Re: Wolves Heart ( No.1 ) |
- 日時: 2010/05/19 20:27
- 名前: セイル
- 「や、止めて!いじめないでっ!」
自宅への帰路の途中、雨と傘に当たる雨の音の中、僕の耳が幼い涙声を捉えた。 「ん?・・・なんだろ・・・」 街道のすぐ側に公園があり、その隅からその声が聞こえた。 「・・仔犬・・?いや・・狼・・?」 最初は犬かと思ったが、よく見れば、耳は鋭く、尾を見ても、確かに狼。仔狼だった。 特に狼が珍しい訳でもなく、喋っていても珍しくない。 僕が足を止めた理由はその言葉だった。 「いじめないでっ・・お願い・・お願いだからっ・・」 雨に打たれ毛は全てペタリと体に垂れており、さらに酷いことに右目に大きな切創、両足にもそれはあった。 毛は血に濡れ、地面の雨水は真っ赤だ。 「うぅ・・・もう・・嫌・・痛いのは・・・」 顔を腕で庇って体をビクビクと震わせている。 その目には確かな恐怖と怯えを僕に伝えている。 傷は動物にやられたとは思えなかった。あきらかに人間の手だ。 つまり、この狼は人間・・僕に怯えている訳だ。 「大丈夫・・・もう、大丈夫だよ・・・」 涙を流し、震える仔狼を優しく抱き上げる。 「ひっ!は、離してっ!!」 驚いたせいか。それとも殺されると思ったか。 そのどちらか分からないが、仔狼は僕の腕の中で暴れだし、挙句の果てに腕に牙を突き立てた。 まだ小さい牙は顎の力が弱いこともあり、皮膚を喰い破るまでには行かなかった。牙も震えており、力が分散する。 「っ・・大丈夫。もう、何もしないよ。何もされないよ・」 「ぅえ・・ほ、本当ぅ・・・?」 濡れた毛並みを優しく撫でながらそう言うと、噛むのを止め、明るさの少し戻った表情で僕に問いてきた。 「もう、大丈夫だよ。怪我の手当をしてあげるからね。」 「うぅ・・えぐっ・・わぁぁぁぁぁん!」 堪えていた涙が途端に溢れ、仔狼が僕の腕の中で泣きだした。 雨と涙と血で濡れる服。そんなのは洗濯すればすぐに綺麗になる。 だが、この仔狼の傷はそんな簡単には治らないだろう。 片手で傘を差して、たまたま持ち合わせていたタオルをその傷ついた仔狼にかけた。
* * *
「ねぇ・・君は何を食べるの?」 自宅に戻った僕は服を着替え、仔狼の手当に当たった。 両足に包帯を巻き、顔半分にも包帯が巻いてある。 巻いた直後はいいが、今となるとジワリと血が滲んでいる。 改めて思うに、まだ幼くて可愛い。 その表情は何かを言いにくそうにしている。 「どうしたの?」 「ぼ、僕・・ち、血しか・・・食べられないの・・」 「血・・?」 「お、お願いっ!眼も紅いし、気味が悪いけどいじめないで!一日一食で我慢するからっ!!」 公園では暗くて気付かなかったが、確かに仔狼の眼は血のような深紅だ。気味が悪くないとは言えない。さらに血を飲むというのだから、不吉を運ぶとも思える。 「・・・・・・・」 「もう・・暗くて・・寒くて・・・痛いの嫌だよ・・・」 恐らく、幾多の人間に拾われてその血しか受け付けない体と紅い眼が災いし、見捨てられたと言うことだ。 心ない人間がこの仔狼の右目を奪ったのだ。 「・・ずっと我慢してたんだね。」 「え・・?」 僕はしゃがんで、右腕の袖をあげた。 「一日一食じゃ足りないでしょ?三食でいいよ。」 「で、でも・・いっぱい飲んだら・・」 「そこはなんとかするから、さぁ。」 「・・うん・・あ、ありがと・・」 ガプッ・・・ 「ッ・・・う・・」 目に涙を浮かべ仔狼が右腕に牙が突き立てられた。 今度は牙が皮膚を喰い破り、血が流れる。 その血を遠慮しがちに舐めて体に取り込む。 「だ、大丈夫。気にしないで。」 ズキッと痛みが走るたびに、顔をしかめる僕を心配そうに仔狼が見上げる。 余計な心配をかけないように笑顔を作る。 が、少しすると仔狼が牙をはずし血を舌で舐めとった。 「ど、どうしたの?お腹いっぱい?」 「う、ううん・・し、食欲がなくて・・」 それは・・嘘だ。と、すぐ分かった。 表情とその言動から見れば、仔狼自信が罪悪感を感じ、血を飲むのを止めたのだ。
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Re: Wolves Heart ( No.2 ) |
- 日時: 2010/05/19 20:34
- 名前: セイル
- 結末についてです。
1 鬼畜的?エンド 2 悲的?エンド
どちらがいいでしょうか?
