Re: ヨーギラス×●●●● ( No.1 ) |
- 日時: 2011/03/15 02:32
- 名前: ROMーLiza
- 1
その日も俺は、地獄の真っ只中にいた。
ドスッ ガッ バキッ
「……やめ……ろ」
四方から襲ってくる激しい衝撃と痛みに耐えながら、その一言を絞り出した。 だけど奴らは、その言葉を鼻で笑って聞き流した。
同じ群れのヨーギラス4匹が、俺1匹を満足行くまで殴ったり蹴ったりする。 こんなことが毎日のように、大人の目につかない場所で平然と行われている。 尤も、既に俺があちこちに傷を作っていることに、誰も気付かないはずがない。見て見ぬフリをしているだけだろう。
群れて生活していると、異質な奴を仲間外れにする嫌いがあるのは、結局大人も子供も一緒だ。 俺は正にその被害者だった。
俺が他の皆と違うことは二つあった。 一つは、生まれつき瞳の色が白いこと。他の奴らは赤い。 そして二つ目は、両親が居ないことだ。俺の父親と母親は、ある日出掛けたきり忽然と姿を消した。
最初は――両親の居た頃は、ここまで非道い仕打ちは受けていなかった。 父さんが群れの長だったので、瞳の色のことでからかわれようと、まだ限度というものがあった。 からかわれたと言いつければ、父さんがそいつらを叱ってくれた。
だけど、両親が消えて他の大人が長を代わりにやることになってからは、虐めが一気に激しさを増した。 訳もなく気持ち悪いだの死ねだのと罵られ、目のことや両親のことで散々からかわれ、挙げ句の果てにはこの暴力三昧だ。 元々血の気の多い種族だから、この手のことが始まると段々酷くなっていく。
虐められる俺に遠くから同情の目を寄せる奴は居ても、手を差し伸べてくれる奴なんかいやしない。 たまに注意をする大人も居なくはないけど、勿論奴らが反省するわけもなく、大人もそれ以上はあまり言わない。 他人の子にそこまで構っていられないようだ。
そしてその後、注意された憂さ晴らしとして、奴らから更に辛い仕打ちを受けなきゃならない。
*
やがて、暴力が止む。蹲って攻撃を防いでいた俺は、ふっと地面に倒れ伏した。
「おい、起きろ!」
うつ伏せになっていたところを、角を掴まれ、無理やり頭を持ち上げられる。
「なぁ、群の皆はさ、お前の親はもう死んだんじゃねぇかって言うじゃんか」
虐めっ子の一人が意味ありげに耳元で囁いてくる。聞きたくもないけど、ぼんやりと耳に入ってきてしまう。
「でも喜べ。俺はな、2人とも生きてるんじゃないかと思うんだ」
妙にわざとらしい話し方で、何が言いたいのかよく分からない。 オチを知っているのか、他のヨーギラスたちが口に手を押し当てて、笑いを堪えているのが見える。
そしてその虐めっ子は、遂に言った。
「――お前みたいな気味の悪い奴なんか見捨てて、今頃どっかで幸せに暮らしてんだよ!!」
その瞬間、俺の頭が真っ白になったのとは裏腹に、周りではドッと大笑いが起こった。 腹を抱えて、声を張り上げて、少しの遠慮もなく。皆笑い転げている。
――何がそんなに面白い?
今まで押し殺してきた感情が、沸々と込み上げてきて、このときばかりは爆発した。 カアッと顔が熱くなると、視界がじんわり滲んで目から大粒の涙が零れる。 体中の痛みも忘れて、拳を虐めっ子に向けて振り上げた。
グシャッ
でもその拳が届くことはなかった。他の奴が上から俺の手を思い切り踏みつけたからだ。
「ぎゃああああぁぁ!!」
激痛に叫ぶ。左手で痛む右手を押さえると、ガラ空きになった腹に今度は渾身の蹴りが食い込んだ。 腹から背中へ突き抜けるようなその痛みに、息をすることさえままならなかった。 喉からは掠れた息が漏れ、息を吸おうにも胸や腹が猛烈に痛むので奥に入っていかない。
体のあちこちで同時に起こる痛みをどうすることもできず、のた打ち回る俺を、皆が指差し笑っていた。
「これ以上やるとこいつマジで死にそうだから、そろそろやめようぜ」
「そうだなー」
痛みに悶える俺を放っておいて、奴らはぞろぞろと何処かへ行ってしまった。
そして奴らが去った途端、また別の声が聞こえだした。
「痛そー。ホント大丈夫かな、あの子」
「流石は野蛮な連中だ。やることがえげつないな」
「あー、面白かった」
「将来は泣く子も黙るバンギラスだってのに、あんな扱いかよ。不憫だなww」
あちこちから声がした。よく見ると、茂みの陰や木の枝の上、草むらの中にちらほらと、野次馬たちの姿が見えた。 確認できるだけでも、結構な数が集まっていた。
こいつらは俺が暴力を受ける様を、声を潜めて見物していたって言うのか。 その証拠に、どの話し声も愉快そうで、俺を本気で心配するような様子は微塵も感じ取れなかった。 所詮は興味本位で、暇潰しにやってきただけらしい。
息苦しさも限界近くに至ったところで、やっと呼吸ができるようになってきた。 今まで吸えてなかった分、たっぷりと吸い込んだ。沢山沢山吸い込んだ。
その様子を見て、また野次馬どもがコソコソ話し始める。ああ、鬱陶しい。 そう思いながら地面にへたり込んでいると、その中の誰かの言葉が、不意に耳に飛び込んできた。
「あんなことされて、よく毎日生きてられるね。生きてて何が楽しいんだろう。僕なら絶対無理だ」
俺に聞こえるように言ったのか。そう疑いたくなるほど、その言葉がはっきりと耳に届いた。 ギクリとした俺は、声の出所を探すこともせず、そのまま何も聞かなかったかのように伏していた。 話し声を遮るようにして、少し大袈裟に喘いだ。
*
暫くすると野次馬どもも飽きたらしく、気付けば誰の声もしなかった。 どれほどの間伏していたのか分からないけど、いつの間にか西の空に夕日が半分沈んでいる。
嫌に冷たい地面から徐に体を起こす。引いてはきたものの、やっぱりまだあちこちがズキズキ痛む。 腹を蹴られた所為か、何となく吐き気もする。陰鬱な気分を背負ったまま、フラフラと立ち上がる。 足も色々やられたので、体の重さを支えるにはちょっと辛い。
