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Life line ~繋がれるる命~ − 旧・小説投稿所A
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Life line ~繋がれるる命~

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その日……俺は全てを失ったー
一瞬の油断が生んだ不慮の事故。
急患で夜の病院に運搬され、九死に一生を得た。
自分の両腕を代償に。
音、人、生気に満ちあふれた生の世界≠ゥら、
無機質で命のないー
生気のない死の世界≠ノ放り込まれた。
生≠ニ死=B
表裏一体のその世界は常に変動しているー
その現実を容易に突き付けられたのを
俺は知る事しか出来なかった。
日常が染み込んだベッドは、
汚れを知らない……
幾多の絶望を吸収した病床に早変り。
嗅ぎ慣れた匂いも薬品の死≠フ薫りに。
これほどまでに心が揺さぶられ、
居心地の悪い空間はない。
ただ真っ白な世界にぽつん、と
白灯に照らされた俺がいるだけ。
窓からは月光も、街灯も差さない。
点滴を繋がれ、術後の俺が病床の背もたれにかけているだけ。
「マスター……いかがですか?」
これ以上ない程に労りを含ませた声。
水色の滑らかな鱗に身を包む竜人。
彼女はフラウ。
幾分か前に河原に流れ着いていた所を拾い、保護していた。
今となっては、家事全般をこなしてくれる頼もしい主婦とも言えるだろう。
この病床では彼女だけが心の拠り所でもあった。
「いくらかは良くなったな……」
両腕を失った今では、俺自身で出来る事は何一つなかった。
着替え、トイレ、食事、デスクワーク……
何をしようとも彼女の補助なしでは何も出来ない。
情けないな……俺ー
「食事をお持ちしました」
「いつもすまないな……」
「いえ、ボクはマスターに命を救って頂きましたから」
フラウは病床の隣の椅子に腰を降ろし、食物の乗ったトレーをテーブルに置く。
そこから俺を飽きさせないように思案しながら
スプーンで俺の口に運んでくれる。
誤って、食物が気道に入り込んでしまい咳き込んだ場合には
迅速に水を飲ませてくれる。
ベテラン看護士といって過言ではない。
ちょっとした話を交わすうちに食事は終わる。
何も出来ない俺に代わって、食器を返却に行く。
それで……独りになる。
「俺は……」
こんなに無力を悔しく、憤りを痛感するとは思わなかった。
本来なら、俺が面倒を見るフラウに
俺が介護されることになるとは……
以前の俺からは全く想像できなかった。
悔しさで拳を握る事すら出来ないのだ。
今は穏やかでも、
いつの日か、フラウに感情の矛先が向いてしまうかもしれない。
それを酷く恐れた。
人間≠ナある俺は俺にも正体は分からない。
制御も利かない事もある。
行き過ぎた考えかもしれないが、
それでフラウ自身を傷付け、死≠ノ追い込むかもしれない。
それだけはどうしても避けるべきだ。
折角助かった命だ。
そう簡単に失うものではない。
ただ、そうなってしまうかもしれない。
その時が未知なのが酷く、恐怖を誘う。
近い未来……明日なのか……
それとも……

