Re: 指揮者 ( No.45 ) |
- 日時: 2010/09/26 21:27
- 名前: S
- 分岐1
もうそろそろ姿が見えなくなる頃でフェンリルも追って来なかった ・・・だが、俺は足を止める
「・・・ここで逃げたら・・・俺はあいつに何の礼も出来ない・・・」
せめてものあいつの願いは俺が生きている事だった とはいっても、どの道ここの道も分からないし、この傷だと助かりそうにも無い ・・・真っ赤に染められている手で出血の酷さが分かる
なら、派手に散って死んだ方が相応しい死に方なのかもしれない ここまで来るまで何度も助けてもらったし、このまま逃げればその恩を仇で返すような形になってしまう
俺が歩むはずだった進行方向を180度変えて走り出す 足に流した血が伝い、進路に血を滴らせていく・・・
「・・・!?なぜ・・・戻って来た?・・・」 「生きてたか」 「それはこっちのセ――」
こんなに出血しているのに、なぜか意識が遠くなる所か妙に冴えてくる 言葉も擦れていなかったから、不思議な気持ちだった フェンリルも威嚇して俺を近づけさせないようにするが、無視して近寄る
「離れろ・・・いい加減に気持ちを分かってくれ・・・こいつは俺が――」 「もうバカイヌに吼えられても怯まない」
俺を睨み続けていたフェンリルは気が変ったらしく、対象を変えて襲い掛かってくる 行かせまいとデザイアはフェンリルを引掻く 止められなかった物の、横腹に刺さっていたままだった剣が外れた
「・・・ぐっ・・・こ・・・こいつを使え!」
ねじ伏せられていたニーズヘッグも自由を手にし、抜けた剣を手にして投げる 剣を受け取りフェンリルの攻撃を受け止めるが、衝撃には耐え切れずに倒されてしまう とっさにデザイアが到着して、腕の一振りでフェンリルをなぎ払って、その内に体勢を立て直す
・・・・・・そうして、どれくらい頑張ってた事やら・・・・・・
舌なめずりをされて舌や牙からデザイアの血が入り混じった唾液が体に滴り落る 何だか会ったばかりのデザイアにもされたっけな ・・・こいつ等から見ればそんなに俺は上手そうなのだろうか
「お前に食われるくらいなら・・・」
今まさに捕食しようと大きく口を開けた所に剣を突っ込む 声に成り難い悲鳴を上げ、舌が串刺しにされて半端じゃない血が俺に降り注ぐ
それでも俺だけでも倒そうとまた剣が見える大きく口を開けて視界が 血の気で充満したフェンリルの口いっぱいに広がり
俺に被さるように体勢を低くして、頭からくわえ込む 剣という抵抗出来る物を手放してしまったがために、それが有ればまだ抗えていたのかも知れない フェンリルの口の中はすっかり唾液で満たされていて手の掴み所も無く 抵抗空しく落とされるように呑み込まれていく
「あ・・・これは・・・・・・わ・・・」
手の平中の滑る感触の中に不自然な物が有った(今までそれに手が当らなかったのも充分不自然だが だが、それを掴み取ると同時に上半身から滑り落ちてしまう
それは突き刺したままの剣で、刺しておきながら自分が抜いてしまったのである 手にしていれば、脱出する事くらいは出来たのかもしれないのだが いきなりの事だったので、つい手放してしまった 剣とはいっても、俺とは重量が違うので先に滑り落ちてしまっているようだった 呑み込まれている際中に手を伸ばしても、包み込むフェンリルの唾液意外に何も触れてこなかった ・・・こんな事すれば飛び込むような感じだが
「この感触・・・俺の最後は化け物の腹の中か・・・」
・・・外の轟音が聞こえ難くなり始めると同時に、飲み下されたような音が聞こえて 暑さや戦闘でかいた汗や流した血も全て、腹の中に納まる為の食道で 俺という食い物と一緒に流されているようだった
流されるのが止まったと思えば、柔らかく包み込むようにぬめった胃袋の中なのだろう 未だに活発に動いているみたく、この真っ暗の空間が大きく揺れたり 俺を包み込んでいる胃液が音を立てている フェンリルも人間一人を喰らったぐらいで身動きがしづらくなるような奴では無さそうで 両者も重傷ながらデザイアと未だに交戦中なのか、逃げおおせているのかは腹の中からは分からない