その時、乾いた風が吹き付けた。冬が近いこともあって、ひんやりとしている。 その風が周りの木の葉を揺らすと、カサカサと音が鳴った。色付いた葉っぱが夕陽に照らされながら揺れる様子は、とても綺麗だ。 でも、気に障った。木の葉のざわつきが、何となく野次馬どもの話し声と似ていた。 嘲笑われているようで、腹が立った。
『生きてて何が楽しいんだろう』
さっきの言葉が思い出される。あの蔑むような口調も、耳の奥に焼き付いて離れない。
「何も楽しくねぇよ」
思わず口に出して呟いた。両親が居なくなってからというもの、ろくなことがなかった。 さっきみたいな虐めはいつものことだし、群れの大人は少しも面倒を見てくれないし、 両親の居ない寂しさに独りで耐えた夜も数え切れない。
現状に抗おうとしたって、俺には力もなければ、守ってくれる誰かもいない。 この先もずっとこんな状態が続くかと思うと、嫌になる。
本当に、何で今日まで生きてたんだろう。あの野次馬に言われて初めて考えた。
苦しみに耐えれば、いつかは両親が帰ってきてくれる――そんなことを俺は心の何処かで期待しているのか。
そうだとして、俺はいつまで待てばいいんだろうか。
果たしてその日は、今の苦しみに耐えてまで待つ意味があるんだろうか。
やっぱり父さんも母さんも、俺を捨てて何処かに行ってしまったんだろうか。
――このまま生きてて、何か意味があるんだろうか。
色々な疑問が次々頭に浮かんできた。それらが頭の中でぐるぐると渦巻きだして、不安やもどかしさに襲われて、叫び出したいような衝動に駆られる。 頭が熱くなってきて、クラクラする。痛い。おかしくなりそうだ。
頭を抱えて悩みに悩んだ末に、突然自分の中でプツンと何かが切れた。 それと一緒に頭の痛みが消え、視界がパッと開けた気がした。
そうか。
こんなに苦しいなら、いっそ死んでしまえばいい。
これから一生受け続ける痛みや苦しみの多さを考えたら、死ぬ一瞬の苦しみなんて大したことないはずだ。 何もしなければ勝手に命は続いていくんだから、それを自分で断ってやろう。簡単なことだ。
そう考えた俺は、住処とは別の方向へとゆっくりと歩き出した。
*
辺りはとっぷり暮れてしまった。見知らぬ場所を歩いていて、俺が居なくなったことに群れの奴らが気付いていないかとふと考えた。 それはないな、とすぐさま否定する。俺のことを気に掛ける奴なんて、あの群れにはいない。
あの群れに、俺の居場所はない。
少しして、休憩がてら地べたに座り込んだ。肌寒さを感じながら、俺は最後の夕食とった。 歩きながら適当に拾った木の実を食べた。冬に備えて殆どの木の実は採り尽くされていて、やっと見つけたものはどれも小さかった。 だから、口の中で転がして長く味わった。
これでは腹が満たされないので、いくらか土を食べた。 一応、生まれたばかりの時は土を食べて過ごす種族なので、土でもまあ生き長らえることはできる。 ただ、土なんてツンと臭うし、決して旨いものじゃない。正直なところ、最後の飯としては極力避けたかった。
でも仕方がない。食べ物を群れの大人に乞うたところで、きっと相手にされないだろうし、 自分で狩りをしようにも、やり方が全く分からない。 それに、木の実や土ばかり食べていた所為で、体つきが他のヨーギラスよりも大分弱々しいから、 とてもじゃないけど自分で狩りをするのは無理だった。
本当、最後くらい何か恵まれたっていいのにな。
自嘲しながら、残しておいた最後の木の実を放り込んで、粗末な飯を食べ終えた。 口の周りの木の実の汁や土を拭って、のっそり立ち上がる。
――さて、どうしようか。
こうして群れを出てきたものの、死に方については全く考えがなかった。 とりあえず、人目に付かない場所で死にたいな。 情けない死に様を他のポケモンに見られて、同情されたり笑われたりするのは絶対に嫌だ。 死んでまでそんな惨めな思いをしたくない。
何処かひっそりとした場所で、誰にも知られずに――。些細なその願いを胸に、俺はひたすら死に場所を探し歩いた。 でも簡単には見つからなかった。意外な場所にもポケモンの住処はあるもので、どいつもこいつも俺の願いを邪魔しやがる。
気付くと、もはや自分のやってきた方向すら忘れてしまい、住処へ戻ろうにも戻れなくなってしまった。 昼間のこともあって疲れ果てていた俺は、気力を振り絞って最期の場所を探し続けた。
すると、ある洞窟を見つけた。森の外れにあるその洞窟は、近くの木が何本もすっぽり収まるほどの、大きな口をぽっかり開いている。 その奥には闇が広がっていて、夜の外の暗さなんて到底及ばなかった。随分と長く続いているらしい。
入り口に立ってみると、その闇に引きずり込まれそうな感じがした。まるで別世界。不気味な場所だった。
寒気を覚えたけれど、俺にはこの洞窟がとても魅力的に映った。ここなら、誰も寄り付かないだろう。 それに、洞窟の方が俺のことを歓迎してくれている気さえした。俺は既に気が狂っているのかもしれない。
俺は思わず洞窟の中へと足を踏み入れた。
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Re: ヨーギラス×●●●● ( No.2 ) |
- 日時: 2011/03/15 18:34
- 名前: ロンギヌス
- お、奥には何が・・(大判小判がザックザク…な訳ないか
ヨーギラスの運命が気になりますw
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Re: ヨーギラス×●●●● ( No.3 ) |
- 日時: 2011/03/15 22:25
- 名前: ROMーLiza
- >ロンギヌスさん
感想ありがとうございます!
