液体に身を任せよう。そう思った。
その時。突如心臓の鼓動が少し早くなった。なにかおきたのだろうか…?
「…本当に反省しているのだな?」
声が響いてきた。ドラゴンの渋く、どこか若い声であった。
聞こえていたのか。
「もちろんだ。…すまなかったな」
「…どうやら我は貴様を助けたいようだ」
「…は?」
それと同時に。
私の身体は胃の壁に包まれて押し上げられた。
気がついたら、胃液などの粘液塗れでドラゴンの鼻ズラの前に倒れていた。
「げほっ…はあはあ…何故、助けた」
「…どうやら我は貴様に惚れたようだ」
「は?」
さっきと同じ間抜けな声を出す。 ドラゴンは私をじっと見た。
「それに…貴様はうまかった。また食べたいぐらいだ」
「…服着てるのに味わかるのか?」
私がずれた答えを思わず言ってしまうと、ドラゴンは声をあげて笑った。
すると、ドラゴンの白い鱗がキラキラととても綺麗に光った。
私もその光景を見て、先程まで食べられていたのにそんなことも忘れて笑った。
|
Re: ある女剣士とドラゴン ( No.5 ) |
- 日時: 2016/07/15 23:22
- 名前: サーや
- やがて、ドラゴンは笑いをおさめた。
「どうだ…貴様我の嫁にならんか?」
「よ、嫁!?」
「もちろん、貴様が嫌がらないのなら良いのだが…頼む、久しぶりに愉しませてくれたのだ、もっと愉しませてはくれないか?もちろん、生活は保証するぞ」
「…」
私は顎に手を当てて考えた。今故郷に戻っても、図に乗りすぎた馬鹿者として笑われるだけだし、ドラゴンハンターの末裔として生まれた以上、これからもドラゴンを狩らなければならない。
そんな事は嫌だ。
私はおもむろに立ち上がり、ドラゴンの胸に歩み寄った。 ドラゴンは伏せをしながらじっとこちらを見ている。
私はドラゴンの胸に耳を当てた。
ドクンドクン、と規則正しい音がした。先程までこの近くにいたのだ。…何故か、落ち着く。私は暫しその音を聞いていた。
すると、音がまた早くなった。
「…いつまでそうやっている気だ?早く決めろ」
ドラゴンが言う。その口は心なしかほころび、顔は少し赤みがさしている気がした。
かわいいな。クスリと私は笑った。
「いいぞ。貴方の嫁になろう」
すると、ドラゴンの顔はパッと明るくなった。
「本当か?ありがたい」
「…たまになら、食べてもいいぞ」
「…なにか企んでいるのか?」
「いや、別に?」
私は笑った。ドラゴンもつられて笑った。
その顔は最初対峙していた時の険しい顔とは別人のように優しく、楽しそうであった。
|
Re: ある女剣士とドラゴン ( No.6 ) |
- 日時: 2016/07/16 10:42
- 名前: サーや
- 以上で終わりです。
少し味見の場面がなかったな…(T_T)
もし後日談や番外編が知りたいなら、コメントよろしくお願いします!
|