Re: いない ( No.15 ) |
- 日時: 2010/11/11 19:01
- 名前: ホシナギ
渓流は夕日にきらめいて、橙色に染まっていました。
森の中を流れる川は、夕焼け空を映しながら走っていきます。 進んで、躓き、落ちて、開いて。 跳んで、戻って、歪んで、弾けて。 夕焼けの水はまるで甘い甘い蜜のように、緩やかに流れていきます。
木漏れ日は夕日にきらめいて、ほの暗く黄昏に色づいていました。
川を取り巻く森は、がさごそと音を鳴らしています。 夕焼けを浴びて大きな影を作り、まるでまどろんでいるよう。 水面をかげらす影は、川の水とともに揺らいでいます。 滝に連なる川を包む森は、黄金色の光を受けてしめやかに佇んでいるのです。
彼女は、きらめく夕日を受けて、そこにいました。
夕暮れの森の中。 夕暮れの滝の下。 シャワーズは、待っていました。
否、もはやそれは、シャワーズではないのかもしれません。
それは、ヘドロで形作られていました。 下半身はどろどろと崩れ、地面にうずたかく積もっています。 それが動いた跡が、なめくじが這ったような跡のように、至るところに残されています。 辺りには悪臭が漂い、生物を寄せ付けません。
それは、待っているのです。 ただただひとり、待っているのです。
「――――」
後ろから声が聞こえました。
優しく彼女の名前を呼ぶ声が、 幾度となく鼓膜を震わせた声が、 全身余すところなく隅々まで響きわたる声が、 心に沁みこんで染み付いて離れないあのバリトンが、
ずっとずっと待ち侘びた彼の声が、確かに聞こえたのです!!
ぱっと笑顔を迸らせて、彼女は振り返りました。
黄昏に染まるせせらぎ。橙に色づいた木漏れ日。
そこには、待ち焦がれた想い人が、
いない 了
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