Re: ヨーギラス×●●●● ( No.7 ) |
- 日時: 2011/03/24 23:04
- 名前: ROM-Liza
- 【お詫び】
前回、まさかの字数オーバーになっていたので、投稿できていなかった分の文章を載せます。
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絶望的な状況なのに、俺は自分でも驚くほどに冷静だった。今も死にたいと思っているわけじゃない。イワークの奴に一撃でも痛手を負わせなきゃ、死んでも死にきれない。 きっと、自分の無力さが悔しいからなのかもしれない。その悔しさが、死ぬことへの恐怖を遥かに上回っているのかもしれない。少なくとも今は。
「どうだ、ヨーギラス。君の両親は見つかったか?」
イワークの声が響いた。体の外では今頃、奴がご満悦な顔をして自分の腹に話しかけているんだろう。ククク、という含み笑いまでもがいやに響く。
「君の居るその場所は、じきに私の消化液で満たされる。今まで岩やポケモンを溶かしてきた、強力なものだ。しかし慌てることはない。 消化液に触れたからと言って、すぐに溶けるということはない。君のことを完全に溶かしてしまうのには結構な時間がかかるのだ。 一晩かけてじっくりと私の体に取り込まれていくのだ。君の両親と同様にな」
そう言われて辺りを見渡す。天井から、左右の肉壁から、俺のすぐ目の前から、消化液が湧き出した。 俺にもうすぐ死が近づいていることを実感させられる。
「死ぬまでの僅かな時を無駄に過ごすこともあるまい。今のうちに、何か言い遺しておくといい」
死にたくはないけど、覚悟はしておいた方が良いのかもしれない。 言い遺しておくこと――。そんなの一つしかない。
「……全部お前の所為だ」
「ん?」
「お前さえいなければ、俺は幸せに生きることができたんだ!! お前が父さんと母さんを喰い殺さなければ、あんな……あんな……」
惨めな毎日を送らなくて良かったのに。
話の途中で声が震えだして、遂には涙声になった。嗚咽も混じる。言葉を発することは到底できなかった。
「私も君に言っておきたいことがある」
ややあって、イワークが口を開いた。
「君が惨めな毎日を送ってきたのは、君が弱いからだ」
冷めた口調だった。さっきまでの愉快そうな雰囲気は何処にもない。
「どういう……ことだっ」
「何でも私の所為にされては困るということだ。私は君の両親を食事として喰らっただけだ。君たちの種族だって肉食をするだろう。 君たちの捕食行為が許されて、私の捕食行為が許されないというのは不平等ではないのか」
俺は言葉に詰まる。群れの奴らは皆、狩ってきたポケモンを食べている。実のところを言うと、 俺も誰かのほんの僅かのお残しを勝手に頂いたことがある。
「話を元に戻そうか。群れの中で暮らしている君が、両親を亡くしたからといって必ずそのような惨めな境遇に陥るものだろうか? 虐めなど、それよりも前から続いていたそうじゃないか。両親が居たからまだ歯止めが効いていただけのことだろう?」
黙って聞きながら、俺は奥歯をきつく噛み締めていた。握ったこぶしが震えている。
「そして君の両親が居なくなると、君を守る者はなくなって虐めが酷くなる。両親に頼り切っていた君は、 虐めに対抗することもできず、底から這い上がろうという努力もせず、ただ卑屈になっていったのだろう? 自分のことを白い瞳に生み、突然居なくなってしまった両親を恨みながらな。 生まれつき欠陥を持ち、力もなく、卑屈な、他人の子供――そんな君を誰が育ててやろうと思うだろうか。 どんな親だって、自分の子供を立派に育て上げることに必死なのだ。将来に希望の見えないような子供を世話して、 余計な労力をかけようだなんて誰も思わんよ」
「うるさいんだよ!!」
俺はたまらず叫んだ。イワークの腹の中でその声が残響した。
「お前に何が分かるんだよ! 何でお前にそんなこと言われなきゃなんないんだよ! 卑怯な手を使って父さんと母さんに勝ったくせに、そんなに偉そうに説教垂れるんじゃねえよ!!」
なじられている間に積もりに積もった不満が爆発した。一気に吐き散らしたので、言い終えた後に息切れした。頭が熱くてガンガンする。
すると、ふっと鼻で笑う音が聞こえた。
「それがどうした? どうにせよ、君の両親は負けたから消え去ったのだ。勝った者が強い。勝った者だけが生き残る。 勝った者が弱者を圧倒する力を持つ。そのようなことは世の常識ではないか」
小馬鹿にするような口調で、イワークは続ける。
「いいか。世の中勝つことが全てだ。敗者は隅に追いやられて、やがては淘汰される運命にある。 私に負けた君は、せいぜい無様に喚きながら、私の血肉となるのがお似合いだ」
その時、近くでゴポンと何かが弾ける音がした。見れば、消化液の中であちこち泡が浮かんできては液面で弾けている。 いつの間にか消化液が俺の腰の高さにまで達していた。痛くはないけど、液に浸かっている部分が仄痒くなってきた。
俺はこのまま溶けて消えてしまうのか? こんなに身勝手なイワークの言い分を覆すこともできずに、 こんな場所で死ぬのをただ待っているしかないのか?
