Re: 無題. ( No.1 ) |
- 日時: 2010/08/01 10:44
- 名前: ROM-Liza
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闇夜の森の中を、一匹のマッスグマが駆けていた。毛並みの荒れた満身創痍の体に鞭打ち、必死の形相で、その名の通り“真っ直ぐ”に進んでいる。
それにやや遅れて、大きな怪物が続く。体長は、両脇に並ぶ木を3本横倒しにしたくらいである。
腹部には赤と黒の不気味なボーダーラインが連なり、体の横には先端に赤い棘の付いた黒い脚のような物が沢山生えている。
上下にうねりながら飛ぶ姿は、まるで低空を這う巨大なムカデのようである。 端から見ていれば優雅な飛行にも見えるが、実際には、前を行くマッスグマに追いつかんばかりの高速度で進んでいる。
マッスグマは走りながら、後ろを覗いた。もうすぐそこに怪物は近付いている。真っ赤な目をギラギラ光らせて、獲物である自分を一点に見据えている。
このままでは捕まってしまう――。
その焦りから、足下への注意が疎かになっていた彼は、石に蹴躓いて前に倒れ込んだ。急いで立ち上がろうとするその背後を、巨大な影が覆う。
グシャッ
「ぎゃっ!!」
背中を踏みつけられたマッスグマは、悲鳴を上げた。途轍もない重量がのし掛かっている。
うつ伏せたまま顔を右に向けて、目の端で後ろを見る。周りの木の幹のように太い足が、がっしりと彼を押さえつけていた。
そして、視線をもう少し上の方に移した彼は、我が目を疑った。
怪物の姿が変わっている。
体の両脇に生えていた黒いムカデ脚は姿を消し、代わりに不気味な黒い翼を背中いっぱいに広げている。
長く伸びた首の先には――先ほどと何ら変わらない赤い目が、ギロリとみつけていた。飢えに飢えて、本能的に獲物を求めるような目つき。 弱者を弄んで快楽を得ようなどという、知能的なものではない。
ポタ……ポタ……
頬に滴が落ちてきた。ねっとりとして生温かい。頬を滑らかに伝わないあたり、これが何であるかは予想がつく。
滴は、だらしなく半開きになった怪物の口許から垂れていた。
マッスグマは自分の運命を悟り、恐怖する。
「嫌だ! ……まだ……まだ、死にたくない……」
涙がポロポロと零し、彼は命を乞うた。暫く沈黙が流れる。怪物は彼から視線を離さない。
彼は必死に願った。この怪物に、欠片ほどでも理性が存在することを。
メキ、メキィッ
「ひぃあぁあぁぁっ!!」
悲鳴を通り越して奇声を上げた。彼が大好きなモモンの実を食べていて、中の種を間違って思い切り噛み潰した時のような音だった。 ただ、その音を立てたのは彼の後ろ足である。怪物がもう一つ足を乗せ、巨岩に匹敵するその体重を――全体重のほんの一部ではあるが――彼の足に掛けたのだ。
マッスグマの両足は、共に骨が完全に砕けていた。もう使い物にならない。もう逃げられない。
俺はこの怪物に食べられるのか――? 激しい足の痛みと絶望感に打ち拉がれて、彼は力無く涙を流した。
獲物が抵抗しなくなったことを確認すると、怪物は体をやや前に屈める。そして口をパカッと開き、中から舌を伸ばし始めた。 舌が次から次へと出てくるので、マッスグマは呆けながらも何処まで伸びるのかとぼんやりと考えた。
こちらに伸びてくる舌の表面は、満遍なく涎に塗れている。それが月明かりが反射してテラテラと光る。
やがて地面に到達した舌は、マッスグマの体に巻き付き始めた。ぐるぐると、足の付け根あたりから段々遡って、最終的には口を覆った。
体が緩く絞めつけられる。自由自在な動きといい、表面の照り具合といい、この怪物の舌は蛇にそっくりである。
しゅるしゅる
不意にマッスグマの体が持ち上がる。舌が、今度は口の中へと巻き取られていく。
そして彼の体が怪物の口内に達しようという時、彼は怪物と目が合った。野蛮な目つきのその奥に、何処か寂しそうな色が映っている。
一瞬戸惑った彼だったが、その理由を考える間もなく、足が怪物の口内に引き摺り込まれた。
「あぁ……」
怪物の口の中で、涎が纏わりつく。熱くて気持ち悪い。足、胴、胸、首もと。ゆっくりと、しかし抵抗を許さない力で吸い込まれていくのが、何より恐怖だった。
落ちないように怪物の舌に爪を立てる。彼だって、ただ喰われるつもりはなかった。助かるなら助かりたい。 それでも、“外”の景色は遠のいて行くばかりだ。月明かりも段々届かなくなってくる。
頭まですっぽり収められてしまうと、舌の束縛が甘くなった。そして、急に傾斜が大きくなる。 爪を立てても無駄だ。いとも簡単に彼の体はずり落ちていく。既に足が喉肉の締め付けを受けている。意識の飛びそうな痛さだった。
「もう、ダメだ……」
