|  Re: 短編小説 "Face to FACE" ( No.1 ) | 
| 日時: 2009/08/16 22:42名前: K-urz  <dragon-spirit-cro@hotmail.co.jp>
 
大きな村があった。唯一の貴族を中心とした大きな村だった。
 以前は気前がよく、村の人々にも好かれ、誰もが崇めて(崇めて)いた賢い貴族の領主が統一していて、外からの交渉が少ながったが、人々は皆が皆平和に暮らしていた。
 そして、子供も授かっていた。
 生まれた時から貴族と言う身分であり、仕事で忙しい領主である父親の顔を知らずに、母親とメイドに囲まれて育っていった。
 その子供は生まれながらの才能人で、教わった事への飲みこみも早く、大人顔負けな程であった。
 そんな日が何時までも続くのかと思われた…。
 
 しかし、十数年後のとあるの夕刻に、村を統括していた領主が原因不明にも倒れてしまった。
 村一番の医者にも係ったが、原因は分からず、手を上げた。
 葬式は村の殆どが参列をし、多い悲しみに包まれた。
 
 その後、主権が領主の子供に移された。領主の血を継ぐもの、責務は果たさんとす…と言う決まりの元、主権はその貴族から離れることはなかった。
 その頃彼は18歳。幼い事から悪戯(いたずら)好きで、村の子供と遊んだ時や屋敷での生活でも悪戯ばかりしていた。
 そして歳を重ねていくにつれて悪戯もより濃いものになっていった。ある時は、ヒト1人を殺す寸前までに達していたのだ。
 領主が変わってから、そう言った事件も多くなり、その原因の殆どがその新しい領主と言う事実の中で、村人は何日かに、1人、また1人と、村を離れて行くようになった。
 屋敷に仕えるメイド等も、村人と同じように1人1人と離れ、実の母親も、その嘆かわしさゆえに、自ら命を絶ってしまった…。
 
 
 
 そんなある日の事である。
 真夜中、大きな部屋の大きなベッドの真ん中で眠っている領主がいた。外も中も淋しく、冷たい空気が彼の頬を包んでいた。
 そんな夜中の12時頃の事
 
 「起きろ…起きろ…」
 
 誰もいないはずの大きな部屋の、大きなベッドの近くで声が聞こえた。幻聴だろうか、耳障りなその声を遮ろうと枕を頭に被せて嫌な顔をして再び深い眠りに就こうとした。
 
 「起きろって…なぁ、起きろ…」
 
 声がだんだん強くなってくる。その強く聞こえてくる声に反して、自分も大きな声でうるさい!と叫んだ。
 正直、とても怖かった。ヒトの少ない屋敷で声がする事ではなく、その声があまりにも自分のそれに似ていたから…。
 
 「起き―――」
 「うるさいって言ってんだろ!」
 
 オウム返しのように反響してくる声に、いい加減キレたのか、ガッと目を開けて領主は怒鳴った。
 だが、目の前にあるのは、何時もの天井、いつもの壁に取り付けられた窓、いつもの布団がある。が、何時もとは違う何かを感じた。
 それに早くも気付いた領主、ゆっくりと上半身を起こしてベッドから降りようとした―――時だった。
 
 ………
 
 「あ、あれ…体が…何で…」
 
 上半身を起こした途端、体が急に動かなくなった。体の中に図太い金属棒でも入れられ、丈夫なロープで全身を巻きつかれた様な、そんな感じだ。
 動かせるのは、目と、口と、呼吸が出来る程度だ。
 そして先程まで聞こえてきた声が、また聞こえてきた。
 
 「お、やっと起きたなぁ」
 「だ、誰だよお前…」
 
 恐怖と噴怒で震え上がった声で返す。
 
 「誰か…は、話の終わりの頃に話すさ」
 
 とりあえず意志の疎通は出来た。だが、それ以上に、相手の姿形、どこに居るのかが分からないのだから、意志の疎通よりも怖い物を感じた。
 まるで、独りで何もない、真っ暗なお化け屋敷に放り込まれたようだった。
 
