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【保】六道を弄る蛇 前 − 旧・小説投稿所A

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【保】六道を弄る蛇 前

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日が地平線に沈む頃、アーボックは頭を抱えていた。
普段こうして寝ているし、お裾分けをもらっているからこうして生きていられる。
しかし、群れが移動する時みたいに大規模な場合、体力も大幅に消費する為、狩りに参加する事はやむを得なかった。
今程に住み心地の良い場所じゃなかった時は屠る事は無くても動物を誘き寄せていたっけ。
こうして仲間に守られ、安心して寝ていられるのも群れが移動しないおかげだという事に改めて気付く。
「俺達がいるからこそ、そういった事ができるんだ」
癪だった。段々あいつの言うとおりになるのというのが。。。悔しかった。
しかしどうすればいいものか。何処で何を食べればいいのか、
新鮮な死体が転がって入ればそれを食べればいいがそんな都合のいい事が常時あるわけではなし、
もしも気が動転してパチリスを…駄目だ駄目だ、それだけは絶対に駄目だ、何があろうとも。
もし、そんな事を思ったら尻尾を食えばいい、自分を食べればそれで誰も傷つかないで済む。
それだ、それでいこう、今まで食べてしまったポケモンへの贖罪(しょくざい)の意味も込めればそれでいける…
『(おおよそ5日あれば峠を乗り越えて山まで辿り着けるな、…頑張ってみるか)』
考えて考え尽くして都合のいい結論が出たので結局、アーボックはうとうととその場で寝てしまった。

月光が雲に隠れて森が闇に飲み込まれる頃、二匹は一本桜の丘の上でまた出逢った。
『あれ、食べ物とかの準備は大丈夫?』
何も持たずに来て疑問を感じるのは当然の事だ。
しかし、心配するパチリス何とか安心させようと思って出た言葉はとんでもない嘘だった。
『俺は腹持ちがいいんだ、水だけで10日は持つ。俺の心配するより自分の心配しろ。…で、どうするんだ?』
『んー、とりあえず山のフモトまで行ってみようよ。そこからまた食べ物の事とか考えるからさ』

一日目、寝る訓練をしてたお蔭で取り敢えず難なく過ごせた。この調子で行きたい。
二日目、少し腹が減る、まだ我慢は出来る。川の畔で水を大量に飲む。
三日目、空腹は更に肉体と精神の疲労を増加させる。心配したパチリスが木の実をくれたが案の定食べれず。
四日目、予定の日より早く山の麓に到着、しかし精神が破綻したのか『傍の物を食え』という悪魔の囁きが聞こえた。
五日目、希望を膨らませて5合目まで到着、我慢が出来ず傍で斃れてた死体をパチリスの目を盗んで貪る。
六日目、8合目まで到着、しかし昨日の肉が原因か具合は極めて悪く、失神、幻覚、妄想、幻聴を経験。肉体、精神と共に限界か。
七日目

 9合目と半分付近。あと少し。あと少し。ここを乗り越えれば楽園が有る…その一心でここまで来たんだ…
『…ねぇ、体大丈夫?何か凄く辛そうだよ…?』
『平気だ…。早く登ろう…楽園はもうすぐだ…』
『…僕知っているよ、君が何にも食べてないの』
『ああ?ああ…』
『水だけだと生きていけないよ、もう少しなのに君が死んじゃったらどうしようもないじゃないか!!』

意識が朦朧とする中でパチリスがこの山の事で言っていたある一節を思い出した。
「この山を乗り越えると自分の大切なものを失う」
もう体力も限界だ、何時死んでもおかしくない…もしかして、パチリスの一番大切なものは…!


ドガァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーン!
何かを考え付いたその時、一筋の雷が閉じた瞼に閃光を撒き散らした。
耳を劈くような轟音が瞬時に辺りから広がっていき五臓六腑共々揺れ動かす。
少し間をおいて薄呆けた目で見回すとそこには音に驚いて硬直しているパチリス。
そんな一時の静寂の後、地震と共に低く崩れるような音が次第に大きくなるのが聞こえた。
『(この音は…何だ…さっきの雷とは違う…)』
コロコロ…カラカラ…頭に数粒の小さな石が当たったのは束の間、
その先を見ると無数の岩がこっちへと落ちてくるのが薄呆けた目でもはっきりと見えた。
『パチリス!しっかり捕まってろ!あの洞窟へ一目散へ走るぞ!』
パチリスを尻尾に絡めて最後の力を振り絞って目の前の洞窟へ走る。
一刻でも安全なところへ…!!パチリスの生死など忘れて走る事で精一杯だった。
あぁ!頭が入ったがこのまま間に合わないのかもしれない!尻尾を頭へとズドドドド…
ガラガラガラ!!ドドドドォーーーーーーン!!!!コロコロ…パ…パラパラ…

…。何とか間に合ったのか…?
視界は真っ暗だった、怪我をしたのか尻尾の辺りが痛い。
洞窟に閉じ込められたみたいだが何とか自分は生きているようだ。
それを確信するように土の臭いもするし血の味もする。
声も聞こえた。嗚咽を漏らす泣き声だった。
痛覚を感じている方を見ると想定していた通りの声の主だった。
尻尾と一緒に岩に埋まっているパチリスの姿が。
『パ…!パチリス!大丈夫か!!』
『ひっく…シッポが挟まって動けないよ…どうしよう…』
『しっかりしろ!今岩を砕いてやる!!』
あの時最後の気力はもう使い果たしたし、怪我をした尻尾を動かす力などもう何処にも無かった。頭突きの音が虚しく洞窟内を木霊する。
『シッポを取ったらもう僕は生きられないよ…どうしよう…』
『…、(何か案は無いのか…どうすれば助けられるんだ、)』
『ねぇ、お願い…僕を食べて!!』
『な…!何を言うんだ!ふざけるな!意識半分失ってここまで来たのに仲間を食えだと!?い…いい加減にしろ!!』
『でもそうしないとアーボックも…死んじゃうよ?アーボックだけでも』
『俺だけでも生きろっていうのか!?ここまでしておいて俺だけでもっていうのか…!!』
『あの時みたいに大きな口を開けて食べてよ。お願い…僕からの最後のお願いだよ』
『くそっ………………何で………』
『…?アーボック?聞いてるの?僕を』
『シャァァァァ―――――!!!!』
今、まさにアーボックの目が狩をする時と同じ色に変わった。
あの耳にこびり付いて離れなかったライチュウの悲鳴を聞く前と同じ、
ピカチュウを悠々と飲み込んでた普段と変わらなかった肉食動物の眸の輝きへと。

パチリスの頭上に今まで溜め込んだと言わんばかりの粘り気の有る唾液が滴り落ちる。
既にパチリスは恍惚に浸るかのように瞳を潤わせながらも既に覚悟を決めていた。
あの時と同じ様に、長い舌で顔の頬から耳奥まで舐め回した後、
飲み込みやすいようにと今度は体全体を湿らせる。
それが終ると顔を近づけて開く限りの大きな口をパチリスの目元で見せた。
咫尺で刮目しているパチリスを沈めるように口腔がゆっくりと覆い被せる。
頭が入り込んだと感じたら後は気の向く儘に飲み込むだけだった。
舌と咽喉を動かす度にパチリスの全身が包み込まれていく。
もうそろそろいける。自分の尻尾毎噛み千切り頭を上に向ける。すると、
重力に従ってアーボックの中へ吸い込まれるかのように飲み込まれていった。
アーボックの中はとても暖かかった。最期に感じたパチリスの五感はそれだったのかもしれない。
目の前に広がる闇とは裏腹に周りから感じる生命本来の鼓動と暖かさと蠕動運動。
命の灯火が消えようというのにも暖かみさへあれば安心していられた。
普通ならば酸による激痛が身を襲うにも恍惚により意識が朦朧としてたせいか痛みなど感じられず、
薄れ行く意識の中で後はただただ胃の温もりと運動に身を任せるだけ。