マッスグマはそう呟いて、抵抗を止めた。それと同時に、周りの喉肉が容赦なく彼を締め付ける。苦しい。だが、直に楽になるはずだ。
ぶよぶよと弾力のある肉は、とうとう彼を残らず包み込んだ。
口を閉じた怪物は、首をもたげて夜空を仰いだ。喉がぷくりと膨らむ。
ゴクン
嚥下の音が、人気のない森に静かに響いた。一瞬のことだった。
口許に涎を残したまま、怪物は食後の余韻に浸る。僅かに膨らんだ腹の中には、あのマッスグマがいる。怪物は目を細め、黒い翼で腹を撫でた。
どれくらいかして、怪物は漸く立ち上がる。腹の膨らみは幾分小さくなったようである。
そしてあの黒い翼で羽ばたいた。巨体が浮かび上がり、鋭い羽音を立てて飛び始める。やがてある湖が見えると、その畔に着地した。
怪物は、空気を断ち切るようにして、背中の翼を素速く掲げた。すると、目の前の空間に突然割れ目が発生した。 その隙間からは、様々な暗色が入り混じり、不気味に渦巻いているのが見える。裂け目は、怪物の頭の高さにまで達した。
ビシャアアアァァァーーン!!
雷鳴かと錯覚しそうな咆哮を轟かせると、怪物は羽ばたいて、渦の中へと飛び去った。 その巨体が完全に潜り込むと、裂け目は両端から閉じていき、後には何も残らなかった。
辺りに元の静けさが戻った。
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Re: 無題. ( No.2 ) |
- 日時: 2010/08/01 22:13
- 名前: 名無しのゴンベエ
- うほほ、ギラティナ好きなので楽しみです。
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Re: 無題. ( No.3 ) |
- 日時: 2010/08/07 04:23
- 名前: 名無しのゴンベエ
- 裏行くんなら行ってて下さい
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Re: 無題. ( No.4 ) |
- 日時: 2010/09/18 16:21
- 名前: ROM-Liza
- 2
無数の生物が生を営むこの世界を“現実世界”と呼ぶとするならば、もう一つの世界が存在することをご存じだろうか。
反転世界――それは、現実世界と背中合わせにぴたりと貼り付いていて、更に現実世界と相似した異様な世界である。
長い間、二つの世界は決して交わり合うことはなかった。二つの世界を往き来しようと言うのは、水面や鏡に映る光景の中に入り込もうとするようなものだ。
その反転世界に、ギラティナは生まれた。
生まれた時から、彼は一人だった。反転世界中を廻っても、彼以外に生きている者はいない。 それにはこの世界の役割が大きく関係していた。
いわゆる現実世界は、内外から様々な影響を受けている。それが時として、現実世界が存在するための時空間に支障を来すこともある。 それを修正・調整し、現実世界を維持するために存在するのが、反転世界なのである。
その為反転世界には、現実世界に悪影響を与えるものばかりが送り込まれ、現実世界の代わりに余りに多くの災厄を負ってきた。 その影響からか、元は現実世界の双子であった反転世界は、奇妙な変化を遂げていった。
本来は根である部分にまで枝が生え、上下対称になって浮かぶ巨木。あちこち窪みだらけの山々。辺り一帯を障気が漂い、生物の棲めないような場所もある。
そして、汚染され、退廃していくこの反転世界を管理するためだけに、ギラティナは生まれたのだ。
現実世界からは反転世界の様子を見ることは出来ないが、その逆はできた。ギラティナにはその能力があった。 見たいと思えば、目の前に長方形の大画面が現れ、現実世界を何処でも見ることができる。反転世界の管理者という立場上、必要とされたからだ。
しかし、二つの世界を往き来することは許されなかった。所詮は現実世界が存在する為のごみ溜めでしかない ――そのような世界と現実世界を繋ぐ必要はないし、汚染物質やエネルギーが逆流してきたら大変なことになる。 というのが、彼を創り出した神々の思し召しであった。
ギラティナも、始めのうちは与えられた役割をそつなくこなしていた。 そもそも彼に感情というものは存在していなかった。しかし、長いこと画面の向こうの“現実世界”を眺め続けていた所為で、彼にある変化が起きた。 いつしか現実世界に憧れを抱くようになっていたのである。
向こうに行く手段はないという事実が、尚更彼の気持ちを高揚させた。 無口無表情で毎日の作業を続ける彼だったが、胸の中には憧れともどかしさではち切れそうな思いを常に抱えていた。 現実世界のことを考えない時は無かった。