 「まぁまぁ、そんなに緊張すんなって…ほら、深呼吸をして」
 
 こんな状況の中で出来る訳がなかったが、そんな時に、相手の言葉と自分の記憶がすれ違った様な感覚に一瞬陥り、肩の力がフッと抜けてしまった。
 
 「そうそう、出来るじゃないか」
 「お前は…何をしに来たんだよ…」
 
 先程から聞こえてくる声が、どうも自分の記憶と重なっていく様で、ある意味怖かった。
 
 「僕か?それは話していくうちに理解していくようになっていくさ」
 
 …ズキン…頭が一瞬だけ強く締め付けられるような痛みを感じた。
 
 「………」
 「じゃぁ、そろそろ話すか」
 
 固唾(かたず)を飲みこむ。これから、何が始まろうとするのかと、心が震え上がった。
 
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|  Re: 短編小説 "Face to FACE" ( No.2 ) | 
| 日時: 2009/08/16 22:42名前: K-urz  <dragon-spirit-cro@hotmail.co.jp>
 
「お前は、今まで楽しかったか?」
 声がふと問いかけた。一体これが何を意味しているのだろうか…それでも恐る恐る答える。
 
 「た、楽しかったさ…母さんや、メイド達がここまで育ててくれたんだ。村の人だって、ちゃんと見てくれてた。関わってくれてた…」
 「そうかぁ〜」
 
 今にも泣きそうなちっぽけな自分の声に対して、声は楽しそうに、そして、あざ笑うように聞こえてくる。
 
 「そうだね、とても楽しかったねぇ。そりゃぁ楽しい事もあったけど、相手に迷惑を掛けた事もあるよねぇ」
 
 ズクン…また頭が痛んだ。
 
 「その声を…止めてくれないか…」
 「えぇ〜、だってこれは君(ぼく)の声だし、止める訳にはいかないさ」
 
 自分の声に嫌気が刺してくるのは、生まれてこの方初めてだ。
 心臓がドクンドクンと、大きな音を立てて鼓動を撃ていく。
 
 「楽しかった、ねぇ。でもそれって、自分からしたら、だろ?相手の事をちゃんと考えてモノを言ってんの?」
 「うるさい…」
 
 胸が掴まれる。心臓を、抉り(えぐり)取られる感触…。
 
 「くはは、面白いねぇ、相手の反応を面白がるのって」
 
 …ズクン!…先ほどよりも強く痛みが走った。
 
 「それでも、僕(きみ)の友達は関わってくれた。何時も何時も同じ様な事を繰り返してくれる僕(きみ)に、ね」
 「…………」
 
 話を聞いている内に、ふと頬を一筋の水が伝っていくのを感じた。だが、それは普通のヒトとは違う、冷たくて、そっけない水だった。
 
 「そうだ、僕(きみ)はこの屋敷にいる大きな虎を知っているよね?人懐っこかったけど、その力はヒトを殺せるようなものだったよね。その虎の名前を出しては、何度も友達を脅したよねぇ」
 
 …ズキン…ズキン…頭の痛みの回数がだんだん増えていく。それでも寝転ぶ事や頭を押さえる事を、体が許さなかった。
 
 「や…めろ…」
 「えぇ〜、でも楽しいしなぁ」
 
 両の目から、冷めきった涙が零れていく。視界が、だんだん濡れていく。
 
 「時には他のヒトの家まで御邪魔しては、友達の両親に媚(こび)を売ったり、気前の良いような事を言って、良い子ぶってたよねぇ」
 「黙れぇ…!!!」
 「僕(君)の父親の知り合いに会うと、これまた大層な事を言って甘ったれたり、弱みに付け込んで脅したりしたしねぇ」
 「黙れ、黙れ黙れ黙れぁ!!!」
 
 誰にも見つからない秘密の基地の奥底に隠してあった、大切で、誰にも見せたくなかったモノをほじくり返させるような思いだった。
 何時かの、純粋に楽しかった思い出が、自分の言葉でかき消されていくようでもあった。
 
 「そうそう、一番楽しかったのはやっぱりアレだよねぇ。いい加減気前の良い自分の父親の料理にどk―――」
 「あ”ーーーっ!止めろ止めろヤメロやめろぉーーーっ!!!」
 
 もう、自分が何をしているのか、何をしたのか、これから何をしたら良いか、分からなくなっていた。
 嫌気の刺す自分の言葉、それだけを振り払うように声を荒げるだけだった。
 