怪しげな洞窟に惹かれたヨーギラスですが……この後、かなり美味しい運命が待ち受けてますww(^q^)
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Re: ヨーギラス×●●●● ( No.4 ) |
- 日時: 2011/03/15 22:26
- 名前: ROMーLiza
- 2
中に入ってみると、空気がひんやりとしていた。足の裏がやたらと冷たいけど、我慢して進む。
すると、バサバサという羽音が何処からか聞こえだして、段々大きくなってきた。
「おい、そこのチビ」
上から声が聞こえる。その方を見ると、一匹のズバットが忙しく羽ばたきながらこっちを見ていた。 チビとは言うものの、向こうの方が体は小さい。
「何だってヨーギラスがこんな所に居るんだ。肝試しなんかで来るところじゃないぞ、ここは」
「……あんた、ここに住んでんのか?」
向こうの質問には答えず、こっちから質問した。この洞窟の奥に住人が居られては困る。
俺の問い掛けに、ズバットは訝しげな表情を見せた。
「は? いきなり何だよ。……まあいい。俺はこの洞窟の入り口辺りに住んでるんだ。 さっきお前が入ってくのを見たから、こうして追いかけてきたんだよ。 だけど、この先には誰ひとり居ないぞ」
「そうか。じゃあ、心配は要らないから放っといてくれ」
安心した。俺は進行方向に向き直り、また歩き始める。
「だから待てって! 何で行くんだよ」
ズバットは俺の正面に回り込んで、制止した。
「別に、この先に行こうが俺の勝手だろ。何であんたが止めるんだよ」
しつこく付きまとってくるズバットに、声を荒げる。
「……どうしても行くってのなら、本当のことを教えてやる」
急に重々しい声色に変えてきたので、俺はとりあえず耳を傾けた。
「この洞窟の一番奥にはな、それはもうデカい怪物が潜んでるんだ。 そいつはかなり凶暴で、沢山のポケモンを嬲っては喰い殺してきた。 だがある時、突然奴はこの洞窟の奥深くに入り込んで、そこに住み着いた。 だからそれ以来、この洞窟には誰も寄りつかないんだ」
ズバットはおどろおどろしく話すと、一旦呼吸を置く。
「もしこのまま先へ進んだら――お前、喰われるぞ」
ここぞと言わんばかりに、ズバットは顔をずいと寄せてきた。
「……で?」
「……は?」
「言いたいことはそれだけか?」
予想した反応と違ったらしく、ズバットは面喰らっている。
「いやいや、ちゃんと聞いてたか? かなり重要な話だぞ。てかお前、俺の話信じてるか?」
「微妙」
初対面の上、妙に勿体ぶって話すから、何だか胡散臭く感じる。
「まあ、あんたの話が本当でも嘘でもいいんだ。どっちにせよ、俺には都合がいいから」
この先に行けば、俺が人目に付かず死ねることは間違いない。
俺の言葉にズバットは納得行かないようだったけど、今から死のうとしていることをわざわざ説明してやるのも億劫だった。 事情を知ったこいつに、思い留まるように説得されても面倒だしな。
「とにかく、忠告ありがとうな」
それだけ言うと、目の前にいるズバットを避けて、進み始めた。後ろで奴が俺を呼び止める声が聞こえたけど、無視した。 奴もそれ以上は追いかけてこない。あんまり奥に入るのは躊躇われるのか。だとしたら、奴の話も強ち嘘じゃないのかもしれない。
だからと言って、引き返す気なんて更々なかった。
*
奥に入っていくにつれて、空気は更に冷たくなった。 洞窟の中に音はなく、光も全くと言っていいほど届いていない。 それでも、何とか中の様子を見ることはできた。 ヨーギラスは地中深くに産みつけられた卵から孵るので、 真っ暗闇でも今居る位置が分かるほどに目は優れている。
この洞窟の中は単純な一本道になっていて、飽きるほど真っ直ぐだった。 あまりに景色に変わり映えがないので、実は全く前に進んでいないんじゃないかと思えてくる。 この無駄な静けさにもうんざりしてきたし、規則正しい自分の足音もかなり耳障りだ。
苛立ちが募ってきたところで、十歩くらい手前に何かが見えた。 近づいてよく見てみると、随分大きな岩だった。 高さは俺の体長の二倍を優に超えている。群れの大人でさえ攀じ登らないと上に行けないくらいだ。
その隣、そのまた隣にも、大小様々にいくつか並んでいる。
「行き止まり、か」
何だ、やっぱりあのズバットの話は嘘だったのか。ちょっとした期待を打ち破られて、溜息を吐いた。
その時だった。
「誰だ」
低く唸るような声が、洞窟の中に響いた。流石に驚いた俺は、声の主をキョロキョロと探す。
「君の真正面に居る。上を見ろ」
言われた通りに上を見ると、思わず腰を抜かしそうになった。 ギロリとした二つの目が、天井近くから俺を見下ろしている。その目はなんと岩にくっ付いていた。 落ち着いてよく見ると、目の前にあった沢山の岩は一つに繋がっていて、その天辺の岩に目が付いている。 ただの岩の集まりかと思っていたら、頭から尻尾の先まで岩でできた、一匹の巨大な生き物だったわけだ。 岩が繋がり合ったその姿は、まるで大蛇のようだった。
なるほど、こいつが例の怪物か。
「……驚かせてすまない。私は、イワークというポケモンだ。危害を加える気はないから、落ち着いてほしい」
怪物は、恐ろしい姿の割に優しく話しかけてきた。ズバットに聞いた印象とは随分違うのが少し気になる。
「君は確か……ヨーギラスとか言ったか。どうしてこんな所に居る」
「あんたにお願いがあって来たんだ」
