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SPEC−甲〜召の回−
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捜査一課が到着し、鑑識による現場検証と、所持品検査・事情聴取が始まった。会場の床や壁が、徹底的に調べ上げていく。
「君がいながら、こんなことになるとはな」
瀬文から事件の内容を聞いた捜査一課課長の鹿浜は、渋面に皮肉を混ぜて言った。
「申し訳ありません」
「まあ、未詳だから仕方ねえか。あとは我々がやる。手伝いは構わんが、くれぐれも邪魔せんように」
そこへ、管理官の馬場が現れた。野々村を見るなり、
「ご苦労様です」
と嫌みたっぷりに敬礼する。
「これは、馬場管理官。いや、何とも面目ない」
野々村は頭を掻いた。息子ほどの年齢でも、相手はエリート管理官である。
「やれやれって感じっすよ」
馬場を自ら迎えながら、鹿浜が聞こえよがしに言った。腰ぎんちゃくの若手刑事・猪俣が
「鹿浜さん」
と諫めるフリで笑っている。
瀬文は吐き気がした。どいつもこいつも人を見下すのが好きな連中だ。
「事件の概要は聞きました」
馬場が言うと、野々村は何を思ったか、意気揚々と胸を張った。
「ま、冷泉という霊能力者の予言通りの毒殺事件が起きてしまったわけですが、僭越ながら、私は犯人わかっちゃいました」
野々村の推理はこうだ。
「あの時、五木谷氏の杯に勝ち酒を注ぎ、手渡したのは、幹事長の秘書・上野氏です。従って上野氏が勝ち酒を注ぐとき、服の袖口から毒をたらして、いれた...」
口調も妙に芝居がかっている。
「は」「ん」「に」「ん」「は」
「お前だ!!」
野々村はビシッと上野秘書を指した。
「何ですって?」
「多少のマジックの心得があれば、可能なはずです。袖口にスポイトのようなものを隠し持っているはず!」
「なるほど、さすがゴリさん」
鹿浜の合図で捜査一課たちがいっせいに上野を取り囲み、調べ始めた。
「んなものあるわけがない。第一、何で私が五木谷さんを殺さなきゃならないんだ。バカバカしい。そんなことより、幹事長は次の会合に出る約束があるんですよ!!」
「逃げるつもりか!!そうは問屋がおろさねーぞ」
ますます調子づいて、野々村は大見得を切った。
「見つかりませんね」
馬場が言った。
「スポイトではなく袖口のそもそも浸しておいた毒物を絞りだし...」
野々村がしつこく推理を展開していると、馬場の携帯が鳴った。
電話に出たエリート管理官の顔色が、みるみる変わっていく。
携帯を切ると、幹事長と上野秘書の前に行き、神妙に頭を下げた。
「・・・大変申し訳ありません。五木谷さんの死因は、ただの心臓麻痺とわかりました」
「え...!」
「幹事長、ご協力ありがとうございました。貴重なお時間を頂き、申し訳ありませんでした」
「殺人じゃなかったんですか?」
上野が声を上げると、客たちにどよめきが走った。言うまでもなく、一番驚いたのは野々村であろう。
「申し訳ありませんでした」
小さくなっている野々村を、上野秘書がねめつけた。
「謝ってすむ話か。クビを洗ってまってろよ。退職金は、ねーからよ」
「はー」
芝居っ気が抜けないのか、野々村はその場にひれ伏した。
「・・・・・・」
意外な形で事件は終わった。いや、事件ですらない。当麻と瀬文は、言葉もなかった。
<2012/04/28 00:06 mt>
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