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暗闇の中の光 − 旧・小説投稿所A

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暗闇の中の光

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ザァーと強く降りしきる冷たい雨が僕の疲弊し切った体に容赦なく襲いかかってくる。
お兄ちゃんとも森の中ではぐれ辺りも薄暗い中ただ一人で歩いていた。
空腹と怪我により体力ものこり僅かだ。
もし、お兄ちゃんに会うことが出来なければ僕の一生はここで終わる・・・
「お兄・・ちゃん・・・どこ・・?」
そんな体で喉からかろうじてでた声はか弱く、小さなものだった。
せめて、雨宿り出来るところだけでも・・と言う想いだけが、今にでも折れてしまいそうな足を支える。
と、ちょうどその時、まるで僕を待っていたかのように洞穴が僕の目の前に現れた。
かなり疲弊しきった体では、そこまでの思考能力は働かなかった。
ただ単に山に出来た穴だと思っていた。しかし、その洞穴はまだ先に続いている。
あろうことかその奥へと僕は進んでいた。
「うわぁ・・綺麗・・」
開けた大きな広場とでもいうべきか、体の大きな者でも楽々すごせるほどの空間で、天井にある水晶が光を反射して空間全体が明るい。
「誰じゃ・・・お主は・・」
声が飛んできた。低く重い明らかな敵対意識を持った声。「あ・・・あ・・あ・・」
そんな・・あれだけお兄ちゃんに“行っちゃ駄目だよ?”って言われたのに・・この空間にいたのは通常よりも一回りほど大きい“キュウコン”だった。ピチューである僕はその足下にも及ばない小ささであった。
「・・ここへ何用じゃ・・お主・・」
「あ、あの・・そ、その・・う、うわあぁ!!」
ただじっと見据えられているだけだった。紅い瞳に。
かつて感じたことのない恐怖に体が震え、遂には疲れていることも忘れ、身を翻しそこから逃げ出していた。
「どこへ逃げる?逃げる必要はないじゃろう?」
「!? っうっ・・」
何かに足を引っかけられ派手に出口付近で転倒した。
そして、すぐ上にキュウコンの気配を感じ体を反転させて顔をあげた。
「もう一度問う・・お主・・ここへ何用じゃ・・」
「こ、ここではぐれたお兄ちゃんを・・待とうと・・」
「それなら、何故逃げたのじゃ?こんな雨じゃ、外で待つこともなかろうて。」
「そ、それは・・その・・」
駄目だ・・言葉がうまく見つからないし、何を言ったところで簡単に返されてされそうだ。何も答えずに口ごもっていると・・
「お主・・暴れるでないぞ・?」と、口を開いて、首を伸ばしてきた。「うわああぁ!」食べられると思い身を固めた。が、キュウコンは僕の肩を優しく咥えると、僕を体の方へと寄せその上に九本の尾を重ねてくれた。
「お主・・疲れておるんじゃろ?ゆっくり私の体で休むがよい」
「え・・あ・・うん。」
よく見ると、空間の隅や様々な所、キュウコンの近くで眠っている子ポケモンがいることを確認する前に僕は眠っていた。
  * * *

朝、目がさめると僕は壁にもたれかかって眠っていた。
「・・う、う〜ん・・あ、あれ・・?」
どこを見渡してもキュウコンが見つからない。
「あれ・・どこ行ったのかな・・・?」
まだ重い体を起こし、出口から外を覗く。
「起きておったのか・・お主・・」
「えっ・・あ・・うん・・」
振り向くと、先程までいなかったはずのキュウコンが座っていた。
疑問と驚きの混じった小さな声を返した。
キュウコンの口元は紅いシミで汚れていた。
「私は汚れを洗ってくる・・ちいとばかし待っててくれんかの?」
その大きな前脚で僕の頭をポンと叩くと洞穴を出ていく。
「今日も大雨じゃ。決して出るなよ・・風邪を引くぞ。」
「・・うん。」
優しげなその声に返事を返し、それを見送った。
「よいしょ・・あれ?」
まだ、調子の悪さに気付いた僕は近くの壁にもたれて腰を降ろした時、視界に洞穴の所々で横になっているポケモンを見つけた。まだ生まれたばかりの小さいポケモン。
みんな僕みたいに兄弟や姉妹、母親を待っているのだろうか?