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Re: Wolves Heart ( No.3 ) |
- 日時: 2010/05/19 22:35
- 名前: 名無しのゴンベエ
- わたしは2でお願いします。
しかし、こんな二人がどういう経路で鬼畜エンドになってしまうのかも気になりますが…w
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Re: Wolves Heart ( No.4 ) |
- 日時: 2010/05/20 00:05
- 名前: リオレイア
- 2が良いです。
これからどうなるんだろう…
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Re: Wolves Heart ( No.5 ) |
- 日時: 2010/05/20 07:29
- 名前: スタクルス
- 1が見たいです!鬼畜物大好物♪
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Re: Wolves Heart ( No.6 ) |
- 日時: 2010/05/20 17:16
- 名前: Wyvern-D
- 2〜
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Re: Wolves Heart ( No.7 ) |
- 日時: 2010/05/20 21:48
- 名前: ケイル
- うーん、なにやら不幸な話になりそうだw
悲しいのは苦手なので1でっ
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Re: Wolves Heart ( No.8 ) |
- 日時: 2010/05/21 21:19
- 名前: セイル
- 意見ありがとうございます。
多数決で2と言うことで。 今作は少し捕食描写が少ない様な気がします。 それでは続きですっ。
「そう・・でもまたお腹が減ったら言ってね。」 「う、うん・・・」 笑顔を投げかけてみるも、仔狼は浮かない表情をする。 「そんな顔しない。ちゃんと面倒みてあげるから。」 「・・わっ!?」 ぽんっ・・と手を頭に乗せ、優しく撫でる。 ビクッと体を震わせるが、僕を見上げるその目には涙。 銀色の美しい毛並みが小さく震えていた。
* * *
「・・・そんな事もあったな。」 「ええ・・そうですね・・・」 俺は全高が俺より大きく、すっかり育った、銀狼に振り返った。 大きな切創のある右目は開いていない。左の深紅の眼が俺を優しく見つめる。 「お前もすっかり美人だな。」 「・・・そう・・ですか?そうだったらあなたのお陰です。」 あの頃の幼さは微塵もない。今は誰でも惚れる程の美貌の持ち主だ。気味の悪い深紅の眼もその美貌を引き立てるひとつだ。 「俺のお陰か・・フッ、あははははっ・・」 「フフ・・ははははっ・・」 俺は不意に笑ってしまった。銀狼は怒ることなくそれに続いた。 と、その時クゥ・・と何かが鳴った。 「あ・・・」 「おっと、もうそんな時間か。」 「・・・恥ずかしい・・」 銀狼は頬を赤らめ、身を捩りながらこちらを見つめる。 シュルシュルッ・・パサッ・・ 俺は右腕の包帯を取る。 痛ヶしい無数の白い噛み跡の残る右腕が姿を現す。 「ほら。いいぞ。」 「・・頂きます。」 ガプッ・・キュウウゥゥゥ スッと目を閉じてその細腕に牙を突き立て皮膚を喰い破り、血を舐め取る。血を吸い、血を飲む。 「っ・・」 数年もこの行為に付き合ってきたが俺はまだこの痛みに慣れない。噛み跡はこの狼の食事の痕。 成長するにつれ、血の摂取量が増え、俺は大変な思いをした。 ゴクッ・・・ゴクン。 「頂きました。」 十分もの間、銀狼は俺から食事を取る。 毎度の事ながら、俺は血を流したまま倒れそうになって、よく倒れる。なぜなら、極度の貧血に陥るためだ。 この狼の食事は最早、吸血鬼なみの吸血行為だ。 「く・・うっ・・・」 今回も取った包帯を拾おうとして視界がグラリと歪み、足が折れ、体が傾く。 