 * * * 
 
「フラウ……死≠チて何だと思う?」
「マスター? 如何なさいました? 突然そのようなことを……」
生≠ニ死=B
光ある所に闇があるように表と裏の存在。
表裏一体の存在。
生≠受けた時に死≠ヘ後についてくる。
遥か遠い未来に構えている筈の死≠ヘ
歳を重ねるにつれ、より実体を持ってくる。
しかし、案外死≠ニ云うものはすぐ足下にあるのかもしれない。
見えない……いや、発見できない状態で影になっているのかもしれない。  
気付かないまま、突如として牙を剥かれる。
事故。病気。
人によって形≠ヘ違うかもしれない。
一瞬の時が……日常を奪いさる。
普遍な日常と言う生の世界≠ヘ
掌を返し、死の世界≠ヨと。
有無を言わさずにその口をぽっかり、と開けている。
「俺はいつか、この行き場のない感情がお前を傷付けないかが恐いんだ」
死≠ヘ誰にでも訪れるもの。
生きて屍になるまで付き纏うもの。
恐怖を覚えずに他の感情を抱く事が出来るだろうか?
懸命に震えそうになる声を堪え、その黄の竜眼を見据え、紡ぎ出す。
事故や病状が軽度ならこう思うだろうー
ー入院か……嫌だな……ー
ーなんで僕が、俺だけが……ー
それは死の世界≠ナはない。
体の一部を失い、助かる見込みもない。
そんな人間とは決定的に違う。
一時的な日常の欠落だけで済む。
軽度な患部が治癒したときに日常への帰還が赦される。
隻腕になったら? 病状が末期だったら?
その宣告、現実は
生の世界≠ヨの渇望に塗れた
死の世界≠ヨの片道切符だ。
拒否は出来ない。返却も許されない。
生の住人≠ェ死の住人≠ノ堕ちる瞬間だ。
「両腕を失って、元の日常に戻れる訳がない」
「しかし……現代の医術なら……」
俺は首を縦には振らない。
たとえ、義手を得て以前のように振る舞えた所で、
俺は俺≠取り戻せない。
普遍だった日常には戻れないのだ。
「俺はな……」
人間は……人間だけではないかもしれない。
生ある者は全て、死に向かって生きていく。
遅かれ早かれ命≠ヘ終わりを迎える。
死≠ニ云う存在で。
それなら死≠ニは?
終わり? 虚無? 目的?
的確な答えはない。
その答えは一人一人違うものだろう。
命≠フ危険に晒され、
死≠ノ直面した時のみ、その生物にとっての
十分な答えは齎されるのかもしれない。
そして、多くの生物は
死≠その視界に捉えた瞬間に
後悔を生じさせる。
ーもっと◯◯すれば良かったー
ーもっと◯◯に◯◯してやればよかったー
もっと、もっと、と。
自らの願望を脳裏に射影して、後悔する。
俺もその一人。
「自分≠フ為に死ぬ事、誰か≠フ為に死ぬ事……それが生きる℃魔セと思う」
生きる意味≠失った命≠ヘどうなる?
普通……所謂、生きる意味≠持った命%ッ様
死≠ノ向かって歩んでいく。
死≠ノ直面し、それを知った命≠ヘ
生きる意味≠失うか、改めて知るか。
改めて意味≠知った命≠ヘ
余生を捧げるだろう。
自分自身≠ゥ誰か≠ノ。
俺の場合はフラウに命≠捧げよう。
両腕を失い、日常にさえ戻れない俺に意味≠見出すのは酷だ。
ならば、フラウに何かをしてやる事が俺の命≠フ意味≠セ。
自分自身の為に死ににいく事。
他人の為に死ににいく事。
それが生きる≠チて事だ。
「フラウ……こっちに来てくれ」
俺は声を潜めて、病床の隣に腰掛けるように促す。
フラウは快く頷き、静かに腰を下ろす。
「俺を見ろ。目を合わせて、決して離すなよ」
「は、はい……」
「こんな俺じゃ……フラウにしてやれる事はない……寧ろ、俺はお前の助け無しでは生きられない」
「ま、マスター?」
「だからといって、のうのうとお前に助けれたまま生きるつもりもない」
一人で出来ていた事をすべてフラウに補助してもらって迄、
俺は生きようとは思えない。
「俺を喰え」
生憎この時代には人間を喰らう捕食者がいる。
それがフラウ達……竜族。
フラウが帰身すると竜族からは小柄だと言う。
それでも人間からみれば3mは巨躯に値する。
フラウも生物。
睡眠し、食事もする……
自分自身≠フために生きるには両腕を失っているのでは
叶わない事も多い。
それならばフラウ≠フ為に死ににいく。
自ら、彼女の糧となる。
「ま、マスターの願いでもそれは出来ません!!」
「ダメだ。聞け」
「出来ません!!」
命の恩人である俺から発せられた殺せ≠ニいう宣言。
当の本人がそれを聞ける筈もない。
「フラウっ!」
俺は怒号を上げた。
突然の言の葉に我を失いかけるフラウが我を取り戻す。
「両腕を失って……義手をつけても、他者から軽蔑、罵倒される俺を見て……お前は耐えれるのか?」
「そ、それは……」
耐えれる訳がない。
そう言いたそうな表情を浮べ、口をまごつかせている。
「全部言うな……それなら逸そ、お前に葬って欲しい」
「マスター……」
すっかり肩を落とし、悲愴の色が表情をに現れている。
力なくともこの目に宿った意志を汲み取ったらしく
フラウは説得を諦めたようだ。
もう、暴れるような素振りは見えなかった。
「だけど……痛いのは勘弁な。眠らせてくれ」
勿論、麻酔で眠る訳ではない。
担当医にこの旨を伝えた所で、
竜に喰われるなど、却下されるだろう。
フラウの神経性の毒液だ。
フラウは噛み付いた獲物を昏倒させる事が出来る。
それで別れを告げて、喰ってくれって魂胆だ。
「マスター……本当にいいんですか……」
「あぁ……俺はお前の為に生きるさ」
椅子から身を伸ばし、フラウが俺を抱きしめた。
竜人と言う強靭な体でありながら
女性特有の柔らかな体つき。
藍色の長髪が窓から入った風に靡いた。
唇に柔らかい感触が広がった。
それがキスだと理解するのに数瞬を要した。
「……フラウ、狡いぞ」
「マスター……有り難う御座いました……」
頬を赤らめ、目線を逸らしたフラウはそう呟く。
「あぁ、さよなら……だな」
ちくり、と首筋が痛んだ。
急激な睡魔に襲われ、意識を手放しそうになる。
ぼやける視界でフラウを見てやった。
その表情は悲しそうで、苦しそうだった。
俺は蒼い華によって、若い人生に幕を下ろした。