そんなある日のことだった。彼は不思議なものを見つけた。空中に、葉っぱのような形をした裂け目ができていたのだ。 中には暗色の混ざり合った、気色の悪い渦が見える。裂け目の後ろに回ってみると、そこには何もない。
暫くあちこち観察していたギラティナだったが、好奇心から翼の先端を裂け目へ伸ばしてみる。
ずぷり
翼から伝わってきたのは、水でもなく泥でもなく、それらよりも重たい感触だった。奇妙な感覚に、ギラティナは震え上がった。 しかし、翼に何も変化はない。害は無いのかもしれない。
余計に興味が掻き立てられた彼は、もう片方の翼も使って、裂け目を広げようと試みた。 スッといとも簡単に裂け目は広がり、とうとう彼が中に入れるくらいになった。
頭を中に入れてみる。次に首、胸、胴、そして尻尾の先まですっかり入ってしまった。
中は変わった場所だった。ドロドロの液体中を漂ってるような感じがするが、別に息苦しくはない。
外からでは分からなかったが、この空間は、筒の内部のように遥か先へと伸びていた。
――この先に、何があるのだろう。
ぽつりと芽を出した冒険心が、彼を前へと進ませた。進んでも進んでも変わり映えのない景色だが、飽きることなくぐんぐんと進んでいく。 初めて自分の身に起きた変化に、夢中になっていた。
そして、とうとう出口を見つけた。入り口と同じような裂け目から、白い光が差し込んでいる。
ギラティナは何の躊躇いもなく裂け目に手をかけ、思い切り広げた。明暗の急な変化で、一瞬視界が真っ白になる。
漸く目が慣れると、そこには花が咲いていた。地面に敷き詰められたように咲くその花は、天を仰ぐようにして、大きな桃色の花びらを存分に開いていた。そよ風で仄かに香っている。
見慣れない光景に思わず身を乗り出したギラティナは、裂け目から落ちた。下は湖の浅瀬だった。 プルプルと震えて水気を払うと、彼は陸に上がった。
改めて周りの景色を眺める。一面の花畑。広く澄み渡った青空。遠くの山だって、ちゃんと木で覆われていて、窪みなんて一つもない。 自分のやって来た世界とはまるで違っていた。
――あぁ、そうか。
ギラティナは気付いた。
ここは現実世界、自分が今まで護ってきた世界なのだ。
それを裏付けるかのように、頭上高くを鳥ポケモンが群をなして飛んでいる。反転世界のビジョンで見たことのある姿だった。
どうして二つの世界が繋がってしまったのかは分からない。分からなくても良かった。
長い間ずっと憧れていた世界に、今自分は居るのだ。興奮の方がよっぽど強かった。
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Re: 無題. ( No.5 ) |
- 日時: 2010/09/18 19:27
- 名前: ROM-Liza
- 前回投稿からやはり随分と時間が経ってしまいました。
遅筆なろむです。
一部修正&更新です。今回更新分には捕食要素が皆無なのでご了承ください。
読んでいただくと分かると思いますが、某シェイミ映画が元ネタです。 反転世界などの設定については、話の都合や俺の個人的な妄想により、一部加工が見られます。
故、痛々しい仕上がりとなってるのはお許しください><
>>>2の名無しさん 米ありがとうございます!
ギラティナいいですよねー。 自分は某ポケモンサイトですっかり惚れてしまいまして(ギラティナと聞けば、ピンとくる方もいるかも)。
厳めしい顔をしてますが、なんだかこういう奴に限って、ちょっとした仕草に萌えます。
変な裂け目に羽先で触れてみたり、水に濡れてプルプルしたり、異世界にワクワクしてみたり(´∀`)
書いてて楽しいですね。早く続き書きたい。けど遅筆だというジレンマw
なるべく頑張るようにはします(´・ω・`)
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Re: 狂愛シンドローム ( No.6 ) |
- 日時: 2010/09/19 00:37
- 名前: リオレイア
- ギラティナみたいなドラゴンっぽいポケモンは好きなので誰が『喰われる』か楽しみです。
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Re: 狂愛シンドローム ( No.7 ) |
- 日時: 2010/09/20 22:03
- 名前: S
- お初です
圧倒的な差で、簡単に食べられてしまうのは自分は好きです 次は誰が食べられるやら・・・w
リオレイア氏 余計な事かも知れませんが、ギラティナはドラゴンタイプ入ってますw
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