「何だ」
俺は唾をごくりと呑み込んだ。
「俺のことを喰ってほしいんだ」
そう言い切ると、暫く沈黙が続いた。突拍子もない話だから、当然と言えば当然だ。 イワークは睨んでいるようで、少し怖い。
「……そのようなことを言うからには、余程の事情があるのだろうな。良かったら聞かせてくれないか」
俺はとりあえずここまで来た経緯を全て話した。 瞳の色や居なくなった両親のことで、酷い虐めを受けていること。 群れの大人に相手にされないこと。 他のポケモンからも嘲笑われて辛いこと。 もうあらゆることに疲れてしまい、ここでひっそりと死のうと思っていること。
イワークは俺の言うことを頷きながら聴いて、こう言った。
「君の言うことは分かった。随分と辛い思いをしてきたのだな。 死にたいと思うのも無理はないし、私も止めたりはしない」
イワークは続ける。
「だが、君の頼みを聞くことはできない。イワークの主食はあくまで岩だ。 残念ながら、ポケモンを食べる習慣は私にはない」
同情する様子で申し訳なさそうに断るイワークに、俺は笑って言った。
「ヨーギラスだって土食って生きてんだし、殆ど岩みてぇなもんだ。 ――それに聞いたぜ? あんた昔は散々ポケモンを喰い殺してきたんだってな。 今更一匹二匹喰おうがどうってことねぇだろ?」
その瞬間、イワークがゆっくりと顔を近づけてくる。鼻と鼻がくっ付きそうな近さだ。
「近頃の子供は口の利き方を知らんようだな」
腹の底で煮え滾る感情を押さえつけるような声。 今までの穏やかさとは打って変わって、敵意を剥き出しにした口調に変わっていた。 目つきも獰猛な獣のようで、息の詰まる感じがする。 視線一つで、逃げ場のない恐ろしさを味わわされた。
「……ばれているのなら仕方ない。そう言う君こそ、覚悟はできているのか?」
イワークは顔を離して、口調もいくらか和らげた。どうやら喰ってくれるらしい。 俺もいつの間にか止めていた呼吸を再開した。九死に一生を得た気分だ。
……いや、これから死のうっていうのに、何を言っているんだろうか俺は。
「ああ、頼むよ」
今度は真面目に、そう答える。
「そうか。それでは……」
くぱぁとイワークの口が開き、そのまま近付いてくる。そして中から大きな舌が姿を現した。 見た目は蛇のようなイワークだけど、舌は鈍色に怪しく光る肉厚なもので、それ自体が巨大な生き物のようだった。
ベロ……
「うっ」
俺の腹から顔にかけてをイワークの舌が撫でた。意外にも柔らかくぷにぷにとした舌に、俺の顔は埋められてしまった。 舌が体から離れると、纏わりついた涎が空気に触れて嫌な臭いを放つ。
「ふふ、悪く思わないでくれ。ほんの味見だ」
イワークは怪しげに笑った。穏やかな物言いはそのままなのに、捕食者の雰囲気を漂わせている。 何となく背筋が寒くなった。ある意味、頭のイカれてる怪物よりも、ずっと恐ろしいんじゃないかと思う。
「口の中に入れるぞ」
そう言って、イワークは舌を使って器用に俺の体を絡め取る。 全身が柔らかい舌にくるまれて、息ができない。舌が完全に口内に収まると、その苦しさから解放された。
ゴツンッ
口が閉じられるときに、上唇と下唇にあたる部分の岩同士がぶつかり合って、鈍い音が鳴った。 自分に巻き付いていた舌が離れたので、ちょっとした興味から口内を観察してみた。
真っ先に気になったのは、口内の蒸し暑さと臭いだ。涎の臭いに混じって、少し獣臭さがある。 多分これは喉の奥から立ち昇っているんだろう。色々な臭いがする。 岩だけ食べてたらきっとこんな臭いにはならない。
暗さは洞窟の中と変わらない。だけど、こっちの方が「閉じ込められた」感じは凄くする。 もし俺が健全な心の持ち主だったら、今頃きっとパニックを起こしているだろう。
意外にも口の中は、肉で覆われていた。どうやら岩に覆われているのは外側だけで、 内側は他のポケモンと同じような造りらしい。
外からは隠れてて見えなかったけど、歯もちゃんと揃っている。 その全てが俺の顔よりも大きくて、岩を噛み砕く牙と、岩を擦り潰す奥歯がある。 岩を食べるだけあって、歯はかなり頑丈にできているみたいだ。 あの歯で噛み潰されば、即死するだろうな。
正面に視線を戻すと、俺の居場所を確保するために、あの舌は奥の方へと押し縮められていた。 時々うねるその様子は、口内への久々の来客を喜んでいるように見える。
やがてその舌が、左頬の内側に沿いながらゆっくりと向かってきた。 そして、体の右側から左側にかけてを舐められる。 それと同時にジューッと何かの噴き出る音が聞こえた。下を見ると、涎が足下に溜まっていた。
この一舐めを皮切りに、執拗な舐め回しが始まった。 右から、左から、上から、下から、体の至る所を舐められる。 全身がべとべとになって、下手に目を開けようとすると、涎が流れ込んでくる。 仕方ないので閉じたままにしていると、舌に突き飛ばされ、涎溜まりに顔から突っ込んだ。
口に涎が入った気持ち悪さに顔を顰めていると、すかさず舌が俺の体を掬い上げる。 そして上顎に強く押し付けられた後、急に離されて下に落ちた。 体を起こす暇もなく、今度は頬の内側に押し付けられて――――
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Re: ヨーギラス×●●●● ( No.5 ) |
- 日時: 2011/03/24 19:49
- 名前: ROM-Liza
- 3
*