こういうのは何度も喰われていたからなのか、精神的に慣れてしまっているようだった だが、外の気温も熱くなっていたし 息も上がっていた所を呑み込まれてしまった為なのか、呼吸がかなりしづらい(出来ないとも言える
「・・・悪かったな・・・いっつもお前の言う事聞かなくて・・・・・・・・・」
この胃袋から脱出する気力も失せていた・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
何やら倒されたかのような衝撃が走り目を覚ます そういえば重力が下に向かうとすれば今俺は横になっている? 何だか妙に呼吸がしやすい・・・
「・・・・・・・・・」 「・・・生きてるよ」
目の前が裂かれて眩しいばかりに紅い光が差し込んで来る フェンリルの体液が付いているようで視界がぼやけている
だが、体に触れているこの感触はデザイアの物だろう 初めて見せた半泣きの顔で無言で揺すりながら起こそうとしていたので、返事を返す それで安心したのか、表情が僅かに和らいだようだった
「フェンリルは?・・・それから泣いてるのかお前わ・・・」 「あれが動きそうか?」
後の質問をスルーして、返答するデザイアの視線の先に俺も目をやると フェンリルと思わしき獣が無残な姿で横たわっている ・・・ここまでやられれば疑問系にもなるだろう
「お前さえ救えたのならフェンリルも生きていたかも知れないが、あまりにも暴れるからな それで少しばかり頭を打ち付けて、しつけてやったら動かなくなってしまった」 「・・・しつけるって言葉学んだ方がいいと思うぞ?」 「軽口叩ければ問題はなさそうだな・・・ ・・・すまなかったな、ラグナロクがそろそろ始まるのだけれども お前を元の世界には・・・・・・」 「直に終わる物は仕方ない。それで焼き尽くされるか、それとも・・・」
「・・・・・・」 「・・・どうした?」
地響きに耳を傾けていたが、デザイアはさっきからずっと俺の顔を見ている ・・・何だか、最初に有った時のようだ
急に黙り込んだかと思えば、手に力が込められているようで震えを感じる 瞳は何やら邪眼のような色へと染まっていく・・・ その衝動を、抑えようとして震えているのかよく分からない
「ど、どうしたんだ、お前・・・」
・・・フェンリル所かデザイアにも再び舐め始められる こんな事はたった2,3日の間されてなかったはずなのに、何故だか懐かしく感じる
「・・・まぁ、いずれはこんな事にはなるかもっては思ってたが」
・・・こんな展開ともなれば、もう結果は分かったような気がする デザイアに喰われる・・・結末はそれだけだろう 野生の表情にも人を喰らうという喜びが混じっているようで笑みが覗える
他の結末で途絶えるくらいなら、この方が痛みも無くてまだマシな方・・・かもしれない それに少なくともあのまま焼き尽くされて死ぬくらいなら デザイアは好まないのかもしれないが、俺には理性を失ってでもまだ生き長らえて欲しかった ・・・そう思うのは似た者同士だからなのか
いつのまにか抵抗を止めていた 理性がある内にこんな事をされれば、泣き言言うかもしれないから、今はこんな展開には感謝・・・だな 禍禍しく光る瞳には、自らの飢えを満たそうと俺だけを見つめ 喰うのがもったいないとでも思っているのか、どこから喰おうとしているのか 顔を覗き込んだりしている
散々弄ばれると、もう何度目か視界が埋め尽くされ・・・
ごくん・・・
口内で弄ぶ事もなく、一気に呑込まれた 視界は真っ暗、初日のような感じで、俺を待ち構えていたようで 胃壁は一層優しく包み込んでいるようだった
・・・あの時のように吐き出される事は無く、大人しくデザイアの腹の中で消化に身を委ねた・・・
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