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忌々しき存在
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「ごちそうさま…」
我は腹を撫でながら呟いた。
我の体中に先ほどの餌のエネルギーが循環している。体がいつもより幾分か軽くなっている気がした。
かと言って何処かへ行く気にはならず、広場の真ん中に大の字に寝っ転がり、碧空をぼーっと見上げる。
そう言えば、こんな風に空を見るのは久しぶりだった。最近は空をこのように見上げることはなかった。
人間だった頃にはよく見上げたものだった。
「あ…」
漸く気づいた。
あの目は、人間の頃の我とよく似ていたのだ。
そう気づくと一気に心の蟠りが一気に解けた。と同時に、ある興味も湧いてきた。
「どうなるか…」
やおら瞬きをすると、勢いをつけて体を起こした。
目の前には無防備に寝ている男の姿があった。
やはり、昔の我とよく似ていた。
そう、我は喰った男を蘇生したのだ。
蘇生方法は秘密だ。人間にも出来なくはないので、悪用されては困るからな。
「………ん」
男は、体を起こして周りを見回していた。上にいる我のことには気付いていないようだった。
「…起きたか」
上から唐突に話しかける。
男はぱっと上を向いて我の姿を見るなり、目が揺れ動いて少しからだが震えていた。
きっと、またもう一度見る我の姿に恐怖を感じているのだろう、そう思うと自然に唾液が分泌される。また、喰いたくなってきた。
「なんで…」
男の体はわなわなと小刻みに震えている、食欲をそそるような動きだ。
そんな獲物を逃がすのは少し惜しいような気がしてしまった。
「……ちょっと試してみたいことがあるのだ」
だが、久しぶりに現れた興味というものを捨てるのはさらに惜しい気がした。
と考えているうちに、いつの間にか視線は左に逸れていた。それに気付いて視線を戻すと、我の爪を男の首にあてがった。
「ひいっ…!」
相変わらず旨そうな反応である。我もこのように見られていたのだろう、あの竜に…
そう思っていると、突然男が暴れ出した。我はぐっと力を込めて男を握り、
「動いたら死ぬぞ」
つい、いつもの加虐体質が出てしまった。こんな事を言うつもりではなかったし、殺すつもりも更々無かったのだが。
かと言って嘘を言ったわけではないが。
それを分かってか、男は暴れるのを止め、すっかり気力を失ってうなだれていた。
「ククッ 安心せい、取り敢えず服を破るぞ。」
「え…え!?」
男が戸惑っている中、爪を首筋から腹へ向かって下ろしていくと、鋭い爪によって服がビリビリと音を立てて引きちぎれていく。
体を強く握っているため抵抗も無駄だが、服を脱がさせまいと暴れていた。
「ち、ちょっと待て!」
「ククッ 安心せいと言っただろう。」
男はすっかり服も破られ、上半身裸の姿になって惨めな顔をしている。
握る手を緩めると、その男はへなへなと地面に崩れ落ちた。
さてと、始めるとするか。
そう心の中で呟くと、おもむろに左手で右腕の鱗を一枚、めくり取った。
「な、何をする気だ…!」
「じきに分かる。悪いようにはせぬぞ。」
と言うと、その鱗を男の胸に丁重に張り付けた。男は張り付いた赤く透けた鱗を、まじまじと見つめていた。
その鱗の上に右手の爪をあてがい、そのままぐいと皮膚の中に押した。
鱗は皮膚に溶け込むように馴染み、そしてそのまま消えていく。
その一部始終を見ていた男は、目を見開いて鱗の溶け込んだ体を見つめていた。
「さて、我の唾液を飲め。」
じっと体を見つめていた男ははっと我の方を見上げ、我に恐る恐る訊ねた。
「何をする気…?
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