 * * *

帰身したフラウ。
昏倒した命の恩人。
その頭から咥え込む。
咥え直しながら口内の奥に引き込んでいく。
理性は拒否を訴えても、本能は反応を示した。
口内に運ばれた獲物に対して唾液が分泌される。
咥え込む度に彼と唾液が擦れ、粘っこい水音を漏らす。
「んっ……っ」
彼を完全に口内に引き込むと唾液を絡めるように舐め回す。
いくら昏倒して意識がないとは言え、
あまり責める気にはなれなかった。
幾分か舐め終え、粘液同士で摩擦が消え去ったのを確認すると
フラウは天を仰いだ。
彼を呑み込む為だ。
舌と上顎を使い、喉の奥に滑り込ませる。
彼の小さな体はいとも簡単に滑り込んだ。
ごくり、と喉が鳴った……
確かな温もりが細い喉を生々しく膨らませた。
ゆっくりと嚥下されていく。
悲しきかな。これが現実。
命の恩人を喰らったのだ。
数秒もしないうちに彼は腹の膨らみと化す。
……消化が始まる。
彼はフラウの一部となるのだ。
それは彼が望んだ事。
それが彼の生きる℃磨B

 * * *
 
「うっ……あぁ……」
ボクはすっかり冷たくなった病床に崩れ落ち、枕を力の限りに抱きしめた。
喉が張り裂けんばかりにこみ上げる声を枕に顔を埋め、抑えた。
彼を喰らう事に躊躇がない訳がない。
たとえそれが彼の望んだ事でも、命の恩人の
命≠奪う事がどんな事なのか、誰でも理解できる。
我を失う寸前で抑えられたから良かったものの……
帰身した後でも、感情は張り裂けそうだった。
逃げ出したいのと。彼を引き止めたいのと。
でも、ボクには出来なかった。
彼の確かな決意を秘めた眼光を見たのでは
引き止める事など出来なかった。
竜人であるボクのお腹の膨らみはもう感じられない。
彼は完全に消化され、ボクの一部になってしまったのだ。
後悔しても遅い。
彼はもう、戻ってこないのだ。
「マスター……」
幾分か感情は収まり、落ち着きを取り戻す。
夕日の大空に、開け放たれた窓。


今日も蒼の華は大地に根を伸ばす。
大地から糧を得、生を得る。
果てしなく広がる世界に、
本日も蒼華が舞い上がるだろう。



希望があれば
分割しますw
<2012/02/01 00:26 セイル>
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