「ッ……ハア……ハア」
漸く舌の動きが 弱まると、俺は肩を上下させて息を始める。さっきまでは大きな舌を顔に押し付けられたり、 涎で鼻や口の中が詰まりそうになったりして、まともに息が出来なかった。イワークの口内の少ない空気を必死に吸い込む。
静かになった口内は涎に塗れていた。やたらと粘っこい涎が、天井からあちこちに垂れてくる。そして舌の上の窪みにどんどん集まってくるから、 俺の体も腰まで涎に浸かっている。俺の口内でせいぜい出る涎の量を考えたら、これは恐ろしいほどの差だ。
こんな目に遭うためにここへ来たんじゃない。激しく喘ぎながらふと思う。散々弄ばれた所為で、体力は大分消耗していた。 喰うんだったらさっさと喰ってほしい。
「すまない。長い間ポケモンを食べていなかったのでな。すぐに呑み込んでしまうのが惜しくて、つい夢中で舐め回してしまった。苦しかっただろう?」
イワークが暫くぶりに喋る。味見の時より興奮気味な声をしている。すまないとか言いながら、ちっともすまなそうではないのが少し癪に障る。 かと言って、文句を言う余裕は俺にはなく、ただ呼吸に専念していた。
「君はなかなか良い味をしている。欲を言えばもう暫く味わいたいところだが、そろそろ君も我慢の限界だろうからな」
一体何処に、自分の味を褒められて喜ぶ奴が居るんだ。つまらない御託にうんざりしてくる。
「大変待たせてしまってすまなかった。でも最後に礼を言わせてくれ。何せ、こんなに旨い食事は五年前の今頃以来なのだからな」
やれやれ、やっと終わる。そう思いかけたその時、ある言葉が引っ掛かった。
――“五年前の今頃”?
途端に胸騒ぎが起こり始め、信じたくないある推測が浮かんだ。
「なあ」
「ん? 何だ」
「その、五年前に喰ったっていうポケモンについて……詳しく教えてくれよ」
震える声でそう尋ねる。
「どうした? 今から私に食べられる君が、何故そのようなことを気にするのだ」
「いいから早く話せよ!」
じれったくて思わず叫んだ。他人にものを頼む態度がなってないな、とイワークは呟く。 胸の鼓動が速く、大きくなってくる。この推測が本当だなんて信じたくはない。違うよな、と自分に言い聞かせながら、俺は祈っていた。
「ああ、あの時のことは今でもはっきりと覚えているよ」
イワークは感慨深そうに、語り始めた。
「君が聞いた通り、私は以前、この洞窟の外で沢山のポケモンを嬲っては喰い殺していた。物心がついた時には、それが快感となっていたのだ。 毎日毎日、目についたポケモンを手当たり次第襲っては喰らうことで、湧き上がる欲求を満たしていた。
しかしだ。そのようなことばかりが続くと、得られる快感も段々薄くなっていくものだ。ただ弱い者を倒すだけでは、満足いかなくなってきた。
そこで私は、もっと強いポケモンに勝負を挑むことを考えた。戦うのに相応しいポケモンを求めて、あちらこちら探し回ったものだ。 そして遂に、私はその二匹を見つけ出し、襲いかかった」
“二匹”――推測が、現実味を帯びてきた。
「私の読み通り、彼らは強かった。私は相当な苦戦を強いられた。劣勢に回ることはなかったが、どうにも決め手を欠いた。 そのことにいつもには無い手応えを感じられたが、あまり長引いてしまうと体力が尽きてしまうからな。焦りも生じていた。
一方で彼らにも疲れの色が見られた。お互い体力は限界に近づいていたのだ。いつの間にか私たちは互いに攻撃をやめ、間合いを取っていた。 そしていつ次の手を仕掛けるかを決め兼ねていた。少しの隙も見せられなかったからな。緊張感が心身を蝕んでいくように思えた。
そのような時に、だ。彼らのうちの一匹が口を開いた。耳を傾けてみれば、もう戦うのは止めにしようとのことだった。 無用な戦いはせずに、お互い生き長らえるのが得策でないのか、とな。
消極的な姿勢に私は不満を感じたが、私もそれほどの余裕はなかった。命だって惜しい。仕方なくその提案を呑むことにした。 すると彼らは緊張を解き、私に礼を告げてその場を去ろうとした。
しかしだ。彼らが私に背中を向けた途端、私の考えはすぐに変わってしまった。安心しきった彼らの後ろ姿は、あまりにも無防備だったのだ。 勝負を中途半端な形で終えることになったことに後悔していた私は、その隙を見逃すことは出来なかった。
どのような勝負も、隙を見せた者が負けるのだ。
私は尻尾を振り回し、渾身の力で彼らの体を横から殴った。反応の遅れた彼らの体はいとも簡単に吹き飛んでいったよ。 近くの木に叩き付けられた彼らに、私は更に容赦なく攻撃を仕掛けた。尻尾で叩き付け、岩を落とし、彼らを放り投げたりもした。
夢中になっているうちに、彼らは虫の息となった。そして涙ながらに助けを乞うたのだ。その無様な姿は見物だった。 私は長らく感じ得なかった快感を覚えた。当然私は彼らの願いを無視した。獲物を前にしておいて、それをわざわざ逃がす理由など無いからな。
絶望の表情を浮かべた彼らの体を舌で掬い取り、長いこと味わわせてもらったよ。とても旨かった。苦戦の末の勝利だったからかもしれない。 あの味は今でも忘れることは出来ない。そう――」
イワークは話の途中で下を向いて、突然口を開いた。大量の涎と一緒に俺の体は地面に落ちる。
「君によく似た、あのバンギラスたちの味はなぁ」
俺を見下しながらにぃっと不敵に笑った。こいつは最初から何もかも気づいていたようだ。
推測が、確信に変わった。
五年前の今頃――それは、俺の両親が消えたまさにその頃だった。