 「…じゃぁ、僕(君)の手を見てごらんよ。そこに、自分の声で隠した真実があるから」
 
 ……恐る恐る、自分の手を広げながら、涙で滲んだ視界でそれを見る。手には、小さな小さな透明な瓶。透明で、少し粘りのある透明な液体が入った瓶。
 
 「それは僕(きみ)自信が肉親を死に追いやったモノ。同じ血を持ちながら存在を離した『猛毒』だよ」
 「い、ゃだ…ゃめて……」
 
 現実から離れたい気持ちでいっぱいだった。
 もう、こんな所にいたら……そんな気持ちだ。
 
 「っと、ちょっと話の要点を言ってなかったね。今まで離してきた事、それは僕(君)がやってきた事。それと向き合って、これからどのように生きていくかって言うのを考えてほしかっただけさ」
 
 要点を話されている時には、既に心が体から離れ、何を聞いて何を話しているのかも分からない状態だった。
 
 「それじゃ、最初に君が行った約束に答えようか」
 
 すると、体の拘束が急に解かれ、涙で濡れて皺くちゃになった顔が布団にバフッと倒れこむ。
 そしてその解放感を感じ、直ぐに体を起して後ろ見た…直後だった。
 
 「僕は君だ。僕(きみ)の記憶の半分」
 
 先程から声を掛けていた正体、それは、竜だった。
 真っ黒の鱗に巨大な翼、背中にはトゲが生えており、右目が黒い眼帯で隠され、深紅の左目が自分の体を見つめていた。
 真っ暗な部屋の中、何故かその姿がハッキリと見えた。
 そのドラゴンは、自分の体よりも大きな両手で自分の体を掴み、ゆっくりと持ち上げる。そして顔の前まで持ってくると、ジュルジュルとピンク色をした舌を出して舌舐めずりをする。
 
 …怖い…怖い…
 
 その気持ちしか、今は考えられなかった。
 
 「くふふ、しばらく僕の中で、反省しなさい。その後の気持ちによっては、生還出来るかも知れないよ」
 
 竜が。大きく口を開けながら自分の体をそこへ近づけていく。
 唾液が糸を引いて舌や牙を光らせている。口から、生臭い息が拭きかかってくる。
 そんな状況の中なので、もちろん生存本能として体が悲鳴を上げながら掴まれた竜の手の中で必死に暴れる。が、ヒトの力なんてたかが知れている。巨大な力の前では、何かを使わない限りかなうはずがなかった。
 
 …バクン…
 
 そして自分の体が竜の口に入りこみ舌の上に寝そべると、同時に口が閉ざされた。
 生温かい息と、舌や上顎の肉壁、口に含んだ途端に分泌される唾液で体が包まれていく。とてもじゃないが耐えきれないほど気持ちの悪い感触だった。
 恐怖のあまりに目を強く瞑り、震え上がる体で必死に舌を叩いたりして抵抗をした。が、もちろんこの行為も無駄なものであり、今更その行為が許されるものでもなかった。
 すると、舌の床が徐々に傾き、唾液で湿った体がその上を滑っていくのが感じられた。その目線の先には、口の中の食べ物を呑み込まんと大きく開かれた喉が、鮮明に映し出されていた。
 
 いやだ…まだ、死にたくない……
 
 呑み込まれないとギュッと舌にしがみ付くが、唾液によって濡れた体には意味がなかった。
 
 …や、ゃめて…ぅゎぁぁぁぁ
 
 ゴクリ
 
 生々しい音を立てて、体が喉のから奥へ、食道の中へと落ちていった。
 肉壁に挟まれながら、長い長い竜の喉を膨らませつつ、体が落ちていく。絶望と死への、短く儚いものでもあった。
 そして、ふと開けた場所へと出された。竜の胃である。
 口内や食道よりも柔軟で、粘液で濡れた肉壁の部屋だ。心臓がドクン、ドクン、と強く音を響かせ、奥の方からゴポゴポと言う音を立てていく。
 もうじき、胃液が分泌されて体を溶かしていくのだろう…そう考えていく中、ふと頭の中に浮かんだ言葉。
 
 「己はこうやって、他人の命を摘み取って絶望のそこへ落としていったのか」
 
 そこで意識は途切れてしまった。
 
 
 
