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豪雨の夜に − 旧・小説投稿所A

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豪雨の夜に

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ヌチャリと唾液の水音を響かせて、舌が動き、僕を弄ぶ。
ヌチュ・・ヌチュ・・・グチャッ
グニュッ・・・グチュ・・ニチュッ・・・
「う・・はっ・・・うふっ・・・」
薬草を取るだけだったので防具は着ていなかった。
服が粘っこい唾液をすぐに吸って、ねばねばになり重くなる。
服が体が、口内と同じ獣特有の生臭さを放っている。
「っ・・・う・・わっ・・」
顔も唾液に包まれ、再び唾液をいくらか飲んでしまっていた。ドロッとした唾液が喉に詰まり、呼吸が妨げられる。
そんな僕を舌が高粘性の唾液のたまった下顎にふりおとした。ドチャッと生々しい水音を上げて、唾液風呂に首まで一瞬で浸かってしまった。
自力で這い上がろうにも、鉱物の悪影響で体は麻痺し、上手く動かない。
体は粘つき、生暖かさが直に体に伝わる。
グチュチュ・・・グググ・・
「っう・・・は・・・っ・・」
その上から舌が腹部を中心に強く押さえつけてきた。
虫の息に近い呼吸が・・・止まる。
「かぁ・・っ・・・や・・・やめ・・・てぇ・・」
声を絞り出す。だか、それはとても小さく人間でさえ多分聞き取れないほどだった。
「っ!げほっ!がはっ!う・・えぇっ・・・」
腹部の圧迫が消えると同時に激しく咳き込んだ。
喉に詰まった唾液を吐き出し、大量の生臭く、生暖かいクシャルダオラの吐息を吸って・・・噎せた。
さらなる吐き気を催し、目に涙が浮かんだ。

 * * *

人間を口に引き込んでから数十分もの間、私はただ口をモゴモゴしていただけだった。
この人間は非常に美味だった。私の好奇心を満たすのに十分過ぎていた。どんな鉱物でもこのような上品な甘さの中に後を引く微かな苦みを私に与えてくれるモノはなかった。私はこの幸福をもっと堪能していたかった。
だが、私の欲望でこの人間をこれ以上苦しめるわけにはいかないのだ・・・どうしたものか。
そんな中、舌はさらなる味を欲して、本能で忙しく蠢いている。
口内からあふれた唾液は涎となって、顎から地面に滴っていった。
そして、私は一つの案を思いついた。

ーこの人間を長く味わいたいのなら、傷つける事なく、この人間を丸ごと呑んでしまえばいい。ー

 * * *

グチュッ・・・ニチャァ・・
舌が僕を唾液風呂から拾い上げ、束の間の休息があたえれた。乱れた呼吸をどうにかしようとしていると、突然舌にゆっくり傾斜が付いていく。
「わ・・・あわわ・・・」
唾液まみれで摩擦のない僕の体はズルズルと抵抗できないまま舌をゆっくり下っていく。
落下を止めようと何かを掴もうとしても、掴む物は何もなく落下は止められない。
グチュ・・グチュ・・んぐ・・・んぐっ・・
喉の筋肉が生々しく動き、先に下る唾液が何度も燕下されている。
「うぅ・・・誰か・・た、助けて・・・」
クシャルダオラに言われて覚悟はある程度は決まっていたはずなのに、いざそうなると思うとやはり恐い。
もう、呑まれるしかないと分かっていても救いを求めてしまっていた。
しかし、無情にも、喉の筋肉が僕の足を包んだ。
んぐ・・んぐ・・と僕を喉へと強く呑み込む。
ろくな抵抗もできない僕は簡単に引き込まれ・・・
ゴクリッ・・・
そのまま呑み下されてしまった。

蛇が体を絞め付けるように食道の肉が粘液を纏って、体を蠕動として体を絞めつける。
また、呼吸が妨げられる。さらに喉から唾液が降り、いくらか唾液も飲んでいた。
グジュ・・ニチャァ・・・ジュブッ・・
生々しい水音を上げゆっくりと長い食道を燕下されていく。
クシャルダオラの体内にあとどれだけ酸素があるかは分からない。頭がぼーっとしている。
グチュ・・・ニチャァ・・ドプッ・・・
グジュグジュ・・・ニチュッ・・・ジュルル・・
食道を下る速度が遅くなっているのが分かる。
もうすぐ、この肉洞は終わりそうだ。
グジュルッ・・ドチャッ・・
足が噴門を押し広げ、そこから唾液よりも最悪な、高粘性の胃液の上に落ちた。
・・・クシャルダオラの胃袋に到着した。

 * * *

ゴクリッ・・・
人間を初めて呑み下した。その行為に体が震えた。
いつも冷たい喉に人間の温もりを感じる。
あぁ・・暖かい。
今日は冷たい噛み砕いた鉱物が通る狭い喉を暖かい人間が通っている。とても気持ちよく、幸福だ。
さらに唾液が分泌され口内から溢れた唾液がボタボタと滴り続けている。
「もっと早くに人間を喰らうべきだった・・・こんな美味いモノを味わなかったとは・・・」
体を横に倒し喉の膨らみに手を当てた。
人間が私の喉を生きながらに確かに下っている。
その膨らみを妖しい目で見つめながらさする。
もう、約束などどうしたものか・・・
膨らみ、人間が食道を下りきり・・・
「あぁ・・・」
胃袋に落ち込み、腹を膨らませると体がまた震える。
満足感に満たされ、気分が高揚し頬がほんのり赤くなった。
「人間・・・なんと美味い食い物よ・・・」
腹の膨らみを妖しい手つきで愛しそうにまさぐっていた。

 * * * 

クシャルダオラの胃袋は鉱物を溶かすため超強力な胃酸が分泌、そのために刺激臭がきつく、鉱物と相まってガスが胃袋内に充満していた。
すぐに意識がぼやけ始める。さらに温度も高い。さらに湿度も高い。もはや、サウナ状態だ。
汗がドッと分泌され、喉が乾く。
(もう・・・溶かされてもいいから・・・早く・・楽に・・なり・・た・・・)
次の一瞬で・・・意識は飛んだ。


<2011/05/13 22:44 セイル>消しゴム
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