トンッ・・ 「わ、悪いっ・・・」 その体を銀狼が前脚で受け止めた。 「いえ・・・いつもの事です。」 ポタッ・・ポタッ・・・ 「ん?どうした?」 その時、俺の頬に暖かい雫が落ちてきた。 何だろうと思い、銀狼を見上げると・・ 銀狼は・・・泣いていた。 「私の名前・・・分かりますか・・?」 「名前・・?まだ・・聞いてなかったな・・・」 俺はずっと銀狼の事をお前と呼んでいた。今更、名前を知ってもそれが変わるかは分からない。 だが、次の瞬間、俺は背筋が凍った。 「私・・私の名は・・・フェンリル・・」 「!?フェ、フェンリルっ!?あ、あの、人間のみを喰らい、その命を永らえる・・」 「そう・・・そうです・・・分かっているのなら、話は早いですね・・・」 未だに頬には涙の筋が流れるも、フェンリルの声は力を失っていない。涙声でもない。凛とした声。 フェンリルが俺を遠慮しがちに前脚で押さえつける。 「俺を・・・喰う気か・・?お前を拾った俺をか?」 「・・・・・貴方には感謝しています・・・貴方の血を数年もの間頂いて迷惑をかけても、貴方は私を見捨てなかった。」 「あぁ・・俺はお前に死んでもおかしくない程の血を飲ませたな。」 「何一つ恩返しできなくて・・・申し訳ないです・・・でも・・・ここまで育った私はもう血だけでは体を維持できない・・・私は生き永えるには・・人間を・・貴方を・・・・・」 「もういい・・・」 「えっ・・・・」 「薄々分かっていた・・苦しまなくていい。お前は本能に従え。俺の心配はするな。」 「・・分かっていたのですか?私の事を・・・」 「ま、まあな・・・少し・・怖いけどな・・」 いくら、前にわかって、喰われる身なのだと覚悟していた今でもそれを迎えるとやはり怖い。 自分でも体が震えるのが分かった。 「貴方は・・どうして、そこまで・・・」 「何も言うな・・・俺を喰えなくなるぞ・・」 フェンリルの涙が俺の頬にずっと滴っている。 声一つ上げずに泣いていたその雫は人肌よりも熱を帯びてその思いを俺に伝えていた。
ーありがとうー
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Re: Wolves Heart ( No.9 ) |
- 日時: 2010/05/22 00:03
- 名前: リオレイア
- フェンリルですか…
彼を喰らった後はどうするのだろうか… 気になります。
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Re: Wolves Heart ( No.10 ) |
- 日時: 2010/05/23 11:00
- 名前: Wyvern-D
- フェンリルかぁ・・・・いいなぁ・・・・・
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Re: Wolves Heart ( No.11 ) |
- 日時: 2010/05/23 14:23
- 名前: ケイル
- 吸血話かと思ってましたが、やはり捕食になるようですね><
人を食わなければ生きていけないというのは悲しい宿命ですな
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Re: Wolves Heart ( No.12 ) |
- 日時: 2010/05/24 19:53
- 名前: セイル
- すいません更新遅れました。
ベロリ・・・グチュッ・・ニチュッ・・ 私は彼の体にゆっくりと舌を這わす。瞬く間に衣服が唾液を吸い、重くなって舌との間に粘っこい糸を引く。 普段ならこんな事はしない。その腕を、足を喰い千切り、その血を浴びるように飲む。続いて肉を少しずつ喰い千切ってその悲鳴に復習の心を躍らせ、人間を貪り喰った。 だが、流石に今回は違った。右目と両後ろ足の切創だ。 あんな大怪我を負い、あの出血量だと、この人間に拾って貰わなければ、いくら私と言えども死んでいた。 さらに十分な量の血液を私に捧げてくれた。お陰で私は無事に回復しここまで育った。 ー人間を喰らわねばならないまでにー 嗚呼、どうして人間を喰らわねば生きられないのか。 