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忌々しき存在
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洞窟の外に一つ気配が感じられた。どうやら赤竜が帰ってきたようだ。
「戻ったぞ。」
軽く握ったその拳の中から幾らかの生き物の呻きが聞こえてくる。赤竜に狩られたであろう獲物の匂いが漂ってくる。
…ぐっと鼻につく人の匂い。
一瞬顔が強張りそうになったのを隠そうと上に目を反らした。
「・・・」
「食事の時間だ」
返事もしない俺をフンと鼻であしらうと、竜はまたククッと不気味に笑い手中の獲物を見せつけると、そのまま自分の凭れ掛かっているより外側の壁際にばたばたと乱雑に手の内から落とされた。
冷たい地面に落とされた人達は皆小さく悲鳴を上げている。
怯えたように震えるその呻き声が自分にとって苦痛でしかなく、それを耳に聴く度に俺は硬直してしまう。なんにせよ聞いてて心地の良いもんじゃない。
「・・・」
何も知らずに生きたまま餌として浚われた人達が哀れで、悲しくてならない。
怯えた人間を目の前にして恐怖感すら覚える。
何故同族だったものを喰わなければならないのか。
そんな疑問をどれだけ頭の中で反芻しようとも、答えは返ってこない。
ギュルルルゥ…
「うぅ…」
喰いたくないという意思に反して腹時計が高らかに鳴った。
理性が揺れ動く。
本能が早く食えとばかりに匂いが空腹感を際立たせ催促してくる。
「食欲は抑えなくても良いのだぞ。竜の本能として正しいのだからな。」
鼻を掠める“いい匂い”がすこぶる腹を擽る。
「グルルッ…ぅ…くそう…」
理性は決して本能には勝てない…。それでも人間だけは喰いたくないと目を瞑ろうとするが少しでも気をぬいてしまえば
反射的に手が出てしまいそうな程、堪えるのが辛い。
食欲を抑えようと抗った結果、右に握った拳を石ころに思い切りぶつけてしまった。砂のような小さな石片が飛び散り、岩の表面だけが剥がれクレーターのような凹みが出来た。
―――ひゃあぁっ
悲鳴に反応し顔を上げてみると、びっくりしたような声を出しながら人が一人地面に伏して震えていた。
飛び散った欠片で幾らかの人間に傷を負わせてしまった。悪いことをしてしまったとまた俯いてしまった。そんなおどおどした様子を見て竜は喰うことを薦めた。
「ククッ このままでは立派な竜にはなれぬぞ。」
「ならなくていい…」
俯いたままそう呟く。
赤竜に対してではない。本能に。
「ならば…このまま“飢え死に”しても良いというのか?」
「…」
一瞬それも良いなどと思ったが、飢え死にはだめだ。
怯える人の表情を見た時、心に浮かんだのは嫌悪感や恐怖感だけではなかった。…実は優越感の類いのようなそんな心地の良いものを感じてしまったような感じがする。
――言うならば、征服感に酔いしれる感じ。
そんな自分は出したくない。だが、ここで飢え死にという悪態を晒すのは何かと屈辱的に思える。
―逃げるな!
びくっと顔を上げてみると逃げようとした少数が竜に捕まっていた。
キッと睨み付けられ人はまたとぼとぼ戻り集団を組んだ。
…そうだ。人間ではなくても鹿や猪とか、けものの肉なら喰えるかもしれない。
「じ、じゃあ…」
「む?」
「人間以外の動物は…食べれるの?」
「獣臭くて喰えたものではない」
俺はその言葉にガクリと頭を垂れた。やはりだめか。どちらにしろこんな状況では食うしかないのか…。
「もう嫌だ…」
「無駄なことは考えるな。お前は餌を喰えばいい、それだけの話だ。」
「うぅ…」
とにかく俺に餌を喰わせたいらしく、数人を此方に握り寄せてきた。
またバタバタと乱雑に
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