楽園だったのかもしれない。


あれからどれだけ過ぎたのか。
目を開けるとパチリスの姿が何処にも無い。
慌てて、辺りを探して動こうとしたがいつもより大きく膨らんだ自分の腹に気付く。
やっと「自分が一番してはいけない事」をした事に気が付いた。
『お、俺は…!パチリスを…!!嘘だ!そんな事してないっ!!』
理性とは違って満足そうに消化の音を出す自分の腹。食欲を満たして確実に喜びの音を上げている。
『嘘だっ!これはパチリスじゃない!…!もしかしてパチリスの一番大切なものって自分の…!』
はっと洞窟の後ろから光が差し込んでいるのに気付いて振り返ると、
そこには一筋の美しい七色の輝きを放つ光が差し込んでいた。
今までに見た事も無い程鮮やかに彩る光を見てアーボックは暫し心を奪われていたが、
心の中でずっとずっと思っていた事がやっと目の前にある事に気付く。

楽園の地だ。
『やっと…やっと来たんだ!楽園の地に!全ての生命が共存できる地にやってきたんだ!!』
光の元へと無意識のうちに体を運ばれて岩の隙間から射すその先にそっと踏み入れた。
艶やかまでに煌くその輝きに視力を一時奪われつつも
岩の隙間から射す光の中で見たものとは…


地の獄 是より


アーボックの目に映ったのは楽園かどうかはわからない。
だが、目に映ったのは茫漠と広がる自分達が住んでいた森の全景だった。
肉食動物が食べれる木の実など何処にも無い、一歩先は崖で踏み込んだら終わりの地。
あるのは風が運ぶ朝食の為に狩られる弱者の断末魔と助けを乞う悲鳴だけ。
『これが…楽園…パチリスがいっていた木の実はドコ…?何処にあるんだあぁぁ×××××!!!!
 もしこれが楽園とするならば、俺がいつも思っていた事は一体、何の価値があったというのか!!
 犠牲を出してまで守り貫いてきたものの意味は…!俺は…!何を守っていたんだ!!うあぁぁ××××!!!!!』
叫んでも決して凪ぐ事は無い憤りと遣る瀬無さ。更に叫ぶしかなかった。
『こんな世の中なのだから、こんな世界なのだから!!
 俺たち肉食が弱者などの叫びなど顧みず血肉を貪り、当然と跳梁跋扈している世の中なのだから!!
 偽りの矜持と思想を持った修羅と畜生の出来損ないが!!
 そのような者が一匹居た処で世が伏すなど一時も在らずしても尚の事其れを願う増上慢よ!!
 況してや己の宿命を変えるなど生に於いて凋落の至極!!他を夢見させる狂言をほざいて何を得た!!
 我は思う!!このような者の為に犠牲を蒙り攪乱した者の為にも今は只管生きねば成らぬ事を!!』


―後日談―
とある噂話がいろんな群の間で流れている。
普通ならば群れで行動するはずのポケモンが一匹で辺りを彷徨いているそうだ。
それも雪が降るこの頃にだ。冬眠の支度をするはずで忙しい筈なのにおかしい話だろ。
それだけでも訝しいのに見えるだろ?あの丘の上の一本桜の下に来て一つ二つと石を積んでいるらしい。
何故そんな事を?何の為に?もっと詳しい事を聴きたい?
実は俺もその話の続きは知らないんだよ。詳しく聞きたかったがその当本人が行方不明ときた。
…その話の先を知りたいだって?だったら直接見に行けばいいじゃないか。
でも命を捨てる覚悟でいきなよ。好奇心を満たす為にしているんじゃないんだからさ。
大袈裟すぎる?いやいや必ずしも嘘ではないよ。
その光景を目にしたら最後、みんな飲み込まれてしまうんだから。

『このようにな』



続く


<2011/05/24 20:41 ごげ>消しゴム
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