二匹とももう居ないのか。今の話の通り、あんな酷い仕打ちを受けて父さんと母さんは死んだっていうのか。 そう思うと、イワークに散々弄ばれる二匹の様子が鮮明に浮かんでくる。涙が一筋、頬を伝った。
「このような偶然もあるものだな。良かったじゃないか、漸く君は両親に再会できるのだ。私の腹の中でな」
イワークが顔を近づけて囁いた。可笑しさを抑えているような声だった。
「お前か……」
あんなに酷い虐めを受けたのも、群れの大人に構われなかったのも、皆に嘲笑われたのも、独りで寂しい思いをしたのも、 何にも恵まれなかったのも、こんなに悔しいのも、悲しいのも、死にたいと思ったのも――全部、目の前に居るこいつの所為だったのか。
「お前の所為かあああ!!」
殆ど泣き叫ぶような声を上げて、イワークに跳びかかった。
ガアァンッ
そして次の瞬間には、イワークの尻尾が俺の腹を捉えた。横に吹っ飛んだ俺の体は、洞窟の壁に打ち付けられ、そのまま真下に落ちた。
「う……あぁ……」
腹が痛い。尋常じゃなく痛かった。硬い尻尾の衝撃と、その後に受けた背中への衝撃で痛みは倍増していた。 昼間に虐めっ子に蹴られたのなんて、比べものにならない。痛いと口に出そうにも出来ず、自分でも不気味な呻き声ばかりが漏れる。 涙や涎が溢れ出して、歯もガチガチと鳴っている。
「まさか両親の敵討ちなどをしようとでも思ったのか?」
頭上で声がした。うつ伏せになっているので、顔は見えない。ただ、「逃げないと」という思いに駆られて、腹這いになって進んだ。 とは言え、進む速さなんて高が知れている。あっけなくイワークに仰向けにさせられた。
「ならば相手をしてやろう。ほら、“したでなめる”だ」
そう言うと、口を開いて舌を近づけてきた。痛みに加えて恐怖が募り、逃げようにも体が動かなかった。
ぶにゅり
地面と肉厚で巨大な黒い舌の間に、俺は閉じ込められてしまった。舌先が押し付けてくる力は相当なもので、 顔を埋められると、全然息が出来なかった。涎と舌の臭いばかりだ。
「どうした。敵を討つのだろう? 少しは抵抗してみたらどうだ」
くぐもったイワークの声が聞こえる。抵抗なんてとっくにしていた。だけど、やたらと柔らかい舌に俺の手足は沈み込んで、 俺の非力な抵抗は吸収されてしまう。当のイワークには全く感じられないのかもしれない。
そうしているうちに苦しさは限界にまで達してきた。まだ舌が退けられない。慌ててじたばたもがいてみるけど、 まともに動くことさえできなかった。
段々意識が遠のいてくる。このまま死ぬのか――そんなことがふと頭を過ぎったところで、真っ暗だった視界が少し明るくなった。 同時に圧迫感が消えた。舌が退けられていた。
「情けない。たったこれだけで戦闘不能か」
か細い呼吸を続ける俺に、イワークは吐き捨てるように言った。奴の言う通り、自分が情けなくて仕方なかった。 あっちは無傷なのに、俺はたった二回の攻撃でこの有り様だ。もう一歩だって進めない。途轍もない力の差を感じた。
「歯向かわなければ、このような目には遭わなかっただろうに。哀れな奴だ。だが安心しろ。もうじき楽になる」
そう言うとイワークは、舌を使って俺の体を拾い上げて、口の中に運んだ。そしてゆっくりと顔を持ち上げ始める。 それに伴って口内では段々傾きが増してきた。うつ伏せの状態で必死に舌にしがみついてはみるものの、 涎の所為で酷く滑り、ズルズルと奥へと引きずられていく。
ふと後ろを振り返ってみると、口の奥の真っ暗闇が見えて震えあがった。俺の脇で大量の涎がそこへと流れていく。 怖い。ちょっと前まではこの状況を望んでいたんだと思うと、自分は馬鹿だったと思えてきた。
そうしているうちにも体はどんどん下へと落ちていく。やがて舌の末端の方まで到達してしまって、足が空中に浮く。 そうして腹、胸、顔の順に舌の上から追いやられると、終いには手だけでぶら下がった格好になった。そして――
がくんっ
ズルッ 「うわああぁ!!」
完全に地面と垂直になるまでイワークの頭が持ち上がった瞬間、手が舌から離れ、俺の体は暗闇に放り出された。 下へ落ちる気持ち悪い感じを一瞬味わった後、すぐに前後左右から喉肉の強烈な締め付けを喰らう。 落ちる速さはゆっくりになったけど、這い上がることを許さない確かな力が働いていた。
もみくちゃにされながら下に送られると、突然足が締め付けから解放され、続いてペッと吐き出されるようにして全身が喉肉地獄から逃れた。 辿り着いたそこは、口内以上にむわっとくる湿っぽさで、何より酸っぱい臭いが充満していた。鼻の奥にツンとくるので、 無闇に吸わない方がいいのかもしれない。
天井は口内よりも低くなった気がするけど、立ち上がることは出来る高さだ。表面を覆う肉はあちこち起伏が激しくて、 窪んだところには怪しい液体が溜まっている。多分、臭いの原因はこれだ。
俺は分かっている。ここは、食べたものを溶かしてしまう場所だ。
そして、俺は喰われてしまったんだ。
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Re: ヨーギラス×●●●● ( No.6 ) |
- 日時: 2011/03/24 21:48
- 名前: 闇銀
- お久しぶりです!!
最近少ないポケモン小説・・・!! しかも 描写が神様的・・・ その 鬼才の文章力と描写力を分けてください〜 『わにドラ!』の頃からですが 本当に尊敬してます!!
