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草の根かきわけてU − 旧・小説投稿所A

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草の根かきわけてU
− 祭り −
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※グロ表現が含まれます







 「よし、みんな揃いましたね。パーティーを始めましょう!」

 『やほーい!!』

 今俺達がいるのは、この間俺が紹介された時の岩場だ。ボスが大きな岩の上に立ってみんなを盛り上げている。にしてもだ。

 「みんな最初はよそよそしかったけど、本当はずいぶんと無邪気な奴らなんだな」

 「この群れには若い子が多いからね。あなただって」

 けっ、ガキ扱いすんじゃねえよ。



 群れの連中が喜んで喰いつく相手のほとんどが、俺が倒した鹿だ。死体、死体、たまに生きていてもどれも瀕死だ。

 だけど、俺の心には何も起きねぇ。案の定、ただの美味そうな餌にしか見えなかった。ほんの少し前までなら吐き気を催していただろうけどよ、今では勝手に口からよだれが垂れてきやがる。

 みんなも喜んで食事を楽しんでいる。本当に気持ちいいまでの喰いっぷりだな。一匹一匹見ていておもしれえ。

 ボスはまだ生きている獲物にぼそぼそと何か囁いているな。





 僕の目の前には美味しそうな鹿さん。ビンバ君のおかげですね。

 「や・・・だ・・・・・・」

 おや、まだ生きていましたか。まあ、食べる分には何の問題もありませんね。

 「ごめんなさい。僕はもう3日も何も食べていないんです。他の動物から恐れられるオオカミだって、餌が無ければ生きていけませんからね。お肉、ありがたく頂きます」

 「ひいい・・・・・」

 可哀想に涙目になっていますね。よっぽど僕の事が恐ろしいのでしょうか。これから食べられるのですから当然ですかね。僕にとっても心は痛みます。ですから、1つだけ僕は自分にルールを課しています。

 「あなたを苦しませるつもりはありません。すぐに終わらせるので、じっとしておいて下さい」

 もちろん、それでじっとしている獲物はいませんがね。だから、僕は力強く抑えつけます。もっとも、弱った獲物に逃げ出す力など元々ありませんが。

 「大丈夫、痛いのは一瞬だけです。すぐに何も分からなくなります」

 「あぐうっ・・・・・・・・・・」

 喉元にそっと牙を喰い込ませる、それだけの事。すぐに獲物の息は途絶えてしまいます。口の中に広がる温かい血の味が、僕を癒してくれます。





 俺はルウのほうにもちらりと視線をやる。あいつの牙は洒落にならない。前に噛みつかれた時の事は忘れられねえ。完全にトラウマだ。

 「や、やめろ。お願いだから」

 「やーだ。たっぷり遊んでから食べてあげる」

 怖え。すごく怖えよ。なんて趣味が悪いんだ。うわあ、爪を喰い込ませていやがる。痛そうだ。俺には面識が無い鹿だけど、そいつは目を見開いて、そりゃ見てられない形相だ。

 「い、いだ・・・い・・・」

 「これから、もっと痛くしてあげるわ」

 聞かなかった事にしておこう。その横で、俺はもう息の無い獲物を何も考えずに食べる。そのほうが気が楽だ。死体なら大丈夫って辺り、俺もずいぶんとオオカミの考えに染まってるけどよ。





 そろそろ我慢できなくなってきたわね。美味しいお肉、食べましょう。

 「お願いだ。これ以上やられたら死んじまう」

 うるさい獲物ね。楽しいからいいけどね。

 「あら、私はお肉食べたいだけだもん。あなたの事なんて知らないわ」

 「そんなあ」

 私は美味しそうなそのお腹をぺろりと舐めてみる。とっても美味しいわ。これは極上肉に換算していいわね。それにしても、怖がり方がかわいいわね。必死に目をつぶっているわ。



 ペロペロ・・・・・・・



 「うわっ・・・やめ・・・」

 表面だけでもこんなに美味しいんだもの。牙を立ててみれば味がきっと広がるわね。楽しみだわ。



 ジュル・・・・・・・



 今度は、爪で傷つけた後から流れる血をそっとすすってみる。こっちもいいわね。私、草食動物の血の味は昔から好きだったから。ほんのりとした鉄の味、匂い。私を酔わせるには充分だわ。