――そんなの、絶対に嫌だ。
俺は急いで喉の方へと引き返して、喉肉の地獄に頭を突っ込んだ。だけど、強い力で押し戻される。もう一回突っ込んでも駄目だった。 その後も何度も繰り返したけど、少しも進めなかった。
今度は肉壁を思い切りぶん殴ってみる。ぶよぶよとした肉は、凹んでもすぐに元通りになってしまって、 その勢いに体が押し返されそうになった。それでもめげずに何度も叩きながら、叫んだ。
「出せっ、ここから出せえぇっ!!」
「喰えと言ったり、出せと言ったり、面倒な奴だな君は」
イワークが呆れたように言う。痛がっている様子は全然ない。
「ここから出て、強くなって、いつかお前に復讐してやる! そして、さっき言ったこと全部撤回させてやる! コテンパンにぶちのめして、泣きながら謝らせてやる! それまで俺は絶対に死ねないんだよぉ!!」
一心不乱に叩き続けながら、泣き叫ぶ。ここから出たい。まだ死にたくない。その思いでいっぱいだった。
「面白い」
自分の喚き声に混ざって、そんな言葉が聞こえた気がした。
その直後、足下がグラグラ揺れる感じがして、それが段々酷くなった。肉壁がぐゆんぐゆんと大波のように伸び縮みして、 消化液が勢いよく掻き回される。胃の全体が絶えず大きく変形して、もう滅茶苦茶だった。俺は胃の動きに翻弄されて、 あちこちに弾き飛ばされた。消化液が口に入る。何処が上だか下だか分からない。何も見えない。 そのうち急に体が周りから締め付けられる。息もできないこの苦しさは、さっきも体験した気がした。 それが無くなると、俺の体はごろごろと転がって、硬い何かの上に落ちた。
何度も何度も回転したので、気持ちが悪くなって、視界も定まらない。口に入った消化液を飲んでしまったのか、 喉が少しヒリヒリする。仰向けの状態でとにかく呼吸を整えていると、ぼんやりとしていた景色がはっきりとしてきた。
俺は目を見開いた。そこにはイワークが居た。 俺は外に戻ってきていた。
「そこまで言うならやってみるがいい。成長すれば、もう少し肉付きが良くなるだろうからな。今回のところは逃がしておいてやる」
「あ……」
俺は情けを掛けられたのか。父さんと母さんの敵のこいつに。
悔しい。唾液と胃液に塗れた自分が死ぬほど惨めだった。
「ほら、逃げないのか? 早くしないと喰ってしまうぞ」
イワークに促される。本当は跳びかかってやりたい気分だけど、それが無駄なあがきなのは十分に分かっていた。
俺はイワークに背を向ける。
「強くなって戻ってこい。その時に、改めて君のことを美味しく頂こうじゃないか」
後ろから声を掛けられた。俺は振り返らずに走りだした。足がもつれそうになりながら必死に逃げた。
――絶対に、強くなってやる。
そう心に決めて、暗闇の中、一直線にひたすら走った。
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【補足】 話の中で、イワークがヨーギラスに対して『したでなめる』を仕掛けていますが、本来イワークは『したでなめる』を覚えません。……よねw?
このシーンですが、イワークは圧倒的な実力の差でもってヨーギラスを弄んでるわけです。 つまり、イワークには本気でヨーギラスと戦う気は少しもありません。
ここでは、自分の舌を使ってヨーギラスをからかいたいという目的もあって、イワークはわざと『したでなめる』を真似ることでおどけているわけです。
以上、紛らわしくてすみませんでした。
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