「なんで・・みんなここにいるんだろ?」
「教えて欲しいのかの?・・お主。」
「わあっ!? そ、その・・あの・・」
それと同時に思った。確かに口の汚れは綺麗に洗ってあったが、あの大雨のはずなのに毛並みはどこも濡れていなかった。
「皆、お主のような身内を待っておる者じゃ・・大雨や大型の奴らにでも襲われでもしたならば、死んでしまうじゃろ?だからな、護っておるのじゃよ。」
確かにそうだった。現に自分もキュウコンに保護されなければ洞穴の外で死んでいるところであろう。
「そ、そうですか・・あ・・あの・・」
「何も言わなくとも良い。まだ体が悪いようじゃの・・もう一度休むが良い。うむ、それが良いぞ。」
「うん・・分かった。」
ファサ・・と再び僕の体に重ねられたキュウコンの尻尾。
暖かく優しい。まるで何時も一緒にいた兄のように。
 * * *
ゴンッ・・・ガチン。
「うん・・ん・・」
「ち・・お主・・起きたのか・・」
目覚める僕の耳に入った声はあの優しいキュウコンの声では無かった。
それと同時に何かが噛み合う音。鋭くも鈍い音。
「大人しくしておれ。でなければ痛いぞ。」
「うわあああっ!!」
最初出会った時と同じ恐怖が蘇り、僕の体を支配した。
キュウコンの口元にはまた紅いシミ。寝る前は確かにいたはずの子ポケモンは消えていた。
「逃げるか・・なら・・まずその小さな尻尾から喰い千切ってくれよう・・」
何故、この時出口から逃げようとは思わなかったのだろうか?巨体故の弱点。足下をくぐって反対側へと逃げてしまっていた。
激しく身を翻す時の風圧で吹き飛ばされ、壁に激突した。
「あうっ・」
「痛いか?痛いじゃろうな。私の言うことを聞かぬからな。大人しくしていれば痛いのは最後だけで済んだのというのにな・・」
「ううっ・・ほ・他の子・・達は・・どこ・・?」
ズキズキと痛む体を起こしつつもキュウコンに問う。
「お主が眠っている間に帰った・・と言うのは生ぬるい話じゃの・・・ここにいた餌は全て私の腹の中じゃ・・・お主を除いての・・」
「え・・護るって・・」
「表向きはの・・阿呆。私が喰うつもりじゃったからのう・・」
「う・・うう・・嫌だ・・嫌だよ・・」
壁を伝い矮小な抵抗をした。その時“生きたい”と言う望みが繋がった。壁がフッ・・と消え更なる通路が現れたのだ。
「うっ・・お兄・・ちゃんに・・お兄ちゃんに会うまでは・・」
そこを壁を伝って奥へと進む。簡単に喰らい付かれてしまいそうなぐらい遅くとも。
「ふふ・・そちらに逃げるか・・・良い良い・・逃げるが良い・・」
決してピチューに食らい付こうとはせず、ジリジリと距離を詰めながら小さく笑っている。
 * * * 
「はぁ・・はぁ・・はぁ・・」
息が上がる。まだ成長していない体へ先程のダメージは大きい。視界は霞み、体は鉛のようにどんどん重くなる。
すぐ背後にキュウコンの気配も感じる。息づかいさえも。
何故、襲いかかってこないのかは分からない。
ガッ・・ドタッ・・
「うっ!! こ、これは・・骨!?」
足に何かが引っかかりそこへ転ぶ。引っかかった物をよく見れば小さな骨。周りにも沢山あった。山積みにできるほど。黒ずんだ所も・・まだ新しい血も・・まさか・・
「ふふ・・ようこそ、私の食事場へ。」
この時を待っていたかのようにキュウコンは襲いかかってきた。
転んで倒れたままの僕に前脚を乗せた。
「安心するが良いぞ・・すぐ兄にも逢わせてやるからの・」
アグッと生々しい音と共に尻尾がキュウコンの口の中に収められた。
「ふぇ・・や、嫌だ・・嫌だ・・」
生暖かい唾液とザラザラの舌が僕の尻尾に不快感を擦り付け、情けない声を上げてしまう。
「良い・・良いぞ・・子供はやはり良い味じゃ・・今までは一口でいってしまったからの・・じっくり味わわせてもらうからの・・」
体を一舐めされると、再び尻尾が舐められる。
「ううっ・・ふぇっ・・お、お兄ぃちゃ・・ん・・・助・・・けて・・」
きっと誰も来ない。助けなどこないはずと分かっていてもそう叫ばずにはいられなかった。
「ピチューを離せっ!!」
ジジッ!!ピシュッ!!
