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希望への道 − 旧・小説投稿所A

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希望への道

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 虹色の魚は狂ったように旋回をする。

 暗く、出口はどこにも見つからない。ただ自分の泳ぐ音だけが反響するだけ。何も無い世界へ迷い込んだようだ。

 一体ここはどこ? ついさっきまで、悠々と海中を泳いでいたのに。



 出なきゃ、ここから出なきゃ。



 ところが待てど暮らせど出口は開かない。何も変化は起こらない。このままじゃ一生このままかも知れない、そんな不安が心をよぎる。



 一度同じ目に遭って助かった仲間がいたはず。あの子はどうしたのだったか。そうだ、絶対に自分から動かず根気よく待て、だった。

 だけど、とてもそんな余裕があるようには感じない。本当に信じていいのだろうか?



 よし、心の中で1000数えるまでに事態が好転しないなら出口を探してみよう。



 私はそう心に決める。

 1・2・3・・・・・・・・・・





 いくつまで数えただろうか? 分からなくなった。もうずいぶんと長い時間が経った気がする。もうとっくに1000は越えているはずだ。

 だけどどうして? 頭が働かない。これは気のせい?

 そうだ、このままじっとしていてはおかしくなってしまう。逃げよう、自分の力で。探そう、出口を。

 私はまた暗闇の中を泳ぎ出す。



 ふと壁の切れ目に気が付いた。どうやらここは奥へと続いている。出口だ! 助かった!

 私は喜びにむせびながら、その道へと入っていった。

 奥底から湧き上がる温かい水は、私も迎えてくれるのだろうか?





 しばらく泳げば、開けた場所へと出た。

 だけど、周りは真っ暗なままだ。もしかして、世界中真っ暗になってしまったのか。さらに不安はもくもくと湧いてくるばかりだ。

 とにかく、今はこの場所を探ってみようか。私は壁を伝って泳いでいく。





 ところが、すぐに私は異変に気がつく事になる。

 どこか体がムズかゆい。今まで抱いた事のないような不快感を全身が伝えてくる。一体私はどうしてしまったのだろう?

 それはだんだんと焦りへと変わっていく。私は泳ぐスピードを上げた。

 妙に柔らかく、生温かい壁を擦って、私は泳いでいく。

 ムズかゆさはだんだんと強くなっていく、それはやがて痛みへと変わる。

 不快感は恐怖になった。



 これは何なの? どうしたの?



 もちろん答えが帰って来るはずもない。

 ただただ、悪い方向へ事が進んでいくだけ。



 その時、自慢の鱗の一枚がぺろりと剥がれた。

 激痛に、身をよじる。

 ふと他の鱗も至るところで痛み、今にも剥がれそうになっている事に気がつく。

 訳も分からず恐怖に怯えるが、泳ぐことだけは止めない。

 一度止まってしまうと、二度と動けなくなる気がしたからだ。



 ぺら・・・ぺら・・・



 鱗が剥がれる度に、痛みと共に悲しい気持ちが襲いかかる。また、生えてくるよね? そう願わずにはいられなかった。

 そんな私の思いとは裏腹に、無情にも私は鱗を失っていった。

 全ての鱗が無くなった頃、私の体に新たな異変が起こる。

 今度は鱗より下の肉が崩れ始める。

 ここに来て、私はもう甘い考えは捨てた。



 今すぐここから出なきゃ、運命は1つだ。



 ところが、痛みのあまり体はもう思うようには動かない。

 尾びれにも背びれにも胸びれにも、切れ目が入り始めていた。

 もしかしたら、手遅れだったのかも知れない。



 嫌だ、嫌だ。



 私はひたすらに生にしがみつく。



 そうだ。



 私に一筋の希望が舞い降りた。入口に戻ればいいんだ。どうしてこんな簡単な事に気がつかなかったのだろう?

 私は入口を目指して必死に引き返す。

 途中で血が出てきたが、そんな事は関係ない。私は進むしかないんだ。

 小さくなってしまったひれを懸命に動かして、私はつき進む。

 普段ならば我慢の効かないような激痛も気にならない。あるのは生への執念だけだ。





 そしてついに私は入口へとたどり着いた。

 しかし、そこに待ちうけていたのは絶望だった。





 私は泳ぐのを止め、その場に沈む。

 入口はぴしゃりと閉じられ、誰も通り抜ける事はできなくなっていたのだ。

 とっくに全ては終わり、運命は決まっていたのだ。



 全身から血が溢れだす。

 痛みと苦しみだけが私を支配する。

 どれだけ体をよじっても、痛みが増すだけだった。

 私の肉片はぼろぼろと崩れ、水中に霧散していく。

 後はこの世から消えるのを待つだけになった。



 そして私の意識も暗い深海へと沈んでいった。





 虹色の魚は絶望への道を進んでしまった。

 だから、今でも暗闇の中にいる。





昔教養番組で見た”獲物を口に閉じ込めて食道に入るのを待つ魚”から発想を得ました。
<2013/03/07 11:18 ぶちマーブル模様>
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