「うくっ・・・っ・・」 私の重舌が彼を舐める度に彼は喘ぎ、苦しむ。 グチュ・・ジュルルッ・・グプッ・・ ただ、舐めているだけなのに舌には上品な甘さが広がる。 人間特有の味。その中に私の涙も広がっていた。 私の涙は止まらない。声を上げようとも上げられない。 涙は音もなく、頬を伝うだけ。 ーいつもなら、簡単に人間を殺し、呑み込んでしまえるのにー 涙が止まらなければ、唾液も止まらない。 理性がこの人間を喰らう事を拒んでも、本能はこの人間を喰らいたくて仕方がないと叫んでいる。 私の人間の血と、人間しか受け付けない体を今だけ恨めしく思う。 ー何故・・何故・・何故なのか?ー 「うぇ・・っ・・けほっ・・・な、泣くな・・い、生きるため・・・なん・・だろ・・う・・?」 私の生暖かく、獣臭い唾液を飲んで吐き気を催し、吐き出そうと苦しむ彼は荒い呼吸を続け、片目だけで私を見据え今にも消えそうな声で囁いた。 「だ、ダメ・・っ・・・わ、私は貴方を食べれないっ!」 舐めるのを止め、私は声を絞り出した。 口端からは唾液と食事の腕を舐め取った血が混じった唾液が滴り、糸を引く。 涙がさらに加速した。いくら生きるためとは言え、命の恩人を喰らう事など、私には出来ない。 「ダメだ。俺は今までお前の面倒を見てきた。だから、お前は最後の我儘をしろ・・俺を・・俺を喰いたいんだろう・・・?」 「出来ない!命の恩人をどうして喰らわなければいけないのっ!?」 「生きるためだろ・・?俺の血液だけじゃ、もうその体を維持できないんだろ・・?」 前脚を通して、彼の震えが酷いのは分かっていた。 明らかな虚勢だ。本当は喰われたくないに決まってる。 「だけどっ!」 彼の言うことを完全には否定は出来ない。 もし、彼を喰らうことを止めて生きたとしても、私の体は崩壊してしまう。このまま彼から血液を貰ったとしても摂取量は増え、最終的には彼を殺す事になる。 「俺を喰らえ・・それでお前が長く生きられるなら・・俺はいい。」 どうしてこの人間は・・どうしてそこまで私に自分を捧げる事ができるのだろうか? 大量の血液だけでなく、自身までも何故捧げられるのか? 私はその言葉で踏ん切りがついた気がする。 口元を彼に近づける。 「俺の命・・お前に預けた。」 アグッ・・バクン。 彼の手が私の口元を優しく撫でた。 私は心を鬼にし、彼を咥え、持ち上げる。 口内に引き込みながら何度も咥え直し彼を呑み込んでいく。 全てを口内に引き込んで優しく口を閉じた。
ちょっとずつですみませんっ。 なにせ忙しいもので・・
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Re: Wolves Heart ( No.13 ) |
- 日時: 2010/05/26 23:35
- 名前: ケイル
- いっそう切ない展開になってきましたね
俺を食えばお前は助かるんだ、みたいな話は 悲しいながらも素敵ですw
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Re: Wolves Heart ( No.14 ) |
- 日時: 2010/05/29 18:46
- 名前: セイル
- 生暖かい空気が漂い、空気を吸えば噎せる。
気持ち悪い獣臭い臭いが口内に充満していた。 ニチュッ・・グチュグチュ・・ クチャ・・ニチュァッ・・ 舌が蠢きだし俺を弄んだ。 疲弊した俺を労るかのように舌が本能に従い、俺の味を求めて体を舐めていく。 顔・・頭・・腕・・足・・股・・体の至る所をねっとりとその重舌で舐め回す。 幾分か唾液を吸っていた衣服が生暖かく、獣臭い唾液をたっぷり吸いベトベトに重くなった。 グチュ・・ニチャ・・グチャ・・ ジュルルッ・・ドチュ・・ 舌が俺をひっくり返そうと蠢いた。 粘っこい水音を立て、舌と背中の間に糸を引いてグルリと寝返りさせられた。 「ぅうっ・・・あぁっ・・・・」 今度は舌を小刻みに動かし、腹を舐める。 これまでに彼女の唾液を飲んで吐き気があった。 彼女の口内で吐く訳にはいかず、根性でそれを飲み込む。 舌は俺を余すことなく包み込んで舐め回す。 自ら喰われることを選んだ餌からたっぷりと味を堪能する。 ズルッ・・ズリュッ・・ 口内が唐突に上に傾いた。