決して忘れる事のない声と共にキュウコンの頬に電撃が掠めた。
「お、お兄ぃちゃん・・・」
「ピチュー大丈夫!?やっぱり・・いくら探してもいないと思った・・お前の仕業だったのか!キュウコン!」
「ふふ・・良くこの大雨の中、ここまで来たものじゃ・」
「何を言っ・・っぐ!?」
キュウコンから注意を切った瞬間、体がふわりと浮き壁へと激突した。
「っくぅ・・じ、“じんつうりき”っ・・」
兄もまた地に伏してしまった。
「お、お兄ぃちゃん! っぐぅ・・」
負傷した兄に寄り添おうと身を捩った時、キュウコンの脚が僕を踏みつけた。
「・・・お主を喰うのは後じゃ・・お主の兄から喰ろうてくれる。」
「お・・お兄ぃ・・ちゃん・・っ・・」
兄の受けたダメージも大きい。その場に伏せて荒い息を続けている。
「・・こなければ良かったじゃろうに・・そうすればお主は喰われずに済んだかも知れぬに・・」
ベロリとキュウコンの舌がピカチュウの血を舐め取る。
「・・っ・・お前・・なんか・・に・・」
「黙れッ!!餌ごときがッ!!」
フォン・・ドガッ!!
「あぐっ・・」
じんつうりきが発動。瀕死寸前まで傷ついた体が天井にぶつけられ、そのまま無造作にボトリと落ちた。
「うぅ・・ピ、ピチュー・・逃げ・・て・・」
「もう抵抗はないようじゃな・・さてと・・」
ペロリと口元を舐め、牙を剥き首を仰け反らせ・・・・
 * * * 
「やめてッ!」
私はまだロコンだった。冷たく重い雨の中、やっとの思いで洞穴に雨宿りできた。食べるものも十分になく、睡眠さえも全く取れていなかった。食べ物を得ようと人間の所へ潜りこんだ挙句、見つかって酷い仕打ちを受け怪我をしていた。そんな中潜り込んだ洞穴の中には空腹のボーマンダが潜んでいた。さらに傷つけられ、追いつめられ、もう駄目だと思った。私を庇うようにマリルが目前へと飛び出してきた。そして猛るボーマンダの一撃を受けてマリルは絶命しボーマンダの糧となってしまった。私の目の前で。
その時、私の体の中で何とも言えない悲しみと怒りが渦巻いていた。残っていた私に爪を振るうボーマンダが確認できた時、私はそいつをグシャグシャにしていた。
その時から私はキュウコンだった。石を用いずに進化した私の体は通常体よりも大きく強く進化していた。
それ以来、私は洞穴に入ってくるポケモン達を言葉巧みに騙し、それらを喰らっていた。理由は分からない。
何故かそれがマリルのためになると思っていた。
 * * * 
「もう・・止めて・・僕は・・食べてもいいから・・お兄ぃちゃん・・だけは・・見逃して・・・お願い・・」
ボロボロの体を必死に支え、私とピカチュウの間に割って入ったピチューは苦しげに言葉を紡ぐ。
その姿は過去を思い出させる事となった。
「・・お主を・・喰らう・・」
「それでも・・いいから・・お兄ちゃん・・だけは・・」
「ピ、ピチュー・・」
「・・・・・・・」
突如、黙り込んだかと思った瞬間、キュウコンは目を閉じた。すると、ピチューとピカチュウの怪我が治っていった。
「・・お主達を見逃す・・その思いに免じてじゃ・・」
「え・・・?」
「早くゆくのじゃ・・私の思いが留まっておるうちにじゃ・・」
「ピチュー・・行くよ・・」
ピカチュウがピチューを背負う。背負われたピチューはキュウコンを見つめ・・・
「・・・ありがとう。」
二匹はキュウコンの元から歩き去っていく。
(・・ありがとう・・か・)
下に俯いた。先程の言葉が耳に残る。
「その言葉を言われたのはいつじゃったかの・・?」
その答えを知りたくて自然と足が前へと進んでいた。
 * * * 
「お兄ちゃん・・」
「どうしたの?」
「キュウコンさん・・悲しそうだった・・」
「?」
小さくぼそり呟くピチューにピカチュウは首を傾げた。
空は・・蒼く綺麗に澄んでいた


<2011/05/13 22:39 セイル>消しゴム
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