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SPEC−甲〜召の回− − 旧・小説投稿所A

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SPEC−甲〜召の回−

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深夜のパーティー会場はひっそりしていた。人影はない。
念のため周囲見渡した。
と見渡した瞬間、男は飛び上がりそうになった。

「どうしたんですか。脇さん」
手前の壁に、当麻がもたれて座っている。
「もうすぐ、ここに犯人がやってくるはずなので待ってたんですよ」
当麻が腰をあげ、にやりとする

「犯人!?まだそんな事言ってるんですか。五木谷先生は心臓麻痺です。いいかげんにしてください」

「いやいや、毒殺です。ガチで毒殺です」

「だって、毒はみつからなかったんですよね」

「毒物は見つからなかったんすけど...カリウムって知ってます?人間の体には必ず含まれている成分なんですけどぉ、一気に投与されると心臓麻痺を起こして死んじゃうんです」

「投与!?じゃあ管幹事長の勝ち酒に入っていたとでも?」

「脇さん。あなた、私たちを見事に罠にはめましたねぇ」

「罠?人聞きのわるい」

「これ以上言わせますか。なら言いましょう。覚えてますか。ここで打ち合わせした時のこと」

冷泉の予言が毒殺であることを当麻が告げたとき、脇は言った。
『となると、飲み物と食べ物に、入念なチェックが必要ですね』
その言葉こそが、罠だったのだ。

「チッ。マヌケだよなぁ。毒殺って食べ物か飲み物だって、まんまと思わされてしまったんだもん。脇さんにさ」

「どういう意味ですか?」

「どうしても聞きたいんですねぇ。仕方ない。だって毒殺って言ったら、食べ物だけじゃないですもんね。ハチとかサソリとかヘビとか...。今回は注射ですけどね」

「注射!?待ってください。あのパーティーの真っ最中に、僕が五木谷先生に注射を打ったってことですか?ありえない」

「マジシャンは、すごい数のお客相手に堂々とトリックをかましてますよ。お客を別のところに引きつけたりして」

「・・・・・・」

「あのパーティーでも、全員がある一点を注目していた瞬間があったじゃないすか」
野々村が、脇から受け取った杯を飲み干したときだ。
「ちなみに」
と当麻は注射器を取り出す。
「これ、野々村係長の使っている注射器なんですが、この針すごくないすか。髪の毛より細い注射針で、素人が打っても痛みを殆ど感じないスグレものなんすよ」

「・・・・・・」

「念のため、五木谷さんの遺体を調べ直してもらったら、背中のど真ん中に赤い斑点のようなものが見つかったんですよ。まだ聞きたいですか?」

「・・・面白い推理ですが素人の僕にはそんな真似はできませんよ。カリウムだの注射器だの、いいかげんにして下さい」

「すっとぼけないで下さいよ。脇先生。てかあなた政治家狙うより前に既に先生だったんですよねぇ」
パーティーの下見中に女性係員から
「脇先生」
と呼ばれたことを、よもや忘れたとは言わせない。
「あれ単なる言い間違いか、お世辞かと思ってたんですけど...」

「言い間違いでしょう」

「脇さん、あなた以前、お医者さんとか医学生やられてましたね?つまり、あの女性はその時の患者でしたね」

「ちょっとは反論してみましょうか。その推理には重大な欠点がある。僕が使ったはずの注射器ってのは、どこにあるんですか?」
脇はすっかり居直っている。
「この部屋中、探したんでしょ?でも注射器どころか、毒もカリウムも見つかってない」

「そうなんです。ドサクサにまぎれて、どこかに捨てられてしまっちゃったら、終わりですもんね」

「ええ」

「でも、もしこの部屋に残してあったら、真犯人は必ずこの部屋に戻ってくるって、あたし思ってました。だってこの部屋に隠してある注射器を始末して完全犯罪を成し遂げちゃったら、この後、冷泉さんが2億円欲しさにあなたを脅したとしても、2億円払わなくてもすみますからね」

「・・・・・・」

「脇さんがここに来たってことは、やっぱりこの部屋にまだ証拠が残ってるんですねぇ。ククク」

「私はたまたま、ここに来ただけですよ。バカバカしい話につきあってられません。失礼します」
踵を返そうとした脇の前に、当麻が立ちはだかった。

「あなたの指紋つきの注射器、この部屋のどこに隠してあるか、当てましょうか。聞きたい?聞きたい?」
言いたいのだ。
「私たちが唯一探していない場所...すなわち......このパーティー会場の......」
と、人差し指で上を指差す。
「天井!!」


<2012/05/01 21:47 mt>消しゴム
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