それに合わせ、舌にも傾斜が付いてゆく、唾液で摩擦のない体はすぐに落下していく。 喉・・・食道・・・胃袋・・死へ続く暗き狭き肉洞へ。 (お前は・・こうやって・・幾人もの人間を喰っていたんだな・・・) 恐くはない。後悔もない。 (傷ついて、傷つけられて・・何度も、何度も辛い思いをして・・それでも生きてきたんだな・・) 自然と涙が頬を伝う。この世に未練があったからではない。 彼女の生きてきた上での思いを悟ったからである。 (俺は・・お前にとって・・どんな人間だったんだ?) 両足が喉の筋肉に捕まり、急激に喉に引き込まれる。 抵抗はしない。彼女に捕まった以上生き残れる可能性は零に等しいからだ。 (・・お前とは・・これで・・さよならだな・・) んぐ・・んぐっ・・ゴクッ・・ 足がどんどん喉に呑み込まれ、強い蠕動によって・・ ゴクン! 俺はフェンリルに丸呑みにされてしまった。 * * *
グジュ・・・グチュ・・ニチュ・・ グプッ・・ドロッ・・ 唾液や粘液と共に食道という狭い肉洞をゆっくり飲み下されている。 体液が衣服を濡らし、耳を塞ぎ、俺の体力をじわじわ奪う。 今、フェンリルはどんな顔をしているのだろうか? まだ・・声も出さずに泣いているのだろうか? 呑み込まれた俺にそれを確かめる術はない。 蠕動でグギュッと肉洞に体を締め付けられながらも体は胃袋に向け、ゆっくりと下ってゆく。 「さ、最後に・・お前の笑顔・・見たかった・・」 胃袋に到達するまえに俺は酸欠で気を失った。 グジュッ・・・ニプッ・・・グチャッ ジュルッ・・グチュァッ・・ドプンッ! 気を失ってから数十秒後、彼の体は胃袋へ到達した。 足先が噴門をこじ開け、胃袋に突入する。 ・・獲物を溶かし糧にするために、胃液・・胃酸に満たされた胃袋に。 ジュワァァァァ・・・ 気絶していた彼は声一つ上げる事なく胃液に溶かされていった。フェンリルに溶かされていく。 彼の命はフェンリルの血肉となり、糧となり、彼女の命を繋ぎ留める・・・大きな犠牲を払って・・・
* * *
ー美味しいー 本能がそう吼えている。 彼は想像を越えて美味だった。 皮肉。何という皮肉だろうか。 喰いたくない人間がこの上なく美味しいのだ。 本能のままに蠢く舌が彼を蹂躙していく。 愛しかった彼を唾液まみれに・・餌に変えていく。 でも、私はそれに従うしかなかった。 それが私にできた唯一の恩返し。 ー生きるために彼を喰らうー それが彼の私に託した願いだった。 (私は、私は・・・貴方を・・) 最早、体は動かない。動くのは思考だけ。 本能が私の体を支配し彼を味わい続けている。 恐らく彼は私を傷つけまいと声を上げずに舌の蹂躙にたえているのだろう。口内からの声が聞こえない。 私も彼を傷つけたくない。だけどそのためには食べるしか残された道はない。もし、吐き出せば彼は怒る。そして私は衰弱して彼の心を傷つける。 私はクイッと上を向いた。口内に傾斜を付けるため。 そして、彼を丸呑みにするため。 苦しみは少しでも短い方がいい。 (・・私をどうか・・許してください・・・) ズル・・ズルと彼が私の舌をずり落ちていくのが分かる。 彼が喉・・胃袋に落ちていく。 「うぅ・・ぅぅ・・」 涙が止まらない。悲しいけど声が出せない。 声を出して、思い切り叫びたい。 ゴクン! 喉の筋肉が私の意志に関係なく彼を呑み込んだ。 「あ・・ぁぁっ・・・」 体が震える。彼を吐き出さなければ。 だけど・・出来なかった。本能が邪魔をする。 ただ、悲しくて彼を吐き出すこともできず、ただ、下ってゆく彼の膨らみを目で追う事しか出来なかった。 今、彼を吐き出して、己の体液を舐め取って、抱きしめてあげれたらどれだけ幸せだろうか! それは叶わない思い、呑み込まれた彼に助かる見込みはない。 いつも獲物を呑み込む前には胃袋に胃液が満たされている。 胃袋に到達した瞬間から消化が始まってしまう。 それも数分とかからないだろう。 強力な胃酸が獲物を消化し、血肉とする。 今頃彼は胃袋に到達し、その身を消化されている頃だろう。 自分の身体を溶かされるという拷問紛いの激痛に悶えながら自らの最期を迎えるのだろう。私の手によって。 もう・・手遅れだ。