 
 その悪夢から一夜明けた朝、ベッドの上には深い深い眠りに就いた若い男の体が仰向けに寝転んでいた。
 体は冷めきって白くなり、生きている証しでもある心臓の鼓動もなく、ただただ静かに眠っているだけだった。
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|  Re: 短編小説 "Face to FACE" ( No.3 ) | 
| 日時: 2009/08/16 22:45名前: K-urz  <dragon-spirit-cro@hotmail.co.jp>
 
あとがき:どもです。
 最後まで読んで下さったかた、ありがとうございます。
 それだけです(マテコラ
 ではまた
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|  Re: 短編小説 "Face to FACE" ( No.4 ) | 
| 日時: 2009/08/17 20:38名前: ケイル
 
自室に魔物が侵入してくるっていうのは、ものすごく怖い部分ではあるけどだからこそ萌えるところでもありますねw
 
 >そして顔の前まで持ってくると、ジュルジュルとピンク色をした舌を出して舌舐めずりをする。
 これいいなぁw
 
 ちょっと気になった部分なんですが、最初の舞台の説明のあたり
 1文1文、主語が、村だったり領主だったりその息子だったりと変わってるんですが
 今どれの説明をしているのかというのが若干わかりにくかったです。
 まぁ私も国語力がヒドイので、あんまり言えた立場ではないですがw
 主語をなるべく文章の前の方に持ってきたら、わかりやすくなるんじゃないかなーと思います。
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|  Re: 短編小説 "Face to FACE" ( No.5 ) | 
| 日時: 2009/08/18 01:15名前: 醒龍
 
これはいい精神崩壊 こんなシチュエーションは大好物だったりしますお。相変わらず表現方法が多くて読みやすいと言うか、ある種の尊敬も生まれたりします。
 
 しかしこの坊ちゃんが寝てるベッド大きいよね、と、どうでもいいコトが凄く気になってしまった。
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|  Re: 短編小説 "Face to FACE" ( No.6 ) | 
| 日時: 2009/08/18 09:27名前: ハダー
 
最後は心停止エンドかw人間は実生活で丸呑みされる確率はほぼ0なんでこりゃ一番自然な流れだろう
 ヴェリー リアリスティック。
 
 ふと思うが、北米ではよくヴォアをギャグ扱いしてるから
 (カートゥーンやアニメでどうでもいいシーンで唐突に怪獣が現れ唐突に食われる、しかも笑い声の効果音つきetc.)
 この竜はきっとそのあと、腹ごなしをしながらピースサインを見せて「ケッケ、僕(きみ)は僕(きみ)を食ったぜ!なんちゃって!ゲェェェェプ」とか寒ギャグを言い出そうw
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|  Re: 短編小説 "Face to FACE" ( No.7 ) | 
| 日時: 2009/08/18 17:11名前: K-urz  <dragon-spirit-cro@hotmail.co.jp>
 
どもです。短い間にコメントが…ありがとうございます。
 
 >ケイルさん
 どもです〜。
 今回は「恐怖の中での捕食」をイメージして書いてみました(バイ○ハザー○とかを連想してくれれば恐らく大丈夫です。
 あ、今回の作品は自分の思うがままに書いた産物なので、文法とかかなり適当に書いてます。分かりづらくてスイマセンでした…。
 次回作はもっと分かりやすいように書いてみますね。
 
 >せーりゅーさ
 どもです。
 こう言った「言葉攻め精神破壊」と言う行為、自分も好きです。(理由は以下略
 表現の方に少しばかり力を入れて書いてみたのですが、読み返してみると結構分かりづらいかなぁと思ってたりします。
 ベッドや部屋の大きさの事は、後々書きますね。
 
 >ハダーさん
 どもです。
 えっと、せーりゅーさんの疑問と重ねて、ここでネタばらし(?)します。
 今回の作品は、「主人公の夢の中」での出来事を書いています。
 なので細かい設定とかはなく、何でもアリになってます。(ベッドや部屋が大きいとか、登場してきた竜が普通に存在出来るとか、何でも出来ちゃいます
 リアルで捕食となりますと、ハードだったり弱肉強食だったりのシチュに限られると思うので、「夢の中」と言う設定で書いてみました。
 あ、そう言った落ちはないです、これはかなり真剣な話にしたつもりなので>寒ギャグ
 
 コメントありがとうございました。
 次回作が何時になるか分かりませんが、それの参考にさせて頂きますね。
 
 ではまた
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