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Re: ヨーギラス×●●●● ( No.7 ) |
- 日時: 2011/03/24 23:04
- 名前: ROM-Liza
- 【お詫び】
前回、まさかの字数オーバーになっていたので、投稿できていなかった分の文章を載せます。
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絶望的な状況なのに、俺は自分でも驚くほどに冷静だった。今も死にたいと思っているわけじゃない。イワークの奴に一撃でも痛手を負わせなきゃ、死んでも死にきれない。 きっと、自分の無力さが悔しいからなのかもしれない。その悔しさが、死ぬことへの恐怖を遥かに上回っているのかもしれない。少なくとも今は。
「どうだ、ヨーギラス。君の両親は見つかったか?」
イワークの声が響いた。体の外では今頃、奴がご満悦な顔をして自分の腹に話しかけているんだろう。ククク、という含み笑いまでもがいやに響く。
「君の居るその場所は、じきに私の消化液で満たされる。今まで岩やポケモンを溶かしてきた、強力なものだ。しかし慌てることはない。 消化液に触れたからと言って、すぐに溶けるということはない。君のことを完全に溶かしてしまうのには結構な時間がかかるのだ。 一晩かけてじっくりと私の体に取り込まれていくのだ。君の両親と同様にな」
そう言われて辺りを見渡す。天井から、左右の肉壁から、俺のすぐ目の前から、消化液が湧き出した。 俺にもうすぐ死が近づいていることを実感させられる。
「死ぬまでの僅かな時を無駄に過ごすこともあるまい。今のうちに、何か言い遺しておくといい」
死にたくはないけど、覚悟はしておいた方が良いのかもしれない。 言い遺しておくこと――。そんなの一つしかない。
「……全部お前の所為だ」
「ん?」
「お前さえいなければ、俺は幸せに生きることができたんだ!! お前が父さんと母さんを喰い殺さなければ、あんな……あんな……」
惨めな毎日を送らなくて良かったのに。
話の途中で声が震えだして、遂には涙声になった。嗚咽も混じる。言葉を発することは到底できなかった。
「私も君に言っておきたいことがある」
ややあって、イワークが口を開いた。
「君が惨めな毎日を送ってきたのは、君が弱いからだ」
冷めた口調だった。さっきまでの愉快そうな雰囲気は何処にもない。
「どういう……ことだっ」
「何でも私の所為にされては困るということだ。私は君の両親を食事として喰らっただけだ。君たちの種族だって肉食をするだろう。 君たちの捕食行為が許されて、私の捕食行為が許されないというのは不平等ではないのか」
俺は言葉に詰まる。群れの奴らは皆、狩ってきたポケモンを食べている。実のところを言うと、 俺も誰かのほんの僅かのお残しを勝手に頂いたことがある。
「話を元に戻そうか。群れの中で暮らしている君が、両親を亡くしたからといって必ずそのような惨めな境遇に陥るものだろうか? 虐めなど、それよりも前から続いていたそうじゃないか。両親が居たからまだ歯止めが効いていただけのことだろう?」
黙って聞きながら、俺は奥歯をきつく噛み締めていた。握ったこぶしが震えている。
「そして君の両親が居なくなると、君を守る者はなくなって虐めが酷くなる。両親に頼り切っていた君は、 虐めに対抗することもできず、底から這い上がろうという努力もせず、ただ卑屈になっていったのだろう? 自分のことを白い瞳に生み、突然居なくなってしまった両親を恨みながらな。 生まれつき欠陥を持ち、力もなく、卑屈な、他人の子供――そんな君を誰が育ててやろうと思うだろうか。 どんな親だって、自分の子供を立派に育て上げることに必死なのだ。将来に希望の見えないような子供を世話して、 余計な労力をかけようだなんて誰も思わんよ」
「うるさいんだよ!!」
俺はたまらず叫んだ。イワークの腹の中でその声が残響した。
「お前に何が分かるんだよ! 何でお前にそんなこと言われなきゃなんないんだよ! 卑怯な手を使って父さんと母さんに勝ったくせに、そんなに偉そうに説教垂れるんじゃねえよ!!」
なじられている間に積もりに積もった不満が爆発した。一気に吐き散らしたので、言い終えた後に息切れした。頭が熱くてガンガンする。
すると、ふっと鼻で笑う音が聞こえた。
「それがどうした? どうにせよ、君の両親は負けたから消え去ったのだ。勝った者が強い。勝った者だけが生き残る。 勝った者が弱者を圧倒する力を持つ。そのようなことは世の常識ではないか」
小馬鹿にするような口調で、イワークは続ける。
「いいか。世の中勝つことが全てだ。敗者は隅に追いやられて、やがては淘汰される運命にある。 私に負けた君は、せいぜい無様に喚きながら、私の血肉となるのがお似合いだ」
その時、近くでゴポンと何かが弾ける音がした。見れば、消化液の中であちこち泡が浮かんできては液面で弾けている。 いつの間にか消化液が俺の腰の高さにまで達していた。痛くはないけど、液に浸かっている部分が仄痒くなってきた。
俺はこのまま溶けて消えてしまうのか? こんなに身勝手なイワークの言い分を覆すこともできずに、 こんな場所で死ぬのをただ待っているしかないのか?