吐き出しても出てくるのは胃液によって溶解し、絶命した彼だったモノがでてくるだろう。 彼は・・・私の血肉になったのだ。 私の命を繋ぎ留める糧になってしまったのだ。 「わ、私は貴方を食べてしまった・・・ぁぁ・・うぅぅ・・・ああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 私は子供のように大声を上げて泣き出した。 涙と溢れんばかりの唾液を床にしたたらせながら。 初めて出会ったどこまでもお人好しのかけがえのない人間を失った。私は彼を喰い殺した。 それは遠吠えに近かったかもしれない。 生きるためとは言え、私は己が犯した愚行を悔いた。 やはり、止めておくべきだった。たとえ私が死んで、彼が悲しい思いをしても、彼を喰らうべきではなかった。 遙かな時を生きれる私がこれからの余生、孤独に打ちひしがれなくともよかったのに。彼はもう帰ってこない。 声を聞くことも、その笑顔を見ることも。 ー私が喰い殺したー その事実が私の中に嫌に残る。 目が赤い、痛い。でも涙は止まらない。 罪悪感・・虚無感・・喪失感・・ あらゆる負の感情が私をいつまでもそうさせる。 もっと彼と一緒にいたかった。 もっと笑い合いたかった。 彼はもういない。
ー私が喰い殺したー
* * *
土が跳ね、泥が跳ね、銀色の毛並みを汚す。 枝が折れ、石が刺さり、血が流れる。 痛い。だけど痛くない。 彼の壮絶な最期に比べれば。 私は化け物だ。フェンリルでも狼でもない。 人間を欲望のままに貪る化け物だ。 ザァァァァァと激しい雨に打たれながら、森をかけぬけていた。 鋭い木の枝が体を切り、血を流させる。 人間を喰らう私がその人間の愛情を知ってしまったらそれはただの化け物だ。 涙はもう枯れた。もう必要ない。 こんな事になるのを貴方は分かっていたの? なら・・・貴方はどうして・・・ ー私を拾ったのー
ー私に血を与えてくれたのー
ー私に喰われてくれたのー
ただの化け物だった私にー
私は地を蹴って中に舞った。 ーワォォォォォォォォォォォォォォォォッー 雨と血に濡れた体を満月が照らす。 その満月に遠吠えをして・・意識は・・消えた。
* * *
私は貴方に愛を教えてもらった。 私はもう生きていられない。 貴方がいなければ私は・・・・ 人間を喰らう私・・もうこんな・・
モウ・・コンナイノチイラナイ・・ ゴメンナサイ・・ワタシヲユルシテ・・・
* * *
数日後、崖下で巨大な狼の死体が見つかったらしい。 体に無数の切り傷を負い、口から大量の血を吐いていた。 死因は全身強打。即死だという。 スウジツモミハナサレテ・・カワイソウニ・・ ボウッ・・と青白い光が現れ、手のようなものをその狼にそえ、呟いた。 人間型のように見えるその光の表情は微笑んでいるように見えた。 アァ・・アナタ・・アナタナノデスネ・・・ ズット・・ズット・・アイタカッタ・・ 青白い光が消えると共に狼の死体も一緒に消えた。 二つの魂が天に昇ってゆく。 高く、高く、どこまでも・・・・
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Re: Wolves Heart ( No.15 ) |
- 日時: 2010/05/30 02:59
- 名前: リオレイア
- 彼らは最後に逢えたんだな…
良かった… 思わず涙が…
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Re: Wolves Heart ( No.16 ) |
- 日時: 2010/05/30 21:02
- 名前: ケイル
- うむー、なんと悲しい;;
悲恋なお話ですねぃ 魂の向かった先で幸せになってもらいたいです
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Re: Wolves Heart ( No.17 ) |
- 日時: 2010/05/31 20:02
- 名前: Wyvern-D
- 二人とも優しいなぁ・・・・・
ぅん、・・・・グス・・・・(泣w
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