 「お願いだ。止めてくれ!」

 「止めるとでも思ってるの? じゃあ、そろそろ・・・」

 あのお肉の食感を楽しませてもらおうかしらね。



 私は、牙を見せてその鹿に噛みつこうとする。

 「やめろ、やめろ、やめろ!!!」

 そして柔らかいお腹に思いっきりガブリと噛みついてみた。

 「うわああああああああああああああああああ」

 一気に味が口の中に広がったわ。固すぎず、柔らか過ぎない肉を私は存分に楽しむ。とっても美味しいわね。ちょうど良い肉付きね。

 「がはっ・・・うう・・・痛い・・・・・・」

 獲物が流す涙も私の楽しみの内。塩辛い味をした涙を私はぺろりと舐める。ちょっとしたお口直しね。

 「・・・・・・」

 獲物はもう声も出せなくなっちゃったみたい。もったいないけど、仕方ないわね。

 私はさっき肉を引き千切って穴が空いたお腹に口先をうずめて、もぐもぐと肉を食べ始める。この食べ方が一番いいの。一気に食べられるし、鼻先だけが外に出て呼吸できるからね。

 お腹が満たされていくこの感じ、とっても幸せよ。





 うっわあ。ルウの奴、えげつない事しやがるな。まあ草食動物側からすりゃ、どんな喰い方だろうと何も変わらないんだけどよ。

 俺はあんな死に方だけはしたくねえな。あれ? したんだっけか?

 そんな事を考えつつ、俺も獲物を口へ運ぶ。さすがに鹿は気持ち悪いから、誰かがついでに取ってきた小鳥たちだ。といっても、さっき無理やり喰ってみろって一切れだけ鹿肉を口に入れられたけどな。

 ごくん・・・とそのまま飲み込む。元鹿の俺には抵抗感がある行為だが、オオカミは大して噛まなくても問題ないってルウから聞いたから多分大丈夫だろう。目の前で苦しまないだけ、罪悪感が薄れるからよ。

 「ぴい」

 「んっ!」

 ちっ息のないやつを選んで食べてたのに、まだ動けた獲物がいたのか。もう飲み込んじまったよ。またあの腹の中でもぞもぞと動く嫌な感覚が待っているのか。うぅ・・・・・





 すぐに、胃壁の内側をばんばんと叩く感触を味わう。これだけは好きになれねえ。死にたくない、その思いが肉体に直接伝わるからだ。

 だんだんと力が強くなっていく。俺の腹がこぽこぽと小さな音を立てている。きっと今この瞬間に胃液で苦しんでいるんだろうな。生きたまま溶かされるのがどれほど苦しい事か、俺は想像したくねえ。背筋がぞくっとふるえる。

 何より、その恐怖を与えているのが俺自身だという事に。

 だけど、体は満たされていると伝えてくる。獲物を食べると、全身から力がみなぎってくる。こうしてまた本物のオオカミに一歩近づいて行くんだ。

 そろそろ動きも鈍くなってきた。もう終わりだな。今、俺の腹の中で1つの命が消えるんだ。家族や友人は悲しむかな。死んじまったら、今までつちかってきた物が全部消えるんだよな。だけど、罪悪感はもう感じられなくなり始めてんだ。





 「いやー今日は豪勢だったすねー」

 「この日のために生まれてきたって感じね」

 しかしよく喰うなぁこいつら。俺も腹がきつくなるまで喰ったのに、みんなその倍くらいの量をたいらげやがった。小柄なボスですら、鹿丸々一匹だ。ここまでくると気持ちいくらいだぜ。

 なんだかんだで俺も満腹になるのは幸せだ。それが生物の本能ってもんだろ?

 きっと俺の中には2匹の俺がいるんだ。鹿としての俺と、オオカミとしての俺が。



 「ルンバくう〜ん。また、私のためにたくさん狩ってきてね」

 「ちょっとあんた。私たちのため、でしょう?」

 へへっ、俺人気者かも。悪い気はしねえな。そうだ、やっぱり俺は仲間と一緒にいる時が一番楽しいんだ。もう、悲しい夜はごめんだぜ。





 今日は満月、俺達は月に向かって遠吠えをする。オオカミの宴だ。

 俺は月が好きだ。とっても、満ち足りた顔をしてやがる。





捕食3つ。書いている側も楽しいです。
ルンバ君がオオカミの群れの一員になったところで、今回はここまで。
次回作は物語の根幹に迫るお話の予定です。
<2013/02/20 00:18 ぶちマーブル模様>
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