――そんなの、絶対に嫌だ。
俺は急いで喉の方へと引き返して、喉肉の地獄に頭を突っ込んだ。だけど、強い力で押し戻される。もう一回突っ込んでも駄目だった。 その後も何度も繰り返したけど、少しも進めなかった。
今度は肉壁を思い切りぶん殴ってみる。ぶよぶよとした肉は、凹んでもすぐに元通りになってしまって、 その勢いに体が押し返されそうになった。それでもめげずに何度も叩きながら、叫んだ。
「出せっ、ここから出せえぇっ!!」
「喰えと言ったり、出せと言ったり、面倒な奴だな君は」
イワークが呆れたように言う。痛がっている様子は全然ない。
「ここから出て、強くなって、いつかお前に復讐してやる! そして、さっき言ったこと全部撤回させてやる! コテンパンにぶちのめして、泣きながら謝らせてやる! それまで俺は絶対に死ねないんだよぉ!!」
一心不乱に叩き続けながら、泣き叫ぶ。ここから出たい。まだ死にたくない。その思いでいっぱいだった。
「面白い」
自分の喚き声に混ざって、そんな言葉が聞こえた気がした。
その直後、足下がグラグラ揺れる感じがして、それが段々酷くなった。肉壁がぐゆんぐゆんと大波のように伸び縮みして、 消化液が勢いよく掻き回される。胃の全体が絶えず大きく変形して、もう滅茶苦茶だった。俺は胃の動きに翻弄されて、 あちこちに弾き飛ばされた。消化液が口に入る。何処が上だか下だか分からない。何も見えない。 そのうち急に体が周りから締め付けられる。息もできないこの苦しさは、さっきも体験した気がした。 それが無くなると、俺の体はごろごろと転がって、硬い何かの上に落ちた。
何度も何度も回転したので、気持ちが悪くなって、視界も定まらない。口に入った消化液を飲んでしまったのか、 喉が少しヒリヒリする。仰向けの状態でとにかく呼吸を整えていると、ぼんやりとしていた景色がはっきりとしてきた。
俺は目を見開いた。そこにはイワークが居た。 俺は外に戻ってきていた。
「そこまで言うならやってみるがいい。成長すれば、もう少し肉付きが良くなるだろうからな。今回のところは逃がしておいてやる」
「あ……」
俺は情けを掛けられたのか。父さんと母さんの敵のこいつに。
悔しい。唾液と胃液に塗れた自分が死ぬほど惨めだった。
「ほら、逃げないのか? 早くしないと喰ってしまうぞ」
イワークに促される。本当は跳びかかってやりたい気分だけど、それが無駄なあがきなのは十分に分かっていた。
俺はイワークに背を向ける。
「強くなって戻ってこい。その時に、改めて君のことを美味しく頂こうじゃないか」
後ろから声を掛けられた。俺は振り返らずに走りだした。足がもつれそうになりながら必死に逃げた。
――絶対に、強くなってやる。
そう心に決めて、暗闇の中、一直線にひたすら走った。
*
【補足】 話の中で、イワークがヨーギラスに対して『したでなめる』を仕掛けていますが、本来イワークは『したでなめる』を覚えません。……よねw?
このシーンですが、イワークは圧倒的な実力の差でもってヨーギラスを弄んでるわけです。 つまり、イワークには本気でヨーギラスと戦う気は少しもありません。
ここでは、自分の舌を使ってヨーギラスをからかいたいという目的もあって、イワークはわざと『したでなめる』を真似ることでおどけているわけです。
以上、紛らわしくてすみませんでした。
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Re: ヨーギラス×●●●● ( No.8 ) |
- 日時: 2011/03/24 23:18
- 名前: ロンギヌス
- イワーク怖いけど最後カッコイい…(あの体の岩ってどういう構造になってるんだろ
そして何よりこの文章力のハイレベルさ!!圧巻されちゃいました…尊敬します…
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Re: ヨーギラス×●●●● ( No.9 ) |
- 日時: 2011/03/24 23:23
- 名前: ROM-Liza(レス返し
- >闇銀 さん
感想レスありがとうございます!
小説版は受験中かなりご無沙汰になっていたんですが、最近ポケモン小説少なくなってるんですか。
実を言うと、自分は漫画やアニメやゲームにかなり疎い奴でして。話を書ける程度の知識があるのはポケモンくらいなんですw そのポケモンでさえ、充分とは到底言えませんが。
これじゃいかんと最近興味を持ち始めたのが、ソラトロボだったりするんですが……随分と先のことになりそうですねー。
文章力の方ですが、そこまで褒められるようなもんじゃないですよw 話の展開が上手く繋がんなかったり、適当な描写が思いつかなかったり、無駄に長くなったり……。更新速度の遅さが特に嫌になりますねw
こうして他の話を書いてみると、『わにドラ!』が一番書いてて楽しい気もします。 とは言え、他にも書きかけの話がいくつかあるもんですから、そいつらはきっちり終わらせておきたいと思います。
>ロンギヌス さん 感想レスありがとうございます!
イワークっていうのは本当に不思議なポケモンですよねー。お蔭で体内描写とか苦労しました。殆ど妄想になってます。 体が大きい割にあまり捕食キャラ扱いされない気がするのは、その所為なんでしょうか。
イワークが罵ってるシーンはお気に入りです。見た目が蛇っぽいだけに、こう、じわじわ追い詰める感じがいいかなと。
文章の方は……まぁそれっぽく見えるように量を多く、ねw 水増し水増し。
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Re: ヨーギラス×●●●● ( No.10 ) |
- 日時: 2011/11/17 19:39
- 名前: オルカ
- 是非、よーギラスが強くなったところをかいてくださーい。この程度の捕食はまっちゃうなー。特に、舐めるというのがねぇー。
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Re: ヨーギラス×●●●● ( No.11 ) |
- 日時: 2011/11/19 11:35
- 名前: ROM-Liza(レス返し
- 久しぶりに覗いてみたら、感想レスがついていたでござる。
>オルカさん 感想レスありがとうございます! 実はこの話、ヨーギラスが強くなってからの展開も考えてたんですが、 ちょっと捕食成分が薄くなっちゃう気がして保留してたんですよね。 このままでも一応完結してるように見えなくもないですしw
でも、そう言っていただけるとやっぱり書いてみようかなという感じもします。 遅筆なもので、完成がいつになるか分かりませんが、楽しみに待っていただけれ ばと思います。
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